シーモアに憑依したんだが!? 作:オタクなシーモア
♪月÷日
シーモアになり、父ジスカルとの仲も良好になって数日。最近ちょっと困った事というか、いやね悪いことではないんだけど、父がなにかと甘やかしてくるようになったんだ。
大丈夫か? なにか困ったことはないか? ちゃんと飯を食べているか? なんだ、なにか欲しいものとか、ないか? などなどもう今まで冷めきっていた関係からは考えられない程にゲロ甘い。
もう周りのグアド族の皆もびっくり仰天って訳。
そりゃそうだよね。つい最近まで関係は最悪、なんなら暗殺しようとしていたぐらいには険悪だったんだから。
今でも一部の人はシーモア様はジスカル様を暗殺するために近づいているのでは? とか言われているらしい。
暗殺なんて絶対にしないけどね。
父との関係性が変わってからグアド族からの視線も少し変わったような気がする。
前までは崇拝の中に怯えや恐怖なども見えたのだが、今はなんだか生暖かい目で見られる事が増えた。
なんかちょっと恥ずかしい。
∧月∽日
今日は父と共に聖ベベル宮に訪れた。
そう、あのマイカ総老師とかキノック老師がいる所だ。正直あまり気乗りしない。
権力に溺れた奴や、偽りの教義を教えて現実から目を背ける奴らだ。まぁそれでもエボン教がなかったらスピラは今よりも絶望していたかも知れないんだけど。
人は希望がなければ生きていく気力を失う。だから神様とかに救いを求めて祈ったりする訳なんだが。
でも嘘を吐き続けてもそこに真の救いはない。ティーダ達は少なくとも諦めることなく絶望に立ち向かった。
俺もその姿勢を見習わないとな。
という事でまずは善行でも積んで皆の気持ちを明るくさせる為にエボン教信徒達とコミュニケーションを取ったり、困っている人がいたら積極的に関わって問題の解決をしたりした。
最初は、え、なにこの人? みたいに不気味がられていたけど時間が経つに連れて少しずつだが受け入れてくれた気がする。
やったぜ。
ヾ月∪日
今日は僧官達の毎日の祈りを背景に、俺はキノックと話していた。
やれ貴様何を企んでいるだとか、貴様の思い通りにはさせんなど全然全くこれっぽっちも企んでないんだが、キノックから一方的に警戒されていた件について。
そういうキノック自身が色々と企んでいるのにな。
作中でもここまでゲスなキャラに全振りした奴も珍しいと思うぞ。
討伐隊の中でエボンの教えに背く者にはシンと戦わせて戦死させ、無駄なことをする奴らだと嘲笑する。
後は割とエボンの真実というか闇というか、そういったことをポロポロと情報漏らしていたしな。
今思うと割と失言過ぎるし、その地位まで上り詰めた筈なのに脇が甘い。
まぁ聞かれてもわからんだろって思ってたんかな。
キノックの刺々しい言葉にいい加減イライラしていたから、どこかのタイミングでとんでもない尿意が出てしまう魔法を掛けてその場を去った。
我慢出来て精々十秒ぐらいだからキッツいぞぉ。
いい年して漏らしてしまうかも知れない恐怖を味わうがいい!! ふはははっ!!
∀
その日キノックは焦りと混乱で頭が良く回っていなかった。
シーモア=グアド。奴はいつもいつも忌々しい。
こちらの思惑をまるで見透かしているかのような瞳、薄ら笑う顔を見る度に腸が煮えくり返る思いだ。
その日も奴は現れた。ただ今回は珍しくジスカル老師と共に来ていたが。
それも仲睦まじく会話に花を咲かせていた事に心底驚愕した。
キノックの記憶が間違っていなかったら奴とジスカル老師との仲は最悪。まずにこやかに会話をするような関係ではない事は確かだ。
更に言えば、その日シーモアはおかしかった。
いつもの奴ならば絶対にやらない行動、僧官と雑談、礼拝堂の掃除、人々の排泄物の処理仕事まで、およそシーモアという男がやることがない行動ばかり。
あまりにも怪しすぎた。
何を企んでいる。僧官達の懐柔か? 自身の勢力を増やす行為? いや或いは必要な情報を得るためか?
考えられることは色々あるせいでキノックの情報処理が追いつかず、夜も安眠出来なかったせいで感情のコントロールが出来なくなっていた。
そのせいなのか、キノックは僧官達とのお祈り中に隣り合ったシーモアに食って掛かってしまった。
「シーモア貴様、何を企んでいる」
「はい? 別に何も企んでないですが」
「惚ける気か? 私の目は誤魔化せんぞ」
感情の余裕がないせい少々語気が荒くなる。
「いや、マジで企みとかないんだけど……そういうキノック老師はどうなんです?」
「何が言いたい」
「討伐隊でなにか良からぬ事、考えてないですか?」
シーモアのその一言にキノックは心臓を鷲掴みされたような感覚に陥る。
馬鹿な、赤木隊の事が漏れているのか? いやそんな筈はない。隠蔽工作は完璧だったはず。
それにあれはもう終わった事。焦る必要はない。
冷や汗を掻きながらもキノックは鼻を鳴らす。
「ふん、良からぬも何も討伐隊という組織を強くすることの何が悪いと思う?」
「あぁいえ、キノック殿が最近討伐隊の訓練に力を入れていると聞きましたので」
「私は私の責務をただ全うしているだけさ」
そう言うとシーモアは成る程と頷く。
「それは素晴らしい。討伐隊の今後の活躍を祈っています」
「……貴様こそ、なにか隠しているのではないか? 例えば誰かの暗殺などな」
「あまり穏やかなお話ではないですね。私が誰かを害そうとしていると?」
「なに、ちょっとした噂だ。私の耳は随分と良くてな。耳を塞いでいても何故か聞こえてしまうのだよ」
初めてシーモアの顔が歪む姿を見て、キノックは今までの鬱憤を晴らすように饒舌になる。
「シーモア、君は実に策士な男だ。だがそれでも上には上がいる。違うか?」
「それに君は未だに老師にすらなれていない。そうだ。貴様の父は老師だったな。では父親のコネでも使うか?」
「あぁすまない。別に馬鹿にしている訳ではないんだ。ただ事実だからな」
それはもう息つく暇もない程のマシンガントーク。キノックは今絶頂の中にいた。
故にだろうか。その場には既にシーモアの姿がないことを知ったのはそれから数分後であった。
「全く、私の許しもなくいなくなるとは、躾のなっていないことだ」
「キノック老師、最後に僧官達に何かお言葉を」
いつの間にか祈りの時間は終わっていたのか、僧官達が整列をして待機していた。
キノックは礼拝堂に集まる僧官達に一瞥し、咳払いをする。
「ごほんっ! 皆今日もエボンの教えを守り、またその祈りはうぐぉ!?」
「? どうしたのですかキノック老師」
突然歯を食いしばるキノックに近くにいた僧官が怪訝そうな表情をする。
だがキノックはそれどころではなかった。
なぜなら突如として途轍もない尿意に苛まれているからだ。
「な、なぜ急にこんな、ふぉ!?」
もう数秒も持たないかも知れないという尿意に、キノックは脂汗を掻きながら必死に耐える。
ここで今漏らしてみろ。せっかくここまで築いた威厳など崩壊してしまう。
そんなことキノックには許容できない。
いきなりキノックの顔が鬼気迫る表情に変わったことに僧官達が静かに震える。
キノックは顔を下に向き、回らない頭で必死に考える。
今ここで漏らすのは避けたい。だが、ここからこの尿意を我慢してトイレに向かうのは不可能に近い。
ならば、そうだ。僧官達をここから出ていって貰えばいいのだ。
そう思い立った瞬間、キノックは壮絶な表情で口を開く。
「皆、今日の祈り大変よかった。ではそれぞれの仕事に戻ってくれ」
キノックの言葉に僧官達は逃げるようにいなくなったが、一人だけその場に残っていた。
年若い女僧官で、心配そうな顔をしてこちらに近づいてくる。
「キノック老師、どこかお体が悪いのですか?」
平時であればその優しさにほっこり出来るが、今のキノックにその優しさは逆である。
「あ、もう、むり」
その日女性の甲高い叫び声と男の悲しい慟哭が響いたんだとか。
そしてその日からキノック老師が一人の女性僧官にだけ優しくなったと噂が広がっていたりする。
キノックの尊厳は彼女に守られたのか、そうではないのか、それはわかりません。