【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#5「萌芽」

 

 

 

 とある住宅街にある公園の昼下り、複数体の妄獣が突如出現した。

 運悪く子供を遊ばせる母親達のグループがちょうど公園にいたため、逃げ遅れた彼女達は妄獣の餌食となる。

 

 通常であれば。

 

 実際はそこに急行した魔法少女2名により、その妄獣案件は一人の死傷者を出す事もなく収束した。

 

 

 

 

 子供や母親達からの応援と歓声に手を振りながら、色とりどりのフリルの付いたコスチュームに身を包んだ少女は隣へこそりと耳打ちした。

 

「ひーちゃん、前より強くなったね。今日は全然魔力切れしなさそうだったし」

 

「そ、そうかな。舞ちゃんに迷惑かけてないなら良かった、本当に偶然だけど会えて嬉しい」

 

 白髪の少女は朗らかにそう微笑んだ。

 その傍らで氷漬けになった、烏を象った妄獣が音を立てて砕け散る。

 守名氷織、魔法少女アイシスリリィの凍結魔法によるものだった。

 

「そういえばさあ、一人暮らし始めたって本当なの?」

 

 和やかに話す二人へ、巨大な角を携えた鹿を思わせる姿をした妄獣が突撃してくる。

 しかしその攻撃が届く前に、かの獣の頭部がその言葉と共に花火のように弾けた。爆ぜ散った肉片や血液は彼女達へ付着する事なく、炎の舌に絡め取られるように蒸発する。

 

 

 花城(はなしろ)(まい)、魔法少女グレンフレア。

 

 

 "花火"の魔法少女、とも呼ばれている守名氷織の数少ない友人である。2歳上という事もあり、氷織自身は彼女を姉のように慕っていた。

 その魔法は弾けるような爆発と高温で構成されており、特に攻撃力に優れている。

 普段彼女は妄獣討伐の様子を配信しているが、氷織と組む時は彼女の「なるべく目立ちたくない」という意志を尊重してそれを取り止めていた。

 序列(ランキング)では23位とそれなりに高い位置におり、メディアからのウケも良く、要領の良い魔法少女といえる。

 

 だからこそ反対に、ただひたすらに妄獣を狩り続ける氷織に「もっと楽しい事があるのにな」と思いながらも、心配で目が離せなかったのかもしれない。

 

「うん。慣れない事ばかりだけど、なんとかやってるよ」

 

「なになに、なんかやりたい事でもできた?もしかして、これとか?」

 

 にやにやしながら舞の小指を立てる古臭い仕草に、氷織の白い肌が赤らんだ。

 

「ち、ちが、別に私、そんなんじゃ……あの、まあ、気にならなくはないというか、お隣さんというか」

 

 舞としては冗談半分のつもりだったが、妹分にまさか本当にそんな人がいるとは思わず毒気を抜かれる。氷織の話があまりに要領を得ないため、何も分からなかったが。

 

「まあ、ひーちゃんが楽しそうなら私はいいんだけど。あ、ほっぺに傷付いちゃってるよ」

 

 それを聞くと氷織は顔にできた掠り傷に触れ、魔力を使って治す。

 その様子を見て舞は訝しげに首を傾げた。

 

「治すんだ。前は『魔力が勿体無いから』って言ってたのに」

 

「うん。私が怪我して帰ると、その人が少し機嫌悪くなっちゃうから」

 

 その言葉に、舞の表情に少し陰りが差した。

 

「何それ。弱っちい男の癖に私達が完全勝利でないと不満って事?いるよねえ、そういう奴」

 

「い、いや……そうじゃないと思うんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 施設にいた時は魔法の訓練も全部室内でできたし、妄獣が発生しそうな所をパトロールする時以外はずっと割り当てられた部屋の中にいた。

 他に何をすればいいか分からなかったし、別に何かをしたい訳でもなかったし。

 だから今のこのアパートは、施設の部屋よりずっと狭いけど。朝起きた時にカーテン越しから陽の光が差し込んでくるのが新鮮で、楽しい。

 

 

 小学校には行けなかったけど、施設の人達が最低限の勉強は教えてくれた。希望すれば受験用とかなんだとか、もっとハイレベルな物もあったらしいけど私は興味を持てなかった。

 

 中学校は「学校というものがあるんだよ」ってお話を聞いてから、ずっと楽しみにしてたんだけど。1年経たない内に行きたくなくなっちゃった。

 

 それで高校はもういいや、って思った。また傷付くくらいなら、最初から知らない方がいいから。

 

 大学ってどうなんだろう。楽しいのかな。私には関係ないか。

 

 

 日光を浴びるついでにベランダに出ると、隣でちょうど朔さんは煙草を吸い終わった所だったらしい。

 あんまりこの匂い自体は好きになれないけど、朔さんがいるんだって思うと悪くないように感じる。

 

「おはよう。俺さ、今日一限あるんでもう出かけるよ」

 

「お、おはようございます。いってらっしゃい」

 

 少しずつ、本当に少しずつだけど。朔さんと慌てずに喋れるようになってきた。

 

「今日の朝飯はホットドッグ作ったんだ、ドアノブの所に掛けとくから食べなね。あとバイトで夜遅くなるから」

 

「分かりました、お気を付けて」

 

 欠伸をしながら朔さんは部屋の中に入っていった。程無くして、隣の部屋を出ていく音がする。

 おはよう、っていい響きだな。

 

 

 

 

 私のお隣さんは変な人だ。

 

 柊木朔さん、20歳。

 この近くの大学に通っている大学2年生で、中華料理屋でバイトをしているらしい。

 ぶんがくぶ?って所で勉強していて「ブンガクセイネンって響きが清楚でいいよな」とこの間言っていた。

 街を歩く男の人の中には、女性に見せ付けるかのように派手だったり露出が多い服を着ている人もいるけれど。朔さんは「それは清楚じゃない」と言って嫌っている。

 

 どちらかと言えばクリーム色や灰色のカーディガンのような落ち着いた物を好んで着ているみたいだ。

 本人曰く「天然パーマ1歩手前」の黒髪のくせっ毛は、朝に会うと毎回形が変わっていてなんだか可愛い。

 

 よく眼鏡を掛けているけど、度は入ってないらしい。

「俺、顔は良いんだけどちょっと目元がキツめだからさ。眼鏡でその辺り柔らかくした方が清楚に見える訳よ」と言っていた。

 私にはあの人がよく分からない。

 

 

 大学の講義にバイトも頑張っていて、アパートにいない事も度々だ。私なんか妄獣だけで手一杯なのに。

 一度どこに通っているのか聞いてみたら、世間知らずの私でも名前を知っている有名大学の名前が返ってきた。

 思わず「凄いですね」と褒めたら「頭良い方がなんか清楚っぽいから頑張ったんだよな」と答えていた。

 やっぱり、私にはあの人がよく分からない。

 

 

 

 夜にバイトから朔さんが帰ってきた音が聞こえてくると、私は「夜風に当たりに来たんですよ、偶然ですよ」というような顔をしてベランダに出てみる。

 すると大抵、隣であの人が煙草を美味しそうに吸っている所に会えるから。

 私の顔を見ると、まだ吸える筈の長い煙草を消す仕草が何だか申し訳なくて、でも嬉しくて。

 それから「お疲れ。もう飯食った?」っていつも聞いてくれる。

 一番疲れているのは朔さんだと思うのに、私が「まだです」って言ったら部屋の鍵を開けて待ってくれている。

 料理の素材や味付けは施設の方が良いのかもしれないけど、朔さんは私と一緒にご飯を食べてくれるから。

 

 

 あの人とたまに外で会うと、まるで別人じゃないかって思うくらいに礼儀正しくて物腰柔らかで、女の人にもきっと人気があるんだろうなって嫌でも実感する。

 でも私は、ちょっと言葉遣いや態度は荒いけど、二人でいる時の朔さんの方が良いなって思っている。

 

 

 

 でも、そんな彼が私を見て嫌な顔をする時がある。

 私が怪我をして帰った時だ。

 

 

 

 魔法少女になりたての頃、妄獣の爪でお腹の辺りを大きく裂かれた事があった。

 血は沢山出たし、何なら内臓もはみ出してたけど、すぐに傷を凍らせて魔力で修復したお陰で命に別状はなかった。

 でも傷跡が残っちゃって、お腹を見ると横に線を引いたようになっている。不細工でかっこ悪い。

 

 一度、それを朔さんに見られてしまった事があって。

 見苦しい物を目にかけて申し訳なかったのに、どうしてか朔さんは「なんでこんな子供が、こんな」と言ってしばらく怒ったり落ち込んだりしていた。

 それからというもの、私が怪我をして帰るとあの人は苦い物を食べた時のような顔をする。

 

 でも私は魔法少女だから、男の人よりもずっと強いから。

 その力があるんだから、私は皆の為に頑張らなきゃ。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 ある日のお昼時、何を食べようかなと部屋の中でぼんやり考えていた。

 たまにはコンビニでお弁当でも買ってこよう、朔さんも毎日毎食なのが良くないって言ってたし。

 いつもの制服に着替えて、部屋を出た瞬間。

 隣の部屋の前に見知らぬ男の人が立っているのが見えた。

 

「あれぇ、朔くんいないなあ。この時間は講義ないはずなんだけど……あ、そこの可愛い君。そうそう、白髪が綿菓子みたいで綺麗だね」

 

 着崩した大きなTシャツからは鎖骨がちらりと見えて、本能として目がそこに吸い寄せられる。目元までかかった金色の前髪のせいで表情がよく窺えない。

 

「え、あ、えっと、わ、私のことですか」

 

 思わず私が自分の顔を指差すと、蛇のような妖しい笑みを口元に浮かべながらその男の人は頷いた。

 

「僕ね、ここに住んでる柊木朔くんの友達なんだけど。彼、どこにいるか知らない?ちょっと用事があってね」

 

 1歩距離を詰められると、男の人って思ったよりも背が高くて圧迫感がある。

 そう考えたら朔さんって屈んだり座ってたり、私に目線を合わせるようにしてくれていたのかもしれない。

 

「あっテメーまた来やがって、さっさとどっか行け。しっしっ」

 

 きっと買い物に行っていたんだろう。エコバッグを手に持ったまま戻ってきた朔さんが男の人へそう吐き捨てながら、ずんずんこっちへ歩いてくる。

 その途中で私がいる事に気が付いたみたいで。

 

「氷織、こいつに近付くなよ。いわゆる"処女喰い"だから。生粋のカスだから。清楚の対極」

 

 その言葉と共に肩を朔さんに掴まれる。そのまま彼の後ろに隠すようにぐいっと引っ張られて、なんだかよく分からないけど心臓がどきどきした。

 

「なに生唾飲んでんの、こういう男に引っかかったら終わりだからな」

 

 呆れたようにそう言われて、自分の喉がからからな事に気が付く。

 でも別にしょ、処女喰い……なんて言葉に反応した訳じゃなくて。

 

 なんと言うか、その、肩に触れられた時、思っていたよりも朔さんの手が大きくて、びっくりして。

 でもそんな事言える訳もなくて、黙っていた。

 

「朔くーん。明日の英米文学論、小テストあるらしいじゃない。僕レジュメ全く持ってなくてさあ、ちょっとコピーさせてよ」

 

「んだよお前、仲良しの女の子が山程いるだろうが。他を当たれよ」

 

「僕は女の子には常に与える側でいてあげたいんだよ」

 

 朔さんの知り合いである事は確からしい。

 

「あ、あの……その人、さっき朔さんと友達って。でも、仲悪いんですか?」

 

 私がおっかなびっくりそう聞くと、心底嫌そうな顔で呟いた。

 

「ああ。だって俺は清楚なお兄さんで女性の憧れだろ?それでこいつも系統は違うけど、人気あるからさ。シェア食い合ってんだよ」

 

「朔くんは大真面目にそんな事言えちゃうから面白いよね」

 

 けらけらと笑いながら、柔らかな金髪をかき上げて男の人が私の方を向く。

 

夜家(よるや)(しょう)って言います、初めまして。朔くんとは同じ文学部でね、大親友なんだ。からかってごめんね、人の物にはお手付きしないよ」

 

「お、お手付き……?」

 

「男性ってうちの大学でもやっぱり少ないんだよ。そんなコミュニティで好き勝手してたら干されちゃうからね、その辺りの筋はちゃんと通すさ」

 

「その代わりフリーの女の子には誰彼構わず誘ってやりたい放題だろうが、文字通り。清楚の風上にも置けないんだよ、お前」

 

「この男女比なら、僕の行動は寧ろボランティアだと言えるんじゃないかな」

 

 言葉遣いは荒いけど、朔さんは別に夜家さんの事を嫌いではなさそうだった。それはそれとして鬱陶しそうだけど。

 

「でもやっぱ聞かないとなー、分からないなー、氷織ちゃんが誰の物なのか。僕、人の物には手を付けないから」

 

 夜家さんはそう言うと、涼しげな眼差しで私と朔さんを交互に見つめる。

 舌打ちしながら「まあ良い機会か」と呟いて、朔さんは少し屈んで私に目線を合わせた。

 

 ち、近い。

 

「俺の氷織」なんて言われちゃうのかと思った瞬間、顔から火が出そうになるくらい熱くなっているのが自分でも分かった。

 顔なんかまともに見られなくって思わず目をつぶる。

 

「氷織。お前は俺の物なんかじゃないし、ましてや皆の物だとか誰の物でもない。痛い事や苦しい事から逃げたって誰も責めない、まだそんな歳のガキだ。それだけ覚えておけばいい」

 

「……へ?」

 

 きょとんとする私、つまらなさそうにしている夜家さん、やっと言えたわって顔でなんかすっきりしている朔さん。

 

「ねえ、僕が見たかった物とちがーう」

 

「うるせえ、俺が目かけてるんだからそもそも手出さねえだろ。レジュメならくれてやるから外で待っとけ、学食なんか奢れよな」

 

 朔さんはそう言って、面倒臭そうに部屋の中へ入っていった。

 

「しかし君も大変だねぇ。朔くんは女性の機微に敏いように見えて、めちゃくちゃクソボケだから」

 

 全て見透かしたように、夜家さんは私の顔を見て微かに笑っていた。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 夜、ベッドの中に潜って昼間の事を思い出す。

 

 なんで私、ちょっと残念に思ってるんだろう。

 俺の氷織、って言ってもらいたかった?そこまで考えて、それを吹き飛ばすように首を振る。

 

 手、大きかったな。ごつごつしてて、温かくて。

 

 初めはただちょっと近くで顔でも見られたらそれだけで嬉しかったのに。

 毎日お話してくれて、ご飯を一緒に食べてくれて、言葉遣いは乱暴だったりするけど私の気持ちを考えてくれて。

 そう、家族がいたらこんな感じなのかもしれない。

 

「家族だから、駄目なのに……こんなの駄目なのに……」

 

 なのに身体の奥が熱くなって、疼いて、汚くて、恥ずかしくて、頭が真っ白になる。

 こんな事を考えちゃいけないのに。

 

 ふと時計を見ると、既に十数分は経っていた。

 溜め息と共に、じっとりとかいた汗を拭う。

 

 私、少しだけ欲張りになってしまったのかもしれない。

 

 

 

 

 





竿役みたいなキャラが出てきましたけどNTR要素はマジで一切ないので安心してくれよな!
寝てから言え!
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