身体から大量に金属製のバッタが出てしまう女の子   作:鳥松

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プロローグ後の話です。本編前です。


一話

一話

 

「こっちだ!」

 

「ああ!」

 

 更地と化した町で多くのヒーローたちが生存者や行方不明者を捜索するために駆け回っていた。

 ここはコガネが住んでいた町――、町だったもの。

 ここは本来、静かな住宅街。

 多種多様な家々が立ち並び、公園で遊ぶ子供たち、家事に追われる人々、仕事に追われる人々、様々な光景がうかんでくる筈だった。

 

 しかし、その光景は一夜にして消え去った。

 家も人も存在が消えてしまった町で生存者などいる筈もなく、捜索は難航していた。

 しかしそんな状況が覆る。

 

「おい、あれ!」

 

「子供……?おーい!」

 

 2人のヒーローの目にうっすらとだが子供くらいの背丈の人影が目に入る。呼びかけるが反応はなく、直接近寄って確かめることにした。やがて人影に近づき、その全貌が明らかになるとヒーローたちは驚愕する。

 

「女の子……?お嬢ちゃん?聞こえるか?聞こえてたら返事できるかな?」

 

「こんな血塗れなんて……怪我でもしてるんじゃ……」

 

「いや、これはこの子の血じゃねえ。返り血だ」

 

「返り血……!?」

 

 少女は血塗れであった。

 その血は少女自らの手で殺害したヴィランの血であった。

 

「…………なさい」

 

「え?」

 

「ごめん、なさい…………」

 

 右目から自然に涙が頬を伝って流れ落ちる。

 

「……取り敢えずこの子を運ぶ。お前は引き続きこの周囲を探索してくれ」

 

「お前が行くなら俺も行かなきゃならないじゃないか。少し前に実行犯のヴィランが隠れている可能性があるから2人一組で行動するように言われたろ?」

 

「いや、その命令はもういい」

 

「何?」

 

「実行犯のヴィランも多分全員死んでるよ」

 

「は?」

 

 ◇

 

 

 そこからの話は驚く程にトントン拍子に進んだ。ヒーローに保護されてからものの数分で公安委員会が到着し、コガネの身柄を公安委員会の名の下に保護下に置いた。

 その後、メンタルケアと称したカウンセリングと言う名の事情聴取が行われた。

 その時のコガネはと言うと――

 

「………………」

 

 だんまりを決め込んでいた。

 目の前のカウンセラーの困惑した表情からカウンセラーの感情が手に取るように分かるようだった。

 

 もう、どうでもよかった。

 この先どんな処遇になろうとも、死ぬことになろうとも。

 生きているも気力もなく、家族も友人も死んでしまった生き残りは自分しかいないヴィランの襲撃事件、自分を肯定できる要素など一つもなかった。

 

 肯定してくれた存在とすればコガネを保護した公安委員会だろうか。

 彼らはひとつの町を丸ごと更地にしたコガネの個性に目をつけ、町の破壊をヴィランが行なったものとし、治療と称して自然な流れでコガネの身柄を確保した。

 コガネの個性は自由度が高く、町を消し去ったことから破壊力も申し分ない。齢5歳の少女が持つにはあまりに強力なものだったため個性の制御という口実で公安はコガネの個性を徹底的に調べ上げた。非人道的なものでは決してなかったが調査という名の実験ではあった。

 

「素晴らしい!これほど強度のある金属製の壁を作り出せるとは!しかも形も変幻自在!これならば戦闘中に超硬度な武器も作り出せるかもしれない!すばらしい……実に素晴らしいよコガネくん!」

 

 担当していた研究者は終始ハイテンションで大声でコガネの個性を褒めた。彼は見た目からすればただの研究者という他ない。それ以外は茶髪と片方にしかレンズがない片眼鏡だろう。

 彼の話はコガネにとってカウンセラーの提示するどんな話よりも、どんな作業よりも、実験の時だけは家で父と個性の訓練をしている時のような感覚になれたから楽しかった。

 

「……あの」

 

「私のことは博士と呼びたまえ、これから長い付き合いになるだろうからね」

 

「……博士は……私がすごいとうれしい?」

 

「ああ、もちろんさ!君の個性の自由度、攻撃力、索敵能力……そしてそれらを合わせた戦闘能力……成長が実に楽しみだ!」

 

「……じゃあ、頑張る……」

 

「ああ、頑張ってくれたまえ!君がヒーローになればより多くの人を!そしてより多くの凶悪ヴィランを倒せるだろう!

 ああ、楽しみだ……全くもって楽しみだ……!」

 

 一通りの実験が済んだあと、個性を伸ばす訓練を行い、もう一度成長した個性で再び実験する。そんな日々が繰り返され、学校以外の日は全て訓練に明け暮れた。

 

「ああ……素晴らしい……君の個性は日に日に強化されていく……!今や金属の強度はタングステン並み……これを打ち破れるものは誰1人……いやオールマイトを除いて存在しないだろう!」

 

 博士の大袈裟な褒め言葉が今のコガネにとっては1番嬉しいものだった。

 しかし今回はその博士の褒め言葉に気になることがあった。

 

「……オールマイト?」

 

「おや、知らないのかい?君もうすぐ小学生だから知っていると思っていたのだが。幼稚園のお友達とは話したことがないのか?」

 

 白い無機質な実験室で、強化ガラスと音声マイク越しにコガネは博士と会話する。コガネの周りを飛び回る銀色の金属の飛蝗たちは数えきれない程存在し、コガネの周りを取り囲んでいた。

 

「友達なんていない」

 

「ふーむ、実に君らしい答えだ。何しろ君は私との研究が楽しくて仕方がないようだからね!それ以外に興味がないのは当然と言えよう!」

 

「それでオールマイトって何?」

 

「……いいだろう、オールマイトとは!現在のNo. 1ヒーロー、今のヒーロー社会を作ったと言っても過言ではない生きる伝説だ!その強さは圧倒的!私も彼の肉体と個性を是非調べてみたいものだ……!」

 

「ふーん……」

 

 なんだろう……少しモヤモヤする。

 

「……わたしもそのオールマイトみたいになれる?」

 

「おや、君がそこまで興味を持つとは珍しい……誰かに影響されたのかな?」

 

「いいから答えて」

 

 博士は顎に手を添えてしばらく黙って考えていると、すぐに回答を示してくれた。

 

「君の言う『オールマイトのようになれるか』という質問がオールマイトと同じくらい強くなれるか、という意味であれば敢えて言おう」

 

「現段階では……無理であるな。スピードもパワーも全てに於いて彼の方が上だ」

 

「……そう」

 

 コガネがしゅん、と顔を俯かせると博士は分かっていないな、と言わんばかりに人差し指を左右に揺らし再び口を開く。

 

「現段階では、な。君の個性は成長を続けている……それに君の個性は彼より出来ることが多い。実力で敵わなくても彼に勝る所は沢山あるさ」

 

「……!!」

 

 博士の言葉を聞いて、少しだけ嬉しいと思ったコガネはほんの少し頬が緩んだ。

 

「おっと珍しい反応だ。先程の顔の録画をしっかりと保存しておこう」

 

「……けして」

 

「それは君の頼みでも無理だな。これは君の初めての表情としてしっかりとアルバムに保存しておくからな――」

 

 博士の言葉を聞いた瞬間、コガネは飛蝗を変化させ、自分の脚に纏わせた。そうすることで金属のブーツが完成し、飛蝗の脚力で自分と博士を隔てる強化ガラスに移動し、同時に博士の顔と同じ部分に飛び蹴りを喰らわせた。

 ヒビなどはなかったが、強化ガラス自体が激しく揺れ、博士に破壊の可能性を察知させるのには充分な威力だった。

 

「……おっと」

 

「けして」

 

「分かった分かった君がそこまで言うなら消しておく。ほら、これでいいだろう?」

 

 博士が研究室の様々な機器と接続されているノートパソコンの画面をコガネに向けて、削除ボタンを押した。

 

「ん、それでいい」

 

「……全く、君の訓練の成果を見られるのは嬉しいが君の貴重な変化を記録した写真を消すことになろうとは――」

 

 (まあもう別の端末に移してあるが)

 

「なんか言った?」

 

「いやあ?言っていないとも。それより今日の実験はこれで終わりだ。まだここを使うというのなら好きにしたまえ。私はこれから現時点の研究結果をまとめなくてはならないからね」

 

「分かった」

 

 そう言って博士は部屋から出ていった。

 

 この日からコガネはオールマイトを明確に意識するようになった。ことあるごとに自分とオールマイトを比べ、オールマイトの方が強いことが分かるとより一層訓練に取り組んだ。近接格闘訓練、耐久訓練、飛蝗を細かく操作する訓練、並列思考訓練などなど……幼稚園の時間以外は全て訓練に当てた。

 本人はどうも思ってはいなかったが他人から見れば子供らしくなく、狂気に見えた。

 そんな日々が続き、10年の月日が流れた。

 

 ◇

 

 コガネは中学2年生となり、そろそろ受験シーズンだ。そんなコガネの志望校と言えば……

 

「雄英高校がいい」

 

 雄英高校。偏差値72を誇り、多くのプロヒーローを排出した国内屈指のヒーロー養成校。そしてあのオールマイトの出身校でもある。オールマイトを超えることを目的としているコガネの選んだ高校としては自然な流れであった。

 しかし博士は苦言を呈した。

 

「雄英ってことは静岡県のあたりか……遠くないかね?新幹線でもかなりかかるぞ」

 

「?別にいい、二、三回しか使わない」

 

「?いや二、三回では済まないだろう。登下校を三年間繰り返すのだから」

 

「は?」

 

「ん?」

 

 2人の間に気まずい空気が流れた。二人の間で壮絶な勘違いがあるのは明らかであった。

 

「いや、ここから通う訳ないでしょ、向こうで1人暮らしするから」

 

「……ちょっと待て、本気なのか?ここを出て?1人暮らし……?」

 

「本気に決まってるでしょ」

 

「実験はどうなると言うのかね!?今まで毎日やってきたではないか!」

 

「……半年に一回くらいは帰ってくるからそれで良いでしょ」

 

「良いわけないだろう!?ああ……なんということだ……せめて3ヶ月に1回――いや、1か月に1回は戻ってきてくれ!それが最低条件だ!」

 

 自分の足元に縋り付く博士を見て思春期特有の嫌悪感を感じながら、はぁ、と溜息をついて

 

「……わかった。そうするからさっさと離れて気持ち悪い」

 

「本当か!?ああ、良かった1ヶ月ならまだ許容範囲だ、実験にも影響は少ないだろう……」

 

「この体制でぶつぶつ話すな、気持ち悪い。離れろって言ってるでしょ」

 

 コガネは足元に縋り付く博士を脚を振るって壁まで弾き飛ばした。

 

「ぐはっ!」

 

「はあ……勉強しないとな」

 

 コガネの成績は全体を見ればかなり良く、特に理数系の科目が得意だった。そのためテストで満点近い点数をとることも珍しくない。

 その反面、国語が壊滅的で文書から登場人物の気持ちを読み取るのが苦手だった。昔から人の気持ちを感じ取るのが苦手で、あの事件から感情が希薄したことでその傾向は更に顕著になった。

 

 ヒーローの仕事はヴィランと戦うだけではない。災害時の人命救助は勿論、有名になればなるほどメディア露出も増える。特に災害時の人命救助は要救助者の精神状況も考慮しながら行う必要がある。そんな中コガネのコミュニケーション能力は壊滅的なため中学校の教師からヒーローになりたい旨を話したとき、微妙な顔をされた。

 

 これから受験までの約一年間コガネには個性の訓練という楽しみからかけ離れた苦行が待ち受けることになるだろう。

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