カラスバさんのキョーダイになりてぇ(願望) 作:カラスバさんは良いゾ
カロス地方、ミアレシティのとある一角……治安悪化の一途をたどるその街の裏街道で、一人の幼い少年が、か細い手にクロワッサンを握りしめて、裏路地で一人建物に背をかけていた。
先程までこのクロワッサンを狙う悪党やポケモンに付け狙われ、なんとかここまで逃げてきた次第だ。普通ならポケモンで応戦するところだが、この少年はポケモンを手に入れる余裕すらもない。自身の食べ物だけで精一杯なのだから。
「はぁ……はぁ……ここなら誰にも……」
誰にも奪われない。そう思っていた矢先に、突然鋭く声を掛けられる。
「坊主。」
少年は身体を跳ねさせて、声したの方向を振り向く……そこには、眼鏡をかけた気合の入った……明らかにカタギの人間ではない、そのスジの人間だと思わせるような格好をした男がたっていた。
「こんなゴミ捨て場で何しとるん。飯か?」
「っ!?」
咄嗟に少年はクロワッサンを守る様に姿勢を整える。しかし、その男からはバレバレのようで、軽く覗き込むと、少年が手にした物に気づき、口角を上げる。
「ほぉん……?クロワッサンか、ええやんか。美味そうやな。」
「欲しいのかよ……アンタ、身なり良いじゃねぇか。態々俺からなんか飯取らなくたって、幾らでもクロワッサン位買えんだろ?」
奪われないように噛み付いてみせる少年、その言葉に男は自身のスーツに触れて、軽く整えながらつぶやく。
「格好だけや。オレも自分の組持ち始めたばっかでアオガラスが泣いとるわ。下を食わせなアカンから自分の飯食う金もギリギリ……正味そのクロワッサンも羨ましいわ。」
「ほ、欲しいなら奪ってみろよ……ガキでポケモンも持ってない俺じゃアンタには敵わないかもしれねぇけど、俺はこの食いもん離さねぇぜ。」
そう言ってクロワッサンを潰れるほど握りしめて男を睨みつける少年……か細い身体で睨まれても恐怖の一つも感じない……が、その目は戦い抜くことを覚悟した目だった。男はすると大きく高笑いする。
「……くっ、アハハハ!いや、オモロイなぁジブン!良い目付きしとるわ……安心せや、オレぁ物盗りじゃないねん。」
「わかるもんか!……そうやって甘い事言ってくる奴らに、何度騙された事か……」
そう言って奥歯を噛み締める少年……かつて親にはこのミアレで捨て置かれ、友達だと思っていた奴には裏切られ飯を奪われ、優しい言葉をかけてきた大人にはボロボロになるまでこき使われて……この世に信じられるものはないって言わんばかりの表情だ。すると、男は軽く鼻を鳴らしながら言う。
「騙し騙されるのも、嫌な事は何処にでもあるもんや。こんな裏街道では特にな。ジブン、どうすんねん……その飯をどうすんねん、そないビクビクしてたらポケモン使わんでもその手から奪えてまうで。」
「渡さねぇ……渡すもんか……!!落ちてる小銭集めて、やっと買えた飯なんだ……誰にも渡さねぇ……!!」
「それでええ、その目つきのままでおれ。そんな気持ちでいたら大抵のしょーもない奴はビビってどっか行ってまうからな。ハッタリ聞かせて気張りや。」
そう言って少年の頭を軽く撫でる男……その手は、今までの大人たちとは少し違う、冷たい。けれど温度で表せない温かみを持つ手だった。
「……アンタ……」
「そんな野暮な名前ちゃうわ。オレはカラスバ……サビ組の頭って行ったとこかの。」
「サビ組って……最近ミアレで売り出してるって言うあの?」
「おやっ、知っとったんかい……まぁせや。今は地固め中って所やな……坊主、名前は?」
「……ウバ。」
「ウバ、のう。覚えたで。」
すると、カラスバは若干気不味そうに、ウバの持つクロワッサンをじーっと眺める。
「……………しっかし、ホンマにそのクロワッサン美味そうやの……」
「っぱ狙ってるんじゃねぇか!?」
「スマン!!ほんの少し、少しでええんや!」
「……半分、半分だけだからな……!!」
そう言ってウバはクロワッサンを二つに分けて、片方をカラスバへと差し出した。彼はうれしそうにそれを受け取ると、ウバと並んで座りながらクロワッサンを齧る。空いた腹にパンが落ちるのを感じる。至福の時間だ。
「んっ、いやぁ生き返るわ。助かった。ありがとうの、ウバ。」
「はむっ……はむっ……!!」
「……って慌てて食うとまた直ぐ腹減るで。こう言うのはゆっくり食えば食うほど腹が満たされるんや。オレもガキの頃はそうしとった。」
「……?」
何処か懐かしそうに語るカラスバに、ウバは小首を傾げる。だが、そんなことよりも今は目の前の飯だ。一応カラスバの助言通りにゆっくりとしっかりと噛んでみる……すると、確かに気持ち腹がふくれるような気がしないわけでもない。
……すると、ウバはカラスバの持っているモンスターボールを見つめて問いかける。
「なぁ、カラスバ。アンタポケモントレーナーなのか?」
「せや、俺の相棒見てみるか?」
「……見る。」
「よしゃ。」
そう言ってカラスバはモンスターボールを一つ投げると、一匹のポケモンをだす……巨大な紫色の虫ポケモン。ペンドラーだ。
「ベドラッ!!」
「……!!!か、か、かっけぇ……!!」
「せやろせやろ!オレの自慢の相棒やさかい!」
すると、カラスバは先程の冷たい目が嘘のように明るい目つきとなり、外へ出したペンドラーを撫でてやる。ウバが触れて良いものか迷っていると、カラスバは口元をほころばせて首を振り許可する。すると、ウバも嬉しそうにペンドラーをなでる。
「……すげぇ……」
「べどらっ♪」
「撫でんの上手いな。コイツは割と気難しい方なんやけど……………んっ?なんや、お前行きたいんか?」
「……?」
暫く嬉しそうにペンドラーを眺めていたカラスバだったが、突然腰に着けた幾つかのモンスターボールの内、一個に手を触れるとそんなふうに優しげな声で語りかける。
しばらく一人での会話を続けてると、カラスバはウバに一つ問いかけた。
「ジブン、そういやポケモン持ってない言うとったな?」
「あ、あぁ……金無いからモススターボール買えねぇし…〜」
「ほぉん……なら、ほれ。」
そう言ってカラスバはウバに一つのモンスターボールを手渡した。
「な、なんだよコレ。」
「クロワッサン分けてくれた礼や。それに、ソイツもお前と行きたがってるようやしの……」
そう言われて、ウバがモンスターボールをしばらく眺めていると突然ボールが開き座り込んだウバの足元に一匹のポケモンが現れた。それは水色の身体にケロムースと呼ばれる泡を纏ったポケモン……あわがえるポケモンのケロマツだった。
「ケロッ」
「ぽ、ポケモン……」
「ケロマツや、元々は怪我しとったんを手当てしてたんやが……もう治っとるし、そのケロマツが行きたがっとるからの、ウバに譲るわ。」
「……お、俺からは何も取れねぇぞ!!」
「取らんわ。クロワッサンのお礼言うとるやろ。」
そう言ってカラスバはクロワッサン最後の一口を口に放り込み、ペンドラーをボールへと戻す。すると、少し小太りの男が何処か慌てた様子で姿を表した。
「ぼ、ボス!探しましたよ!」
「おぉジプソ。すまんの……野暮用があってな。」
すると、カラスバは首を後ろに向けながら軽く手を振る。
「んじゃ、またの。ウバ……同じミアレにおるんやし、その内あったらよろしゅうな。」
「お……おう……」
そう言ってカラスバは、ジプソと呼んだ男とともに路地裏からまるで嵐のように姿を消す。手元に残ったのは、不思議そうな顔でのぞき込んでくるケロマツのみ。
ウバは、手にしたクロワッサンを口に押し込めて……しっかりとモンスターボールを握りしめるのだった。今まで他人を羨む事はあっても、決して憧れはしなかった少年が……初めてこんなふうになりたいと思える男の背中を思い出しながら。
―――――
それから数年後……ワイルドゾーンが設置され、すっかりと様変わりしたミアレ地方。今宵もその路地裏に一人の男が立っていた……その傍らには、一匹のゲッコウガが立ち並び、共にスマホを眺めていた。
「ほえぇ、この子すげぇな。本の少し前にエントリーしたのにもうランクFだってよ。」
「ゲコガッ!!」
「大丈夫だって、オレと
そう言って男は、手持ちのゲッコウガが手を突き合わせる……時間は夜。バトルゾーンと呼ばれる空間が設置される頃だ…ろそのアナウンスが、ランキングを確認したスマホロトムへと流れてくる。
「……っし、んじゃあ行くか!ゲッコウガ!」
ミアレで行われているZAロワイヤル。最低のZから最高のAランクへと目指す戦い…………その戦いに身を置く男、ウバ。
その目的は一つ……師と仰ぎ、トレーナーとして、裏街道で生きるための術を叩き込んだ
「カラスバさんと約束したんだ、早くAランクになって……カラスバの兄貴にキョーダイって認めてもらうってな!!!」
「コガッ!!」
偶然通りすがったカラスバさん「何その約束知らん……怖っ(何その約束知らん……怖っ)」