塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる 作:梅酒わいん
「まずは数を減らす」
ハレーは【ガトリングヒュドラ】の右側面の少し離れた位置に滑り込むように足を進めた。
そして、勢いのまま身を捻り、回転しながら左腕の
ワイヤーで接続された刃の鞭がビンとしなり、雨風と共にスクラップどもを断ち切る。
空中に浮いている虫型や飛来する尖った魚型を纏めて両断し、ぼとりぼとりと墜落していった。
しかも誘導は
「再会を喜ぶのは争いを制してからとしよう。猫殿も仮面騎士殿もすぐ到達する。露を払う」
ハレーは
三基構成ジェネレータの出力を持つ【トライヘッド】の脅威は群れへと即座に伝播した。
倒せる気配が無い【ヒュドラ】に見切りを付けたように、半数がハレーへと向かっていく。
本能的な行動。思想が薄い行動。攻撃を集中するべき瞬間に分散。つまり愚策。
判断が悪い。
しかし、猫ってことはミードと既に会ってるのか。
いや、俺の事を話したんだろう。変な機体に乗ってるからな。
仮面騎士って誰だろう。知らんやつだな。
騎士の敬称を付けるならば
どのみち増援が来ることが確定したのならば、俺が出来ることは足を止めた迎撃だ。
ハレーが到着したことにより圧力が減ったこの状況なら、何も考えずに敵を叩き落とすだけ。
そうしてスクラップどもの奔流を、俺達は捌き続けた。
六首を次々に動かし殴り飛ばし、叩き落とし、噛み砕いて、引き裂いた。
ハレーも盾で叩き潰し、剣で切り裂き、槍で薙ぎ払い、尾で弾き砕いた。
小型と中型だけでなく、大型スクラップも混ざってて攻撃してきている状況だ。
だが、先程までとは比べ物にならないほど攻勢の圧力が弱い。問題なくさばける程度だ。
右側面の防御を気にする必要がなく、大盾の位置を調整してほぼ正面でぶつかれている。
空中の敵が一瞬途切れたのも大きい、そして。
「お、ハレーさん先についてましたかにゃ。お祭り騒ぎに遅れましたにゃ」
俺達の背後に回り込み、迫りきていたサソリの甲殻型へ
まるで雲でも斬ったかのように滑らかな光が通り抜け、抵抗なく甲殻型の足と鋏を溶断。
甲殻型スクラップの攻撃力と機動力を瞬時に削ぎ、長靴を履いた猫はそれを踏み台にし跳躍。
宙返りしながら細剣を大きく二回振るい、光の交差の軌跡が通り抜けた。
最大の武器であるサソリ型の尾を切り裂き、同時に周囲に居た空中型スクラップも叩き切った。
強っ。
海上での戦いは報告のみ聞いていたが、その戦果が偶然ではないのがよく理解できる機動だ。
「見事。相変わらずの剣戟の冴えよ」
「ハレーさんに褒められるとむず痒いですにゃー!」
──お前本当に政治家やってたの? 強すぎじゃない?
「本業は
鍔のある帽子のようなヘッドカバーの位置を調整しながら、【ヒュドラ】の盾へと舞い降りた。
異常に軽い。『妖精の長靴』の効果だろうか。大盾を構える首への負荷はほとんど無かった。
「構えてくださいにゃ! 後衛の砲手たたっ斬って来ますにゃ!」
──おっけー! セレネ構えろ! 【ミンストレル】の踏み台になるぞ!
「えええ!? いや、いいんですけど! あの群れですよ!?」
──今の曲芸見た後なら、どう考えても大丈夫だろ、最悪逃げ回ってくれりゃ圧が減る。
脆い小型機を駆っているミードだったが、あの群れの中に飛び込ませることに不安は無かった。
戸惑ったセレネから一瞬右盾を保持する首の制御を奪い、プラントの装甲床に強く固定。
それを足で感じたのか【ミンストレル】は固定と同時に跳躍。群れを飛び切り抜けた。
「通り抜けた後のスクラップが全部落ちてく──農場の総議長って大変なんですね」
発言からするとあいつが特殊なんじゃないか??
セレネに盾を保持している首のコントロール権を戻しながら、少し前進した。
「宣言通り亜竜の対処はオレがする。群れの対処は仮面騎士殿にお任せしよう」
「任されたハレー殿!」
後方から若い男の声と共に、大型機がプラントの装甲床を砕き、俺の真横に出現した。
ハレーに仮面騎士と呼ばれた男の機体は、敵に集中している現状では観察しきれない。
だが、ちらちらと俺の視界に映るそのを横目に見て、俺は思った。
──なんか見たことがある装甲だな。
滑らかな曲線を描いた硬質な装甲。甲殻型と戦っている時に感じた既視感。
ハレーとの再会。嵐の中。ガトリング親方が作った機体に乗っている俺。
そこから蘇る鮮明な記憶。驚愕と混乱が同時に来た。
──あれ、【ガトリングクラブ】の装甲じゃない??
がっつり観察したいが、スクラップの攻勢を押し留めることに集中して観ることが出来ない。
だが、横に位置する大型の機体は暴れまわっており、よじ登った装甲の箇所がチラリと見えた。
間違い無いわ。一年前にタカメ女史の治療のために登った装甲箇所だよな。
クソ忙しい時のあの記憶はあまりにも鮮烈な記憶過ぎてそうそう忘れられることはない。
ということはあの装甲は【ガトリングクラブ】のものなのだろう。観察がしたい。
だが俺の横目に見たシルエットの足は二本だ。なら【ガトリングクラブ】ちゃうか。
「そこの"傭兵"。小型機の対処は任せる。中型機以上は私が受け持とう」
どこかで聞いた若い男の声。少し刺々しさと傲慢さを声から感じた。
なんだろう。知り合いかな。しかしすげぇ癪に障る声だ。グラハムみてぇだ。
だが受け持ってくれるというのなら助かる。どのみち小型機の群れを対処しなければならない。
手数が必要になる中型の対処は面倒だし、この忙しさを軽くしてくれるなら万歳だ。
──やってくれるって言うなら好きにやれよバカ。こっちは忙しいんださっさと動け。
「君にバカと言われるのは二度目だな。積極的に暴れさせてもらおう」
やっぱり知り合いっぽいですね!? 誰だよ!
横に居座る大型
その一振りごとに中型サイズのスクラップがまるでゴミを払うかのように引き裂いていった。
バカげたパワーだ。中型は【ガトリングヒュドラ】も【トライヘッド】も一撃とは行かない。
三基構成ジェネレータ機であろうその圧倒的なパワーで、近寄るスクラップを駆逐していった。
敵スクラップ達の反撃。質量攻撃の射撃武器が俺達に射出されていく。
俺は甲殻型の大盾でそれを受け止め、ハレーは回避と盾で逸らし、ミードは避けていった。
そして横の機体は両肩の【ガトリングクラブ】の鋏を盾のよう扱い、攻撃を受け止める。
反撃として大型機は、手元に持った──
──
俺の知る限り、一機しか扱ってるところを見たことが無い武器を、味方機が振り回していた。
そして目の前に前進したその機体は、以前戦った騎士団長機そっくりの姿をしていた。
だが、武装構成が違う。両肩の盾とレールランチャーを捨てていた。
そして変わりに【ガトリングクラブ】の装甲と鋏を背負うとんでもないシルエットが見えた。
俺の混乱を他所に、その機体の乗り手が、俺へと平然と告げてきた。
「なんのことかわからない。この機体の名は【ナイト・オブ・クラブ】だ。始めまして、だな」
──いや、お前、ちょっとは隠せよぉ!?
はじめてみるきたいだ!