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九話
(防いだはずなのに……何の個性だ……!?)
炎が燃え広がる火災ゾーンにてコガネは脳が剥き出しになっている怪人と対峙していた。
細身で女性型の体系の黒い肌の怪人は自由に伸び縮みする腕を振り回しながらゆっくりと近づいてきている。
コガネは怪人の動きひとつひとつに注意しながら相手につい考察する。
(……あの腕が個性なのは明らか。でもそれだとさっきの衝撃波の説明がつかない……!?)
「ッ――!!」
考えに耽るなか、怪人は再び長く伸ばした右腕を大きく肥大させ、鞭のようにして振り下ろす。
コガネは怪人の腕の動きをぼやける視界の中で観察し、攻撃前に横に跳躍したお陰でなんとか躱わすことができたが、コガネがいた場所は近くにあった瓦礫諸共、怪人の腕が破壊していた。
(速っ……!腕を伸ばして振り回すだけじゃ説明がつかない……あいつの個性は一体――いや、考えるのは後だ。避けてるだけじゃ勝てない……!)
(あの威力の攻撃を何度も受けることはできないからまずは様子見で――!)
コガネは跳躍から着地して体制を立て直した後に両掌から多数の飛蝗が飛び出す。
飛蝗達は怪人の正面、両側面、背後の四方向に分かれ、突進して攻撃をしようと近づくが――
(……駄目か)
怪人は肥大化させた両腕を鞭のように伸ばし、全方位に無差別に振り回し、近づく飛蝗の大軍を両腕で打ち付けて迎撃した。
コガネはその光景を観察し、迎撃されることはわかっていながら飛蝗を出し続けて怪人に向かわせる。
(飛蝗の目でも腕が見えない……あの振り回しをされると近付けないけど、向こうも動けない。あれをやられるとさっきみたいにはできないな……あとはあの衝撃波のことが分かれば……)
考えを巡らせていたその時、絶えず怪人に向かわせていた飛蝗の数がだんだんと少なくなっていた。
怪人はその隙に伸縮した右の太腕をコガネに向けて振るう――!
「――!」
しかし、対応できないコガネではない。
先程と同じように振られた右側面への攻撃を飛蝗との視覚共有で確認、自分より遠くに盾を形成することで衝撃波の影響を最小限にした。
だが、最小限にしたと言っても衝撃波をゼロにはできない。
そのためコガネは両耳を塞ぎながら左に跳ぶことで衝撃波の影響をほぼゼロにした。
「っっ……よし……!」
(間に合った……それにあいつの個性もわかってきた……多分、攻撃が当たった所を振動させて衝撃波を出す個性だ。攻撃対象との間に何か物体があったとしてもその物体から衝撃波を出すことで実質防御不可の攻撃としている……厄介だな)
コガネの推測は正しい。
怪人の個性の
本来、この個性は自分の攻撃力を補助するものではなく、普通の人間の力で攻撃したとしても人を吹き飛ばす程の衝撃波は出せない。出たとしてもそよ風程度の力しかないだろう。
しかしどういうわけか怪人は腕を鞭のように伸ばし、振った遠心力によって威力高め、人を吹き飛ばす程の衝撃波を出せるようになっていた。
コガネの得意としている戦い方とは相性の悪い個性であると言える。
攻撃を対処されたと感じた怪人はさらに連続でコガネに向け、両腕を振るう。
しかし能力のカラクリがわかってきたコガネには最早通用しない。
コガネは怪人の腕より肩関節と上腕の動きを注視して攻撃を見切ることに成功し、右と上からきた怪人の腕を自分より遠い箇所で盾で受け止め、後方に跳ぶことで衝撃波を無効化した。
その後コガネは上空に足場を作り、怪人を見下ろす。
先程より落ち着いた心情が耳の痛みや眩暈さえ忘れさせた。
(肩の動きから見れば攻撃の方向は見える……とすれば勝つ方法も……リスクはあるけどこれが1番勝算が高い)
「これで終わらせる」
コガネは脚の飛蝗を纏わせ、ブーツのように形を変えることで膂力を強化、膝を大きく曲げて跳躍の準備をした。
コガネの脚からはギリギリと金属同士が擦れるような、バネが収縮するような音が鳴る。
そして自分が作った足場を力強く踏み込む――!
足場を踏み込んだとは思えないような凄まじい音と共にコガネは跳躍し、周りの火災ゾーン特有のものと思われる廃ビルの窓ガラスが全て跳躍の風圧によって割れる。
個性把握テストの50メートル走で約0.5秒という記録を叩き出した瞬発力が怪人との距離を怪人の懐まで一気に詰めた。
これまでの動きとは違うスピードに怪人も反応できず、腕を振るうことすらできない。
怪人の攻撃方法は言いかえれば『鞭』と同じであり、『鞭』はその先端が1番の速度と威力が出る都合上、至近距離にはめっぽう弱い。
コガネはそれを理解した上で怪人との距離を詰めた。
「はあっ!!」
怪人の下顎の真上に打ち付けるように蹴り上げた。
怪人は空高く打ち上がり、顎を正確に捉えたコガネの蹴りが怪人の剥き出しの脳を揺らす。
コガネは打ち上がる怪人を追跡するように再び跳躍、打ち上がる怪人より速く飛び上がった。
そのまま右脚を真上に振り上げ、自分の懐へと打ち上げられる怪人を待ち構え、怪人が自分の攻撃範囲に来たタイミングで怪人を力強く踏みつける――!
『ライジングインパクト!』
コガネが振り下ろした右脚は怪人の腹部を捉え、衝撃を内部に伝えていき、そのまま右脚を振り切って怪人を地上まで叩き落とした。
怪人が地面についたのと同時に辺りには土煙が立ち込めた。
土煙が捌けるのと同時にコガネも地上に着地すると徐々に怪人の様子が分かってくる。
「――気絶?」
コガネは飛蝗の視覚共有も使いながら地上に激突した衝撃でできたであろうクレーターの中の様子を確認する。
確かにそこには力無く地面に仰向けになっている怪人の姿があった。
「ふー……っ」
コガネは怪人の沈黙を確認すると脱力の息を吐く。
コガネにとって今回のようなダメージを受けることは初めてであり、更に個性の把握が著しく難しい相手であったことや攻撃速度に対応するために視覚を限界まで酷使したことも相まって感じる疲労感は昔からやっていた訓練のそれとは比べ物にならなかった。
(視覚の酷使と脚力を限界まで強化……目と脚の負担が大きかったな……やっぱりまだまだ身体が追いついてない。もっと鍛えないと)
周囲に敵の姿はなく、炎が燃えるような音と煙の匂いが立ちこめている。
仰向けのまま沈黙している怪人と周囲の様子から考えると、誰もが「もう危険はない」と考えるだろう。
それはコガネも同じで、身体は脱力し、周囲を飛び交っていた飛蝗も身体の中に回収して警戒を解いていた。
「え?」
そんな状態を嘲笑うかのように怪人は伸ばしたままになっていた腕の近くを警戒を解いたコガネが歩いた瞬間に動かし、コガネに巻きつけた。
「なっ、あっ――!?」
そのままコガネを抵抗する間もなく引き寄せ、仰向けのまま自分の身体に密着させて固定させた。
コガネはジタバタと暴れるが、怪人はさらに拘束力を強めるだけだった。
「ぐあっ……離せ……っ!このっ……!」
身体での抵抗ができないと分かれば当然個性で抵抗しようと試みる。
コガネが怪人に向け、棘を形成してそれを打ち込もうとしたその時だった。
「ッ!?――がっ、はあ“っ……」
突如としてコガネの身体に衝撃が走る。
攻撃には当たってない、どこから衝撃波が? そんなコガネの疑問は考える間もなく再び怪人の身体から発せられる衝撃波によって消え去っていく。
衝撃波によって肺や心臓が圧迫されることによって、心臓はほんの一瞬停止し、肺からは強制的に空気が排出される。心臓は特に重大で衝撃波が心臓を圧迫するたび、コガネから考える力を奪っていく。
「ぐッ――!?う“っ……っっ……!…………」
一回、二回、三回……と衝撃波が繰り返されるたび鼓動は停止していき、コガネの意識を奪っていく。
そしていつしか身体の抵抗がなくなり、飛蝗達も吹き飛ばされてしまったところで衝撃波は止み、コガネも白目を剥いて完全に沈黙した。
「…………」
怪人は固定していたコガネを用済みと言わんばかりにその辺りに投げつけ、少しふらつきながら立ち上がった。
怪人の個性である『振動波』は体内の振動の制御することも可能。
コガネから受けた攻撃による振動を体外に逃がし、ダメージを軽減させることで意識消失を防いだ。
更に心臓の鼓動による振動を体内で反復、増幅させることでゼロ距離で全方位に対する衝撃波を身体から発する。コガネの盾も身体が密着するほど近い距離であれば作ることができず、防ぐことが出来なかった。
怪人は倒れて動かないコガネを真っ直ぐ見つめる。
怪人はその光景を見て自分に与えてられた指示の通り、その場で
火災ゾーンの燃える炎を見つめながら伸ばした腕を元の長さに戻し、コガネを見つめているとある動きに気づいた。
「!」
倒れているコガネの指が動いた。
一瞬にも満たない僅かで、小さな動きであったものの、まだコガネに意識があるという疑念を加速させるには十分な動きであった。
そう思った怪人の動きは早く、すぐに右腕を伸ばしてコガネを上から叩き落とした。
がそれは怪人が致命的なダメージを受けるきっかけとなる。
「!?」
怪人の腕がコガネに振り下ろされる前にコガネの身体から飛蝗の大軍が飛び出す。
飛蝗達は怪人の腕に接触するたびに金属の硬い歯が怪人の腕の肉を食んでいく。飛蝗が飛び出る勢いは強く、数も多いため、振り下ろされる腕の勢いすら殺していく。
やがて怪人の腕がかち上げられ、腕を見てみると怪人は驚くような反応を示した。
「……!」
飛蝗に接触した部分は喰われたのか完全に欠損し、骨すらなくなっていた。
これだけに終わらず、飛蝗の大軍は再び怪人へとまとわりつくように向かっていく。
欠損した腕に一瞬気を取られた怪人は先程のように腕を振り回して防御する間もなく、一瞬にして飛蝗に全身を覆われ、怪人の肌すら外界に晒されることもなくなった。
飛蝗に覆われた怪人からはぶちぶちと飛蝗が血管を囓る音が鳴り、血が吹き出す。
ガサガサと不快な羽音と怪人の呻くような声がし、その光景はこの世のものとは思えない。
しばらくすると怪人は両膝を付き、肉体は崩れるようにバラバラになっていった。
その後、すぐに怪人は今までそこにいなかったのではないかと思うほど綺麗さっぱり消えた。今まで怪人が居た場所には血溜まりがあるだけで怪人の姿形もない。
飛蝗は敵がいなくなったことを認識すると、コガネの身体へと続々と戻り、顔、首、掌など布に覆われていない箇所からコガネの身体へと戻っていく。
コガネの身体は依然、怪人から受けたダメージにより致命的なダメージを負ったままである。
ありのままの本能に従う飛蝗は肉体の危険に生存本能を加速させる。
「――ゔっ!?あ"ああっ――!!!」
意識の消失から回復させるため飛蝗はコガネの体内で蠕動を始め、肉に食い込み、骨を軋らせる。
痛みなどという表現すら生温い。身体の内側から別の生き物に侵蝕され、略奪されていく。
生きながらに貪り喰われる激痛が恐怖とおぞましさによって倍増される。
「あ"あっ!!ゔゔゔぅぅ!!!」
生存するための行為が逆にコガネを死へと近付ける。
飛蝗には治療のための知能など存在しない。
あるのはただ悪意ある敵を、ヴィランを殺すための並々ならぬ意志である。
どこから学んだか分からないその感情は飛蝗自身では制御できず、一向に動かない本体を動かすために飛蝗たちは痺れを切らしたのか次なる行動に移った。
――――変身。
「あ――」
1匹の飛蝗が脊椎を齧った。
すると再び飛蝗はコガネの身体から外界へと出現した。
次に飛蝗はコガネの周りに飛来し、コガネの身体を蝕むように纏わりつき、形を鎧のように変化させる。
全身が鈍い白銀に輝く金属質な見た目となり、頭部や肩などが鋭利な形状に変化した。全身を覆うのは、鋭角的なラインを強調した銀色の強化装甲、胸部と四肢には蛍光イエローのラインが走り、冷たい銀の装甲に生体的なエネルギーを宿しているかのような印象を与える。
頭部は昆虫を思わせる複眼型のマスク。鮮やかな黄緑色の眼が無機質な表情の奥で鋭く光り、感情を排した観察者のような視線を放つ。
目の部分は蛍光カラーの装甲に覆われ、コガネが飛蝗と視覚共有を行うときと同じように色が変化していた。
そうして飛蝗はコガネの全身を覆い、形状を変化させ、鎧を纏うかのように姿が変化した。
「…………………………」
鎧を纏ったコガネは先程のダメージが嘘のように静かに立ち上がり、頭部を動かして虚空を見つめる。
いや、目線の先は
コガネはギリギリと脚にエネルギーを収縮させて、跳躍した。火災ゾーンの壁を突き破った跳躍はコガネがしていた跳躍の速度と高さを上回り、2秒程時間が経ったころには相澤とヴィランのいる広場に立ち入った。
「「「!?」」」
広場にいる、相澤、手を纏った痩せ型のヴィラン、生徒たちをワープさせたヴィラン、先程コガネが戦っていた怪人と同系統と思わしき、脳がむき出しの大男のヴィランがいた。
その他にも緑谷、蛙吹、峰田のクラスメイト3人も居たがコガネは意に介さない様子で視線から外した。
「……なんだコイツ」
手を纏ったヴィランはコガネを見て呟く。
コガネはそのヴィランからも視線を外し、脳がむき出しの大男の怪人を見る。
そこには大男の怪人に覆い被され、頭を地面に叩きつけられ、腕を枝のように反対方向にへし折られている相澤の姿があった。
「脳無、その銀色のやつをやれ!」
手を纏ったヴィランは脳無と呼ばれた大男の怪人に指示を出し、コガネを攻撃するように指示を出す。
脳無は従順に指示に従い、コガネを攻撃しようと一瞬にしてコガネの前まで移動、すぐさまその剛腕で殴りかかった。
ガァン!!
金槌で金属を叩いたような音が辺りに響き渡る。
コガネは飛蝗の形を変えて形成した盾でその殴打を防いだ。
「――――」
脳無とコガネの睨み合いが続く。
第二の怪人との戦いがコガネの意識外で行われようとしていた。
遅れました。
ヒロアカのアニメで泣いてる間にこんなに時間が経っているとは……。
さて、後書きらしく補足をしていきます。
原作から追加したもう1人の脳無についての個性の詳細
①振動波
作中で説明がある通りです。強い個性ですが振動を発生させるための打撃が強くないと振動波も強くならないので単体での活躍は難しいと思います。
②伸縮化
両腕を自由に伸ばしたり縮めたりできます。最大で50メートルまで伸びて、鞭のようにすることで手先はマッハを超える速度で出せます。
③筋力増強
原作でも使われてた印象がある個性です。単純に筋力が上がります。使うと腕が太くなります。
以上が脳無の個性です。
振動波を活かすために他二つの個性を入れたって感じです。個性が増えると活かしきれないので今回は3つまでにします。
コガネの変身について
リメイク前は神野事件まで引っ張りましたが今回は早めに出します。一応仮面ライダーのクロスオーバーなので変身はしておきます。神野事件までにもう一度変身するかは怪しいです。
あと今回はコガネの性格上の口数の少なさと脳無が喋らないことで地の文の量が多くなってしまいました。
それと進行上的に脳無のことを怪人って書くのが違和感あると思いますが次回からはちゃんと脳無にします。
というわけで長くなりましたが今回は以上です。
次回は早めに投稿できるように頑張ります。