三日月が照らす、実力至上主義の教室   作:ににぬうす

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プロローグ

五月一日。

全ての幻想が砕け散った日の夜。

昼間の阿鼻叫喚が嘘のように静かで、自室の窓の外には、まるで何かを削り取られたかのような、細い三日月が浮かんでいる。

 

今日の昼、僕たちは知った。この学校が楽園などではなく、冷徹な実力主義で支配された競争社会であるということを。

そして、僕たちDクラスが、その競争のスタートラインにすら立てていない「欠陥品」の集まりなのだということを。

 

茶柱先生から告げられた無慈悲な「0」の数字。

クラスメイトたちの絶望した顔、怒りの声。

その光景を見ながら、僕は椚ヶ丘中学校の時のE組に配属されたときのことを思い出していた。

僕の脳裏に蘇るのは、椚ヶ丘中学校のE組にいた頃の記憶だ。

E組にいるというだけで向けられた、侮蔑の視線、憐れみの眼差し。そして僕たちを見下すことで得られる、安堵の表情。

 

『人は、平等であるか否か』

 

僕なりの答えは、もうずっと昔に出ている。

答えは、否だ。

 

人は、決して平等じゃない。

生まれた瞬間から、僕たちは違う。

高円寺君のように、絶対的な自信を持って生まれた人もいる。

堀北さんのように、容姿と、高い知性に恵まれた人もいる。

世界は、違いで満ち溢れている。

そして、社会は、その違いをことさらに強調して、僕たちを選別する。

「優秀」と「劣等」。

「A組」と「E組」。

そうやってレッテルを貼って、安心する。

僕がいた椚ヶ丘中学校は、その縮図のような場所だった。

僕たち3年E組は、学校という社会から「劣等」の烙印を押された、まぎれもない“不平等”の象徴だった。

 

だから、人は平等じゃない。スタートラインは、生まれた瞬間からバラバラだ。

…でも。

 

(それだけじゃない)

 

僕の脳裏に、黄色くて丸い、あの恩師の姿が浮かぶ。

殺せんせーは、僕たちのことを決して「平等」だとは言わなかった。むしろ、僕たちの「違い」を誰よりも見つけ、それを面白がり、大切にしてくれた。

 

運動神経抜群の磯貝君には、リーダーとしての指揮能力を。

化学の才能があった奥田さんには、薬品の調合技術を。

そして…僕の中に眠っていた、自分でも気づいていなかった「暗殺者」としての才能を。

 

殺せんせーは、僕たち一人一人が持つ、全く違う形の「刃(やいば)」を見つけ出し、その研ぎ方を教えてくれた。

僕の刃は、人を傷つけるためだけにあると、僕自身が思い込んでいた。

でも先生は教えてくれた。その刃の鋭さは、使い方次第で、人の心をも救えるのだと。

 

そうだ。僕の答えは、これだ。

 

人は、平等じゃない。

与えられた才能も、環境も、何もかもが違う。

けれど、誰もが自分だけの「刃」を持っている。

それは、勉強かもしれないし、運動かもしれない。あるいは、優しさかもしれないし、人を笑わせる才能かもしれない。

形も、鋭さも、重さも違う、多種多様な刃。

本当の「平等」とは、「誰もが同じになること」じゃない。

本当の平等とは、「誰もが、自分の持つそのたった一つの刃を、見つけ、研ぎ澄まし、振るう機会を与えられること」だ。

 

平等なのは、スタートラインじゃない。

平等であるべきなのは、成長できる可能性そのものなんだ。

 

だとしたら、この東京都高度育成高等学校は、どうなんだろう。

AクラスからDクラスまで、明確に生徒を選別するこの学校は、一見すると椚ヶ丘と同じ、不平等を肯定するシステムに見える。

でも、本当に?

あるいは、ここは全ての生徒に「Aクラス」という高みを目指す機会…自分たちの刃を研ぎ、上のクラスに挑む機会を、平等に与えてくれている場所なのだろうか。

 

須藤君の刃、堀北さんの刃、そしてこの教室にいる全員の刃…。

今はまだ鞘に収められ、その輝きを知る者は誰もいない、無数の刃。

 

(殺せんせー…ありがとうございます)

 

心の底から、感謝の言葉が湧き上がってきた。

 

不思議と、僕の心は落ち着いていた。絶望に沈むこの教室に、僕は確かな「目的」を見出していたからだ。

なぜ、殺せんせーは数ある高校の中から、この『実力至上主義』を謳う学校を僕に勧めたんだろう。ずっと疑問だった。でも、今なら分かる気がする。

先生は、僕に見てほしかったんだ。

先生が去った後のこの世界で、様々な「刃」を持つ生徒たちが、どのように評価され、どのように扱われ、そしてどのように成長していくのかを。

 

殺せんせー、ありがとうございます。

僕はここで、あなたが見つけ、育ててくれた「刃」を、存分に振るうことになります。




殺せんせーだったら、この学校はお勧めしない。と思うけど物語の都合上...。
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