六話
『よぉ〜し!両チーム準備は良いかな!?それでは3回目……始め!』
オールマイトからの通信が無線機から発せられる。
コガネたちは作戦の共有が終わり、二人でビルの中に入っていく。
「お、入っていった」
「ちょっと楽しみだな。虫明さんどういう個性か気になってたんだよね」
「どうしたのお茶子ちゃん、浮かない顔ね」
「うーん……虫明さんあんまり自分から話すタイプじゃないし、口田くんも寡黙そうだし、しっかり話せたのかな……」
「そういう能力を見るのもこの訓練だ!興味深く見守っていこう!」
開始の合図とともにクラスメイトたちは期待の声で話す。それは教師であるオールマイトも同じである。
(虫明少女……公安の下で訓練を受けていたらしいが一体どんな実力を持っているのか……見させてもらうぞ、教師として!)
◇
『じゃあ口田、予定外のことがあったら連絡して』
「は、はい……」
無線機で口田に連絡し、指示を出す。口田は初めての訓練で緊張しているのか普通の声色ではない。口田にはそれなりの数の飛蝗をつけているし、ヒーロー側は相手を倒さなくていいから口田には抗戦したら足止めに注力するように頼んである。
(あとは接敵するまで暇……)
口田につかせている飛蝗と視覚を共有するが敵が来る様子もない。コガネはビルの入り口の付近で待機して待っていた。
(切島と瀬呂……切島は個性はわからないけど性格は熱血漢って感じで複雑な個性を持っている印象はない。瀬呂はこの前の体力テストを見る限り肘からテープを出せる個性……瀬呂の個性的に道中は罠だらけと思ったけどそんなに数はないな……ないことはないけど先に先行させてる飛蝗がテープを食いちぎって壊してるし……おっと)
口田より先行させて先の部屋を探索させている飛蝗の視界に瀬呂が待ち伏せしている姿が写る。この飛蝗は扉を食い破って小さな穴を開けるように指示をしてある。瀬呂も多少の違和感は感じるだろうが致命的な気付きでもないだろう。
(口田がドアを開けた瞬間にテープで拘束する作戦……切島の姿は見えないからこの先の部屋にいるか核の前で居座っているかのどちらか……よし)
『口田止まって』
無線機で口田に連絡すると口田は通信に驚きながらも足を止めた。
『この扉の先に敵がいる、多分瀬呂』
「ほ、本当に!?」
『シッ、静かに。まだ向こうには口田のことはバレてない』
「う、うん……ごめん……」
『じゃあ予定通り突撃して。攻撃からは絶対守るから思う存分戦って』
「わ、わかったよ」
(瀬呂くんの足止めって……僕にできるのかな……)
口田は元々気弱な少年。
生き物を声で操るという個性的にヴィランとの正面戦闘は能力的にも性格的にも口田には向いていないと言わざるをえない。
しかし口田は断れない性格。訓練は既に始まってしまったのでコガネの考えた作戦に反論することはもうできない。そんな後悔を胸に口田は瀬呂がいるらしいドアを開けた――
◇
「あー、あー、こちら瀬呂。今のところ2人は来てないぞ、どうぞ」
『こちら切島!核の前も変化なしだぜ!』
切島・瀬呂ペアは切島を核の前で核の守護、瀬呂が3階で待ち伏せし、相手の拘束という役割に分け、立ち回っていた。
2人はコガネと口田が二手に分かれて攻めてくる可能性を考慮し、待ち伏せする役割を瀬呂だけにした。切島は瀬呂の役割をやりたがっていたが独断専行はいけないことだと爆豪・飯田ペア対緑谷・麗日ペアの戦いでの爆豪を見て学習していた。
「うーむ……とはいえ守りだけってのは漢らしくねぇな……」
切島はそんなことを考えながら変化を待っていた。
変化はすぐに訪れた。
『切島!口田だ!1人で来た!虫明がいない!警戒してくれ!』
無線機から瀬呂の切羽詰まった声が聞こえる。
(口田1人ってことは想定通り二手に分かれてきた!ってことは次に虫明の奇襲が来るはず……!)
バリン!!
突如、切島のいる5階の部屋が割れる。
窓の外を見るとそこには空中に飛び上がっている状態のコガネの姿がそこにあった。
「待ってたぜぇ虫明!核の確保はさせねぇ!」
コガネは空中に壁を作り、それを足場に核へ最速で近付く。
しかし、切島はその動きを想定しており、既に核の前に立ち塞がった。
「――ふっ!」
コガネは両脚に飛蝗を纏い、金属のブーツを装着したことで脚力は既に強化されている。
その右脚で放たれる飛び蹴り。
「ぐっ、ぬあああああっ!!!」
コガネの飛び蹴りを切島は両腕でガード。
コガネの飛び蹴りは人一人くらいガードしても難なく吹き飛ばす威力であったものの、切島はビクともしない。
(――硬い。身体を硬化させる個性か!)
「効くかぁ!!!」
切島はコガネの蹴りをガードし、カウンター。
右手でコガネの足を掴み、硬化した左手でコガネの胴体に拳を振るう。完璧に入った――と切島本人や映像で見ているクラスメイトですら思ったであろう。
「!?」
しかしそんな無防備な状態に対処しないコガネではない。
コガネは飛蝗を変化させ、金属の壁を作って切島の拳を防御。ダメージを完璧に防いだ。
「ぐっ!?」
そして、切島が動揺した隙に掴まれていない左脚でもう一度蹴りを放ち、切島の拘束を抜け出した。
切島は少しだけ後ろに後退しただけで個性の『硬化』の影響でダメージはないようだった。
(ダメージはないか……最初の一撃で倒すつもりだったけど、硬化でダメージが入らないなら別の作戦でいこう。口田の方の視覚共有も防御も問題ないし、もう少し早く動けるか)
(奇襲には驚いたが成功じゃねぇ。さっきの壁?には驚いたがあの威力なら残り時間まで充分耐えられる……!耐えてやる!核を守り切る!)
コガネと切島、2人は同時に思考し、同時に思考を終える。
そして睨み合いを先に終わらせたのは――
「こォい!!!!」
切島の叫びが、硬化で身体が軋む音が部屋にこだまする。
その叫びが響き終わった後、コガネの脚が動く。コガネは切島の目の前に一瞬で移動し、切島の脇腹に右脚で強烈な横蹴りを放つ。
「っ!」
しかし、切島にはダメージなく健在。
それでもコガネは攻撃をやめない。連続でもう一度同じ箇所に横蹴り。そして更にもう一発同じ箇所へ。合計三回の横蹴りを切島の脇腹へと命中した。
「くっ……」
依然としてダメージはない。
しかし切島の意識が脇腹へと向いたのは間違いない。切島は当初自分の胸の辺りで両腕を配置していたが、腕の位置が少しだけ、脇腹の位置へと下がる。
「今――!」
その変化をコガネを見逃さない。
先程と同じ右脚で今度は切島の頭部に向けてハイキック。切島はほんの少し腕が脇腹に下がったことで顔への一撃をガードできずモロに命中する。切島の首は左側へ回旋し、目線が前から外れる。
「……――っ!」
だが相変わらず切島の身体は硬く、頭部への一撃も恐らくダメージはない。
しかし切島は頭部を蹴られたことにより、視界からコガネが消える。
だから今は最大限の隙。この隙を最大限活かすため、今できる最高威力の一撃を――!
「ハアッ!!」
コガネは地面に接地していた左足で軸足回転。スムーズに身体を体重移動、そこから身体の向きを後ろに変えて小さく飛び上がり、鮮やかな流れで飛び後ろ蹴りを放った。
「ごっ……!?」
後ろ蹴りは切島の腹部に命中し、切島の身体は勢いよく吹っ飛ぶ。切島は核近くの壁に激突し、その衝撃が身体へと伝わる。
(速ぇ……!そんで強ぇ……!)
それでも切島にダメージはない。
(でもまだ戦える!まだまだ――!)
「回収」
切島が立ち上がろうとしたとき、コガネの手が核へと触れた。
『ヒーローチーム、WIN!!!!!』
オールマイトの放送音声がビル全体に響き渡った。
「なっ……!?核が!くっそーー!!」
コガネが核に触れたことでコガネ・口田ペアのヒーローチームの勝利となった。切島は敗北の悔しさからか、両腕で頭を抱えて叫んだ。
「まあでも色々勉強になった!熱かったぜ、虫明!」
「ん……あなたたちも私の作戦を想定した動きだった。あなたの個性も強かったし」
「そう言ってもらえるとこっちも後腐れないぜ!ありがとな!」
切島はそう言うと右手を差し出して握手を求めた。コガネもそれを拒否することなく握手を受け入れた。
『さぁー、講評するぞ!みんな戻っておいで!』
オールマイトからの通信が聞こえ、ビルの地下室へと入ってゆく。その間に口田と再開し、言葉を交わした。
「……大丈夫だった?」
「う、うん。瀬呂くんのテープから虫明さんが守ってくれたし……皆んな……一緒に戦ってくれた鳩たちも怪我はないようだったから……」
「よかった」
口田はコガネが戦っている間、瀬呂の足止めをしてくれていた。コガネの防御ありきだったとはいえ、有利に戦闘を進められていたらしい。
◇
「さて講評といこう!何か意見のある人!」
「はい」
「八百万少女!」
推薦入試者、八百万が率先して手を挙げ、意見を話す。博識な上、戦闘の解析が出来る彼女は将来優秀な人材となるだろう。
「今回の訓練、ヒーローチームとヴィランチーム、両者とも優れた立ち回りだったと思いますわ」
「ヒーローチームの虫明さん・口田さんペアは陽動と奇襲を兼ねた作戦で有利に戦闘を進めていました」
「ヴィランチームの切島さん・瀬呂さんペアはヒーローチームの動きを予測し、適切な配置と立ち回りをしていました」
「うんうん!その通りだ八百万少女!その中でも今戦のベストは虫明少女だ!複数箇所での個性操作で口田少年の弱点をカバーしながら核の回収!個性の高い練度が分かる戦いだった!」
おおー、と生徒から声が挙がる。
そして訓練はどんどん先へと進む。皆、高校生とは思えない程レベルが高く、日頃からの研鑽がよく見てとれた。
そして時は全ての訓練が終わるまで進み――
「おつかれさん!緑谷少年以外は大きな怪我もなし!しかし真摯に取り組んだ!初めて訓練にしちゃ、皆上出来だったぜ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!着替えて教室にお戻り!」
その日の訓練が全て終わり、講評も終わった。オールマイトは大怪我で保健室に治療に行った緑谷に講評を聞かせるため猛スピードで去っていった。
◇
そして制服に着替えて教室に戻ると既に緑谷以外の他の男子生徒は戻ってきており、コガネたちが教室に入ると赤髪で怒髪天みたいな髪型で先程戦った生徒、切島が話し掛けてきた。
「なあ!放課後は皆で訓練の反省会しねぇか?」
「あ、それいいじゃん!やろうやろう!」
「お、いいな。参加するぜ」
「あ、俺も」
下校時間となり皆が帰る準備をする中、切島が大声で呼びかける。すぐに芦戸が手を挙げて参加を表明し、他の多くの生徒も参加する事になった。
「全員参加か?おーい、爆豪。お前はどうする?」
「……」
切島が声をかけるも爆豪は無言のまま教室を出て行った。今日の訓練で緑谷に負けた事がよほど響いているのだろうか。二人の様子を見ても何やら因縁があるように見えたし、それに今回の訓練で負けて以降、爆豪は一言も喋らずに押し黙ったままだった。
「おいって!…帰っちまった。まぁいいか、轟はどうすんだ?」
「…すまん、用事があるんだ。帰らせてくれ」
「そうか、引き留めて悪ぃな。じゃあまた明日な」
また、轟君もそう言って帰った。しかし、残りのクラスメイトは参加するようで、教室に残っていた。
「おーい、虫明はどうだ?」
「…………参加する」
「おし!個人的に反省会させてくれ!」
「いいよ」
そうして少し迷ったコガネだったが参加を表明し、クラスでの反省会が始まる。
「それにしても第1試合と第2試合は熱かったよな!」
「確かに!あの爆豪と緑谷の戦いはすごかったな!」
「緑谷未だに保健室だけど、大丈夫かな…」
「確かになー…後でお見舞いに行ってやろうぜ!そんで第2試合も熱かったけど、轟が凄かったよな!」
「ああ!轟のあの氷結は半端ねぇな!勝てる気がしねぇ!」
切島や上鳴、瀬呂は第2試合の轟たちの戦いについて熱く語る。
「あと虫明も凄かったよな!でもどんな個性かまだいまいちわかんねぇんだけど教えてもらっていいか?」
「いいよ、私の個性は『飛蝗』、身体から金属製のバッタを出せる。この飛蝗は形を変えて壁にできたりできる」
「えっ!?それ虫明の個性なのか!?口田の個性だと思ってたわ!」
口田と戦っていた瀬呂が驚きの声が上がる。瀬呂は自分のテープをことごとく防御する壁を口田の個性だと思っていたようだ。
「壁は私の個性、飛蝗とは視覚を共有できるからそれで様子見ながらテープが来たら壁作ってただけ。あと口田にも飛蝗を動かして貰ってたし」
「ん?それって切島と戦ってるときはどうしてたの?」
「別に2人の動きを見ながら同時に対処してただけ」
「ええ!?いやいや、簡単に言うけどめちゃくちゃ大変でしょそれ!自動で壁になるとかじゃないの!?」
「大変だけど、頑張った。口田にも飛蝗を動かすようにお願いしてたし、私は攻撃を防御するだけで済んだから、口田じゃなかったらこの作戦にはしてない」
「うへー……切島をあんなに蹴り飛ばしながら繊細なこともできるんだなー……」
「ケロ……器用ね、コガネちゃん」
つまりコガネはあの訓練で二つの場所で起こっていた戦い全て、同時に参加していたということになる。そのことにクラスメイトからは驚きと感嘆の声が上がる。
「てか、気になってたんだけど虫明はどうやって切島のいる5階まで行ったの?階段使った訳じゃないんでしょ?」
耳からイヤホンジャックが生えているのが特徴的な生徒、耳郎響香がコガネに問いかける。
「別にそれはこうやって脚力を強化して跳んだだけ」
そう言ってコガネは訓練でもやっていたように飛蝗を脚に纏い、金属のブーツのように形を変える。
「おぉー、地面から5階ってことはだいたい15メートルをひとっ飛びか。そりゃ切島も吹っ飛ぶわな」
「ああ、あれは熱い一撃だったぜ!」
「……初めて個性聞いた時から強そうって思ってたけど、やっぱ強いな、虫明さん」
「……麗日もすごかったよ。あの連携は私でも対応できなかったかも」
「ぇ、えぇっ!?いやいや、あれは私よりデクくんが考えたから……」
その後、ギプスを付けたままの緑谷が戻ってきたが、すぐに爆豪の後を追いかけて出て行ってしまった。その様子を皆が不思議に思っていると、緑谷と爆豪の2人は幼馴染なのだと麗日が教えてくれた。
緑谷の無事も分かり、反省会もある程度終えて雑談ばかりとなったところでお開きとなった。
コガネの初めての対人戦闘は成功を収めた。
しかし、これはあくまで訓練。本当の命をかけた戦いではこんなに上手くいくとは限らない。
その機会はコガネたちA組生徒たちに確実に近付いていた。
次回はUSJに行けたら行きます。変身はあんまりしないです。近いうちにするかもしれないですけど
誤字などを修正して、セリフを少し追加しました