某は催眠術師である。名前は田中太郎   作:ジントニック123

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思ったよりネタが浮かんだので連載に変えました。


魔法少女おじさん 殴理体園 江賀雄 -前編-

 

 凄暦2125年、日本では催眠アプリを用いた催眠犯罪が社会問題となっていた。

 催眠強盗、催眠放火、催眠詐欺、催眠殺人、催眠テロetc。

 これを受け政府は催眠犯罪への対抗策として対催眠犯罪殲滅機関―――通称「対眠」を設立。

 催眠犯罪の殲滅を掲げ、第1から第7東京都全てに支部を設置。

 催眠犯罪との果てしなき戦いを始めた。

 

 そしてこれは対眠の一員として活躍する催眠術師、田中太郎の物語である。

 

 

 ◆

 

 

『慎重かつ総合的に選考を重ねなくてもお前は採用しねぇよボケ』 

 

「また、駄目だったのか……」

 

 人気の失せた夕暮れ時の公園。

 そこの古びたベンチにて力なく項垂れる男の姿があった。

 

 腰まで伸びる染めた金髪のツインテール。

 公序良俗に喧嘩を売るが如きエグイ食い込みのレオタード。

 フリフリなスカートの下から覗く、ムダ毛処理のされていない丸太のような太い生足。

 そして手にはピンク色を基調とした可愛らしいデザインのスマホ搭載型棘付き棍棒(モーニングスター)

 

 名を殴理体園江賀雄(なぐりたいそのえがお)という。

 今となってはめっきり数の少なくなった魔法少女である。

 ちなみに40代後半無職の厳つい顔をしたおっさんでもあった。

 

 諸君は男が魔法少女である事に疑問を抱くかもしれないが、男の子だってお姫様になれるのだから何もおかしくはない。

 それに童貞を30歳まで貫けば魔法使いになるので、女装してコスチュームを身に纏えばそれはもう魔法少女なのだ。

 つまりはそういう事だから気にするべきではない、イイネ?

 

「どうして駄目なんだろう。やる気はあるのに」

 

 見ての通り彼は就活に失敗していた。

 棍棒(ステッキ)の柄と一体したスマホに映るお祈り罵倒メールはこれで20通目である。

 正直に言って江賀雄は途方に暮れていた。

 

 確かに学歴は無い。高卒どころか小学校中退だ。

 確かに職歴は無い。魔法少女になるまで親の脛を齧って生きて来た。

 でも犯罪歴はある。ワルモノと戦っていたら誤認逮捕されて裁判無しで10年以上クサイ飯を食う羽目になった。

 

『悪いけどウチは魔法少女雇わないんだよね、イメージ悪いしさ』

 

『俺のおっかあは魔法少女に殺された……今でもあの光景は忘れらんねぇ!』

 

『魔法少女ならまだしも魔法少女おじさんはちょっと……前あるよね絶対?』

 

 大体こんな感じでどこも就職を断られた。

 時には姿を見せただけで石を投げられる場合もあった。

 どうやら富士山アルカトラズ刑務所から抜け出すまでの間に、娑婆はかつての自分が知る世界とは別物と化していたらしい。

 まさかここまで世間様が魔法少女に冷たくなっているとは夢にも思わなかった。

 

「昔は良かった、誰もが優しくて思いやりに溢れていたのに」

 

 昔の光景が頭を過る。

 

 国中の魔法少女たちが集う魔法少女激戦区にして最前線―――第2東京都。

 頭を地面に擦りつけるまで下げて「どうか命だけは、せめて子供だけはご勘弁を!」と金品財産住居から何もかもを提供してくれた善良なる市民たちの姿。

 それでも足りなければなんか悪そうなやつ(ジャアクハート)の持ち主を討伐し、そこで得られたお金や強奪品(ドロップアイテム)生活していた日々。

 自分たちのリーダーであった《催眠魔法少女おじさん》や仲間たちと共に駆け抜けた頃の思い出。

 

 そして忌々しき怨敵たる《催眠王》とその一派に敗れ、何もかもが終わった絶望の日。

 

『そんな、わっちらが一体なにしたっていうのよ……!?』

 

『おじさんが魔法少女をやるのが罪だと言うのか!? 魔法少女は女の子だけの特権だと言うのか!!?』

 

『まだ魔法少女でいたいのに……このままころっ、殺されるしかないのか!?』

 

「……ううっ」

 

 楽しかった記憶、辛かった記憶が胸を打つ。

 想起された想いが江賀雄の瞳に涙として浮かび、頬を伝って流れ落ちる。

 そして落ちた涙は水滴となって足元を濡らし、やがて水たまりを作った。

 どう考えても流し過ぎである。脱水症状にならないのが不思議だ。

 

 しかし泣いてもどうにもならない。

 此処は―――第4東京都は何もかもが違う。

 

 つい先ほども血に飢えたハンターたちがノコギリのような鉈と巨大拳銃を手にうろつき、道路で殺人ケルベロスが群れを作って人を襲い、通りすがりの女子高生に返り討ちにされた挙句、えのころ飯にされてインスタに上げられていた。

 職務に熱心な警察官がパトカーごと犯罪者へと突っ込んで爆発炎上したり、そこに突っ込むこれまた熱心な《未来に希望は無いんだから死んじゃおうか教》の信者たちによる焼身自殺。

 

 とても恐ろしい、人情や人の温かさがまるで感じられない

 1時間後には自分がひところ飯にされてもおかしくない。

 仲間のいない今の状況で魔法少女としての活動を再開したとしても、長くは持たないだろう。

 だから今は日雇いの仕事で食い繋ぐか道は残されていないように思えた。

 

「……ん?」

 

 ―――そんな時、目の前に影が一つ伸びて来ることに気付く。

 

 

 

 

 

 

「コンニチハ、BOKU弩羅獲紋(ドラ〇もん)DEATH」

 

 

 

 そこにいたの頭つるぴかハゲの巨漢であった。

 

 目と鼻は充血し、遠目から見ると赤い瞳が3つあるようだ。

 違法生体強化薬でも乱用したのか全身の肌は青く染まり、胸には七つの注射根が刻まれている。

 両手は無い。正確には血塗れのボウリングのボールが手首の先についていた。

 

 22世紀末からやってきた救世主型ロボット弩羅獲紋―――という設定の殺人鬼だった。

 特に催眠がキマッた訳でもないのに素でイカれているタイプの異常者である。

 本日だけで警察官含め40人以上を殺っている。 

 偶然ここを通り、偶々見かけたこの魔法少女おじさんを次のターゲットに定めてしまったのだ。

 

「BOKU弩羅獲紋DEATH」

 

 再びの自己紹介と殺害予告。

 一石二鳥とはまさにこの事だ。

 大抵の人間はこの時点で念仏を唱えるだろう。

 

「私は正義の魔法少女、殴理体園江賀雄だ」 

 

 しかし、江賀雄はそうしなかった。

 ベンチから立ち上がり、愛用のモーニングスター(ステッキ)を肩に担ぐ。

 一目見てだけで分かった。眼前の相手は自分を殺しに来たワルモノだと。

 怒りに呑まれた闇落ち魔法少女たちにように、こちらを存在ごと否定しようというのだ。

 

「おじさんだって、魔法少女になれる!! 誰にも否定はさせない!!!!」

 

 であるのなら、魔法少女として戦わなければならない。

 だって己は愛と正義と友情と欲望と私欲と我欲の味方なのだから。

 

「BOKU弩羅獲紋DEATH!!」

 

 江賀雄の戦意に反応したのか、地面が爆ぜたかのような急加速で弩羅獲紋が突っ込む。

 左右同時に繰り出したボールは肉を削ぎ骨を砕く威力を秘めている。

 それも、頭か胴体を同時に破壊するコンビネーションブローだ。

 どちらか片方を防ぐだけでは足りない。残った玉で殺される。

 

「マジカル☆マインドクラッシュ!!!!」

 

 だから、江賀雄が選択したのは攻撃だった。

 

 人間の限界以上の速度で動く弩羅獲紋よりなお迅く踏み込み、ステッキを大きく振りかぶる。

 殺られる前に殺るというシンプルな理論。

 専用の催眠アプリによって強化された肉体だからこそ出来る荒業。

 ジャアクハートがある部位()を破壊し、文字通り()()させる江賀雄の必殺技だ。

 

 ―――音を超過し、衝撃波の生まれる音がした。

 

 果たして、カウンター気味に入った一撃により弩羅獲紋の首は折れるどころか文字通り吹っ飛んだ。

 そのまま数百メートルは飛んで、やがて近所のマンションの一室にホールインワン。

 遠くから絹を裂くような悲鳴が響くと同時に、泣き別れした体が地面を転がった。

 

「……うん、鈍ってないね」

 

 何度かステッキを振り回しながら江賀雄は呟く。

 実戦で使うのは久しぶりであったが、衰えている感覚はない。

 10年前は悪党や敵対してしまった魔法少女たちに使ってきた己の象徴だ。

 それを把握し、首無し芳一になった弩羅獲紋に目を向けて―――灰色の脳内に電流が奔る。

 

「そうだ……起業しよう! 働く場所が無いなら作ればいい。仲間も増やせて一石二鳥だ」

 

 とち狂った発想が出て来た。

 まともな精神をしていれば思いつきさえしないだろう。

 しかし残念ながら魔法少女おじさんなどやっている存在がまともなはずがない。

 

 だが、江賀雄からすればまさに天啓である。

 元より魔法少女おじさんになった日に親から絶縁され、その果てに何もかも無くした身。

 ゼロから始める事は知っている。ならばもう一度積み上げて行けばいいだけの話なのだ。

 

「まずやる事はヘッドハンティングだな!!」

 

 とりあえず弩羅獲紋の頭のあった場所に分裂させたスマホを刺し込み、催眠アプリに付属してあるネクロマンシー機能を起動。

 催眠は人の心に干渉し行動を操れるので、応用すれば死体を動かす事など造作も無い事だ。

 やがて、ぐにゃぐにゃと変な動きで弩羅獲紋は起き上がり、新しい頭であるスマホの画面に文字が表示された。

 

『BOKU副社長DEATH』

 

「うん、よろしくな弩羅獲紋!」

 

 さっそく社員1名を確保した。

 握手は無理なので抱きしめながら、江賀雄は何度も頷いた。

 後はこれを繰り返せばいい。最終的には社員一万人越えの大企業だって夢ではない。

 

「どうせなら優秀な社員をヘッドハントしたいな。まずは近場の大きな会社に向かうか」

 

『BOKU副社長DEATH』

 

 弩羅獲紋の頭に検索結果が表示される。

 実に仕事の速い副社長だ。その事に満足しながら目を走らせる。

 中でも目に留まったのは《割居奴一杯鋳瑠(わるいやついっぱいいる)ファイナンス》なる金融業者。

 どうやら武装ヤクザのフロント企業らしい。

 

「よし決めた、早速向かうぞ副社長! 手始めに社員100名出来るかな!?」

 

『BOKU副社長DEATH』

 

 公園近くで信号機待ちしてた自動車に乗り込み、運転手をヘッドハントしてから3人で目的地へと向かう。

 江賀雄は運転経験が皆無なので、あちこちぶつけたり人を撥ねたりしたが問題はない。辿り着くのが最優先だからだ。

 やがて割居奴一杯鋳瑠ファイナンスのあるビルが見えて来たので精一杯アクセルを踏み込む。

 

 そのまま入り口に時速100キロオーバーで突っ込んだ。

 

「すみませんアポなし保険無しですが話を聞いてもらえませんかヘッドハンティングに来ました!!!」

 

「ようこそいらっしゃいました。しかしアポなしですか……」

 

 途中で何人か挽肉にしつつ、クッションになった新入社員(入社1分)を押しのけて車から降りると、アルカイックスマイルを浮かべた受付係が対応に出る。

 しばし考え込み、電脳通信で何処かへと連絡してから背後にあった巨大ガトリングガンを構えて。

 

「ひとまず死んで口が利けたなら聞かせて頂きましょう―――くたばれ」

 

「貴方って人たちは! 命を何だと思っているんですか!!?」

 

『BOKU副社長DEATH』

 

 その日、都内にあるヤクザのフロント企業で大量殺人事件が勃発したが、警察はよくある抗争として処理した。

 第4東京都では割といつもの光景であった。

 

 




後編は早めに書く予定です。
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