非公式ペルソナ6妄想   作:らたぬ

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⑥覚醒

「なんだなんだ?」

「『ネガウイルス』に感染した奴が暴れてるらしい」

「怖いなぁ。さっさと離れよう」

「……まずいですね」

 

 サニタスが難色を示す。

 

「本当は離れたくないのですが、ぴょん達も駅前から移動しましょう」

「どうして? ていうか、『ネガウイルス』がなんとかって……」

「それです。イブキ様の身が危険です」

「それってどういう――」

 

 ――ギャアアアアアアアア‼ 獣のような雄叫びが目前までに迫っていた。

 

「『感染シャドウ』……!」

 

 驚いたサニタスが一蹴される。

 

「げふッ!」

「サニタス! ――うッ!」

 

 緑髪にオレンジのドレスをまとったシャドウだった。一見すれば優雅な彼女は、今やパープルグレーの瞳をぎらつかせ、狂暴にも一吹に掴みかかっていた。恐ろしい力だ。決して軽くはない男子高校生一人を容易く浮かせるほどの胆力に、一吹は足をばたつかせる。宙を切る足元に、スマホが転がった。

 

「う……ふ、っ……」

 

 首が絞まる。呼吸がままならなくなり、意識が遠くなっていく。一吹は急速に力を失っていった。

 抗っていた手と共に、まぶたが落ちた。

 

 もう無理だ……力の差は歴然。多少抵抗できたとしても、時間稼ぎになるかどうか。記憶喪失から始めて、一吹は死を覚悟し、受け入れつつあった。

 ……もういい。どうせ今の自分に、後悔に足るだけのものはない。目覚めてすぐに顔を合わせた両親も他人行儀な気しかしなかった。そこから始まった新生活と言えば聞こえはいいが、なにもないのと同じ意味だった。引っ越ししたばかりで机とベッドしかない自室が思い浮かんだ。

 

 俺には、なにもない……本当に……。

 ……本当に?

 

 ――「そしたらさ、理館での生活は思いっきり満喫しようぜ!」

 

「っ」

 

 ――「確かに、名目は治療のためかもしれないけどさ、折角こっち来たんだから楽しまないのは損だろ?」

 ――「小野寺の言うことだから癪だけど、私もそう思うかな。ならさ、この後ゲーセンとかどうよ?」

 

 一吹は重くなっていたまぶたを開く。歯を食いしばって、目の前の脅威を見据えた。

 

 ――「あーでも、ここから一番近いとこのアーム、メチャクチャ弱いんだよな……」

 ――「それなら二駅離れてるけど、私いい穴場知ってるわよ?」

 ――「お! ならそこで決まりだな!」

 

 抵抗しても逃れられる保証はない。敵わないどころか、余計に惨たらしい目に遭うかもしれない。それでも、一吹は渾身の力を込めて首を絞める手に爪を立てた。

 

「死ぬのは、いい……死んで後悔するほどのものも、ない……」

 

 ――俺は、空っぽだ。

 けれどその中に、たった一つだけあるものだけは見過ごせない。

 見過ごしてしまえば、本当に空っぽになってしまう。

 

「でも――まだ誘われた約束を果たせていない!」

『――よく言ったな!』

 

 ドクンと脈打った拍動と共に、自らの内側から声がこだました。

 

『「まだ誘われた約束を果たせていない」――たかだか一度の口約束で、死の安息を拒むとは! なんたる傲慢! なんたる蛮勇!』

 

 風が意図を持って逆巻く。パープルグレーの脅威を弾き飛ばし、止めどなく溢れ出る力の奔流が、解き放たれて膝をついた一吹を苛んだ。全身の骨が軋む。頭蓋の内側から激痛に叩かれている。あまりの苦しさに、頭を抱えて呻き悶えた。

 

『これから貴様には闘争という艱難辛苦がその身を苛むだろう……だがそれも一興』

 

 今にも死にそうだ。

 けれど――この力ならば、あるいは。

 

『そも「生」とは、老いて病むのが常定め。ならば戦い、傷つき、それでもなお立ち上がり、前へと進むがいい!』

 

 落としていたスマホを拾い上げて握り締める――この硬さならば十分だ。

 

「ああああああああッ‼」

 

 ガシャン! 一吹は思い切り、側頭部へとスマホを叩きつけた。

 ガラスの割れるような音で砕け散った頭部は卵の殻のようで、がらんどうの中にはかすかに光る一枚のカードが収められていた。

 

「あれは、アルカナカード……!」

 

 倒れ伏したままのサニタスが叫ぶ。

 

「つまり、あの行為は……!」

『さあ、高らかに叫べ――』

 

 一吹は躊躇なくアルカナカードを鷲掴むと、一気に引き抜いた。

 

『我は汝!』

「汝は――我!」

 

 荒れ狂っていた力が方向を得る。集結した力が体を包み込み、ペストマスクとボディースーツを形作る。背後には、機械の手足に革のローブをまとった怪人物が浮かんでいた。

 けれども一吹には分かる――これこそが自らが手にした矛と盾なのだと。

 

「我が名は『エリクサー』――かの錬金術師達が探求した、賢者の石なりし伝説の霊薬。その力で、脅威という名の病巣を根絶してみせろ!」

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