塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる 作:梅酒わいん
海中に舞う管がしなり、親機である【ベル】を中心に【スーツ】たちは散開した。
統率された動きで、上下左右に展開。真正面を避けて迂回しながら接近する動きだ。
早い。
推進器の類がないにも関わらず、俊敏と言い切れる速度だ。
まるでその動きは、水の抵抗が存在しないかのように、異様な滑らかさで動いている。
ぬるりとした動きは、世界に存在しないものが目の前にいるかのような錯覚を覚えた。
気色悪いな。
未だにあいつらがどのような理論で浮いているのか、分かっては居ない。
なぜならシンプルに調べられるやつがそう居ない。誰もわかっていないし調べるやつも居ない。
ただ、コアフィールドの重力制御に関連した技術だろうとは言われている。
ギアのジェネレータと同様に、ある程度の物理法則の制限を緩和しているのは確実だ。
だが、数は少ないし、発見次第最優先討伐機体になるため、調査は一向に進んでいない。
討伐した傭兵たちの話くらいしか情報が入らず、うまく研究の情報が集まらないと嘆いていた。
だが、浮いている理論は不明ながらも、目の前の【スーツ】たちは異常な速度だ。
その重量を相殺しきることは難しいらしく、動きが俊敏な外装は今まで出会ったことは無い。
しかし【スーツ】の機動性は、緩和どころか水を"無視"して動いているかのような機敏さだ。
形状にからくりがあると見たが──
「お義姉様! 【ヒュドラ】のエネルギーは万全です! 水中の機動力を見せてやりましょう!」
セレネが俺に対して【ヒュドラ】の状態が万全であることを教えてくれた。
確かに長々と考察してる暇はなかったな。俺の指はその声に応じて自然と対応した。
──了解! まずは包囲を食い破る! 半分くらいは潰さなきゃ話にならねぇ!
クルルルルと嬉しそうに【ヒュドラ】は唸り、俺の指の指示に従い、そのあぎとを開いた。
ここが地上ならば、【ヒュドラ】は何もできずに【スーツ】の包囲を許しているだろう。
だが、ここは水中だ。
水中の【ヒュドラ】は"地上とは全く違う機体"だ。
細かいフィールドの出力調整をセレネに要求する気は無いので上下方向の機体は無視。
右側から接近していく機体を迎撃することを、最初に選択した。
左側に取り付けてある【ヒュドラ】の首、
ここは水中であるため、圧縮水流を叩きつける長距離砲撃はできない。
水流をたたきつけることで爆発を引き起こす
なぜなら、圧縮したところで周囲に溢れている水にぶち当たり、口元で暴発してしまうからだ。
だが、逆に常に大量の水塊に囲まれている状況なら、いちいち水を取り込む必要はない。
エネルギー収束だけさせて喉元で小規模な爆発を巻き起こし、圧縮した水流を放出させる。
産み出された爆発的な推力で【ヒュドラ】の巨体を強引に機動させる。
三つの首から吹き出された水流で右方へ急激に吹き飛ばされるように急加速。
上下と左方から近づいてきた【スーツ】どもを引き離す。
そして、右方から近づいてきていた端末相手に、逆に急速に接近し強襲した。
よほど破損してなければ自壊や自爆の危険性がないように調整されていた。
増設分のエネルギーが尽きるまで無尽蔵に機動出来るし、
どういう理屈か知らないが、この巨体を機動させるのに抜群のエネルギー効率を持っていた。
機動してるだけなら一時間くらいは動いてられるんじゃねえか? 海上とは大違いだ。
そもそも、触腕族達が使うことを前提の元より海中で使うことを想定している機体だ。
どちらかというと海上での
【ヒュドラ】は、全てが首で、全てが手で、全てが足の変わりになる。
爆発的な水流を吐き出す機能を備えた"足"は全方位に装備されている。
水中の【ガトリングヒュドラ】は十四本のジェットノズルを持つ重強襲機だ。
その速度を持って右方の【スーツ】へと接近した。
この状態の【ヒュドラ】に遠距離武器は存在しない。
だが、加速に使った三本を除いた残り九本の首がある。
右方側の首三本の動作を角度を変えて連動。
激突時に攻撃できるよう先行入力。
スイッチ操作で細かく切り替え、近接攻撃のモーションを事前に設定した。
──おら! お前の望んだ大暴れだぞ【ガトリングヒュドラ】! 喰い破れ!!
カカカカカカと機嫌よく笑いながら、狙いを付けた【スーツ】に対し、三方向から強襲した。
腹部、脚部、頭部。
三箇所へとそれぞれ噛みつき、柔らかな【スーツ】の外皮にその牙が容易く突き刺さった。
──柔らかい! 掴んだ! 引きちぎれ!
逃れようと【スーツ】は弱々しく首を撫でたが、そんなものでは振りほどけはしない。
重量盾を容易く投げれる膂力で、柔らかい腹部を噛み砕く。
そして、頭部と脚部を逆側に操作。胴体を中心に上下二つに引きちぎった。
ちぎれた胴体から黒い液体が漏れ、海を汚していった。
その液は延々と漏れ続けていたが、激しい水流にすぐさまかき消されていった。
【スーツ】のうち一体を残骸に変えてやった。
だが、弱々しく掴んだと思われたその掌で"反撃"を繰り出していた。
ガリガリガリガリという音がコックピットに響いた。
それと同時に、頭部方面に噛みついた首の装甲が破損。
「あの掌に気をつけてください!
【スーツ】の手のひらの周囲で海水が細かく震え、輪郭が陽炎のように揺らいでいた。
モニター越しでは、そこに何があるのかさえ判然としない。どんな速度で振動してるのやら。
今の機体は破壊した後であり、力尽きており簡単に剥がすことが出来た。
しかし、その一瞬の接触ですら、堅牢な【ヒュドラ】の装甲を容易く削ることが出来る威力だ。
──実感したよ。【ベル】と【スーツ】のヤバさがな!
「首を破壊されたらその分機動力も落ちます! 装甲の枚数だけが頼りです! 次来ます! 」
その装甲の枚数がイメージでしかわかんねえんだよ。
体感では【ガトリングヒュドラ】は相当堅牢な作りをしている。
だが、防御力は過信できない。なぜなら受ければ受けるほど機動力もガタ落ちするからだ。
だからここからは機動力で勝負だ。
──これから首を番号で言うぞ! 番号の首にエネルギーを回せ! 機動戦だ!!
「は、はい!」
1番、2番、5番の首にエネルギーを回せ。
【スーツ】が追尾してくる。振り切ることは難しいが、攻撃の体勢を調整する時間は稼いだ。
指を操作する。3番と7番。潜行気味の機動しながら上方向から迫る【スーツ】を迎撃。
連動処理。接触される前に腹部をぶん殴り、弾き飛ばす。そしてそのまま足に噛みつき、爆発。
どういう作りしてんだよ親方ァ! 口元の爆発は想定済みってか! 助かるぅ~!
二体目の【スーツ】を爆散させ、残るは八機。
【ベル】の巨体もぐんぐんと接近してきた。コックピットへ響く異音が大きくなる。
思った以上に厄介だ。分厚い装甲と快速の機動力。
それで全方位に音響兵器を叩きつけるシンプルな攻撃方法。
威力そのものは大きくないが、音響兵器のノイズで、コアフィールドの出力が大きく削られる。
機体が沈んだ。コアフィールドへ影響が出ている。深度が維持出来ない。
これはジェネレータ一基程度だと完全に勝ち目がない機体だな。
速度で
えげつなさ過ぎる。
そして目の前の戦闘に集中している間に、俺の脳裏に言葉達が響いた。
下が動くね。何かな。怖いな。動けよ。煩いな。戦わせろ。避けろ。ヤバいよ。大丈夫。
噛み砕け。逃げろ。ぶん殴れ。早く。来るぞ!
──意見くらい統一しろ【バカヒュドラ】よぉ!? セレネ! 下から来るぞ!
「な、なんですお義姉様! あっ、えっ、本当だ! 下から高エネルギー反応! なんで!?」
下で揺蕩っていた島見たいなサイズの超大型魚型スクラップの背中が発光した。
9番から14番までエネルギー回せ! 早く!
「すぐさま!」
返答を聞く前に各首を連動。水塊を圧縮させ、準備が終わり次第爆速でその位置から離脱した。
光は素早く収束していき、背中の各部から太い十本の光条が、深海を貫き海上を狙い焼いた。
粒子砲! 深海域から撃てるのか!
俺達は事前予測で回避したが、海上の味方機が無事なのか定かではない。
何しろまともな通信はほぼ出来ておらず、海上近くの状況をモニタリングは出来ていない。
今の威力は
──次を撃たせるわけにはいかねぇ! だが【ベル】が放置出来ねぇ! 厄介過ぎる!
「まだ通信回復はしてません! 短距離のみです!」
手数も頭数も足りない。いや、嘘。頭数も手数もいっぱいある。胴体の数が足りてない!
だが通信は妨害されており、海上と連携が取れてない状態だ。
どのような判断になったか。最悪俺を置き去りにして逃げたかすらわからない。
後続が来るどうかも判別できない。状況が掴めない。
このままでは【ベル】と戦い続けたらジリ貧だ。
誰でもいいから早よ来いよ!
そしてざぽん、という音と共に何かが回転する音が飛び込んできた。
「遅参した。【ナイト・オブ・クラブ】推参! これより敵大型スクラップに"突撃"する!」
マスクドD!やっと来やがったよ!!
水中に沈んだのか通信が少し回復したが、モニターは短距離しか見えていない。
しかし【ベル】とは遠い位置から何かが飛び込んで深海へと突き進んで行った。
恐らく【ナイト・オブ・クラブ】だろう。だが掠れた表示はなんかバカでかかった。
うん?なんか知らん姿しとるな?
モニターが遅れたマッピング処理を熟し、その姿を映し出す。
なんかさっきみた姿とは違って、異常にデカいな。五倍くらい大きいぞ?
水中を爆速で突き進むその姿はなんというか────
──―ドリルみたいな姿をしていた。
マッハドリル!!!!