身体から大量に金属製のバッタが出てしまう女の子   作:鳥松

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以前投稿していた『個性:クラスターセル』のリメイクです。元は同じですが個人的に直したい所が多く、かなり改変をしています


プロローグ

プロローグ

全世界の人口の八割が個性と呼ばれる超常的な能力を持つ世界。サイコキネシスは勿論、口から火を吹いたり、空を飛べたり、個性は人によって様々な形で発現し、社会の発展のため、使われてきた。

 

 しかし、そのように使わず、個性を悪用し、犯罪に使う人間も当然いた。人々はそのような人間たちを敵(ヴィラン)と呼び、恐れてきた。超常的な個性に警察は対応しきれず、渾沌とした社会が訪れたその時、人々の前に現れたのは同じのうに個性を使い、敵に立ちはだかる者たちだった。

 

 

 そのような英雄を人々は「ヒーロー」と呼んだ。

 

 そしてここにもヒーローに憧れる少女が一人。

 

 彼女の名前は虫明コガネ。

今日で5歳となったまだ幼気な少女だ。

そろそろ個性が芽生える歳だが、周りが個性に目覚める中でコガネだけは個性が目覚めなかった。

 

 両親に泣きつくこともあったが、ある日ついにコガネに個性が芽生えた。

 個性は『飛蝗(バッタ)』、大量の飛蝗(バッタ)を身体から出す個性であった。年端のいかぬ少女には大量のバッタはきついかもしれないがコガネはそのようなことは全くなく、むしろ気に入っている様子だった。(同年代の女の子からは不評だったが)

 

 

「お父さん!お母さん!私ヒーローになる!」

 

 芽生えた個性を気に入っていた少女がヒーローを夢見ることは何も不思議なことではなかった。

 だが、個性はお世辞にもあまり戦闘向きとは言えず、他人からのウケもあまり良くない。

両親が少女のヒーローに進む道について考えるのは必然であった。それでも両親はその夢について否定せず、むしろ応援するつもりだった。

 

 そうして両親は少し早いかなと思いつつも練習と称して個性の使い方を少女と一緒に模索していった。

 

 しかし、現実は非情だった。

 少女の個性は飛蝗を大量の飛蝗を出すだけ。パワーはなく、ヴィランと戦うことが出来るとは思えなかった。

 

 しかし、少女にも転機が訪れる。ある日突然個性が変化したのだ。生じた変化は飛蝗が銀色に変化し、金属のように硬くなったこと。更にその飛蝗は形を変えることができ、鋭利な棘や盾のように形を変えることが出来た。

 

 変化する前とは明らかに違う個性に困惑を隠せないコガネと両親であったが個性の拡張性が前とは全く違うものとなり、訓練すればきっとヒーローになれると思った。

 

 少女は喜び、それに伴い両親も喜んだ。家族には笑顔が増え、個性の訓練にも積極的に取り組んだ。

 訓練の成果として、できることが増えると両親はまるで自分のことのように喜んでくれた。

 そんな日々がただ楽しくて、幸せだった。こんな時間が永遠に続けばいいと、そう思っていた。

 

 だがその黄金のような時間はすぐに終わりを告げた。

 

 「お父さん……?お母さん……?」

 

 初めは何が何だか分からなかった。

 深夜のことだった。明日は遠足だからとソワソワしながらいつもより早くベッドに入り、寝静まった頃――

 

 突如として町の中心地から爆音と夕焼けのような赤い光が見えた。どうすれば良いかわからず、動くことも出来なかった。だがすぐに父と母が部屋のドアを勢いよく開け、部屋へと入ってきた。

 

 ただ只事ではない様子の父と母に連れられて、父に抱えられながら家の外へ飛び出し、辺りを見回すとそこには地獄が広がっていた。

 

 肉が焦げつくような臭い、火の海と化した街並み――

 

「なんで……?」

 

 仲良くしていた近所の人は家の外で燃えていた。

 遠足で隣で一緒に歩く約束をしていた仲の良かった友達の家は燃えていた。

 他にもバラバラの死体、焼け焦げて誰か分からなくなった死体。色んな死体を見て胃の中の物が逆流しそうだった。父と母は必死に逃げるが、抵抗虚しく追いつかれてしまった。

 

 父と母は「逃げて」といい、決死の覚悟でヴィランに向かっていったが一瞬で消し炭にされた。残された少女はヴィランをじっと見つめた。泣くこともせず、喚くこともしなかった。

 

 ヴィランは地獄のような男だった。

 全身に炎を纏い、エンデヴァーを思わせる風貌をしていた。もう1人は鬼のような仮面を顔に被っている男。両腕は剣のように鋭利な形をしており、バラバラの死体の原因が分かった気がした。

 2人が街を襲撃したヴィランのようでもう生き残りは自分で最後なのか周りから叫び声も聞こえなくなっていた。

 そして、2人のどちらが自分を殺すのかの言い合いを聞いた辺りで少女は完全に思考を放棄した。浮かぶのは恐怖という単純な感情だけ。

 

 もう、死ぬ。怖い。死ぬのが怖い。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――!

 

 そう考えていると言い合いの決着がついたようで、炎を纏った男が少女を殺すため、近づいた。

 

「え……?」

 

 家族との走馬灯がよぎったその時、身体から個性が飛蝗が飛び出してきた。飛蝗はすぐに近くの男に飛びつき、全身を埋め尽くした。男のくぐもった叫び声が辺りに響き、もう1人の男が慌てて少女を腕で攻撃するが、それは金属の壁に阻まれた。

 飛蝗たちは身体の形を変え、頑丈な盾を作り出し、本体を守った。

 

 そして背後から飛蝗が形を変えた棘が襲う。

 

「ぐっ……がっあ"っ」

 

 血が吹き出す。返り血が少女に降りかかり、辺りには2人の男の悲鳴が響き渡る。

 暫くして辺りから燃える音しか聞こえなくなった所で少女は放心状態になっていた。

 個性の暴発だろうと、少女は確実に命の危機を脱した。安堵、悲しみ、不安……様々な感情が渦巻く。

 しかし、最終的に少女の感情の大部分を占めたのは……

 

 

「なんで……わたしだけ……」

 

 辺りは火の海。

 自分以外の生物なんている気配がない。

 暑さと煙、そして肉が焼け付くような匂いが不快感を増幅させる。周りの雰囲気はまるで地獄のようで、いるだけで死にたくなった。先程まで死にたくないと思っていた筈なのに、目の前のヴィランが死んで冷静さが戻り真逆の感情が溢れだす。

 飛蝗は2人のヴィランを殺す力があった筈なのに、少なくとも両親を守ることはできた筈なのに、飛蝗は自分しか守ってくれなかった。

 

「……なんで、なんでなんでなんでなんで!?」

 

 行き場の無くなった怒りが、憎しみが、悪意が、心の中に蓄積していく。心の中にドス黒い悪意がバケツに溜まる水のように溜まっていく。

 

「ああ、ああぁぁぁぁ……」

 

「だれでも……だれでもいいから……私も死なせて……殺してよ……」

 

 絶望が少女を襲った。

 溢れるほどの悪意が心に蓄積し、抑え込むことができなくなったその時、身体の中の飛蝗が赤黒く染まった気がした。

 

「あ"っ……ぐぅっ……う"ぅぅぅ!!」

 

 身体の中で蠢くような痛みから耐えきれなくなったところで億千の飛蝗が一気に身体の中から飛び出した。

 それはまるで蝗害のようにあたりの街や家、人までも飲み込んでいった。

 

「う"ああああ"っ――!」

 

 

 

 薄暗い部屋でフルフェイスの、沢山のパイプが繋がったマスクをした男がモニターで少女が映る映像を見ていた。

 

「いい……それでいい、期待以上だ……」

 

「もう少しラーニングさせるか」

 

 マスクの中で薄く笑う悪意が渦巻く。

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