非公式ペルソナ6妄想   作:らたぬ

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①悪夢

「ただいまー!」

 

 制服姿の少年は声を弾ませながら帰宅した。ローファーを脱ぎ捨て、勇み足でマンション特有の短い廊下を進む。

 

「今日の夕飯、シチューだっていうからちょっと早く帰ってきちゃったよ。最近肌寒くなってきたから恋しくって。それに……これ、見てほしいものがあるんだ!」

 

 そうして、窓辺のリビングに到達した。

 

「じゃーん! 見てよこの点数、学年一位だって!」

 

 リビングの中央にはソファと座卓があった。もう少し季節が進めばこたつになるそこに、両親はいた。

 

「父さん! 母さん!」

 

 呼びかけるも、うつむいた二人に反応はない。オブジェのように無機質な存在感に、少年は少し後ずさる。カーテンが開け放たれた窓の外の空は、異様なパープルグレーをしていた。ちかちか、と照明が不気味に明滅する。

 

「どうしたの、二人とも……」

「どうでもいいんだ」

 

 重くも空っぽな言葉だった。のっぺりとした声が父親のものだと信じられず、少年はたじろいだ。

 

「『どうでもいい』って、なにが」

「なにもかも」

 

 両親の首が緩慢に動き、少年を見つめる。顔にはなんの感情もなかった。マネキンのようなそれが両親だと信じられず、少年は手に持っていたテスト用紙を手放した。乾いた音が静寂にこだまする。

 

「そう――」

 

 母親が言う。

 

「――あなたのことも」

 

 二人の瞳はどんよりと濁り、空と同じパープルグレーに染まっていた。

 

「そん、な……」

 

 ぐにゃりと景色が歪む。世界までもが意欲を失ったかのごとく、色と形を失っていく。

 

「待って! 嫌だ、父さん! 母さん!」

 

 抗っても無意味だった。覚束ない足元の底が抜け、なにもない真っ暗闇へと、少年は延々と落下していった――。

 

  ◇

 

「――次は『理館(りかん)学園都市』――『理館学園都市』。終点です――」

「っ」

 

 悪夢から意識が急浮上する変化で、現実の感触を確かめるためにしばらくの時間を要する。やっと戻ってきた感覚に、馬鹿らしくなって息をついた。

 

「あ、まず」

 

 そういえば、とポケットの中からスマホを引きずり出す。現実に戻ってきて、少年はやっておくべきことを思い出した。学園都市につく前には登録しておかなければならないアプリがあったのだった。とはいえ、既にインストールは済ませてある。あと行うのは簡単な個人情報の登録だけだ。十分間に合う。清潔感のあるブルーグリーンのアイコンをタップして、アプリを起動する。

 

「健康管理用AI『サニタス』です。お名前のご登録をお願いします」

 

 無線イヤホンからデフォルメされた愛嬌のある案内音声が入力を促す。マスコットらしいブルーグリーンの瞳をしたウサギのキャラクターが画面で飛び跳ねていた。

 

「えっと……『(かなめ)一吹(いぶき)』と……」

「イブキさんですね。スマホの情報とも紐づけでき、契約完了しました。これからはこちらのアプリで診察内容やカウンセリング内容、処方箋などの管理をしていきます。今後ともよろしくお願いします」

 

 『サニタス』から恭しく挨拶されたところで、電車がプラットホームへと滑り込んだ。少年――一吹はスマホをポケットにしまって人混みに揉まれながら下車する。うかうかしていたせいで、随分前に日は暮れ、夜も深まってきてしまった。そろそろ一介の高校生がうろつくのも危ない時間帯になる。一吹は足早に目的地を目指した。

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