塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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11話:帰還

「見事な戦いぶりだった。やはり同行者にカラス君を選んで正解だったよ」

 

 騎士サマからの賞賛を得る。嫌味か。

 盾以外には破損箇所が一部しか無い【ハルバード】の輝きを見て、俺はため息をついた。

 ゴブリンとの戦いに慣れているとは言え、あまりにも一方的な戦いだった。

【ハルバード】のデタラメな出力と騎士サマの実力を見せつけられた気分だ。

 他の騎士と同行したことはあったが、これほどまでに鎧機(アームズ)を使いこなしている騎士は居なかった。

 

「ちなみに、その破損箇所は君の流れ弾だ」

 

 スマンかった。悪いと思っている。余裕無かったものでな。

 

 カーゴキャリアに連絡を取り、こちらの戦いが終わったことを告げた。

 あちらにも少数の別働隊が攻めてきたが、【オンボロ】に乗った整備士とカーゴキャリア備え付けの砲台代わりのライトフレーム──この機体は小鬼型(グレムリン)みたいな機動性は無い純粋な砲撃機だ──で撃退できたらしい。

 

【キャタピラ脚】にはなかなか無茶をさせた。上部装甲がベコベコだ。慣れない乗り手で悪いと思うが、ゴミみたいな操縦仕様を採用しているタコ野郎を責めてくれ。

 

 帰還途中、上機嫌な騎士サマに対ゴブリンのコツを聞いた。

 というよりは勝手に喋ってくれた。

 

 要約するとこうだ。

「高出力のシャードジェネレータのコアフィールドが前提だが、それを貫かんと彼らは攻撃が必ず大振りになる。タイミングを見計らい、盾を構えてあえて前進することで、リズムを崩し、ひとつひとつに丁寧にカウンターを浴びせる。焦らせるのだ。さすればおのずと勝者になろう」

 そのように気軽に言ってのけた。

 それは性能が確かな鎧機(アームズ)だから出来ることであって、ギアの出力では大雑把な一撃でもダメージが入ってしまう。

 同様の戦術は無理だな、と思うと同時にヴァレリアン卿は【ハルバード】の特性を理解し、十全に使いこなしているのだな、と実感した。

 

 *

 

 カーゴキャリアと合流した。

 艦上にはスナイパーキャノンを構え狙撃姿勢のまま停止している【オンボロ】の姿が見える。

 カーゴキャリアに目立った損傷はない。そこまで多い数の襲撃では無かったのだろう。

 後部ハッチに【ハルバード】と【キャタピラ脚】を乗せて、カーゴキャリアは要塞街(アイアンホールド)へ向けて走り出した。

 

「なんやねんその傷! ワイのカワイイAGがボロボロやんけ~!!」

 

 うるせぇ。

 

 タコ野郎が騒ぎまくったが、こちらとしても文句があるんだ。

 なんだあのクソみたいな操縦系は! 俺の手足は2本しか無いんだぞ!

 先ほどの喧しさとは打って変わり、タコ野郎は淡々と静かに呟いた。

 

「ああ、やっぱ使えたんやね」

 

 ──こいつ──

 

 一気に体温が下がった気がする。

 もしかすると俺の正体に気がついて、意図的に操縦系を弄らなかったのか。

 真意を問うべきか、一瞬判断に迷った時、タコ野郎が神妙な顔で言い放った。

 

「操縦系弄ると金掛かるやん!!?? そんな無駄なことせえへんよ!?」

 

 ──こいつ!! ──

 

 たのしい乱闘の時間が始まった。勝った。

 

 

 *

 

 

「三回止まりましたよ。大変でした。出撃しなくて正解でしたね」

 

 ハンガーで整備士のコテツが【オンボロ】の状態を教えてくれた。

 塔からカーゴキャリアに至るまで動いてくれていたのが、むしろ奇跡的だったらしい。

 コテツは狙撃で三機落としたらしい。初陣にしては大戦果だったな。

 ただ、船の上に移動する時と、途中、戦闘終了後にシャードジェネレータが言うことを聞いてくれなかったらしい。もはやまともな機動は望めないだろう。

 雑談でこちらは散々だったことを話した。騎士サマが居なかったらどうなってたことか。

 いや、多少手間どったとは思うが、そもそも騎士サマひとりでゴブリンを殲滅出来てただろう。

【キャタピラ脚】を僚機として同行させたのは確実性を考慮してのことだろうか。

 スポンサー様の意図はわからん。

 そのようなことを思考していると、馴染みの整備士が俺に提案をしてきた。

 

「カラスさん。不躾なお願いなのは承知なんですが、【オンボロ】を売ってくれませんか。直して使えるようにしてみせます。それで傭兵になります」

 

 コテツのその言葉に、俺は少し言葉に詰まった。

 だが断る理由は無かった。

 元々、要塞街で新しい機体を組み上げることを決めていた。

 その上、【オンボロ】を使い続けるにしても全整備が必要なのは確実だった。

 どうするにしても解体するか、オーバーホールするか。

 

 そして、こいつになら任せていいか。素直にそう思った。

 

「ありがとうございます。無駄にはしませんよ」

 

 お前はまだ生きていけるんだな。

 少し【オンボロ】を名残惜しむように撫でた。

 生まれ変わった姿を期待してる。また戦場で会おう。

 

 

 *

 

 

 俺とタコ野郎はカーゴキャリア内で騎士サマに食事に誘われた。

 ヴァレリアン卿は貴族であり、貴族ならば遠征のために執事や料理人を用意しているものらしい。

 カーゴキャリアでの常用食もそこそこ充実しているが、貴族ともなればその質も良いらしい。

 

 装甲隔壁の向こう──普段はあまり縁のない艦内上部の士官用食堂は、なるほど貴族が住まう世界だった。

 金属光沢のまま無骨に作られたテーブルと椅子が並び、壁には要塞街の所属であることを示す紋章と、その下にカーゴキャリアを所有している第三セクターの貴族の紋章が控えめに刻まれている。

 艦内という無機質な環境でありながら、そこだけは“館”の一部であり、“領地”としての空間であった。

 本来は借り物であるそこが、まるで我が領土であると言わんばかりに、当然の如く居座るヴァレリアン卿は、その権威を言葉よりも雄弁に語っていた。

 

 並べられた料理は明らかに格が違った。

 

 ヴァレリアン卿は席に着くなり、当然のように給仕を開始し、品々の由来を静かに語りはじめた。

 

 銀の台皿に盛られたのは、赤黒い鎧陸海老(ロブリャ)のロースト。丸々として新鮮なものだ。中はまだわずかに温い血を湛え、表面には甘い樹脂ソースが静かに滲んでいた。

 横には白く軽いパンが二切れ。これは要塞街でもっとも古い農業セクターで育てられた“光照麦”の逸品だそうだ。

 太卵蛇(ツチノコ)のゆで卵と、生野菜の数々が添えてある。

 そして各卓には、珈琲なる貴重な飲料が配膳された。

 主星から文化ごと齎されたとされる、恐ろしいお値段になる黒い苦汁の一杯。

 これのため戦う傭兵すら居るらしいと噂される超高級品だ。

 

 最近は傭兵としての雑な粗食が中心だったが、懐かしいまでの久々な貴族の食を堪能出来そうだ。少しカチャカチャと音を立ててしまったが贅沢な味わいに舌鼓を打つ。

 いつもはうるさいタコ野郎はその赤い軟腕でナイフとフォークを丁寧に使い、音も鳴らさず食事をしていた。お前マジか──

 

「ああ、そうだ。君等傭兵にも重要な情報だと思うのだが、負けたらしいぞ」

 

 は?

 

 ヴァレリアン卿は珈琲を嗜みながら、俺達に告げてきた。

 

「戦争だよ。騎士団一つと傭兵団四つが壊滅。カーゴキャリアを三隻失ったそうだ」

 

 は??? 戦争負けたの??

 政争でヴァレリアン卿を排除して戦って??

 俺とタコ野郎も邪魔者扱いして???

 それで意気揚々と挑んでカーゴキャリア三隻も取られたの???

 

 

 ダッッッッサ!

 

 

 *

 

 

 見慣れた要塞街(アイアンホールド)の鋼鉄の輪郭が、砂埃越しに浮かび上がった。

 十日しか離れていなかったはずだが、やたら長い時がたった気がする。

 荒野の風で汚れた窓から見えたその鈍く歪んだ威容は、地熱が立ち上らせる歪んだ空気の中、三つの月が射す光で濁り揺らいでいた。

 遠くから見れば、黒光りしている都市全体が白く熱を帯びているかのように感じる。

 

 この都市を守るシャードジェネレータ群のコアフィールドが、わずかに明滅しながら都市全体を包んでいる。

 三つの月に照らされた光の膜は、外界とは異なる空気をつくり出していた。

 都市を囲む鋼鉄の壁上には砲門が並び、冷たく、沈黙のまま空を睨んでいる。

 

 巨大な大門は開かれており、ヴァレリアン卿率いるカーゴキャリアをゆるやかに迎え入れた。

 本来ならここは数隻のカーゴキャリアで埋まり、蒸気と罵声と笑い声が響きわたっているはずだが、今は閑散としている。

 まだ帰還していないのだろう。──それに、戦場で散った奴らと、帰ってこられない艦も三隻ある。

 

 要塞街(アイアンホールド)は複数の内壁──通称セクタ──―によって構成されている。

 合計十二のセクターが存在し、互いに鉄道で結ばれているが、中には物理的に孤立した採掘用セクターもある。

 

 セクターごとに貴族が統治し、人々の生活を管理していた。

 

 最外郭である第三セクターは、都市の盾の役目を担う。

 日々、スクラップの襲撃を受け止め、傷を抱えながらも立ち続ける鉄の街だ。

 圧縮シャード循環液の蒸気と警報が交錯し、無骨な建物の隙間から吹き出す熱が通りを歪ませる。

 傭兵、騎士団、ギアを修理する技師たち、そして彼らを食わせる飯屋が軒を連ねている。

 

 蒸気煙が湿度を持ち、重い空気が肺を満たす。慣れた街の匂いだ。

 今はどこか気配が薄い。戦争による遠征で単純に人が居ない。

 だが普段は、鉄を叩く音と傭兵どもの下品な笑い声が途切れることなく響いているはずだ。

 

 蒸気が上がる姿を見て、機械油と喧騒の街へと帰ってきたとやっと納得できた。

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