塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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本作はSFです


28話:雨乞

 バカなんじゃねぇの?

 

 ハレーは中の通路が使えないから、この塔の外壁を登ってきたらしい。

 いや、俺も【オンボロ】使えば出来るだろうけどさ。

 

 崩れた青い”壁”は焼ききれ蒸発し、嗅ぎ慣れた循環液の蒸気の匂いがした。

 なぜその匂いが漂っているのかさっぱり理解できない。

 

【トライヘッド】は静かに佇み、指揮官を一瞥。

 そしてそれを無視し、竜が舞い、欠けた月が浮かぶ空を見上げて言った。

 

 

 

「雨乞いをする」

 

 

 

 ──なんだって?

 

 なにか呪術的、宗教的な単語が聞こえた気がするんだが、聞き間違いだろうか。

 

「雨乞いだ」

 

 聞き間違いでは無かった。

 

 何?

 何を言っているんだ?

 

「嵐の中では竜はその吐息を放てない。合理的な選択だと思うが」

 

 いったい何が合理的なのかがさっぱりわからん。

 ハレーは親方とは別の意味でまったく常識が通じない。

 あまりにも文化が違いすぎて、相変わらず言葉は通じるのに話が通じない。

 

「残骸の脳漿を討つは、戦士カラスと騎士殿、そして精緻なる針子殿が居れば充分。

 オレが竜を止めれば、自ずと押し勝てるであろうよ」

 

 あのさ、セドリックもスナイパーネキも行方不明なんだが──

 本当に聞こえてる?

 

「今は雌伏の時でしかない。すぐにでも参じるはずだ。

 戦士カラスよ。オレは宣言した。時を稼ぎ、竜を止める」

 

 ハレーは勝手に話をまとめ、【トライヘッド】を走らせた。

 

 待て。勝手に話を進めるんじゃない。

 そもそも“今”が危ないんだろうが!

 

「承知している。故に、騎士が来るまでオレが囮となれば良し」

 

 その瞬間、指揮官が動いた。

 新たな手勢である【トライヘッド】を脅威と見たのか、ハレーの意図を読んだのか──判断はつかない。

 だが、ターゲットが明確に切り替わった気配だけは理解できた。

 

 ハレーは足を止めないまま、指揮官へ正面から飛びかかる。

 

 光の輪が鞭のように──しなる前にその根元を、右手の盾で強引に押し潰す。

 焼き付く音と閃光が弾けた。

 

 同時に、抑えたまま身体を回し、左肘──展開されていない蛇腹剣による刺突。

 だが残った光輪がそれを弾き、甲高い金属音が響く。

 

 

 指揮官は、微動だにしない。

 

 

 距離が近すぎて【トライヘッド】への狙いをつけることが出来ず、タイミングを見失った竜の狙撃は止んでいる。

 竜型光熱砲(ドラゴンブレス)は威力が強すぎる。指揮官への誤射を恐れたのだろう。

 

 そうしている間に、中層の瓦礫の山を突き抜けて何かが昇ってきた。

 

「──ふざけるなよスクラップ。何度も僕をコケにしやがって──!」

 

 セドリックの声が響いた。ブチ切れてるな。

 

【エスクワイア】は右肩の誘導弾を失っているが、それ以外の武装は健在だった。

 しかし全体的に崩落の巻き添えを食らったらしく傷つき薄汚れている。

 

 ──状況説明! 外装完全復活! ドラゴン全機、上空で狙撃体制!

 ハレーに作戦あり! 自由にさせろ! 機動を切らすな!

 

「──ッ、了解!」

 

 即座に状況を把握したセドリックは指揮官の外装を中心として旋回し始めた。

 重量級である【エスクワイア】は移動した状態でなければ竜型光熱砲(ドラゴンブレス)を回避できない。

 

 俺も動き出す。

 呼吸を整え直す余力が生まれた。

 ドラゴンの位置を確認しながら【ドグウ】への攻撃のために【エスクワイア】と逆方向に機動し、挟み撃ちをする形へ移行した。

 

 

 ハレーを信じ、自由にさせる。

 

 

 ハレーは言動も行動も信条も、何もかも理解できない存在だ。

 ──だがまだ、嘘は一度もつかれたことはなかった。

 

 

 なにか状況を改善させる行動を成し遂げるはずだ。

 今まで勝手な行動をし続けていたが、すべて結果を残してきた。

 それを信じ、指揮官を抑えるのが今、この場で俺が実行すべきことだ。

 

 

 俺とセドリックは同時に攻撃を仕掛けた。

 

 反動は強いが威力は頼りになるライフルマンの砲による【ガトリングクラブ】の砲撃。

 電磁加速した弾丸を投射する、重リニアライフルによる【エスクワイア】の射撃。

 そのどちらもが光の輪の前に阻まれ割れた音と共にその威力を散らしていった。

 

 攻撃はただ消えた。

 かすり傷どころか衝撃を与え動かすことすらできない。有効打である感触が無い。

 

 しかし、今この状況においては牽制に等しい意味合いしか無い。

 

 

「退け遺物よ──!」

 

 

【トライヘッド】はその場で鋭く回転した。

 

 

 テイルスイング。

 

 

 ドラグーンの三分の一近い質量を用いたバランサーである尾を利用した強力な打撃である。

 中型機である【トライヘッド】とはいえ、純粋な質量差で考えると大型機である【ガトリングクラブ】の鋏よりも重量的に重い一撃だ。

 その大質量が、【ドグウ】へと叩きつけられ、鈍い打撃音とともにその巨体を揺らす。

 外装の一部が、ぱらりと乾いた音を立てて剥がれ落ちた。

 

 

 ──通った!

 超至近距離ならば攻撃は有効になるのか。

 いや、あの光の輪で防御しきれなかっただけかもしれない。

 

 砕けた指揮官は、完全にハレーを最優先討伐対象として睨みつけた。

 

【ドグウ】の薄い眼から十字に閃光が煌めき、光が迸った。

 次の瞬間、【トライヘッド】の背面装甲を焼き焦がし貫き、白煙が吹き上がった。

 

「──ガァァッ!」

 ハレーが唸った。

 

 

 ──なんて威力だ!

 

 

 

 その攻撃速度は対人レーザーのそれだが、しかし威力が段違いだ。

 ジェネレータ三基構成の【トライヘッド】のコアフィールドの防御を貫く威力が、対人レーザー如きで出力された。

 俺達がコックピット付近に直撃を食らうと、そのまま"中ごと"蒸発する可能性すらあり得る。

 

 それよりもハレーは大丈夫か。

 ドラグーンの操作システムは機体ダメージが操縦者にリンクしている。

 凄まじい激痛が走っているだろう。

 だが、ハレーはそれでも刹那の時しか動くことを止めなかった。

 

「──任せた!」

 

【トライヘッド】はその痛みを抱えたまま、【ドグウ】を通り過ぎて”門”へと走り出した。

 俺達が、ハレーを援護しようと即座に接近して近接戦を挑んだからだ。

 

 ハレーは俺達を信じた。

 

【エスクワイア】がレーザーブレードを振るい、【ガトリングクラブ】が左の大鋏で殴りかかる。現状は何がなんでも接近戦を挑むことによる勝ち筋を信じる以外の方法は存在しない。

 

 なぜなら、ドラゴンからの支援砲撃は無い。

 接近戦で【トライヘッド】を捌けず、ドラゴンを支配している状況で戸惑わせていたのが証拠である。

 

 

 指揮官は”頭が悪い”。

 

 

 正確には、行動と制御命令の並列処理を苦手としている。

 ドラゴンに正確な行動を命令しながら、自身も至近距離での攻撃を捌き続ける──

 そのような多重処理は指揮官には難しい。

 そもそも後方で戦術戦略を考えるやつが、別に戦闘による思考速度まで早いわけではない。

 

 だが事実、この瞬間。命令が遅れている。

 

 ドラゴンは指揮官を巻き込むことができない。

 そのため迷って攻撃を躊躇うか、離れたハレーを狙う行動しかできない。

 結果、超至近距離による格闘戦は、竜型光熱砲(ドラゴンブレス)が飛び交う戦域よりも圧倒的に”安全”な戦闘空間となる!

 

 

 

 ──足を止めての殴り合いだオラァ!

「切り刻んでやるぞ指揮官(コマンダー)!」

 

 

 

 俺達は純粋な質量の大鋏による殴打、レーザーブレードによる熱線を延々ぶち込み続けた。

【ドグウ】ユニットを守る光の輪はその姿を消していた。

 ただ単に障壁(バリア)として守る分の光輪が足りなくなっただけかもしれない。

 理由なんてなんでもいい。それはこちらに取っては都合の良い状況でしかない。

 本体を守る硬質な装甲であろうと、この蛮勇による攻撃は確実な損傷を与え続けた。

 

 だが代償は重い。

【ドグウ】ユニットが攻撃用に残した光の鞭による薙ぎ払いは俺達を容赦なく切り裂いた。

 

 

 装甲は割れ。

 四肢は削がれ。

 破損箇所から出血し。

 武器は破壊された。

 

 

 ──だが、生きている。

 

 

 竜の集中砲火に晒されることになれば瞬時に溶解することになる。ドラゴンの攻撃はハレーを狙い続け、向かう先々を焦土に変えて行ったが、俺達には降り注がない。

 命知らずの距離に居続けることこそが、最も生存確率が高い作戦であった。

 

 

 ──攻撃を続けろ! 装甲を信じろ!

 ──張り付け! 離れるな! 距離を取らせるな!

 ──思考の暇を与えるな! 竜を動かさせるな!

 ──攻め続けるぞ!

 

 

「分かってる! 聞こえてるよ! いちいち煩いな!」

 セドリックは叫んだ。余裕は全く無いらしい。

 右腕が破損し射撃武器のすべてを失っている。

 だが、その戦意が途切れることは無かった。

 

 双眸が光る。

【エスクワイア】が電磁障壁(ビームシールド)の出力を全開にして受け止めた。

 

 光の剣(ビームブレード)の一撃が上層を横薙ぎに迸る。

【ガトリングクラブ】の盾鋏はその熱線を反らし防いだ。

 

 

 削り、削った。

 削られ、削られた。

 

 

 相手は一撃でこちらを屠れる。

 しかし、こちらの攻撃は衝撃を与え表皮を削ることしかできない。

 コアフィールドの出力差が段違いだ。シャード何個積んでるんだこの化け物は!?

 

 ──まだか! まだなのかハレー!?

 

 俺は叫んだ。

 門への道は焼け爛れている。

 その姿を見ることは出来ない。

 しかし、すぐに答えは返ってきた。

 

 

「──待たせた」

 

 

 ハレーは上層の門の奥。

 中枢コアが存在している空間にたどり着いていた。

 

 

 *

 

 

 制御室は外の喧騒が聞こえぬような静謐な空間である。

 

【トライヘッド】は中枢コアの上に跨った。

 

 背面に取り付けられていた”竜血槽”を両方とも”もぎ取った”。

 そして、それを掲げながら両手で”圧し潰し”た。

 

 いつの間にかタンクの中に込められていた循環液の色は、緑と青。

 それが【トライヘッド】に降り注ぎ、その下にある中枢コアを染め上げた。

 

【トライヘッド】が吠える。

 金属音が制御室に響く。

 

「兄よ、妹よ。ぬしらの心臓を喰らいし咎人が血を捧げる!」

 

【トライヘッド】が唸る。

 循環液の匂いが空間を支配する。

 

「その鼓動を再び示し権能を我に与えたまえ!」

 

【トライヘッド】の背面、”竜血槽”があったところから、何かが飛び出した。

 シャードジェネレータだ。赤と青のジェネレータが激しく灯り輝き、脈動した。

 

 

 

「”支配せよ”」

 

 

 

 心臓が止まった塔が。

 

 その鼓動を再び動かした。




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