八話
次の日、再びヒーロー基礎学の時間がやって来た。
教壇に立った相澤が『RESCUE』と書かれたプレートを生徒に見せて説明を始める。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事になった。内容は災害水難なんでもござれの人命救助訓練だ」
(なった……?)
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するものもあるだろうからな。訓練所は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」
そうしてほとんどの生徒はコスチュームを手に取り、更衣室へと向かっていく。緑谷はコスチュームの修繕の関係で今回は体操着で行くようだ。
コガネももちろんコスチュームを着用する。
金色の十字架のネックレスは着けるか迷ったがなんだか十字架を眺めていると、なんとなく置いていけない気がして着ける事にした。
準備を済ませてバスが待機している場所へ行くと、飯田がキビキビとした動きでクラスメイトを並ばせていた。
しかし、そんな飯田の努力も、対面座型の座席配置だった校内バスの前に儚く無駄となった。
張り切って進めた学級委員長の初仕事が空回りに終わり、項垂れる飯田を尻目に、殆どが自由席でバスへと乗り込む。
コガネの座席は後方、個性が『透明』の葉隠透の隣の席となった。
「あなたの"個性"、オールマイトに似てる」
バスの中では、蛙吹のダミ声気味の、しかし不思議とよく通る声で発せられた一言に注目が集まった。
「オールマイトは怪我しねえぞ、似て非なるアレだぜ」
緑谷が縮こまった声で「そそそそ、そうかな!? いや、でも、ぼくはその、えー」と焦るのに被せるように、切島が反論する。
「しかし増強型のシンプルな"個性"はいいな! 派手で出来ることが多い!」
そんなバスの前方で繰り広げられる会話にコガネは耳を傾けていた。
「……確かに緑谷の個性ってオールマイトと似てる」
「ねー!個性の制御はまだできないみたいだけどできるようになったら第二のオールマイトになったりして!」
隣に座っている葉隠が独り言のつもりで言ったコガネの一言に反応する。
透明で顔が見えないから寡黙な性格かと思ったが元気な性格なようで二人で話すにしては少し声が大きい。
「……第二のオールマイト」
「あ、ちょっと良くなかったかな?虫明さんオールマイト好きそうだもんね!この前もオールマイトのことじっと見てたし!」
「……だから別に好きじゃないって」
コガネは今までも同じような質問をたくさんされたせいか、少しのイラつきを感じながら葉隠に答えた。
表情が乏しいコガネからはそんな些細な感情の変化などわからず、葉隠は先程と同じ調子で話しかける。
「あれ、そうなの?」
「そう」
「じゃあどうしてオールマイトを気にしてるの?」
「それは……」
出かかった言葉が詰まる。
そういえば、なんでだろうか。
No.1ヒーローを超える必要なんてない。目立ちたくはないし、人気になりたいわけでもない。
でも初めてその言葉を聞いた時、そうしなければならないと感じた。色んな感情が混ざっている気がするが、もう私には感じられない。
それでも多分、答えるとしたらこうなのだろう。
「目標、だから」
「へぇー!虫明さんはすごいね!でもそれってやっぱり好きなんじゃ――」
「おい、お前らいい加減にしとけよ」
相澤の低く、身体の芯まで響くような声がバスの中に響き渡る。
先程までのバスの車内は高校生が集まった場所らしく全員の喋り声がいっぱいで相当騒がしかった。そんな環境を相澤は合理的ではないと判断したのか、一喝して生徒たちの喧騒を速やかに黙らせた。
◇
しばらくバスで移動していると、ようやく目的地についたようでバスが止まった。
バスを降りて見えたのは大きなドーム状の施設。
相澤に引率されて中に入ると、そこには某アトラクションテーマパークに似た光景が広がっていた。
「水難事故、土砂災害、火事、etc.……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も、ウソの災害や事故USJルーム!」
そんな説明をしてくれたのは噂では女性教師であるスペースヒーロー、13号。
彼女のコスチュームは宇宙服のような見た目で顔はおろか性別すらわからない容姿をしている。女性という話も疑いたくなる話だ。
「13号!私好きなんよねー!」
麗日はファンだったらしく13号の登場に歓声をあげていた。
「えー、訓練を始める前に、お小言を一つ二つ…三つ……四つ……」
((((増える……))))
13号の増えていく小言の数に困惑しつつも生徒たちは彼女の話に耳を傾ける。
「皆さん、ご存知だとは思いますが、僕の"個性"は【ブラックホール】。どんな物でも吸い込んで、チリにしてしまいます」
「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
「ええ」
「――しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう"個性"がいるでしょう」
A組の生徒たちは、殺すという強い言葉に息を呑んだ。
その言葉を聞いてコガネが思い出すのは幼い頃の記憶だ。それは自らの個性が街を飲み込んだ記憶。
あの時のことは今でも鮮明に覚えている、あの時からずっと続く悪夢が、たまに頭に響く幻聴が。
「忘れるな」「過去にするな」と叫んでいる。
「個性社会は"個性"の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる"いきすぎた個性"を個々が持っていることを忘れないでください」
いきすぎた個性を持つ個性を持て余した人間といえばそれはヴィランだろう。
連想ゲームのように13号の言葉がコガネの記憶を刺激し、あの時の光景が蘇る。
コガネの手は震え初め、様々な感情を押し殺すように自分の拳を強く握り締めた。
「相澤さんの体力テストで自身の力の秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います」
13号はこれまでの授業に軽く触れる。
「この授業では心機一転! 人命の為に"個性"をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな」
ペコリとお辞儀して、「ご静聴ありがとうございました」と締めくくった13号の演説に、13号ファンや飯田を中心に、賞賛の声が送られた。
コガネもその言葉と共に拳を緩め、気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐いた。
(……ただの話で感情を乱すなんて……こんな調子じゃオールマイトを越えられない。もっと鍛えないと……)
「そんじゃあまずは――」
13号の話が終わり、相澤が授業を始めようとしたその時だった。
「ッ!?」
コガネは全身が警報を鳴らすようにザワつく感覚を覚えた。
人生の中でこんな感覚は初めてで、この感覚が何を意味しているのかわからないが、何かただならぬ気配だけはかろうじて分かった。
「ひとかたまりになって動くな!!」
相澤が生徒たちに向けて突然叫ぶ。
「「「?」」」
「13号!生徒を守れ!」
突然のことで生活たちは何が何だかわからず、戸惑いの表情を見せるだけだ。
それもそのはず相澤の視線の先の光景が
虚空から突如発生した黒いモヤ。
その中からこの空間に侵入した存在は、痩せ型の全身が腕の模型に包まれている男や脳が頭からむき出しになっている肌黒い筋肉質の大男、その他にも如何にもチンピラのような柄の悪い連中などであった。
その存在を異質と生徒たちが感じるのは無理もない。
その者たちは生徒たちは普段目にすることは少ないであろう……
「動くな!あれは敵ヴィランだ!」
――紛れもないヴィランだったのだから。
「どこだよ、オールマイト…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…子どもを殺せば来るのかな?」
だが、相澤の警告と体中に手を貼り付けた男から発せられた悪意によって、生徒たちは否が応でも気付かされる。ヴィランの襲撃。その事実に生徒の多くが目を見開き、顔を引き攣らせてしまう。
「ヴィランンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
「何にせよセンサーが反応してねぇのなら、向こうにそういう事が出来る個性ヤツがいるって事だな。バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」
轟は冷静に状況を判断して言い放つと、場の緊張度が更に増す。相澤も轟と同様の判断を下し、すぐに的確な指示を飛ばし始めた。
「13号避難開始!学校に連絡試せ!センサー対策も頭にあるヴィランだ。電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」
「っス!」
コガネも謎のモヤから侵入してきたヴィランたちを見下ろしながら思うことがあった。
(あの黒いヤツ……強い。多分ここにいる誰よりも)
コガネの人間としての本能か、それとも身体の中にいる飛蝗の本能かのどちらかがコガネに警鐘を鳴らす。
ヴィランに背を向けて逃げるか、ヴィランに立ち向かうか。
そんな選択を迫られたその時だった。コガネがこの二択をどうするか考えたその瞬間に、
相澤は一人、階段を飛び降りて敵の屯たむろする中央広場へと突っ込んで行った。
そしてら不意に、コガネは腕を誰かに掴まれる。
「虫明さん! 先生が不安なのもわかるけど、ここにいちゃ足手纏いだ!」
コガネの腕を掴んだのはクラスメイトである尾白であった。
個性で尻尾が生えている彼は教師である相澤の指示をしっかり聞いて冷静に撤退をしようとしているようだ。
他のクラスメイトたちも相澤の指示に従い、この場から離れようとした。
しかし生徒たちの逃走をヴィランが見逃す筈もなかった。
「初めまして。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」
出口の手前で現れる黒いモヤ。
それはヴィランが侵入してきた時と同じもので、個性の内容がある程度推測できた。
「まあ、それとは関係なく私の役目はこれ」
そう言って黒いモヤのヴィラン、黒霧はユラリと動きをみせるが、13号は『ブラックホール』を構えて黒霧を牽制する。コガネも身構えて正体不明の個性の攻撃に備える。
次の瞬間、先手必勝とばかりに切島と爆豪が黒霧に襲いかかった。2人の立ち位置は13号の前で、そこは『ブラックホール』の射線上だった。
二人が邪魔になり、13号は個性での対処ができなかった。
「その前に俺たちにやられる事は考えてなかったか!?」
「ダメだ!どきなさい2人とも!」
「危ない危ない。そう、生徒といえど優秀な金の卵。散らして、嬲り、殺す」
(まずい……っ!)
黒霧のモヤが一瞬にして生徒たちを丸ごと覆える程の大きさまで膨張し、生徒たちを包み込もうとする。
「全員を守れ!」
コガネはクラスメイトたちを守るため、飛蝗を展開して散らばって黒霧を警戒しているクラスメイトの正面に壁を生成して、黒霧の攻撃から守ろうとする。
咄嗟のことで反応が遅れ、普段荒げることなどない声を上げて飛蝗に指示を出す。
(ッ……!ダメだ、周囲を囲むまでの時間がない)
しかし、そんな努力虚しく黒霧のモヤは生徒たちを覆い尽くした。
◇
黒い霧が晴れ、コガネが始めに感じたのはジリジリと全身を焼くような熱さだった。
「ここは……火災ゾーンか」
(あのモヤの個性はワープ系か、わざわざUSJの中にワープさせたってことは分断が目的か……)
ここは火災ゾーン。
崩れかけのビルが立ち並ぶ市街地の中には火が燃え広がっており、熱さと息苦しさが中にいる人間を苦しめている。
(ああ、くそ……また……今日は嫌なコトばっかり)
10年前の街での光景と重なり、コガネは感情を乱しそうになるが今はそんな状況ではないと首をぶんぶんと振って無駄な感情を振り払った。
そんなことをしている間にこの場所に待機していたのであろう複数人のヴィランたちがコガネを取り囲む。
ヴィランたちはいかにも悪そうな見た目で刃物を所持していたり、鉄パイプを所持したりしている。
「なんだ1人かよ、つまんねぇ」
「女なのに色気の無ぇ服着やがってなぁ、俺が新しくデザインしてやろうかぁ!?」
ヴィランたちは女というだけでコガネの実力を勝手に判断し、失望しつつもコガネに下衆な目を向ける。
ただでさえ熱くて息苦しいのにこんなヴィランに遭遇したとあればコガネが彼らの制圧を躊躇をすることはない。
「やれ」
「おわああぁっ!?なんだこりゃあ!?虫!?キメェ!」
コガネが呟いた直後、コガネの手のひらや首から大量の飛蝗が大群を為してヴィラン達に襲いかかる。
「うわっ!痛って!離れろ!」
「な、なんだこいつら!ぶへぇっ!!」
コガネを取り囲むヴィランたちから苦悶の声があがる。
コガネの飛蝗は本物の飛蝗と違って金属製、その硬度からただ相手に大群でぶつかるだけである程度のダメージを与えることができる。
加えてそれが息をつく暇もない程の大群とあらば大抵の人間は動くこともできないだろう。
(殺さないように手加減、手加減……)
ただそれだけではヴィランたちを行動不能にはできない。
よってコガネは次の攻撃に移行する。
ヴィランたちが周りを飛び交う飛蝗に夢中になっている間にコガネはヴィランの足元に飛蝗を集め、形を変形させる。
「棘」
コガネはひどく落ち着いた様子で冷たく呟くとヴィランの足元の飛蝗の集合体の形が円錐形の棘のような形に変化する。
そしてかなりの勢いで棘が伸びたかと思うとヴィランたちの鳩尾に正確に突き刺さった。
形を鋭くさせたままであればそのまま殺してしまうので今回は棘の先を少し丸くさせ、殺さない程度にダメージを与えられるように設計した。
「がっ……あ"っ……」
「ぐえっ……!」
人体の急所の一つでもある鳩尾。
そこに正確な一撃を与えればヴィランといえどノックダウンは必至だ。
「……見える範囲にはもういないか」
自分を取り囲んでいたヴィランたち全員が腹部を抑えて蹲っているのを確認すると、コガネは小さく息を吐いた。
(バカめ、こいつらは囮だ!)
コガネの背後から忍び寄る人影。
その人影は肉眼で視認できず、周りの光景と溶け込んでいる。
周りから立ち昇る炎の温度によって生じる景色のゆらめきと光、そして『蜃気楼』という個性からコガネの肉眼と飛蝗による視界からも全く見えない状況を作った。
(死ね、クソガキ!)
コガネはもう目と鼻の先で、反応すらできない距離。
そこまでの距離を詰めた上で、ヴィランはコガネの背中にナイフを突き立てる――!
――ガキン!!
「なっ……!?」
「足音大きすぎ、分かるから」
コガネとナイフの間に突如出現する金属の壁。
それはコガネが飛蝗の形を変えて作り出した盾であった。
鉄以上の硬度である盾はヴィランの持っていたナイフを容易くへし折り、攻撃を完璧に防いだ。
「う、くっ……そおおおお!!!」
ヴィランはへし折れたナイフを捨て、素手での殴打、それも両手を使った連撃でコガネに立ち向かう。
しかしそんな攻撃も――
「ああっ!くそッ!なんだよこの壁!?」
盾によってコガネの肉体にたどり着くことはない。
ヴィランが攻撃しようとした箇所は顔や胸部、腹部。
そして回数は16回程であるがその全てを最小限のサイズの盾を作り出し、受け止める。
「投降して」
(何回やっても、何処を攻撃しても……ッ!絶対防がれる……!この女ぁッ!!)
ヴィランはこれまでの手だけでの殴打とは違い、今度は脚でのコガネの大腿部に左脚でのローキックを放とうとするが――
「ぐあっ!?」
蹴りのために左股関節を曲げようとした瞬間であった。
コガネの右脚による蹴りがヴィランの脛に直撃し、ヴィランが放とうとしたローキックの初動を潰した。
「あああ"っ!いてぇっ!くそぉ!」
人体の下腿部、所謂ふくらはぎの部分には背部にしか大きな筋肉はついていない。
前部にも筋肉がついている箇所はあるがそれは一部。
それ以外は皮膚と骨だけであり、この部分に行う攻撃はその他の部位に比べて身体が感じるダメージと痛みは大きい。
コガネは先程の左脚への蹴りの痛みでのたうち回っているヴィランの髪の毛を躊躇いなく鷲掴みにし、頭部を持ち上げてヴィランの目を真っ直ぐ見つめて言う。
「投降、して」
コガネの黄金の瞳の視線がヴィランの怯える目を打ち抜く。
水銀のような滑らかな銀色の髪を靡かせながら、無表情に、無感情にヴィランを見つめる。
そんな姿はヴィランには別の物に見えたようで恐怖から意識をなくす前に呟いた。
「化け、物……!」
「……バケモノ、ね。そんなこと10年前から分かってる」
コガネはヴィランが白目をむいて意識がなくなったのを見届けると、髪の毛を手放してヴィランを地面に放置した。
これ以上ヴィランがいないことを確認するとコガネは飛蝗との視覚共有を行う。
(さっきのワープの時に麗日たちの近くにいた飛蝗も一緒にワープしてたみたい。17…18…19……あと1人確認できないけど、その他の19人は今のところ無事、なら助けは必要ないかな)
取り敢えず他のクラスメイトの場所と安否を確認すると次は相澤が戦っていた広場の方を見る。
そこには相澤が首に巻いていた捕縛布を器用に使い、ヴィランとの多対一での戦闘を繰り広げていた。
相澤は見た相手の個性を消すという『抹消』という個性を持っているがそれを上手く使って戦っているらしい。
(今のところは先生が有利……だけど体力的にはそろそろ限界かな。じゃあ助けるのはこっちかな……広場にはまあまあの数の飛蝗が残ってるし、ここから敵を減らしながら広場に向かおう)
コガネの飛蝗ならここから飛蝗を操作して敵の数を減らすことができる。
火災ゾーンに留まる意味もないのでコガネが移動を開始しようとした時だった。
「!?」
突如虚空から出現する黒いモヤ。
先程自分たちをワープさせたモヤと全く同じもので、つまりこれは何かをここに呼ぶつもりなのだ。
(今更増援……?いや違う、それなら始めからここに配置すれば良い筈……じゃあこのワープは何を――)
そうコガネがこのワープについて考えていた時だった。
「ッ!!!?」
全身がザワつくような感覚が再びコガネに走る。
これが何なのかは分からないが飛蝗の生存本能によるものであることだけは直感で分かる。
黒いモヤが徐々に晴れ、ワープさせる物をここに転送できたらしかった。
コガネがそれが何なのか確認しようと注視していると、視界の端から物凄いスピードで自分の左側面に向かってくる物体が辛うじて見えた。
「くぅッッ!!?」
コガネは何とかそれを盾を形成してガードする。けたたましい金属音と衝撃が盾に加わり、盾ごと吹き飛ばされそうになるがなんとか踏ん張り、盾はコガネの顔の目の前で止まる。
この結果からコガネは正体不明の攻撃を防いだ、と思った。
いや、
「は?」
防いだ盾が突然小刻みに震え出し、身体が後ろに引っ張られるような感覚を感じた。
「ッ――!!?」
瞬間、盾から発せられる凄まじい音と衝撃波。
盾が顔の目の前にあったコガネはその衝撃波に直撃し、火災ゾーンのセットであろう瓦礫の方へ大きく吹き飛ばされる。
「ゔっ……がはっ……!」
瓦礫は周りの炎の影響か火傷してしまうような温度であったが博士の神父服の耐火性のお陰で火傷などはしていない。
しかし、その他人体への影響は大きく、コガネの左耳からは血が流れ、意識も朦朧としている。
コガネが立ちあがろうとするも朦朧とする意識とふらつきの影響で立位姿勢を維持できない。
息が荒くなり、不快な耳鳴りが身体の不調を伝えているようだった。
(だめだ……目が回って視界がぼやける……左耳も聞こえない……防いだ筈なのに……何の個性だ……!?)
コガネはぼやける視界で攻撃された方向を見つめる。
そして辛うじて見えたのは脳が剥き出しになっている両腕が鞭のようにしなる怪人の姿であった。
遅くなりました。
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