【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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#9「嫉妬」

 

 

 

「そこのおにーさん、そうそう、そこの眼鏡が似合うお兄さん。貴方だよ」

 

 後ろからそう声を掛けられたのは、大学からの帰り道だった。

 

「……僕ですか?」

 

 参ったな、ナンパかよ。

 別にちやほやされるのは良いんだけど、ナンパしてくる時点で清楚なお姉さんに当てはまらないんだよな。たまにあるんだよ、OLが学生なら与し易いと思ってんのか金とかちらつかせて誘ってくるの。

 

 まあ無視する訳にもいかないので、一応振り返ると予想に反してまだ高校生くらいの女の子が立っていた。

 赤みがかったサイドテールにコケティッシュな印象を抱かせるオフショルダー。少し背伸びした感じが初々しい。

 これナンパじゃなかったらマジ自意識過剰で恥ずかしいんだけど。

 

「今って暇?」

 

 ナンパだったわ。

 俺の隣にぴったりと付いて歩きながら、少女はにこにこと話しかけてくる。最近のガキは本当にませてるなあ。

 

「ごめんなさい、急いでるんです」

 

 トートバッグを肩に掛け直し、歯牙にもかけない。

 もうプラス10年、そして清楚になってから出直してきてくれ。

 そんなつれない対応にもめげず、少女は小走りで俺の目の前に飛び出した。道を塞がれる形になって流石に鬱陶しさを感じる。

 両手を後ろで組み、小首を傾げるような仕草で彼女は自信満々に言い放った。

 

「私、魔法少女なんだよね。知ってる?グレンフレアって」

 

「ああ……そうなんですか。いつもご苦労様です」

 

 んだよ、また魔法少女かよ。

 なんか俺って魔法少女を惹き付けるフェロモンみたいなのが出てるのか。

 フェロモンって響きがなんか清楚じゃないからマジで嫌だな。

 

 グレンフレアという名前自体は聞いた事があった。

 氷織が隣に越してきてから魔法少女について色々調べていた時、配信を少し見た事がある。

 爆発する魔法でキラキラド派手な妄獣討伐、はきはきとしたトーク回し。これぞ魔法少女、って感じの子だった。

 それこそ男なんて漁り放題だろ、わざわざナンパしなくたっていいだろうに。

 あれか、私に靡かないおもしれー男を探してるとかそんな感じか。

 

 俺の反応に不満を持ったのか、彼女の表情が少し険しくなる。

 しかし本当に魔法少女なら目を付けられた時点でちょっとヤバいかもしれない。こういう時は大人しく氷織に頼ろう。

 

 ポケットからスマホを取り出し、片手でそっと操作する。

 

 それに気付いたのか、少女は俺の両手首を掴んで壁に押し付けた。衝撃で思わずスマホを取り落としてしまう。

 女性にしては中々背が高く、俺の首元くらいまで身長がある。磔のような形にされ、身をよじっても全く動かない。本当に杭でも打ち込まれたみたいだ。

 

「痛……あはは、離してもらっていいですかね。人呼びますよ」

 

 手首を軽く掴まれているだけなのに全く振り解ける気がしない。

 生物としての格が違う、普通の女性ならともかく魔法少女相手に力ずくってのはどうも無理みたいだ。

 

「呼んでもいいけど、さっき言わなかったっけ。私、魔法少女なんだよね」

 

 その台詞の意味を理解した瞬間、背筋に氷柱を突っ込まれたような気分になった。

 ここは元々そんなに人通りが多い場所でもないが、それにしたってさっきから人っ子一人通らないのは流石におかしい。

 こいつが恐らく特権で人払いしている、となると俺に声を掛けたのはたまたまじゃない。でも、何故?

 ストーカーもどきの時もそうだったけど、とにかく理由が分からないのが一番怖い。

 

「何が目的でひーちゃんに近付いてるのか知らないけど、あの子より私の方が序列(ランキング)も高いしさ。お金も沢山持ってるし、いっぱい色んな事してあげられるよ?」

 

 甘えたような声が耳元で囁く。

 ひーちゃん……氷織の事だろうか。それならまだ納得がいく。

 この魔法少女と氷織は横の繋がりがあって、何かの拍子に俺の事を知った。そして清楚なお兄さんに興味を持った魔法少女は、直接口説きに来た。

 おおよそこんな流れだろう。

 

 つまりこいつは……リアル寝取りが性癖のカス!!

 いや、別に寝てないけど。

 咳払いをしながら、困ったように眉を八の字に下げてみる。

 刺激するのも面倒臭いし、敵意はないのを示しておくに越した事はない。

 

「ひーちゃん、というのが守名氷織さんの話ならですけど。僕は別に彼女とそういう関係ではないですから。お金を貰ってる訳でもないですし、ただのお隣さんですよ。今は学業に専念したいので」

 

 ああ、もうマジで完璧で清楚なお兄さんの返答だわ。学業に専念って所がいい、なんかすっげー賢い感じがするもん。

 ただ、俺の渾身の演技は彼女のお気には召さなかったらしい。

 

「そういうのいいから」

 

 その声色に違和感を覚えた。

 寝取りが性癖のカスかと思ったが、これ違うな。

 その一言には甘え媚びたような好意は含まれていなかった。どちらかと言えば、嫌悪……憎悪のような感情が混じっているようにすら思える。

 長らく女性からぶつけられる事のなかったそれに、全身が警鐘を鳴らしている事から間違いない。

 

 恐らく目の前の彼女は、俺の事が嫌いだ。

 

 じゃあ何故絡んでくるのか。氷織の事を愛称で呼ぶくらいには親しい事を考えると、大体分かった気がする。

 それなら寧ろこうやって上っ面を取り繕うのは悪手だろう。

 目を逸らすな。舐められたら終わりだと思え。

 

「なんだ、ガキが一丁前にガキの保護者気取りかよ。違うな、嫉妬か?」

 

 突然の俺の様変わりに面食らったのか、たじろいだような表情を見せた。

 そりゃそうだろう、何なら男性に楯突かれたのも生まれて初めてなんじゃないか。

 

「ほらやっぱり、それがあんたの本性って訳ね。お金が欲しいの?それとも魔法少女の特権で何かしたい事でもあるの?」

 

 やっぱり、ときた。というかさっきから金だの特権だのうるせえな。

 氷織が俺の事をそんなにべらべら話すとは思えない、となると最初からこの魔法少女は俺の清楚モードを看破していた。

 それこそ本当に金やら特権やらのために演じていると思っているらしい。

 俺は金や特権のために清楚なお兄さんをやってるんじゃない、単にちやほやされたいからやってるだけだ。

 

「とりあえず離してほしいんだけど。君が何をそんなに怒ってるのか俺には分からないし、一度落ち着いて話を───」

 

「は?なんであんたが仕切るの?自分の立場が分かってないの?」

 

 く、クソガキ〜〜!!!と叫び出すのを寸前で耐える。

 魔法少女がそんなに偉いかよボケが、という感じだがまあ実際偉いよ。すっげー偉い。すっげー偉いけどやっていい事と悪い事の区別は付けて貰わないと困る。

 

「氷織はこんな乱暴な事しないぞ」

 

「あんたみたいなのが気安くひーちゃんの名前を呼ぶな……!」

 

 反応した。

 やっぱり氷織がこの魔法少女にとってキーらしい。この感じからして、氷織の事を大事には思っているようだ。

 

 よく分からないが、何かの思い込みで俺が氷織を騙して取り入ってると勘違いしてるんだろう。

 逆だ、逆。押しかけお隣さんされてんだよ、こっちは。

 

 氷織よりは歳上だろうが、魔法少女の背景について聞いてしまった以上どいつもこいつも躾のなってないクソガキだと思って対応した方がいい。

 にしたって人の話を聞かない、暴力に訴える、清楚の欠片もない、の3点でスリーアウトだぞこいつ。

 

 何がムカつくって俺の話を聞かないだけならまだ許す。

 でもこの様子だと氷織に何の話もせず、何の話も聞かずに一人で突っ走っている。それはあいつの事をバカにし過ぎだ。

 

「分かった。お前、氷織を取られるのが怖いんだろ。慕ってくれる妹分みたいなもんなのか知らないけど、ぽっと出の俺にべったりなら気ぃ悪いよな」

 

「な、何言って」

 

 当てずっぽうで言ったが、まさか図星か。

 

「でも残念だったな、元々あいつは誰の物でもない」

 

 そう、誰の物でもない。決して俺の物なんかではない。

 氷織が俺を必要とせずに、別の何かを目指したり誰かと他の道を行くならそれはとても素晴らしい事だ。

 

「そんなに大事なら土下座でもして、首輪付けさせてもらっとけよ。それが本当に氷織を大事にしてると思えるんならな」

 

 言い返す言葉が見つからないのか、俺の手首を握る力がますます強くなっていく。

 痛みに脂汗が止まらないが、ここで退けばこの甘やかされて育ってきた魔法少女にまた『暴力で物事は押し通せる』と間違った成功体験を与える事になる。

 腐っても年長者として、そうする訳にはいかない。

 

「"友達"って居心地の良い距離で見守ってる気になるのは、随分楽だろ」

 

 箸を綺麗に使えるようになるとか。野菜炒めを焦がさずに作れるようになるとか。解れた制服のボタンを不格好でも自分で繕えるようになるとか。洗濯物を時間はかかるが綺麗に畳めるようになるとか。

 

 それは世間一般から見れば、普通の事なのかもしれない。

 ただ、そんな普通の事ができるようになるために氷織が今毎日頑張ってる事を俺は知っている。

 どいつもこいつも、そんな普通の事すら教えてやらなかったくせにでかい顔しやがって。

 

「……うるさい!!」

 

 その叫びと共に周りの温度が一段階上がったような気がした。

 暑さというか、もはや熱さすら感じる。

 確かグレンフレアの魔法は花火、爆発や熱を操るものだった。いよいよ感情の抑えが聞かなくなってきたんだろう、これ以上はヤバいか。目を閉じて最悪の事態に備え、覚悟を決めようとした時。

 

 

 

 冬が来た。

 そう感じた。

 

 

 周囲一帯の温度が急激に下がる。

 

 両手を塞がれてスマホを取り落とす寸前に、氷織に今いる場所の位置情報だけ送っておいた。

 取り込み中でなければすぐに飛んでくるだろう、という賭けに俺は勝ったらしい。

 全速力で来たんだろう、肩で息をする氷織がそこに立っていた。

 

「……舞ちゃん?なんで朔さんと……?」

 

 舞、というのがどうもこの魔法少女の名前らしい。そしてそれなりに親しい関係である事も間違いなさそうだ。

 ただ、氷織は何故か傷付いたような顔で俺とその手を握る魔法少女を見つめていた。

 

「氷織、どうにかしてくれ。そろそろマジで手が折れる」

 

 呆然としていた氷織は、俺のその一言で首をぶんぶんと振るとこっちに駆け寄ってくる。

 

「な、なんで朔さんにこんな事するの!?離して、ねえ、離してよ!」

 

 そう言われてびくりと身体を震わせながら、彼女は俺から手を離した。

 

「怪我、怪我してませんか……?」

 

「折れてはない……かな」

 

 解放されたものの、手首が軋むように痛む。これしばらく引き摺るぞ。

 

「……っ、騙されてるんだよ、ひーちゃんは!」

 

 俺達の会話の様子で、自分が間違っている事を悟ったらしい。

 それでも今更後には退けないんだろう。

 

「男が何の見返りもなしに私達に擦り寄って来る訳ないじゃん!バケモノだって思ってるのに!」

 

 必死に訴えかける彼女を、氷織は黙って睨んでいる。そんな表情、初めて見たかもしれない。

 

「お金とか、特権とか、だ、だから私が本性暴いてやろうと思って」

 

 それで執拗に俺から「お金の為」「特権の為」の言葉を引き出そうとしてた訳か。

 冷や汗を流しながら言葉を投げ続ける彼女を、氷織は一瞥してただ一言で切った。

 

「……舞ちゃんなんて大嫌い」

 

 それを聞いた瞬間、彼女は糸が切れた人形のようにその場に座り込んだ。

 

「ねえ、わ、私ひーちゃんが、ひーちゃんのためだと思って」

 

 自業自得とはいえ、見てられなかった。

 どうしていいか分からないのか、ただ顔を覆って泣く魔法少女の姿はあまりにも幼い。確かに短慮、浅慮、身勝手だったかもしれない。

 ただそれに気付かせてやる人間が周りにいなかったのは、彼女の責任じゃない。

 

 見かねて声をかけようとした俺の服の裾を、氷織が引っ張る。

 

「帰りましょう、朔さん」

 

「……なあ、友達なんだろ。放っておいていいのか」

 

 珍しく氷織は俺の問い掛けに答えなかった。聞こえなかったのか、それとも聞こえないふりをしているのか。

 

 その横顔から読み取れたのは、怒りと後悔と……何故か少しの安堵だった。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 風呂上がり、痛みに顔を顰めながら何とか着替えを済ませた。

 

「痛つつ……」

 

 手首の辺りを見ると、握られた形にきっちり痣ができていた。

 本当にまるっきり別の生き物、と言われても納得できる。そんな事をぼんやりと考えていると、昼間の舞ちゃんとかいう魔法少女の「バケモノだって思ってるのに」とかいう叫びが嫌に耳に引っかかる。

 

「いや、マジで反省だな……」

 

 正論でぶん殴るのは簡単だけど、逃げ道を作ってやるべきだった。俺も熱くなって言い過ぎた。

 ガキ相手に追い詰めてどうするんだ、大人気ない。

 

 あそこは本当は俺がフォローしてやるべきだった。

 氷織と喧嘩別れみたいな形になるのは双方にとって良くないし、この多感な時期にさあ。

 とりあえず逆見さんに連絡して、ちょっと何か考えるか。

 そんな事を計画していると、夜にも関わらずチャイムが鳴らされる。流石に警戒するし、何なら普通に手が痛くて開けるのが億劫だった。

 

「どなた様?」

 

「……私です。あの、入ってもいいですか」

 

「ああ、氷織か。いいよ」

 

 おずおずと部屋に入ってきた氷織はドルフィンパンツに大きめのTシャツを寝巻き代わりにしているようだった。この時期に寒くないのかとも思ったけど、多分魔法の影響で寒さには強いんだろう。

 夕飯を食べにくる時も普段は制服姿だから何だか新鮮な気がする。

 

 ごめんなさい、と氷織は開口一番謝罪を口にしながら頭を下げた。

 

「舞ちゃんは友達で……悪い子じゃないんです。でも、かっとなりやすくて」

 

 まあ、身を以て知った。

 やっぱ前世の創作でも定番だったけど異能に性格って引っ張られるのかな、炎系は激情型みたいな。

 

「私のお腹の傷、知ってますよね。ちょっとそれで……悲しい事を言われちゃった事があって。私は泣いてるだけだったけど、舞ちゃんは怒ってくれたんです」

 

 どうせならそれについても知っておきたかったが、どうも氷織自身があまり言いたくなさそうにしているから無理に聞き出す事はしなかった。

 

「でもそれから、舞ちゃんは『男なんて皆ろくでもない』って言うようになった時期があって。最近はそんな事なかったんだけど……だから私、なんか怖くて朔さんの事、自分から舞ちゃんに言えなくて」

 

 ちゃんと私から言ってたら、舞ちゃんもこんな事しなかったのかな。

 そう後悔するように呟く姿がなんだか哀れに思えて、仕方ないかという気になってくる。

 

「分かってるよ。氷織の友達なんだ、根は悪い子じゃないんだろ。俺もそんなに怒ってないし」

 

 嘘、本当はめちゃくちゃ手が痛いしバチギレしそう。

 でもガキのする事には多少目をつぶってやるのが清楚だろう。

 

「……朔さんは、酷い事をしてきた子にも優しいんですね。私だけじゃなくて」

 

 その言葉に、何か違和感を感じた。

 だがそれを言語化する前に、氷織が俺の近くに座り直す。妙になんか今日は距離が近いな。

 

「ねえ、痣になっちゃったんですね」

 

「ん?ああ、魔法少女って力も強いのな」

 

 氷織は黙って俺の手首を見つめていたかと思うと、指を這わせた。なぞるように、撫でるように。

 魔法の影響なのか、ひんやりとした感覚が痛みを鎮めてくれる。保冷剤当てるみたいなもんなのかな。

 

 そんな事を呑気に考えていると、突然視界がひっくり返った。

 

 押し倒されたのだ、と気付いた時には俺の腰に氷織が馬乗りで跨っていた。ちょうど昼間のように両手首を抑えられ、身動きが全く取れない。

 掴まれた手首に、ゆっくりと力が掛けられていく。まるで付けられた痕を上書きするみたいに。

 

「ちょ、氷織、痛いから……」

 

 聞こえていないのか、それとも聞こえていながら俺が痛みに悶える様を楽しんでいるのか。

 いずれにしても俺を見下ろす淡い蒼の瞳は艶かしく濡れていた。

 甘えるように白い足を絡ませ、耳元に口を近付けて蕩けたような声で「朔さん」と俺の名を呼ぶ。

 冷たい吐息が耳を擽る感覚にぞくぞくとして、思わず声が漏れる。

 

「っ、ぁ……え、いや、ちょっと今のなし」

 

「顔、赤くなってる。可愛い」

 

 何がスイッチを入れたのか分からない。

 ただ、俺は忘れていた。

 もしくは気付かない振りをしていただけなのかもしれない。

 

 15歳。

 子供ではあれど、大人に差し掛かる時期。

 

 氷織もまた、この逆転した世界で確かに女性である事を。

 そして逆見さんが言っていた「氷織はずっと飢えている。ただそれに気付いていないだけだ」という台詞を。

 

 

「私のだもん……朔さんは、私のなのに」

 

 

 

 

 

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