「――ようこそ、我が『ベルベットルーム』へ」
そこは、青い瀟洒な光が照らす診察室だった。ベルベット――びろうどの名のとおり、診察室ながらも優雅な雰囲気が漂っている。いつの間にか丸椅子に座っていた一吹は、あのウラリカンとは異なる夢見心地を味わった。
「お初にお目にかかります……
机を小脇に腰かけた長鼻の老人――イゴールが挨拶をする。医者のような立ち位置だったが服装はタキシードで、支配人と呼ぶ方が相応しく思われた。
「そして、こちらはテュオネ。同じくここの住人でございます」
イゴールに促されて、テュオネと呼ばれた妙齢の女性も頭を下げた。こちらは一転、金糸の髪をナースキャップでまとめた看護師風の服装をしていた。磨き上げられた鏡のような銀の瞳が、印象的にこちらを捉える。
「テュオネと申します。今後は貴方の専属ナースを務めさせていただきます。よろしくお願いしますわ」
「こちらは、なにかの形で『契約』を果たされた方のみが訪れる部屋……今から貴方は、このベルベットルームのお客人だ」
「これも夢、じゃない……?」
「いいえ。現実の貴方は今、『力』を覚醒したショックで意識を失われたのです。言わば夢としてここを訪れているに過ぎません。しかし、いずれはご自身の足でいらっしゃる機会もあるでしょう」
「『力』って、ペルソナのことですか?」
「左様。『ペルソナ能力』とは、『心』を御する力……心とは単なる精神の活動を示すのではなく、器として『絆』で満ちるものでもあります。よくよく、覚えておかれますよう……」
分からないことだらけだ。覚醒したと思えば、謎の老人から「絆で心を満たせ」と言われている。
けれども、どこか腑に落ちるものがあった。サニタスが言っていたように、ペルソナが立ち向かうための意志が具現化したものなのであれば、心が強くなればペルソナが強くなることもまた、道理と思われた。そしてそれが絆で心を満たしていくことに繋がっていくのだろう。
これから、戦っていかないといけないのだろうか……。
「ご不安ですかな?」
「そりゃあ、不安じゃないわけないじゃないですか。これから謎の場所に行って、恐ろしい怪物と戦うことになるかもしれないなんて……」
「ご不安を払拭するほどにはなり得ないかもしれませんが、
「契約……? 困難……?」
「意味が分からないのも無理からぬこと。今はまだ時が早いのやもしれませぬ。ですがきっと、その意味が分かる時が来るはずでしょう」
イゴールは指を組み直し、目元を和らげる。
「貴方は一人ではありません。それは揺るぎない真実でございます」
「…………っ」
視界が歪む。それはうっすら滲んだ涙のせいだけではないようだった。
「おや、そろそろお目覚めが近いようです。お別れの時間ですな」
「待って、まだなにも分からないままだ」
「焦らずとも、時は満ちます。こちらも然るべき時にまたご説明させていただく所存でございます。ご安心召されよ」
イゴールの声が遠ざかっていく。姿もおぼろけになって、最後は青い光に包まれて柔らかく消えていった。
「ではその時まで、ごきげんよう…………」
短いですが、これにて終わりです。
読んでいただきありがとうございました。