取り敢えずリアルの姉に脅迫されてVtuberやった時の話でもする? 作:伸び代無し
『実は、今まで黙ってたんだけどさ配信やっててさ。あ、動画投稿もしてるけど』
「動画投稿って……ブンブンハローみたいな?」
『半分正解で、半分間違ってる』
一ヶ月前、突然双子の姉が電話を掛けてきた。姉は用が無ければ、全く連絡を寄越さない癖して逆に何かあれば用が終わるまでしつこく掛けてくるタイプの人間だ。つまり、今回の数年ぶりの電話もただの雑談で終わる訳が無い。正直言って速攻切りたかった。携帯は海に沈めて、僕は海外逃亡をしたいレベル。
だからと言って、適当にあしらうとこの姉はとんでもなく面倒臭い。先に苦労するか後に苦労するか。まるで人生の選択を迫られている様で胃が痛む。
「配信者だけど、配信者じゃないって事?」
姉のふわふわとした答えに対して、必死に捻り出した答えがこれだった。
『うーんまだ違う。でもちょっと惜しい。現実にいるけど架空の存在って事。Vtuberって聞いた事無い?』
「聞いた事はあるけどそんなに詳しくも無いレベルかな」
『そっか。私、そのVtuberなんだよね。いや、だったの方が正しいか』
「え?どう言う事?」
『辞めようと思ってるから配信者。で、後は任せたって事』
「え」
待って。待って?どう言う事?急な脳みその理解が追いつかない。姉が突拍子の無い事を言うのは今に始まった事じゃないけど。流石に意味が分からない。
「全然分からないんだけど」
『双子なのに?』
「双子だからって以心伝心な訳じゃないから」
『はぁ……仕方無い。最初から話す。全くこれだから弟は仕方ないなぁ』
連絡が無かった数年間。どうやら姉はその期間に配信者としての活動を始めたらしい。理由は、楽しそうだったからと言ういかにも姉らしい考えだった。最初は全てが新鮮で、何をやっても楽しかった様だけど。登録者数だったり、スパチャだったり。上には上がいる事を知った姉は。
とことん上を目指す事にした、らしい。目指すはVtuberのトップで全人類に名が知れ渡るぐらい有名になる事。その為なら出来る事はなんでもやるし、迷惑も掛けるらしい。アニメキャラみたいな事言ってるけど、この姉はやろうと思った事は押し通す以外の事を知らない人間であるし、僕はその事を痛いぐらいこの身で分からされている。
「ん?一位目指すんじゃないの?あれ、辞めるって言ってなかった?」
『あーそれは嘘。なんか切られそうだったら話引っ張ろうと思って。辞めないよ、まだトップになれてないし、これからだよ』
ビデオ通話では無いのに姉のドヤ顔が脳裏に映る。ああ、僕ももう病気なのかもしれない。ドクターストップを理由に姉と絶縁しようかな。かなり面倒になりそうだ。辞めよう。
「じゃあどう言う事?」
引退をする訳でも無いのなら、全て冗談であれ。ただの雑談で終わるのならそれに越した事は無い。……この姉がこの程度で終わるのならそれで万々歳である。それこそ万歳三唱するくらい嬉しい。
『そう、話もこれからでね。実はこれから私はグッズ作りにASMRにファンブックにアクスタやらと色々やる事が山積みで配信をしている暇が無いんだ。それでね……』
「そりゃあ大変だね。倒れない程度に頑張って、食事と水分はちゃんと摂るのとシャワー浴びて睡眠取りな。それじゃあ」
嫌な予感がした。この数秒後、本題に切り替わる気がしたので切り上げる為電話を切った。
『あ、』
何だか暑くなってきたのか寒くなってきたのか分からないけど、取り敢えずシャワーを浴びて寝ようと思い浴室へと向かう。その途中に。
《ピンポーン》
家のチャイムが鳴った、タイミング的に相手は嫌でも分かる。このまま立て篭もろうかと思ったけど本物の立てこもり犯にされそうだから辞めた。
『電話が切れちゃって、ふぅ、たまたま近くにいたから来ちゃった★』
「へぇ」
汗だくで息を切らしているにも関わらず、偶然を装ってやってくる。これが僕の姉だ。たとえ、世界の裏側にいようと用が終わらない限り終わらない。だから僕が出来る事はただ一つ。
「分かった、話を聞くよ」
無駄な抵抗はせず、話を聞く事。それしか出来ない。
『流石は私の弟。分かってるね』
分かってるんじゃなくて
『それじゃあ早く部屋の中に入れてくれないかな。お風呂上がりの弟を風邪にさせる訳にはいかないからね』
時間が無いからさっさと部屋に入れて、本題に入らせろこの野郎と言うのがこの問題の回答。お風呂上がりの〜は完全にフェイク。
「どうぞ」
『どうも。紅茶とお茶請けは全然大丈夫だからね』
話が長くなりそうだ。時間が無いんじゃないの?速やかにお帰り願いたいんだけど。
『部屋は綺麗にしてる様で私は嬉しいよ。さて、本題に入ろうかな?電話でも言ったかもしれないけど私の弟である君にしか頼めない大事な用件があるんだ』
聞いてくれる?とわざとらしく頼んで来る。分かってはいる。でも、この姉に反抗したいと思ってしまうのはおかしく無いと思う。だって悔しすぎるから。
「嫌だと言ったら?」
『その時には私も切り札を切るしか無いかな。覚えてる?昔の話。今もお互い忙しいけど、昔はもっと忙しかったよね。習い事が何度かダブったよね。嫌で逃げ出して君に迷惑を掛けた事もあった』
「そうだね」
『その時、どうしたか覚えてる?』
「……姉ちゃんのフリをしてコンテストに出たりしたけどそれが?」
『そうだね、良く私の女装をして、ピアノ弾いたりダンス踊ったりしたよね。』
「うん」
なんで今その話をするんだろう?いや、待てよ姉がこんな話を雑談をする訳が無い。
『言質取ったり』
「は?」
『これ、その時の写真。そして今の発言。セットでネットに流されたら徹底的な証拠になって、一生恥ずかしい思いすると思うよ』
「そんな事したら姉ちゃんだって」
『だから……分かるよね?』
「何を、すれば良いの?」
『うん?ごめん、もう一回言ってくれる?』
「何がお望みで?お姉様」
昔の様に皮肉たっぷりの返事を返したところで姉は口元を歪めて喜んだだけだった。そしてそのまま会話が続く。
『昔の様に、貴方には替え玉を頼みたい』
昔と違ってバーチャルの方だけど。と続けられ、一瞬理解が出来なかった。そして少し遅れて理解した。
「僕に配信者をやれって事!?」
こうして、長いプロローグは終わり。僕にとって最悪な未来へと続く。