塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる 作:梅酒わいん
中層は狭く、妨害と時間稼ぎを目的にしたかのような複雑な地形をしていた。
流石に100機以上のスクラップを下層で投入してきたのもあり、トラップとギミックが中心で、あまり戦闘そのものは少なかった。
小型機が中心であるドワーフ達は中層でも動きやすく、少し鈍重だが素早い動きでどんどん歩みを進めていった。道中の小型スクラップもドンパチしながらささっと片付けて進軍してくれるため、俺は正直暇を持て余していた。
なにかあるまで【エスクワイア】に追従、【ガトリングクラブ】にオート操作の指示を出す。鋏をガチガチとしながら指示に従ってくれた。勝手に動くな。
気を緩め、首をグリグリと回して肩周りと背中を伸ばして弛緩させた。休憩しよう。
塔へ突入する前に騎士サマの配下に持たされた携帯食を食べながら、考えを纏めることにした。
お、たまごサンドと乾燥珈琲か。生珈琲は依頼一回分もかかると言われてるが、乾燥珈琲は遥かに雑な飲み物だから一般的に飲まれている。俺は茶の方が好きだが贅沢は言わない方針にしておこう。貰い物だしな。
独特の酸味とえぐ味を感じるがカフェインの覚醒作用で俺の脳は冴えた。
卵もいいものを使っている。騎士様の部下、いいもの食べてるなぁ──
さて。今疑問に思っていることは──
偶然落ちてきたと言われるこの塔のこと。
指揮官がどのような思想で戦争に至ったのか。
異常な出力をしていた【トライヘッド】。
あの狂ったような行動をし続けているハレー。
情報の出し惜しみをしていたヴァレリアン卿。
あと、なんかよく分からん仕様の【ガトリングクラブ】。
このあたりか、うーん。何を考えるかな。
一旦騎士サマのことは無視しよう。
あの人は俺の仕事ぶりをとても評価してくれているが、絶対に俺を信頼”出来ない”。
しかし、事情も察せられるし、これは仕方がない。
ハレーの異常行動も考えたところで意味がない。
あれは信仰、つまり心の内面から発生する衝動的行動だ。
答えが出ない思想の奥底を考えたところで、なんの役にも立たない。
塔も落ちてくる理由すら分からないのにどこに落ちるかなんて分かりもしない。完全な偶然の可能性を捨てきれないのに考えても意味は無い。
そして、指揮官に関しても俺は戦略的な視点を持たない。
セドリックに聞きながらなら分かるかもしれないが、あいつも未熟だし指揮に専念させてあげたい。
スナイパーネキも度々トラップ解除や狙撃で攻略に投入されていて思ったより忙しい。
つまり、完全に暇な人員は俺一人だ。議論も出来ない。
実は優先順位が高く、そしてすぐに答えが出るのが【ガトリングクラブ】のことである。
これは俺の生存に直結する。ずっと手癖で操作していたが、そろそろ俺はお前のことを理解しなければならない。ちょっと教えてくれ。
神経を研ぎ澄ませる。
──お前の内側に入り込ませてもらうぞ。
いいよー。軽いな。邪魔するぜ。うん。そうか。え、何お前そんなもの持ってんの!? マジ? 知らねぇよなんだそりゃ。で、どうしてそうなってるんだ? へえ? そうなの。わかったありがと。
ふう。
【ガトリングクラブ】はこう語った。
モニターも何もかも”砲撃仕様のまま”の状態でセッティングが直されてないだけだよ、と。
なんでそうなってるんだ? おかしいだろ。親方は何をして──
ん?
んんん?
これ俺が悪いんじゃねぇか?
*
【ガトリングクラブ】は急造されたAGだ。
開発そのものは親方がずっと進めていたが、俺が拾ってきたシャードや武装や機材を金欠の親方が勝手に使い、第七セクター防衛戦で親方自身の手で急遽投入されることになった。
コックピット周りはコテツがセッティングしていたのだろうが、親方はあんまり説明しなかったのか、それとも資金不足で適当なものを調達したのかが分からないが、一般的な砲撃用仕様のモノが搭載されていた。
AGはその機体形状からシャードジェネレータとの相性が悪く、出力不足に陥りやすい傾向がある。
そのため近接機として使われることが少なく、機体重量とバランスから砲撃機寄りに調整することが多い。AGの用途としては近接機との連携か、出力を要求される要塞街外縁部かカーゴキャリアの上の備え付け機体だ。確かにその用途ならば前面のモニターがあれば問題ない。
コックピット周りの部品もよく見てみれば、そのようなパーツ群が多く用いられている。
この内容で一旦搭載しておいて、後で調整する予定だったのだろう。
そして、親方が何故調整しなかったのかと言うと、俺が親方の時間を使い続け、一切コックピット周りの調整を行うことが出来なかった。ただそれだけっぽい気がする。
思い返せば、俺が工房に帰ってきた時にはまだ新型シャードジェネレータの調整をしていた頃だった。そのまま突然セクターでの戦いが始まるため、急いでジェネレータを搭載し、急遽出撃。
終わった以降は借金で首が回らなくなった親方を契約で縛り【グラスホッパー】の修復に付きっきりにして、そして俺が強奪。
現在に至る。
うん。
俺が悪いのか???
借金してる親方が悪いんじゃねぇのか???
あまりにもしょうもない真実だった。
ああもう。トランクに簡易モニターだけ作って貰って、あとは自分でセッティングするか。まったく、面倒くせぇなぁ。
*
近接格闘戦闘用のセッティングだけは以前親方が使う時に済ませていたらしい。これが無ければ殴り合いは出来ない所だった。
ならば、カチャカチャと簡易モニターを雑に接続するだけで何とかなりそうだ。
これでぶん殴る時に何も見えないなんてことだけは、無くなった。一旦はこれで良しとする。
攻略は難航している。
この塔は落下してから二週間も立っていない非常に若い塔だ。
だが、指揮官が入ったことから生産系設備は増産されていないが、悪意が強い危険な塔となっている。
塔の手勢は少ないが、レーザートラップを中心として、確実に削り足を止めるようなものが多い。
貫いたカーゴキャリアからシャードジェネレータを回収しているのだろう。古い廃棄塔と同様レベルの出力をしており、盾すら簡単に焼き切るレベルのトラップが仕掛けられている。
シャードの出力の話をすると、まだ知的生命体はシャードの1割程度の出力しか得れていない。
シャードジェネレータは知的生命体が機械を動かすためのエネルギー源だが、本来は彼らが用いているものである。
知的生命体はシャードから発せられるエネルギーを効率よく使用できているわけではない。
ギアに使われているジェネレータ出力を10とすると、二基構成で15、三基構成で20といったところか。一般的なAGだと8、悪いと5くらいまで下がる。
カーゴキャリアは各部にバラけて構成され、超大型だと八基とか着いている場合もあるが、エネルギー効率が悪いらしく30に満たない場合すらある。要塞街各部に接続されているジェネレータも、一基につきAGの悪い方と同じ5程度しか出力しないと考えていい。まぁ、その程度の出力で市民500人分のエネルギーを賄うと考えると、おおよそジェネレータ出力1で市民100人が生活出来るほどのエネルギーになる計算だ。
それに比べ、廃棄塔に最初から接続されているシャードの出力はだいたい100とされている。比べ物にならない。
おおよそギアに接続されているジェネレーター10倍の出力があり、スクラップと俺たちの間には隔絶した技術力格差が存在している。
塔が本気になれば、俺たちエネルギーの総量からして桁から違う。絶対に勝てないだろう。
スクラップが統率された意思を持っていた場合、知的生命体はとっくに滅ぼされている。
まぁ、スクラップに搭載されていた時とかは、感覚として5程度まで落ちているので、出力面で言うと一方的に敗北しているわけではないのでそう簡単に敗北することも無いんだが──
そういえば、あの【トライヘッド】の異常な出力のことも考えるとしよう。
三基構成ジェネレータ搭載機は、おおよそにおいて通常ギアの2倍程度の出力である。三基構成の機体の代表といえば【ハルバード】だが、もう少し強い気はするな。
だが2倍強程度で収まり、3倍は行かないだろう。
そして、そのエネルギーが全てトルクパワーに変換される訳ではない。機構上の限界が当然存在し、いくら出力をパワーに特化させた機体と言えど、機械的な限界を突破することは出来ない。
槍の投擲だけでティラノを巻き込みブチ抜くあんな異常なパワーを出すことなど不可能なはずだ。
【トライヘッド】は三基ジェネレータ機にしては非常に小柄である。大型機である【ハルバード】と比べたら一回りどころか二回り近く小さい。
重量もしなやかな体躯をしており、柔軟性に優れている。何よりも操作追従性を重視、いやそれに特化している機体のように感じる。
ドラグーンの特殊な操作方法が、あの【トライヘッド】の体型の原因なのだろう。あの操作方法はリザードマンの限界を超えることは出来ないはずであり、つまりハレーは生身で似たようなことが出来ることを意味する。
ドラグーンの特殊な操作方法。
それは体の動きを丸々トレースするシステムである。
実際に狭いコックピットで完全操作することは不可能だから少し簡易化されていると思われるが、手足の動きなどをリンクさせており、極めて追従性が高いシステムとなっている。
だから機体そのものが小柄で瞬発力と柔軟性に富み、操縦者が十全に操れる”専用機”なのだろう。俺には操作することは絶対に無理だ。少なくとも尻尾が俺には無い。
考えれば考えるほど、戦闘力と攻撃力の辻褄が合わない。
真実はハレーが語っていた”血”にあると俺は見ている。
“竜血槽”。あれの中身はただの循環液と言っていたが、何かがある。
少なくとも無傷だと言うのに地面に散らばり”緑”に染める理由が分からない。破損による流血でなければ意図的に散りばめたとしか思えないからだ。
これがどのような意味を持つのか。俺には分からなかった。
*
煽るわけじゃないんだが──
ロードマンティスは強敵だったな!!
【飲んだくれ傭兵団】の面々は全員被弾しボロボロだ。盾も細切れにされてしまった。
いや、こんなクソ狭い通路でロードマンティスと戦うと思わないじゃん。援護も何も出来ねぇよ! 【ガトリングクラブ】だけで通路埋まるわ!
塔側は中枢近辺に大型スクラップであるロードマンティスをそのまま詰め込んでバリケード代わりにしていた。通路幅ぎちぎちのロードマンティスが、無限軌道をギチギチ鳴らしながら迫ってきてドワーフどもが甚大な被害を被ることになった。
なぜロードマンティスが製造されているかというと、外に無限軌道の素材が”刺さってる”からこれも流用なんだろう。
だが、流石に製造能力的に限界だろう。これ以上に大型が出てくるとは思えない。
あとは門番と修理中のドラゴン以外に居ないだろう。
疲労度合いで言えば俺以外は全員疲労が溜まっている状況だが、ドワーフ共は中身も機体も限界である。外の戦闘の時点で機体の腕とか足とか壊される激戦を繰り広げてたからな。
だが中枢を守る門の、その鍵穴の解放まではきっちり終わらせた。もう休んでもいい。
まぁ、休ませて貰った分、給料分くらいはしっかり働くぜ。
──給料?
「出す! 出すから! やる気出してくれカラスさん!」
セドリック。いいやつだなお前は。
ヴァレリアン卿に偵察任務ってことで出されただけだから、この塔の攻略は無給になるところだった。修理費もろもろを考えると戦利品だけでは賄えないんだよな。傭兵も辛い。
ヴァレリアン卿には本当に酷使されているな。ここ一月あまりは騎士サマをスポンサーとして戦い続けていた気がする。もう少し出してくれないものかね。
ふと思ったが、この前にタコ野郎と攻略していた不自然にドラゴンが生産されていた塔を思い出した。
あの塔は、ここの指揮官がドラゴンの生産拠点として調整していたのかもしれない。
あの塔の統制の取れた戦い方は指揮官の指示が存在していたのだとすると納得できる。
ゴブリン達との戦いもそうだ。あれは指揮官が倒れたことにより統制が取れなくなったゴブリンが略奪に走った結果なのかもしれない。
すべて仮説でしかない推測だ。
だが、一連の流れが少し見えてきた気がする。
そう考えると、俺はこの一月あまり、指揮官の存在から発生する事件に巻き込まれて戦い続けていたのかもしれないな。
そろそろ終わりにしたいところだ。
*
トランクが突然逃亡した。
思えば始まりの合図はそれだったのかもしれない。
下層で”休憩”しているハレーと合流するために待機し、門番との対決と考えて最後の補給をしていた所だった。
天井が割れ、そこから漏れだした光の本流が──すべてを”切り裂いた”。
戦闘で高ぶったままだったドワーフ達は、その異変に一瞬で気が付いた。
崩れた盾と、ロードマンティスの装甲板を抱え、アタックチームの三機と”天井”の間に割り込んだ。
俺たちを守るために、だ。
そして、光の本流の直撃を受け──
爆散した。