十話
コガネと怪人、脳無との戦いが始まった瞬間、両者は激しくぶつかり合う。
脳無は自らの剛腕で殴りかかり、コガネは盾を形成してそれを防ぐ。
脳無とコガネの盾がぶつかり合うたびに周囲には衝撃に伴う突風が吹き荒れ、手を纏うヴィランや緑谷たちでさえ近付くことができない。
「み、緑谷ぁぁ!!な、なんだよアレぇぇぇ!!?」
(拳を振るっただけでこの風圧……っ!まさかオールマイト並のパワーなんじゃ……!)
黒いモヤのヴィランにワープさせられた先で見事ヴィランを制圧した緑谷、峰田、蛙吹の3人は広場で1人で戦っていた相澤を助けるため、水難ゾーンから繋がる広場の水場から様子を確認していた。
脳無によって相澤の腕が反対方向にへし折られ、組み伏せられている姿を見て絶望していた矢先、銀色の装甲を纏ったコガネが乱入したことに動揺を隠せない様子だった。
(あのバッタは……もしかしてコガネちゃん……?)
緑谷と峰田は装甲を纏ったコガネの正体に気づいてない様子だったが蛙吹だけはそれに気づきかけていた。
「…………」
「…………」
両者は依然喋ることもなく、一方は本能と、もう一方は命令に盲目的に従い、闘争を続ける。
コガネの盾は硬く、脳無の剛腕から放たれる凄まじい一撃でも攻撃を通すことは不可能であり、このまま打ち込んでいても脳無が勝つことはできないだろう。
しかし、一見有利に見えるコガネも脳無が打ち込むたびに発生する風圧によって飛蝗たちが吹き飛ばされてしまい、攻撃しようにもできない状態だった。
「…………」
脳無が連続でコガネに攻撃を仕掛け、コガネはそれを防ぐ。
そのような時間がずっと続いてしまうのではないかと考えてしまう。
しかし、片方は冷静に勝ち筋を見つけだそうとしていた。
コガネが装着しているマスクのお陰で視覚共有するまでもなく、『複眼』の使用が可能となっており、広い視野を獲得している。
これにより、通常より強化された動体視力は脳無の
脳無は右腕と左腕を交互に使ってコガネに打ち込み、頭部と胸部を繰り返して攻撃している。
飛蝗はこの事実は
右腕と左腕によって繰り返される攻撃の瞬間、正確には盾に拳が当たる瞬間を狙う。
凄まじい速度と威力で放たれる拳の連撃、飛蝗はその攻撃のタイミングを測り、盾を解除した。
一見、命取りとも思える危険な行動。しかし盾の破壊に意識が向いていた脳無は攻撃を当てるべき盾が無くなったことで体勢を崩した。
「ッ――!」
その一瞬を、飛蝗は見逃さない。
体勢が崩れ、無防備に倒れる脳無の腹部に体重移動も含めた前蹴りを行う。
体勢が崩れ、カウンター気味に直撃した前蹴りの威力は凄まじく、常人であれば一瞬で意識が落ちるような一撃だったが、脳無は違った。
コガネの蹴りが脳無には効いておらず、逆に距離が詰まったことをいい事にコガネの頭部に殴り掛かろうとする。
――が、しかしこれはコガネには通用しない。
事前に脳無の動きを
今回は頭部のみであったが予測がある状態では対処は容易だった。いつものように盾を形成してガードし、2人は相手の様子を伺うように動きが止まった。
ここまでの一連の動きは速く、手を纏ったヴィランや緑谷たちも目で追えない程で2人が動きを止めたことでようやく状況を整理することができた。
「っは、ハハハハ……!『ショック吸収』だよ!そいつに打撃は効かない、ダメージを与えたいなら肉をゆうっくり抉るとかかな。させてくれるとは思わねぇけどな」
手を纏ったヴィランの言う通り、脳無は痛みに悶える様子も、蹴りの衝撃によって倒れることもなく、攻撃を防いでいる盾を退かすつもりなのか力を強めるばかりだ。脳無の腹部に命中したコガネの脚もいつの間にか押し返されそうになっていた。
「というか誰だよ、お前。生徒か?」
「…………」
コガネは答えない。
コガネの肉体は既に制御を失い、会話をすることもできない。そんなコガネに自分が無視されたと感じたのか、自慢の脳無が通用していないことに苛立ちを隠せないのか、ガリガリと首筋を掻きむしった。
「チッ……ダンマリかよ。脳無!さっさとこいつを殺せ!」
脳無はヴィランの指示に従い、コガネに向かう。
大柄な体格に似合わず脳無は素早く、コガネとの距離を一瞬で詰めた。更に今度はコガネの正面ではなく、背後から。頭部への殴打をしようと試みた。
一方、コガネはその場から一歩も動かなかった。
なぜなら防げるから。先程の打ち合いで脳無の攻撃では盾を破壊できないことを
「は?」
脳無の腹部に深々と突き刺さる棘。
コガネに攻撃を防ぐとともに脳無の身体に棘を打ち込んだ。それも火災ゾーンで最初に会ったヴィランの集団に打ち込んだ先端を丸くした殺傷力をさげた棘ではなく、棘の先端を可能な限り鋭利にした殺傷力を上げた棘である。
いくら『ショック吸収』があるとはいえ、先端が鋭利な棘の一撃はダメージを消すことはできず、身体を貫通してしまった。
脳無に痛覚はない。しかし、腹部に深々と突き刺さる棘は脳無の動きを抑制し、抵抗する力を削いでいく。
「ッさっさとそいつを抜け!」
「…………!」
腹部に刺さった棘を抜きもせず、まともに動かない脳無に痺れを切らしたのか手を纏うヴィランが叫ぶ。
脳無も棘を抜こうとしてもがいたり、棘をへし折ろうと打撃を繰り返したりするが棘は固定されて動かず、棘は形ひとつ変わらない。
抵抗する脳無に対し、コガネ及び飛蝗は次なる一手。
突如としてコガネに纏っていた装甲が飛蝗に戻り、剥がれ、宙を舞う。
「ぅ、あ……」
飛蝗の羽音が辺りに響く中、飛蝗の大軍の隙間からコガネの血塗れとなっている顔が見えた。
そして飛蝗の大軍はコガネの右隣に集まると、コガネが先程まで纏っていた鎧と同じ姿に形を変えた。
この中にはコガネはいないことを考えると、この鎧は中身のない
「ッああああ”っ!!」
更にコガネの身体からは飛蝗が放出され続け、脳無の正面の斜め上の位置に集まると、回転する底のない円錐を形成した。その光景はまるで地盤を削り取るドリルを想起させる。
分身はそのまま跳躍すると、姿勢を変え、落下する勢いを利用した飛び蹴りを回転する円錐の頂点に向けて放つ。
円錐は飛び蹴りの衝撃を受け、回転したまま脳無のいる地点に目掛けて落下する。
「ッ!」
狙いは脳無の頭部、確実に命を削り取るためドリルは向かう。
脳無も自分の命の危険に抵抗しないわけにはいかず、脳無は両腕を自分の顔の前で交差させ、防御体勢をとった。
飛蝗もそんな脳無の動きを認識していたが、構わないと言わんばかりに突っ込む――!
「――!」
防御体勢をとったおかげで脳無は即死を防ぐ。
しかしそれも時間の問題で脳無の腕からはガリガリと骨が削られる音が、脳無の腕をドリルが削り取っている事を示している。
この事実はしばらくすれば脳無の両腕を貫通して頭部に攻撃が届くことが簡単に予測出来る。
脳無の周りには血が飛び散り、多量の出血をしている。
加えて棘が刺さったままの腹部からの出血もあるため、脳無の限界が近づいていた。
分身が飛び蹴りの勢いで押し進める円錐のドリルは脳無の腕を右腕、左腕と順に貫通していき、脳無の頭部に届く――
その時だった。
ドリルが脳無の頭部の直撃する直前、脳無は
すると狙った地点からドリルの軌道は外れてしまい、ドリルの命中箇所は頭部から右側の首元及び右肩に変わる。
即死を避ける決死の行動ではあったものの、先程とは違い防御すら取れず無防備な右肩に突き刺さる飛び蹴りの勢いを乗せたドリルは、脳無の身体を一瞬で削り取り、脳無の右肩、右胸部、右腕、左腕を消し飛ばす。
脳無の身体の一部を消し飛ばした分身は飛び蹴りの勢いそのまま地面に接地する前に霧散していった。
コガネは分身を形成したことで自らを纏っていた装甲が飛蝗へと戻り、身体の中に戻っていった。
「ぐ……ぅ……がはっ」
しかし、一度目の戦闘でのダメージは消えている訳ではなく、更に身体の中で暴れる飛蝗が原因で身体の内部にも外部にも深刻なダメージを負っていた。身体は動かず、四つ這いになって顔を脳無に向けることがやっとな状態で、戦闘を継続するのは最早不可能であった。
だがそれは脳無も同じである。
右上肢部分と胸部を消し飛ばされた脳無は大量の出血が見られた。脳無は大柄とはいえ、もう動くことすらままならないような身体の状態でもあった。
その証拠に脳無はコガネの分身の攻撃を受けた後、立つこともできず膝から崩れ落ち、そのまま俯いたまま動かない。
しかしそれを良ししない者が1人。
「脳無!!」
先程から脳無のことを丁寧に自慢するように話していた手を纏ったヴィランが叫ぶ。
「さっさと治せ!」
「――!」
その言葉をきっかけに脳無が動く。
損傷した右胸部から骨が
その場にいた緑谷、峰田、蛙吹の3人は驚愕の反応を浮かべた。
「「「!?」」」
「これは『超再生』だな、こいつはその程度じゃ止まらないぞ」
「やれ、今度こそそいつを殺せ!」
「――――!!」
更に脳無は雄叫びを上げながらコガネに飛びかかる――!
「あ?」
――その時、脳無に異変が起こる。
脳無が突如、脚を止めてその場で立ち止まった。
「どうした、何してる脳無!さっさとやれ!」
棒立ちする脳無の身体は小刻みに震え、明らかに異常があることが分かる。
ヴィランはまさか怖気づいたのではないかと考えるがすぐにその考えを捨て去った。
脳無という物言わぬ人形にそのような感情はない。感情そのものがない者に恐怖を感じることなどできない。あのような死に損ないに恐怖する要素など――
「――――!!」
その時、脳無の状態は更に変化した。
脳無は全身を掻きむしりながら悶え苦しみだした。しばらくすると掻きむしった所から血が吹き出し、皮膚の下の組織が見えたところでこの場にいる殆どが驚愕する光景があった。
ある者は悍ましさから吐き気を催し、ある者は恐怖した。凶悪なヴィランですら戦慄する光景とは一体どんなものなのかなんて想像すらできないが、自然と目に映るのは――
脳無の皮膚を突き破って真っ赤に染まる飛蝗だった。
察するにこの飛蝗は脳無の身体を内部から食い荒らし、体外まで出てきたようだった。更にそれは一匹どころの話ではなく、脳無の胸部、背部、首などさまざまな部位から束になって飛蝗が真っ赤に染まって飛び出す。
緑谷、峰田、蛙吹の3人はあまりの光景に足を動かせず、声も出ない。
脳無の持つ『超再生』ですら、継続的に破壊され続ける内部組織を完全に再生することは不可能で、飛蝗は更に内部を食い荒らし、脊髄まで到達すると、首の辺りまで脊髄を食い荒らした。
その影響で脳無の四肢は完全に動かなくなり、力無くその場に倒れた。
「倒した……?」
近くで見ていた緑谷が思わず呟く。
コガネも意識を失いそうになるが、脳無が動かなくなることを見つめながら気力だけで意識を保っていた。
「フーーーッ……フーーーッ……!ぐっ、ぅ……ゴホッ!おぇ……!」
(やばい……意識が……身体の外も中も痛いし……身体が言うことを聞かない……早く、飛蝗の制御を……)
身体中の痛みと吐き気がコガネを襲う。
「は?」
ヴィランは露骨にイライラしながら、首を掻きむしる。
「何やられてるあの脳無……!対平和の象徴用の脳無なのに……なんでガキ1人にやられて……!」
「なんで、思い通りにいかない……!」
「死柄木弔」
突如虚空から黒いモヤが現れる。
その正体は先程、生徒達をワープさせたヴィランで黒霧と呼ばれていたヴィランだった。
黒霧は手を纏ったヴィラン、死柄木弔の横に現れるとヒソヒソと死柄木弔に向けて小声で話す。
「ここは引きましょう」
「は?」
「生徒1人に逃げられました。ここに救援が来るのも時間の問題です。対平和の象徴である脳無が敗れた今、ここでオールマイトと戦っても我々に勝ち目はありません」
「それにあの生徒は
「チッ……もういい黙れ、黒霧。お前がワープじゃなかったら壊してたところだったぜ……あー、クソクソクソ……ゲームオーバーだ。帰るぞ、黒霧」
そう言いながら死柄木は黒霧の作るワープゲートへと歩いていく。
血を流しながら死柄木を見つめるコガネに振り返って小さく呟いた。
「あいつが
「……?」
(何を言って……)
「まあそれは先生のセリフか」
そう言うと黒霧のワープゲートの中に姿を消し、ワープゲートは小さくなっていき、やがて消えた。
広場に静寂が流れる。
広場には夥しい量の血と倒れたまま動かない脳無と相澤がいた。双方に意識はなく、動く気配もなかった。
一方コガネは意識はあるものの、怪我の状態から考えると一刻も早い治療が必要となるだろう。
「コガネちゃん!!」
近くにいる緑谷、峰田、蛙吹は当然救助に動いた。
蛙吹以外の2人は相澤の方へと向かい、蛙吹はコガネの方へ来た。
「大丈夫!?酷い怪我……すぐに保健室にいきましょう」
蛙吹は怪我の状態を確認、この場での処置は不可能と判断し、校舎にある保健室に向かおうとする。
が、コガネは状態が悪いせいなのか何も答えず、ただ右手で自分の胸を握り締めるだけだ。
「待ってて今お茶子ちゃんを呼んでくるから」
蛙吹が入り口付近にいる麗日を呼びに行こうとしたその時だった。
「……げ、ろ」
「え?」
「にげ、ろ……」
コガネは最後の力を振り絞り、蛙吹を手で突き飛ばす。
その直後、コガネの身体から棘が飛び出した。
飛蝗は最早、他者を自身に害を与えるものとしか認識していない。即ち近付くものがヴィランだろうと、クラスメイトだろうと攻撃の対象であることには変わりはない。
棘は飛蝗へと戻り、散回したかと思うと徐々に嵐のように広がってく。その行軍は最早凶器で近付くもの全てを塵と化すだろう。
それが蛙吹に向かおうとしたその時――、
『デラウェア・スマッシュ!!!』
突如発生した突風が飛蝗の大軍を吹き飛ばし、蛙吹が塵になることはなかった。
そんな突風を出せるのは雄英高校において現時点では1人しかいないだろう。
「もう大丈夫、私がきた!!」
平和の象徴、No.1ヒーロー、オールマイト。
コガネの目標とも言える存在が遅れて登場した。
ゼロワンREAL TIMEネタ出せたの嬉しい。
クリムゾンスマッシュもどきもできたから満足です。
というか今回の内容的に残酷な描写ってタグ入れたほうがいいんですかね
USJ編がちょっと長いかもしれませんが多分次で終わります