塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる 作:梅酒わいん
この疑問を問い合わせる暇はなかった。波が押し寄せるかのようなスクラップとの戦いは続く。
セレネは防御しながら、攻撃に使っている各首のエネルギーを細かく調整してくれている。
かなり集中していて、静かに独り言を延々つぶやきながら操作している。結構カツカツだ。
だが、四機の高級機が暴れている現状は、圧倒的な数のスクラップが居ても──
掃討と呼ぶに相応しい一方的な戦いだった。
【ナイト・オブ・クラブ】と抜かした大型
近づいてきた甲殻型の硬い装甲を純粋な膂力で無理やり破砕し、断ち割った。
【ミンストレル】が舞い踊り、
光の線が戦場で煌めき、それが通った後のスクラップをことごとく溶断していった。
【トライヘッド】は宣言通り
暴れ狂う竜の背にまたがったハレーは、丁寧に弱点を貫き、息の根を止めていった。
【ガトリングヒュドラ】は、地味に近寄ってきたスクラップを迎撃するだけだ。
近寄ってきた雑魚をぶん殴るだけで終わる地味な作業だ。手元は忙しいが、慣れた。
ジェネレータ三基構成機の【トライヘッド】と【ナイト・オブ・クラブ】で二機。
二基+一基の特殊構成AGである【ガトリングヒュドラ】が一機。
二基構成機の【ミンストレル】。ついでに周囲に【ナルワール】が四機。あわせて五機。
この塔が落ちた海上プラントの鋼鉄の床上に、ジェネレータ二基以上の機体が合計八機も居る。
なんだこの戦場は。都市間戦争かなにかか?
"塔二つ程度"に過剰な戦力過ぎないか?
三基構成機なんかこの大陸単位で20機ちょいしか居ねぇんだぞ。
戦力かき集めたにしても、あまりにも本気過ぎる戦力だ。
まぁ、この疑問は俺が解消する必要はない。目の前の戦いとミッションの攻略に専念すべきだ。
さて。戦闘は楽になった。
というか指が本当に慣れてきた。六つくらいなら手足と同じ感覚で動かせる。
「なんで触腕もないのに私より早いんです? 本当に腕二本ですか??」
いやだって、これだけ迎撃してりゃ慣れるよ。今なら機動込みで出来る。
タコ野郎は俺よりこの手の操縦が上手いから、確かにあいつなら楽勝だろう。
「嘘でしょう? お兄様以外に操れる人物が居ないからわざわざ呼んだのに──」
情けないなー。俺で操作出来るなら
まぁ、姫とか呼ばれてる立場の人からすると軽々しく触れられないのかもしれないけどさ。
俺が数時間で使いこなせそうだから、一ヶ月訓練すりゃ行けるでしょ。
「無理じゃないですかね~ お義姉様、だいぶ超人なんで──」
そうしてセレネは考え込み、ブツブツと独り言を言いながら操作に戻ってしまった。
さて、迫りくるスクラップをはたき落としながら、思考リソースを少し分割。
俺の左前で戦ってくれている、あまりにも見知った外観の機体を観察する。
騎士団長機である【ナイト・オブ・シャベル】に【ガトリングクラブ】を貼り付けた機体だ。
いや、本当になんでそんな組み合わせなんだよ。経緯があまりにも気になる。
射撃武器は見当たらないが、近接能力は格段に上昇しているな。当然装甲もブ厚い。
【ガトリングクラブ】の装甲は、一年前の戦いにおいて鉄壁を誇った。防御力は信頼出来る。
あと背面のスキマに緩く長く動ける水中用スクリューがあるな。水上用改修もしてそうだ。
硬い甲殻で側面と背面を覆って、肩部には可動式大盾代わりに大鋏を装備していた。
正面防御と近距離から中距離までの攻撃武装として兼用しているのだろう。
鈍重な身体を、純粋なパワーで強引に振り回し、機敏に立ち回り破壊を撒き散らしている。
装甲は厚いが運動性が低い甲殻型を次々に引き裂いていく爽快な動きだ。
踏み込むたびに地面が割れまくっていて、そのとんでもない総重量が容易に想像できた。
大型をさっさと倒してくれるのマジで助かる。こちらは小型に集中出来る。
小型機も突撃をしてくるタイプが多く、放置しておいて良いことは一切無いからな。
数が多い分大型機より厄介かもしれない。ここは対処する質の役割分担だろう。
さて、だいぶ余裕が出来た。
俺は一番の疑問をさっさと聞いておこう。謎の増援に対して質問をした。
──お前さん騎士サマの話だと謹慎されてるとか聞いてたんだけど?
【ナイト・オブ・クラブ】の騎手は澱みなく答えた。
「誰のことかわからない。今は私はヴァレリアン卿の配下である名もない外征騎士だ」
──し、白々しい~。名無しで外征騎士になれわけねぇだろうがよぉ!
「事実は私は
──そう簡単になれるなら、うちのグラハムはとっくに【クロスガード】を操れるんだよ!
──別に【クロスガード】をあいつに返すつもりは無いが、運用上滅茶苦茶支障出たからな!?
「騎士グラハムには悪いことをした。だが傭兵である君が就任している。不可解ではないだろう」
──そりゃそうだけどさぁ!?
都市同盟法のせいで二基構成機以上の扱いめっっちゃ厳しい。
この一年間ジェネレータ二基構成余らせておく余裕なんかゼロだったんだぞ!?
「ともかく。私は正当な手続きでこの海域の平定に手を貸している。
疑問に思うのであれば、テオドール卿に問い合わせるといい」
──無理なこと言いやがって。都市間通信なんか出来るわけねぇだろ。
──ともかくだ。なんて呼べば良いんだマスクドDさんよ。
「好きに呼べ──というより今勝手に呼んだその呼び名で構わないよ。
以降はマスクドDだ。それと雑談は後にしてくれ。君ほど操縦が上手くないんだ」
そう言いながら【ナイト・オブ・クラブ】は肩部の大鋏を射出し、大型の甲殻型を捕獲。
【ガトリングクラブ】自慢の大鋏は、鎖で接続され、甲殻型をがっちりと拘束した。
そして三基構成機の圧倒的パワーで引き寄せて、超大型シャベルを振りかぶり──
背丈を超える大きさのスクラップを鋼鉄の地面ごと、溢れ出る馬鹿力で縦に両断した。
戦場が揺れた。
今の一撃の衝撃が波となって、地面どころか空気を伝播したのだ。
軽いスクラップなんかそれだけで弾き飛ばされてやがる。マジかよ。どんな馬鹿力だよ。
頑丈なプラントに出来た亀裂が深すぎる。底が見えねえ。
拘束。引き寄せ。そこから強制的に接近戦に持ち込んで、パワーでぶった切る。
弱点である超重量の機動性を補う凶悪な組み合わせだ。
そしてそのパワーは健在なのが今のでよくわかった。
敵としてはもう絶対に戦いたくない。
純粋に膂力と重量と防御力で押し切られるのが一番どうしようもないんだ。
だが、今は味方だ。僚機としては最高に頼もしい機体と言い切れた。
各国の思惑が絡んだかもしれない
そして、波のように押し寄せたスクラップどもを迎撃。
各々が好き勝手に暴れまくる大乱戦になった。
連携も何も無い状況だ。信頼関係の構築も出来ていない即興のチームである。
だが、強力なスタンドプレイを互いに邪魔せず、自分の得意分野だけを押し付けた。
膂力による純粋な暴力を【ナイト・オブ・クラブ】は叩きつけて、切り砕いた。
軽やかで柔軟な機動で【ミンストレル】は縦横無尽に飛び踊って、焼き裂いた。
蓄えた技量を駆使し【トライヘッド】が四方八方を精緻な一撃で、穿ち貫いた。
手数による制圧力を発揮し【ガトリングヒュドラ】は暴れまわり、噛み潰した。
そして、波は途切れ。
「これで、終いだな」
思わず呟いた誰かの声が、
塔はまだそびえ立ち、俺達を見下ろしている。
嵐はまだ止まず、風は吹き荒び、雨は機体をうるさく叩きつけていた。
だがしかし、熱狂と激しさが合わさる戦場に、ひとときの平和と静寂が勝利と共に訪れていた。