シーモアに憑依したんだが!? 作:オタクなシーモア
☆月▲日
自分がこの世界にいたのだと残しておきたくて日記を付けることにした。
まず俺がいる世界は日本ではなく、スピラと言われる世界。
超有名タイトルFFシリーズでも屈指の名作と言われるFFXの世界に俺は来ていた。
それだけでも仰天するのに、まさかの原作キャラに憑依してしまった。
誰って? シーモア=グアドだよ!
なんでよりにもよってこのキャラなのか。もっとこう、あるだろう?
色々と頭が痛くなる事態だが、ずっと悩んでいる訳にもいかない。
シーモアは色々と裏で暗躍したりするキャラで、まぁ表ではいい顔するけど裏の顔はそれはもう酷いってキャラなのだ。
そして現在進行系で自身の父であるジスカルを暗殺しようと企んでいた訳で。
そもそもなぜそれを知れたのか。
理由は単純明快な事、シーモアの部下が「ジスカルの暗殺、準備は滞りなく進んでおります」なんて報告されたからね。
もう慌ててその計画を中止にしたよ。だめ! 絶対にダメーー!! ってな。
取り繕う事もせずに言ったもんだからその部下からはすんごい驚かれたけど、これは致し方ないよね。
実の父を殺すなんて、そんな悲しい事は起きてほしくはないから。
シーモアにとってジスカルは自分と母を裏切った悪者でしかないんだけど、それでも親殺しなんて起こしたくない。
これは俺の完全なエゴなんだけどな。
シーモアがもし俺の中にまだ居続けていたとしたら、怒り狂っているだろうか?
だとしても俺は今回の選択を後悔しない。
◎月Å日
シーモアとして生活をしていく中で色々な事がわかってきた。
どうやら俺には幻光虫を自在に操る力があるようだ。
元々グアド族は幻光虫を介して特殊な能力を持っている。例えば幻光虫を使って記憶とかを読み取ったりなどだな。
他にも様々な能力を扱うらしいのだが、俺はその使える幅が広いと言うのだろうか。
応用がだいぶ利くみたいだ。
例えば単純に魔法の威力を底上げしてくれたり、原作でもシーモアがしていた魔物を生み出すとかが可能だな。
後は本来この世界、原作にない魔法とかも生み出せるみたいでこれはとんでもない力になりそうだ。
オタクとしての血が騒いでしまう……。
厨二病的な事ができるって事だからな。
もう俺の妄想力が限界突破しそうだよ。
取り敢えず滅茶苦茶修行した。
§月⇔日
今日は少し疲れた。
実はジスカル様と会話をしたんだが、会って第一声がわしを殺さないのか? だからね。
いきなり過ぎてその時飲んでいた水を思いっ切り吹き出した俺は絶対に悪くない。
恐らく自分を殺す計画をシーモアが進めていたことをジスカル様は知っていたんだろうな。
確か原作でも殺されるのがわかっていてそれを自分の罪だと認めて暗殺されていたはず。
だからどうしてそこまで準備した計画を止めてしまったのか。
自分で考えても答えが見つからずジスカル様はもう聞くしかねぇと思い、俺に直接聞いてきたんだろう。
にしても直球過ぎるけど。
俺はその時、子と親として歩み寄りたいと伝えたんだ。
結局お互い知り合おうとせず、ずっと拒絶していたことがいけないんじゃないかって思った。
俺自身はシーモアではない紛い物だけど、それでももし自分の中にまだシーモアという存在がまだいるんだとしたら、こういう道もあるんだよって伝えたい。
これも俺のエゴでしかないんだけどね。
取り敢えずジスカル様とはその後好きな食べ物だとか、好きな場所とか、苦手なもの、嫌いなものそういったありふれた他愛ない話をして親交を深めた。
父親として頑張って接しようとするジスカル様はあまり口が上手くないのか、会話があまり続かなかったりしたが、今まで出来なかったで出来た溝を埋めようと積極的に話しかけてくれた事はなんだが嬉しかったな。
因みにジスカル様は巨乳好きらしい。
∀
その日、ジスカルは自分の死がもうすぐ訪れることを感じていた。
前々からシーモアが精力的になにやら動いている事を知っていたからだ。
深く息を吐きながら椅子の背もたれに体を預ける。
「思えばわしはシーモアの事を何もしらなんだ」
幼い時に一度会った時は怯えた瞳をしていたあの幼子が、今では冷徹な眼差しと殺意に満ちた目をしている。
その内に秘めた憎悪と嫌悪の激情を、ジスカルは感じながらも何も出来なかった。
息子に歩み寄ることも、教え導く事も。
自らの犯した過ちに怯え、彼を見ようとしなかった。
なんという、度し難い罪か。
深く、あまりにも深い息をジスカルは吐く。
もうすぐ時間だ。自分の命はもう風前の灯火。シーモアの計画が順調に進んでいれば、もう五分と時間はないだろう。
最後の時間を目を瞑って待っていたが、何故か何時まで経っても誰も訪れない。
「何故だ……?」
その日は何事もなくただ時間だけが過ぎた。
次の日も、またその次の日も。
何かがおかしい。あのシーモアが計画を進めない理由がない。
今更暗殺を止めた? いやそんなことはありえない。
シーモアは何もかもを利用し、なにか恐ろしい事をしようと企んでいたはず。
そのためには老師の地位は必要不可欠。ジスカルを生かす理由などないのが通りだ。
「最早、直接聞くしかない……か」
どの道失うはずだった命、この問で殺されることになろうと構わない。
そんな覚悟を持ってジスカルはその老骨に鞭を打って色んな者に止められようとその歩みを止めず、遂にシーモアがいる部屋へと到達した。
後ろからジスカル様! と呼び止める声を無視して扉を開く。
開いた扉の前にはシーモアが椅子に座っていた。
「あれ、どうしたんですか? ジスカル様が俺の部屋に来るなんて珍しいっすね」
突然来たジスカルにシーモアは余裕を持って相対していた。
まるで何事もないかのように。殺意も憎悪も。
一瞬ジスカルは呆気に取られながらも、乾いた舌を動かし、掠れた声で問うた。
「わしを殺さないのか?」
「ぶふぅぅううう!?」
優雅な仕草で飲み物を飲んでいたシーモアが勢いよく吹き出す。
それは綺麗な放物線を描き、ジスカルの顔面へとぶち当たる。
場になんとも言えない沈黙が流れ、ジスカルは時が止まったように微動だにせず固まっていると、慌てたようにシーモアが近くにあった綺麗な布を手に取る。
「す、すみません」
「あ、あぁいや、わしこそ突然すまない」
シーモアから布を受け取って濡れた顔を拭き取る。
「い、いやぁジスカル様が突然あんな変な事を言いますから、ね?」
「う、うむ」
またもや心臓に良くない沈黙が降りる。
想像の真反対な反応にジスカルはもうどうすればいいのかわからなくなっていた。
思わず頭を抱えそうになるジスカルに、シーモアは一つ溜め息を零す。
「俺はジスカル様を殺そうなんて考えてませんよ」
「……何故か、聞いてもよいか?」
先程の状況などなかったように、その場に静かな緊張が走る。
「ジスカル様、貴方は俺に罰して欲しいとか考えてないですか?」
「そのようなことは」
「でなければあのような言葉は出てこないですよ」
その言葉にジスカルは神父に自分の罪を告白するように膝を折り手を組む。
「わしは、わしはお主やお主の母を裏切った。自分の身を守るために。そのようなことをしてしまった……。どんな理由があっても許されないことだ。親が子にすることでは、ない」
震える手に、細くもがっしりとした手が重なる。
「そうですね。貴方は確かに俺、シーモア=グアドに許されない事をした」
その言葉にジスカルは俯いた顔を思わず上げる。
「だけど、俺も貴方に何も歩み寄りをしなかった」
「そんなことはない!!」
シーモアの言葉に、ジスカルは自分でも驚くほどの声で否定した。
その言葉にシーモアは苦笑する。
「貴方の事を確かに俺は恨んでいた。母と俺を捨てたと」
「っ!」
「ですが、母とのあの旅路を支えていたのは、貴方ですね?」
シーモアの言葉にジスカルは肩を揺らす。
実際、ジスカルはシーモアとその母の旅の支援を陰ながら行っていた。本人たちにはわからないようにして。
それは自分にある罪悪感を少しでも減らそうとする、浅ましい考えからだ。
だがなぜその事をシーモアは知っているのか、その考えは顔に出ていたのか、シーモアは困ったように笑いながら口を開く。
「よくよく考えれば誰でもわかりますよ。幼い子どもと病弱な母親があの魔物が跋扈する過酷な道中を無事に辿り着けるには、誰かの協力は必要不可欠。そしてそんな事が出来るのもまた限られていると」
「愚かだろう?」
「それが貴方の罪滅ぼしでもあったのでしょう?」
「……だがそれをしてもなんの慰めにもならなかったのではないか?」
限られた者でしか知らない秘密。究極召喚を行う方法、それをするためには大切な者を一人犠牲にしなくてはならない。
つまり実の母親を犠牲にしなくてはならないということだ。
幼い子どもに与える試練として、こんなにも過酷なことはない。
「究極召喚のことですか? 確かにあれを俺は今でも肯定は出来ない。ですがあの時、母には時間がなかった。そして母の決意は堅かった……どうしようもなかったんですよ」
「だが」
「もう、いいんです」
シーモアの目に宿るのは憎悪でも怒りでもなく、ただただ静かで穏やかなものだった。
なぜ嫌悪しない。なぜ、そんな目ができるのだ。
「俺は貴方と一からやり直したいと、そう考えています。ダメでしょうか?"父さん”」
「わ、わしを、父と、そう呼んでくれるのか?」
「貴方がそう呼ぶことを望んでくれるなら」
ジスカルの目に止めどない涙が溢れる。
己の罪は今でも消えていない。寧ろより一層強くその罪の意識を感じている。
忘れてはならない。許されたと思ってはいけない。
だが、今はただ――息子を強く抱きしめたい。
「すまない。すまない」
「いいんです。もう、いいんですよ」
その抱擁はしばらく続いた。
余談だが、その後父と子の語らいをしていたときに、息子に巨乳派か貧乳派かと問われたジスカルは、顔を赤くしながら正直に巨乳派と答えたそうな。