海を支配する謎の生命体『セイレーン』、それらに対抗する為に生み出された少女の姿を持つ軍艦『KAN-SEN』達は『アズールレーン』を結成し、日夜セイレーンと砲火を交わしていた。
その途上では思想の違いから仲違いし、陰謀に巻き込まれもしたが彼女達の
しかし、それで幕引きとはならず彼女達は何の因果か異世界に転移してしまった。
「……」
対セイレーン作戦の拠点である人工島『スイートバン』の中枢にてKAN-SEN達の指揮官である『
セイレーンとの最終決戦により主戦力たるKAN-SENは9割以上が戦闘不能となり係留中、しかも最終決戦自体も一ヶ月を超える長期戦であったため、物資もほとんど底を尽きそうだ。
そこで彼は一か八かで各方面に偵察機を飛ばし、どうにか食料を始めとした物資が調達出来ないか模索していた。
「はい。……えっ!?それは本当!?」
ベルを鳴らした電話を取り、内容を聞いた瞬間に高野の顔は喜びに染まった。
南西に飛ばした偵察機『PBY カタリナ飛行艇』が馬具のような物を取り付け人を乗せたドラゴンのような生物に遭遇し、そこから程なくして文明的な都市がある大きな陸地を発見したというのだ。
これは紛れもない朗報であり、交渉次第では必要な物資を調達出来るかもしれない。
しかし、その為には先ずしなければならない事がある。
「さっそく当該地に向かいたい。事情があったとはいえ、彼らの領域を侵害したのは事実だからね。クイーン・メリーと護衛のアマゾンに出港準備を整えるように伝えて。今回は私が交渉する」
電話口の相手が了承したのを確認すると高野は受話器を置き、椅子にへたり込むように座った。
とりあえず無人の異世界という訳ではなかった事の安心感と、異世界人との交渉を前にした緊張で足腰に全く力が入らなかったのである。
それから数日後、高野の姿は船上にあった。
彼を乗せているのは客船『クイーン・メリー』、全長310m全幅36m全高55m排水量8万トンにもなる大型豪華客船だ。
「指揮官、大丈夫?疲れてたりしない?」
「ありがとう、メリー。私は大丈夫だよ」
甲板で潮風を浴びている高野の元へクイーン・メリーがやって来た。
彼女は客船のKAN-SENであり戦闘力は無いが、対セイレーン作戦の際には軍艦のKAN-SEN達の休養施設として活躍していた。
「無理は禁物だぞ。お前が倒れたらただでさえボロボロな私達ら更に混乱してしまう。疲れたのなら遠慮せず休むんだぞ」
クイーン・メリーと共にやって来たロイヤル所属の駆逐艦『アマゾン』が強気ながらも高野を心底心配している事が分かる声で述べる。
彼女は古株の駆逐艦であり最終決戦時には母港防衛艦隊として待機していたため、数少ない無傷のKAN-SENである。
本来ならば4隻ほど護衛のKAN-SENが欲しいところだが、母港があるスイートバンには対セイレーン作戦の協力者として各陣営の軍関係者や技術者が滞在しており、彼らの安全を保障する為に戦力を割く事は出来ない。
ただし、アマゾンはもちろんクイーン・メリーもその気になれば30ノット以上の速度を発揮出来る為、偵察機が捉えた陸地の先住民が攻撃的であっても逃げ切れるという公算はある。
「指揮官、見張りの人が何かを見つけたみたい。帆船みたいだけど…」
「やっぱり偵察機が捉えた都市の文明レベルから推測した通りだね。アマゾン、メリー、二人とも速度を落として。私の想像通りの帆船なら二人に衝突されたらあっという間に沈んじゃうからね」
「うっ…イヤな事思い出しちゃうな〜…」
高野の言葉にクイーン・メリーが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
KAN-SENとしての存在を確立する『カンレキ』に刻まれた事故の記憶が呼び起こされてしまったらしい。
「ごめん、メリー。そんなつもりは無かったんだけど…」
「うん、分かってるから大丈夫だよ。今度はそうならないように気を付けないとね」
「指揮官、クイーン・メリー。そんな事より例の帆船が近付いてくるぞ。おそらく臨検するつもりらしいが…万が一に備えて攻撃準備だけはしておくぞ」
目を細め、水平線を睨みつけるアマゾン。
丸みを帯びた水平線からは帆船のマストの先端が見え、距離が縮まって行く毎に下から迫り上がるようにその姿をはっきりとさせている。
どうやらこの異世界も球形の惑星らしい。
「了解。くれぐれも攻撃は最後の手段だって覚えておいてね。メリー、乗ってる警備の人にもそう伝えて」
「はーい」
「了解!」
クイーン・メリーとアマゾンの返答を聞いた高野は船首に歩み寄ると異世界人との邂逅に対する不安を飲み込むように潮風を胸いっぱい吸い込んだ。
クワ・トイネ公国海軍の軍船『ピーマ』の船長『ミドリ』はこの日、人生最大の驚愕を覚えていた。
「こ…これが船なのか?甲板で馬上試合が出来るではないか!」
マイハークの沖合に現れた2隻の船、その内の1隻に臨検の為に乗り込んだミドリとその部下達はピーマがそのまま乗りそうな程広大な甲板を前にして、ただただ驚くばかりだった。
「初めまして、皆さん。私はスイートバンと呼ばれている場所からやってきました高野 吾郎と申します。先に明確にしておきたいのは、私達は貴方達を脅かす為に来たのではありません。交渉をしたく馳せ参じました」
「交渉とな?」
ミドリは自分たちを案内した高野の言葉に警戒半分、興味半分といった様子で耳を傾ける。
「ですがその前に一つ…貴方達に謝罪せねばなりません。先日、クワ・トイネ公国と仰りましたか…貴国へ我々の偵察機が無断で侵入した事に対し、謝罪致します」
「偵察騎…あの羽ばたかない飛竜は貴殿らの物なのか?」
マイハークの未確認騎騒動の場にはミドリも居合わせており、その目で未確認騎ことカタリナ飛行艇を目撃していた。
ワイバーンを振り切り、遥かな高みまで昇るそれを作り出した勢力はさぞかし傲慢で好戦的なのだろうと思ったが…まさか殊勝にも謝罪してくるとは予想外だ。
「はい、あれは貴国が運用するワイバーンという生物ではなく人の手で生み出された空を飛ぶ為の機械なのです。…話を戻しますが、貴国の領域を侵害したのは実は我々は食料を始めとした物資が枯渇しつつあるのです。幾らかの猶予はありますが、想定外の事態が起きないとも限りません。ですので各方面に偵察機を飛ばし、物資を調達出来るような場所を探していたのです」
「ふむ…しかし、物資を調達するにも対価が必要だ。我が国が貴殿らが望む物資を持っていたとして、貴殿らは何を差し出すのだ?」
「貴方達がどのような人々なのかはまだ分かりません。しかし、貴国を視察し周辺国に対し侵略を行うような国家でないと確信出来たのなら…我々が持つ技術を対価として貴国に提供します」
「それはつまり…あのカタリナ飛行艇なる物を我々が作り、使えるようになるという事か」
「はい、我々が貴国に技術を与えても良いと判断すればの話ですが」
高野の言葉にミドリは内心歓喜した。
クワ・トイネ公国は建国以来、家畜でさえも上等な小麦を食える程の食料自給率を誇り、他国に輸出なぞ造作もない。
そして高い食料自給率は他国への侵略の意義を薄れさせ、記録に残っている限りでは公国軍が大挙して国境を越えた事もない。
加えて今はロウリア王国からの侵略に備える為に少しでも戦力が欲しい状況だ。
高野の言葉を信じればクワ・トイネ公国は取り繕わずとも彼らの眼鏡にかなうだろう。
「承知した。では一先ず貴殿らは我々の先導でマイハークの近くまで来てくれ。その間に我が国の政治局に話を通しておく」
「ありがとうございます。では先導をよろしくお願いします」
そうしてピーマは後ろにアマゾン、クイーン・メリーを引き連れてマイハークへと帰還するのだった。
拙作の異世界航路と比べるとスイートバン時空の最終決戦はとんでもなくハードモードでした