十二話
博士は1人、病院内の休憩室にて昔を思い出していた。
『博士』、本名「桐生朔斗」37歳。
古くから彼を見てきたものはこぞって彼を天才と持て囃した。運動も勉学もそつなくこなす彼は雄英高校サポート科、某医科大学を主席で卒業、セントラル病院で医者として3年勤務していたが、突然退職。そのあとは公安委員会の個性研究者として個性の研究を続けていた。
彼はどの環境においても優秀な成績を残し、セントラル病院を退職した後も緊急時においては特別に活動することを許されている。
公安委員会で研究者をしていたある日、突然彼の元に個性研究の依頼が届いた。
対象の名前は『虫明コガネ』。なんでもこの少女は一夜にして街を更地にしたというのだ。
なんとも信じ難い。
そう、思っていた。
彼女の個性と街が消えた時の断片的な映像を見るまでは。
――なんだ、この……個性は――!
逸脱だ……!現在確認されている個性とはまるで違う……!破壊力、防御力、自由度……この個性があれば私の夢を――
だが私にもう一度夢をみせてくれた彼女は重症で床に伏している。
あの彼女が、ありえない。そもそも私は彼女を雄英に入れるなどしたくなかったのだ。
彼女の夢は理解していた。ただヒーローになるだけなら
彼女の個性では悪目立ちするだけだというのに……それでも雄英だから信じて送り出したというのに……あの状態なら全治3ヶ月、復帰を考えるなら5ヶ月といったところか……進級すら怪しいではないか全く……!
「ハァ……どうしたものか……」
〈ピリリリ!!!〉
突如、職員全員が持っている携帯電話が鳴り響く。
「桐生です」
「先生!虫明さんが――!」
◇
「コガネ君!」
いつもの声とは似合わない大声を出して病室に踏み入る。
「……なに?バタバタうるさいよ、博士……」
起きている。
自力で起き上がり、座位を維持できている。
「ありえない……!あの状態で――なにがあった!?」
「その……座位までは取っていいとのことでしたので……リハビリのために座らせたら突然自力で立ち上がってしまいました。すみません……止め切ることができず……」
「意識もバイタルも正常……どこか痛むところは?」
「無いってば、さっきから何回も聞かれたからいい加減聞き飽きた、というかいつ退院できるの?もう全快したでしょ」
博士の表情とは裏腹にコガネはケロッとした表情で受け応える。
目覚めた直後の様子が嘘のようだったようにはっきりとした受け応えに博士も動揺を隠せない。
「すぐに検査を――ああ、そうだったできないんだったな。うーん……とりあえず今日はこのままだ。明日の朝まで容態が変わらなかったら病棟を移して様子を見る」
「はぁ?大丈夫だってば」
「恨むならレントゲンができない自分を恨みたまえ」
コガネは身体の内部に金属性の飛蝗がいる関係上、強力な磁力を使うMRIは行えず、CTも身体より飛蝗の影が映されるため、使えない。
医者殺しの肉体とも言える。
次にコガネは「これは?」と点滴を指指す。
「点滴もダメだ。外すならもう少し検査してからだ。筋力や関節可動域、嚥下機能、全ての機能に問題がないか評価させてもらう。長い検査になると思うがしっかり協力すること」
コガネは明らかに嫌そうな顔をするものの、割り切ったのか諦めたように息を漏らした。
そんなコガネを気遣ったのか博士は言葉を投げかけた。
「……問題がないようなら退院はできるだけ早くするようにしておくよ」
「――!」
「明らかに表情が明るくなったね……まあ、リハビリ頑張りたまえよ」
「ふーん……今日は金曜日……2日で抜け出すから覚悟しておいて」
「抜け出すって、君ね……」
◇
そこからコガネの検査とリハビリが始まった。
幸い身体機能の低下は全くなく、リハビリも最早日々の個性訓練と行う内容はほぼ変わらなかった。そんな病院内ながら普段と変わらない生活を送った。
そんな生活を続け、気づけば目覚めてから2日が経過し、その折に博士は突然コガネの病室を訪れた。
「退院だ」
「え?」
「なんだ、その反応は予想外だな、宣言通り2日で退院だ。おめでとう」
「……いや急すぎ。こういうのって1週間くらい入院するものじゃないの?……それにレントゲンできないからって難しそうな反応してたでしょ」
「レントゲンなどなくても身体を見る方法はいくらでもある、この個性社会においてはね」
『個性』により、様々な身体的特徴を持つものが増えた現在、コガネのように個性が理由で検査ができない人間などいくらでもいる。そのため、病院などの施設ではそういった患者でも検査できる個性を持つ人間がいる。
目覚めた直後はすでに退勤した後だったため、検査できなかったがコガネもそんな人たちの協力を経て異常なしと判断されたのだ。
「いや〜それにしてもあれだけの怪我を負ってまさか実質2日で病前と変わらない程になるとはねぇ……本来であればもっと時間がかかる予定だったというのに……君はいつも僕の予想を裏切る」
博士もコガネの超回復に対し、お手上げと言うように両手を挙げて言う。
コガネは博士の話を聞いて納得したような素振りを見せるがすぐにあることに気がついた。
「――そういえば、気になってたけど今回の怪我が早く治った理由って何?個性のせい?」
「多分ね、断言はできないけど。しかしこれまで君の個性を見てきたけど、こんなことは初めてだよ。個性抑制剤に回復効果を高める作用も含んでいたけどそんな大きな効果があるものでもないし……」
「あ、というか
「え〜、だって君個性抑制剤のこと言ってたら『こんなもの必要ない』とか言って逆に着けなさそうだったんだもの〜」
「そんなこと――は…………ん、だからって十字架はないでしょ。私は宗教興味ない」
博士はわざとらしく、馬鹿にしているとも取れるような言い方でコガネの真似をしながら説明した。コガネも思い当たる節が無いわけではなかったのか、目を逸らしながら話を別の方向へと変えた。
「おしゃれだろう?コスチュームの神父服とも実にマッチしていて、注射器としての機能を両立させるのには苦労したのだよ?」
「どうでもいいから。そもそもコスチュームもなんで神父服なの?」
「私の趣味だ、良いだろう?」
「良くないから」
博士の言動にコガネのツッコミが入る。
ヒーローのコスチュームというのは大体のものがド派手なのが多い中、色も装飾品も少ない神父服というのは周りから見れば異端であると言えるだろう。
コガネが考えていたボディスーツも同じようなものではあったがあれは飛蝗を纏ってスーツの代わりにする予定だったため、神父服とは前提が違う。
「分かった分かった、じゃあ今から作り直すから待っていたまえ」
「今からって……ここで描くつもり?」
博士はポケットからメモ帳とペンを取り出した。
すると目にも止まらぬ速さで手を動かし、ガリガリと音をたてながら3分もたたないうちに描ききった。
「まあまあ、待っていたまえ。では一つ目は〜……」
「――メイド服」
「却下」
博士はメモ帳をコガネに見せながら淡々と答えた。
博士が見せたメモ帳に書かれていたのはフリフリのメイド服を着たコガネであった。
3分にも満たない時間で書かれたとは思えないほど精巧なその絵はメイド服の柔らかい質感やフリル、コガネが普段絶対しないような笑顔などが細かく描かれていた。
だがそんな博士の提案をコガネは食い気味に却下した。
「どうしてだい!?素材には耐火や耐刃、防水などいろんな機能が搭載される予定だと言うのに!?」
「機能とかどうでもいいの、見た目最悪」
「私の趣味だ良いだ――「良くない」む……」
「見た目が悪い訳ではないだろう?ほら、普段着ることのない服だと……えーと、ギャップ萌えというものが狙える」
「意味知らないでしょ。それに……私なんかじゃ似合わないし」
博士は誤魔化すように話した後、両手をパンと叩いて話を仕切り直した。
「ま、コスチュームの問題はまた考えるようにしよう。キミの個性のこともあるしね」
「……どういうこと?」
「あれ、無自覚かい?
――キミ、個性使うこと、怖いと思ってるだろう?」
「ッ何を――」
「雄英の校長から聞いた。脳無に敗北した後に飛蝗が自立行動。身体の自由を奪われた後にもう一体の脳無を蹂躙、極め付けは身体の内部を食い荒らされる……キミが個性の使用に恐怖を感じるのも無理はない。それにリハビリでも頑なに個性は使わなかったようだし……推測は容易い」
「ッ……!」
図星ではあった。
今まで長く個性を使ってきたがあんな風に暴走したことは街を消し去ったあの夜だけで、2度と起きないように制御してきたつもりだった。
だが、実際に起こってしまった以上、考えない訳にはいかなくなった。
「私は……!」
あの時意識はなかったが、記憶として何があったかはわかっている。飛蝗に身体の自由を奪われ、その場にいる全てを蹂躙しそうになったことを。
「……違う……個性を使うのが怖いんじゃ、ない」
でもそれ以上にコガネを恐怖させるのは――
「脳無を倒した後に……助けようとしてくれた蛙吹を、私は傷つけるところだった。私はどうなってもいい。でも……私のせいで誰かが傷付くのは、嫌だ」
ぽつりぽつりとコガネは話す。
自分以外の誰かが傷つくことは、コガネのトラウマを刺激し、萎縮を招いた。
「……キミらしくない、というのが正直な感想だ」
「だからちょっとしたアドバイスをあげよう」
博士はいつもより少し低い声で話し出した。
「戦え、戦いなさい、虫明コガネ」
「!」
今まで、博士とは長い付き合いだったが呼び捨てにされるのは初めてだった。
少し低い声で言い聞かせるように博士は言った。
「そんなことに恐怖して個性が使えないようではヒーローにはなれない。できないことはやろうと思わないと改善しない。
……恐怖を捨てろとは言わない。だが、逃げていても何も変わらない」
「ッ……!」
「恐怖と戦い続けろ、ヒーローとはヴィランと戦い続けるもの。戦わなければ生き残れない」
確かに……そうだ。
こんなところで止まっていてはオールマイトはおろかヒーローにすら――!
でも――
(博士に言われるとか、なんかムカつく)
「博士に言われるとかなんかムカつく」
「あれー!?今僕すごく良いこと言ったつもりなんだけどなぁー!心の声がダダ漏れだよ!?」
そんな、心の声が漏れたことに対する博士の不満を断ち切るように、いつものようにコガネは話す。
「言われなくても頑張るつもり。それに――恐怖に負けるつもりなんてないから」
コガネはいつものように負けず嫌いな部分を前面に出し、自分の感情にすら負けないようにしている。
「お……!くく……相変わらずだねぇ」
そんなコガネの様子がいつもと変わらないものになったことが安心したのか博士は小さく笑いながら話した。
「キミはそれでいい。暴走のことなど考えるな、対策も後始末も全部僕たち大人が引き受ける。だからキミは安心して個性を使いたまえ」
「コスチュームのこともね、今アイデアが浮かんだ」
「!」
「キミの個性に合わせ、最善のコスチュームを作ってあげよう、完成はいつになるか分からないがね」
博士は最初より明るい表情でそう答えた。
コガネもその表情を見てか、コスチュームが作り直されることが嬉しかったのか同じように少しだけ明るい表情に変化した。
「ん、期待しとく」
「――よし、まあそういうことだから、さっさと身支度をして退院だ!ほらほら、ここの筋トレ器具をさっさとしまいたまえ!」
「あっ、勝手に触らないで!」
◇
そんなこんなでコガネは無事退院を果たし、USJ襲撃から2日で学校に復帰した。
USJ襲撃は木曜日のことで翌日金曜日は臨時休校となり、土日を挟んで月曜日。
怪我がなかった生徒たちも久しぶりの登校となった。
「虫明さん…大丈夫かな……今日の朝も会わなかったし……」
「ええ……コガネちゃん、あんな怪我で戦ってたなんて……」
生徒たちの心配は勿論、USJ襲撃で唯一負傷、そして意識を失う程の重症を受けた虫明コガネのことであった。
「俺はあんとき何にも出来なかったからな……」
「まあまあ、切島!そんなに悲観しててもしょうがないって!それに命に別条はないって言ってたんだから大丈夫だって!」
「でもよォ……広場に行ったらもう全部終わってて血だらけの虫明がいるだけなんてよ……やるせねぇじゃねぇかよ……」
熱血漢であり、言動からヒーロー根性が感じられる切島が悲観を漏らす。そんな切島を励ます芦戸は切島の背中をバシバシと叩いた。
「そうだぞ切島。それに意外とさらっと来るんじゃね?意外と怪我とかものともしなそうじゃん」
瀬呂がそう言うと周りの生徒たちから否定の声が流れる。
「いやいや、流石にいくら虫明さんとは言え今日と明日くらいは休むんとちゃうかなぁ」
麗日がそう言うと、先程コガネがさらっと来るのではないかと言っていた瀬呂も納得したように頷いた。
「……確かにな!意識失うくらい怪我してたのに1日2日で学校に来れるわけないか!」
「そうだぜ、瀬呂。流石に……」
それに同意するように上鳴も同調する。ここにいる誰もが今日はコガネが休むだろうと考えていた。
そして、予鈴がなる直前、教室のドアが開かれ、ある人物がしれっと教室へと入ってきた。
「………………え、なに」
肩から腰にかけて流れ落ちる淡い銀髪。光の加減で微かに黄緑を帯びる特徴的な髪と静かな黄緑色の瞳を持つ人物を見た瞬間、教室内は驚愕に包まれた。
「「「虫明(さん)復帰はええええ!!!」」」
「なんなの、うるさい……」
「いやいや!おまっ、言っちゃ悪りぃけどあの怪我!1日2日で治るもんじゃねぇだろ!」
「……私は治った。それだけ」
「えぇー……」
「暴論だなオイ……」
コガネは驚くクラスメイト達を気にもせず、淡々と答える。
「ま、まあまあ退院早くて良かったよ、虫明さん!ね、梅雨ちゃん!」
「ええ……!あの時はどうなるかと思ったのよ……!」
蛙吹梅雨は少し目に涙を浮かべながら言った。
さすがのコガネもこれには淡々と答えはせず、蛙吹に向き合って答えた。
「……あ、蛙吹。その、ごめん。助けようとしてくれたのに……傷付けるところだった」
「いいのよ、オールマイトが助けてくれたもの。それにこういう時は『ごめん』じゃなくて『ありがとう』って言ってくれた方が嬉しいわ」
「っ……あり、がとう……蛙吹、助けようとしてくれて……」
「ふふ、梅雨ちゃんと呼んで」
「ありがとう……梅雨、ちゃん……」
コガネは少し照れ臭さそうに言った。
前は難なく言えていた呼び方も、感謝の言葉が前にあるだけでなんとなく言いにくかった。
そんな中、予鈴が鳴り響き、身体を包帯でぐるぐる巻きにされ、ミイラのようになっている男が教室に入ってきた。
「予鈴が鳴ったら席に着け」
そう相澤が言うと生徒たちは即座に自分の席に戻り、話を聞ける体勢を作った。
反射的にそうなってしまったものの、全員がその光景に驚く。
「「「相澤先生も復帰早えええ!!!!」」」
教室に入ってきたのはコガネと同じくUSJで怪我を負い、入院していた相澤だった。包帯でぐるぐる巻きにされて痛々しい姿ではあるものの、その姿は健在であった。
「プロすぎる……!」
「先生!無事だったのですね!」
「無事言うんかなあれ……?」
生徒たちに驚きの声が上がる中、少しふらつきながら相澤は教壇へと足を運んだ。
「俺の安否はどうでもいい。それよりまだ戦いは終わってねぇ」
「雄英体育祭が迫ってる!」
「「「クソ学校っぽいのきたああああ!!!」」」
戦いと聞き、身構えていた生徒たちの身体から歓喜の声が一気に溢れ出る。
雄英体育祭。
全国放送で特番を組まれ、平均視聴率は二十パーセントを越える、国民的な一大イベント。体育祭とは謳っていても、スポーツというものが昨今さほど流行りではない。
理由は個性そのものにある。
例えば、最強のパワーの個性を持つ格闘技の選手がいたとする。個性を制限されたらどうなるだろうか。
素の力が一番強い者が勝つ。
要するに異形型の個性の人間が一番強い環境になってしまったのである。
当然、そんな物はエンタメとして全く盛り上がらない。個々の努力や技術よりも個性が強ければ勝てるような世界。スポーツは最早必然の流れで衰えてしまったのである。
しかし、雄英体育祭は別だった。高校の体育祭では破格である視聴率20%代を叩き出し、旧時代のオリンピックに変わるスポーツの催しとして現在もっとも注目されているのである。
「当然、トップヒーローも見るイベントだ、スカウト目的でな。当然トップヒーローの事務所に入ったほうが経験値も話題性も高くなる。時間は有限プロに見込まれればその場で将来が決まるわけだ。」
「年に一回、合計三回のチャンス。ヒーローを志すなら絶対外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな!」
「「「はい!!!」」」
「虫明、放課後職員室に来い」
「?はい」
相澤が話を締めくくると、生徒たちは各々様々な反応を見せた。
緊張を隠せない者、自分を奮い立たせる者、イベントに歓喜する者など体育祭に対して生徒たちは思う所があるようで麗日はうららかではない様子で闘志を隠せない様子であった。
◇
その日の放課後、相澤に言われた通り職員室に赴いた。
USJ襲撃の後のことであったため、夕日に染まる廊下を歩いている時もコガネには妙な緊張感があった。
「来たか。それじゃあ合理的に単刀直入に聞くぞ、USJでの出来事、どこまで覚えていてどこまでがお前の意思だ?」
両腕がギブスで固定され、顔すら包帯に巻かれている相澤はコガネの対面の椅子に座ると、コガネに直球な質問を投げかけた。
コガネは相澤の合理的な会話のスピード感に少し翻弄されつつも、口を開いた。
「……記憶に関しては、何があったのかと自分が何をしたのかも覚えては、います」
「ですが、火災ゾーンで脳無と呼ばれていた怪人にやられた後、身体の制御を飛蝗、いえ個性に奪われました」
「つまり、えっと……個性が暴走中に意識はありましたが、身体は全く動かず、暴走を自分で抑えることもできませんでした。あのままオールマイトが来なかったら辺り一体を破壊し尽くしていたと思います」
個性が暴走し、戦闘を続ける中コガネの意識は確かにあった。しかしそれは同時に飛蝗に身体の内部を食い荒らされる痛みを直接感じていたことになる。
博士にも暴走中に意識があることは伝えていたが、自身が感じた痛みなどは一切伝えていない。
「個性の暴走か……原因はわかるか」
「…………前にも一度個性が暴走したことがありました」
(霧島町襲撃事件か……)
一夜にしてコガネが生まれた町が更地になった大事件、表向きには町を襲撃したヴィランが破壊の限りを尽くしたことになっていたが、真実は町を襲ったヴィランをコガネが個性を暴走させてしまい、飛蝗が町を飲み込んだというものであった。
「その時は恐らく恐怖から起きたものだと思います。……そして今回も同じように火災ゾーンで脳無と戦った時、死を感じました。暴走している時も飛蝗の強い死の恐怖というものを感じました」
「……この二つから考えると飛蝗の生存本能が個性の活性化と暴走を招いたのだと考えます」
死への恐怖と生存本能、生物が平等に持つもの。
コガネの飛蝗は個性で金属化しているとはいえ、性質としては生身の生物に近い。自分の死に抵抗し、方法の限りを尽くすことは当然である。
「……そうか」
「酷かもしれないがお前に言っておかなければならないことがある」
相澤は神妙な面持ちでコガネに身体を向き直しながら言った。
「お前が戦った脳無という怪人、二体の内、火災ゾーンで戦った個体は見つからなかったが現場に残された血痕と監視映像から
「っ……」
覚悟はしていた。
元々町を消し去った個性、2度目の暴走で人的被害が出ないわけがなかった。
だがあの時もうこんなことは2度と起きないようにと、個性の訓練を続けてきた。その結果が
「……お前は悪くない、と安易に励ますことはしない。しかしヒーローになりたいという夢があるなら避けては通れないことだ、折れるなよ、虫明」
「っはい……」
教師らしく励ますことを相澤はしなかった。
短い言葉ではあったものの、その言葉の奥には期待と鼓舞が込められていた。
(こんな教師は見たことがないな……)
コガネもそんな相澤に少しだけ尊敬の念を抱き始めていた。
「とはいえお前にその選択をさせたのも暴走の原因を作ってしまったのも俺たちの責任だ。すまなかった」
「いえ、先生が謝る必要はないです。それに……私がもっと強ければ、こんなことにはならなかった。だから、私が弱いのがいけないんです」
「っ……まあいい、体育祭も近い、個性の操作精度と制御、やれる課題は多い。焦れよ、虫明」
「はい」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ー
「失礼しました」
相澤からの話が終わるとコガネは一礼して職員室を後にした。
相澤はその姿を見届けると、ふぅ、と息をついて椅子の背もたれに体重を預けた。
「どうしたよイレイザー!病み上がりで調子悪いかァ?」
そんな気怠げな相澤をみて相澤の隣に座るプレゼントマイクが大きな声で捲し立てた。
「……違う。ただ危ういと思っただけだ」
「……虫明か」
「……ヒーローになる上で自己犠牲の精神は素晴らしいがあいつのは多分『自棄』を含んでいる。自分なんてどうなっても良いと、自分自身の安全や尊厳を何処か軽く考えているように感じる」
「あいつの過去の影響もあるんだろうが……」
一年生の授業を担当している教師陣は生徒の情報はある程度共有されている。
特にコガネは博士が校長と交流があることや生い立ちが特殊なこともあって、公安委員会からも霧島町襲撃事件の真実も共有されている。
「新年度もまだ始まっただからよ、あんまり思いつめるなよミイラマン!」
「誰がミイラマンだ」
プレゼントマイクのそんないじりに全身に包帯を巻かれた相澤突っ込んだ。
2週間後、体育祭が始まる。
生徒たちは各々体育祭に向けて準備をする。
コガネも例外ではない、失敗はしないように、もう負けることはないように。
結局1ヶ月かかりました…
USJあたりの時系列は結構適当なので違う所があるかもしれません、あまり深く考えないでください。
評価してくれた方々、ありがとうございます!