【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#8「うたた寝みたいな約束一つ」

 

 

 

 

「ありがとうございました、また来てね」

 

 母親に手を引かれて店を出ていく女の子に、目線を合わせてハイタッチする。別にキラキラしたカフェでなんかオサレなコーヒーやらケーキを出すだけが清楚ではない。

 小さな女の子のこういう何でもない日々に彩りを与える事こそが、真の清楚だと言える。

 ああ、今日も清楚なお兄さんである事だなあ。

 

 

 

 

 

「しかし店長、うちって経営成り立ってるんですか?」

 

 先程の家族連れが退店した後は、店内に閑古鳥が鳴いていた。

 曲がりなりにも週末のゴールデンタイム、飲食店としてこの有様は終わっている。

 

「お前がいなければとうに潰れているだろうな」

 

 壁掛けテレビが映す毒にも薬にもならないようなバラエティを眺めながら、そんなやる気の無い返事を投げてくる。

 自分で言うのも何だが、それなりに恵まれた容姿である俺に1mmも興味を示さない女性もこの世界では珍しい。ちやほやされるのは好きだが、こういう関係の人もそれはそれで楽に付き合えて良い。

 

「僕は経営とか分からないですけど、多分僕がいてもこれ潰れてなきゃおかしいですよ」

 

 テーブルの上の食器を片付けつつ、そんな軽口を叩く。

 給料がはちゃめちゃ良い訳ではないが、働きやすさに勝るものはない。

 そんな雑用をこなしている内に、いつの間にかラストオーダーの時間も過ぎていた。いつも通り店内の掃除に励んでいると、ぽんと肩を叩かれる。

 

「今日もお疲れさん。賄いはいつものでいいな」

 

 エプロンを締め直しながら厨房へ入ろうとする店長を呼び止める。

 

「あ、店長。ちゃんと代金は払うので、賄いと合わせて2つオムライス持ち帰りで作ってもらえません?」

 

 

 いつもは家に帰ってから氷織に何か作っているけど、たまには俺だって楽したいし。

 あの子にもここのオムライスを食べる権利はあるだろう。マジで美味いんだよな、固めの卵にチャーシュー入りのチキンライスがさあ。

 

 1回なんかやべー物入ってるんじゃないかと思って「なにか秘密があるんじゃないですか」と聞いた事がある。それこそ魔法じみた美味さだ。

 どきどきしながら答えを待っていたら「別に変わった事はしていないが、チキンライスをラードで炒めているな」と言っていた。

 そりゃ強えわ、中華の暴力だもん。

 

 

「ほう。理由を聞きたいな」

 

 何故か嫌に突っかかってくる。あまり良くない予感がするが、今更引き下がるのも面倒臭い。

 

「えーっとですね、そう、今日友達が泊まりに来るので。店長の美味しい料理を振る舞ってあげたいんですよ」

 

「そうかそうか、愛い事を言うじゃないか。じゃあ店に連れて来い、タダで食わせてやる」

 

「えっ」

 

 予想だにしない返答で、思わず思考が止まる。

 そんな俺を見て、店長はにやりと笑った。

 

「ふふふ、朔。女の匂いがするぞ」

 

 やられた。

 

「朔。正直に言ってほしい、それが彼女であるならば私も野暮な事はしない」

 

「今の時点でもう大野暮ですけど」

 

 こうなってくるとこの人は梃子でも譲らないんだ、半ば諦めかけながらも憎まれ口で一応の抵抗を試みる。

 

「私はここまで誠実に話した、だからお前も誠実に話してくれ。彼女か?」

 

「彼女では、ないです」

 

 俺は弱い。

 誠実という単語があまりにも清楚っぽいため、逆らう事ができなかった。

 

「では彼女になってほしいな〜、という感じの子か?」

 

 そう言われて思考が止まる。そんな事を考えた事もなかったから。

 いやいや、5つも下のガキだぞ。清楚なお姉さん(歳下)に仕上げる予定ではあるが、別に俺がどうこうなんてそんなつもりはなかった。

 清楚なお姉さんってのは、いるだけで世界が華やぐんだから。それに今あの子が俺に懐いてるのは、単に選択肢がないからだ。

 氷織にはまだまだ時間がある。ゆっくりと、もっと自分が好きになれる人を探せばいい。俺にこだわる必要なんて何もない。

 

「……いや、そういう訳でもないですけど」

 

 何故か一瞬、そう答える時に喉に小骨が刺さったような感じがして首を傾げる。

 

「なら呼んでくれなければ、駄々をこねるぞ。三十を越えた成人女性が今から本気で駄々をこねるぞ。大丈夫だ、別にその友達に何もしないから」

 

「分かりましたから止めてください。あと友達じゃなくて、親戚の女の子です」

 

 不承不承といった気持ちを隠す事もないまま俺がそう答えると、店長は白々しくよよよと泣き真似を始めた。実に鬱陶しい。

 

「なんで嘘を吐くんだ、傷付いたぞ」

 

「最初から女の子って分かってたら、絶対に呼べって言ってるでしょう」

 

 店長は悪びれもせず、何も言わずに電子タバコに新しいスティックを差し込んだ。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

「えっと、守名氷織と言います。いつも朔さんにはお世話になってて、その」

 

「氷織ちゃんか、可憐な名前だ。まあゆっくりしていくといい」

 

 親への挨拶じゃねえんだぞというツッコミと、早速口説くんじゃねえよという言葉が喉元まで出掛かったが何とか堪える。

 

 電話を掛けると氷織は文字通り飛んでやってきた。なんなら「あ、氷織。僕のバイト先分かるよね、用事がなければちょっと来て──」と言い終わらない内に部屋を飛び出したらしい。

 この間のストーカーもどき以来、俺の帰りが少しでも遅いと不安になるとかなんとか。

 

 そして氷織が俺の隣のテーブルについて少しすると、それはやってきた。

 

「あの……朔さん、これ……」

 

「良いんだ。この人の奢りだ」

 

 俺には通常サイズのオムライス。

 氷織の前には枕くらいあるんじゃないかという巨大なオムライスが鎮座していた。あまりにも露骨だ。サービス精神という言葉で片付けるには、邪が過ぎるだろう。

 

「えっと、これ、どこから……」とか何とか言いながらスプーンを空中で遊ばせている氷織を見て、向かい側に座る店長は俺には決して向ける事のない満面の笑みを浮かべていた。

 ギャップ云々を通り越して、もはや薄気味悪いの域に達している。

 

「やはり美少女を肴に飲む酒が一番美味い。お前もどうだ」

 

 紹興酒をもう一つグラスに注ぎながら勧めてくる店長に「一杯だけですよ」と返事をした。まあ明日は1限もないし何とかなるだろう。

 

「それで、彼女とはどういう関係なんだ」

 

 絡み酒なのがマジで鬱陶しいんだよな、素面でも女の子が絡むと鬱陶しいのに。

 

「さっきも言ったじゃないですか。親戚の子ですよ、通学の関係で近くに引っ越してきたんで面倒を見てるんです」

 

 幾度となく繰り返してきたため、もうその設定も立て板に水だ。実際近くに引っ越してきて面倒を見ているのは事実だし。

 

「そうか。お前の親戚に魔法少女がいたとはな、初耳だ」

 

「ぶっ、げほっ、げほっ」

 

 一口煽った紹興酒を全部吐いてしまった。勿体無い。

 

「魔法少女アイシスリリィだろう、あの子。配信もしないし表に出る事を好まないから、変身前だと気付ける人間はそんなにいないだろうな」

 

「な、なんで」

 

 ここで「そうなんですよ、まさかあの魔法少女が親戚にいるなんて」くらい図太く返せれば良かったんだけど、動揺があまりにも滲み出過ぎた。

 

「私は可愛い女の子に目がない。当然の事ながら現行の魔法少女については皆目を通している」

 

 怖過ぎるだろ、100人以上いるんだぞ。しかし店長の目はガチだった。

 

「夜は長いんだ、暇潰しに経緯でも聞かせてくれよ。時給の一つでも上げてやるから」

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「……とまあ、そんな感じで成り行きで面倒見てます」

 

 結局全部吐かされた。

 まあたまたま助けられて、ちょっと介抱したら懐かれちゃって、いつの間にかこんな感じなんです〜ぐらいには留めたが。

 流石に魔法少女の裏話とか俺の清楚もクソもない本性とかそんな話はできないし。

 

「魔法少女の面倒を、か。物好きだな。うちを辞めてないという事は金を貰ってる訳でもないんだろう」

 

 こくりと頷く。すると店長は「お人好しだな」と呟いて、何故か少し寂しそうな顔をした。

 

「朔。彼女をどこかに連れて行ってやったりした事はあるのか」

 

 唐突な質問に面食らう。

 

「え?いや……僕は土日はここで働いてますし、平日は何処かしらで講義を入れてるので」

 

 そう言われてみれば、二人で出かけると言っても近所のスーパーだとか軽い散歩くらいが関の山だ。氷織はあれがしたいこれがしたいとワガママを言う事もないし、俺もあまり遠出に楽しみを見出すタイプでもない。

 でも考えてみれば、それは別に氷織が主張しないだけだ。本当は、たまにはどこか気晴らしに行ってみたいと思っていてもおかしくない。

 

「そうか。もう少し先になるが、推しの魔法少女がライブをやる事になってな。前乗りして土日で行くから店を閉める」

 

「本当にこの店大丈夫なんですか」

 

 呆れ顔の俺を気にもせず、氷織の方をじっと見つめている。何がそんなに気になるんだろうか。

 

「土日にどちらも予定が入るという事もないだろう。暇になるなら、そうだな……水族館なんてどうだ」

 

 壁に貼られている少し色褪せた地元の水族館のポスターを眺めながら、店長はそう呟いた。

 

「ふーん……悪くはないですね」

 

 水族館、まあいいんじゃないだろうか。そもそも水族館というのが実に清楚な響きだ。

 オムライスを頬張りながらも、氷織がこちらに耳を澄ませているのがありありと分かる。

 

「どうする?氷織が行ってみたいなら、そうしようか」

 

 突然話を振られてびっくりしたのか喉に詰まらせながらも、氷織は勢い良く立ち上がった。

 

「むぐ、い、行きたいです!今からでも行けます!」

 

「残念だけどもう閉まってるよ。じゃ、予定空けとくね」

 

そんな約束を、一つした。

 ─────────────────────────────────

 

 

 そろそろ日を跨ぐかという頃、流石に明日に響くという事で帰り支度を始めた。俺もちょっと酒が回ってきたし、氷織は多分血糖値スパイクで気絶しかけている。

 

「まさか食べ切るとはな。育ち盛りか」

 

「店長が言うとなんかいやらしく聞こえるので二度と言わないで下さい」

 

 眠たそうに目を擦っている氷織を隠すように、手を引く。まあ家に着くまでは何とか持つだろう。

 

「それにしても店長が『水族館はどうだ』なんて言い出すの、なんか珍しいですね」

 

 基本的にあまりやる気はないし、客すら口説く。でも人に深入りしない。そういう人だとずっと思っていた。

 店長はうとうとしている氷織の方を見て笑いながら呟いた。

 

「私は可愛い女の子に甘いんだ。魔法少女だって普通の女の子だろう」

 

 

 

 

 

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