塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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※この世界に魔法はありません。


36話:友情

「──銃弾などではオレは殺せぬよ──」

 

 ハレーは、微動だにしなかった。

 嘘だろ!? スクラップにも有効な威力の口径だぞ!?

 

 頭部、胸元、腹部に撃った弾丸はハレーに全て命中している。

 この距離では回避など不可能だ。

 

 しかし──

 

 ──なんだあれは。

 

 ハレーの皮膚のすぐ外側で、銃弾が“止まっている”。

 いや、正しくは──“受け止められた”!

 

 勢いを失った弾丸が地面に落ちる金属音。

 同時に、パシャッと液体が飛び散る音。

 

 ──水? いや──循環液の匂い──

 

「我が権能は【流体操作】。

 兄より受け継ぎし権能は【状態変化】。

 故に──“血を盾に”すれば、銃弾程度を止めることなど容易い!」

 

 生身で出来るのか──!

 驚いている俺にハレーは即座に行動した。

 

 ハレーに殺意はなかった。それだけは感じた。

 だが瞬間、溢れ出した闘志を抑えきれぬように。

 “蒸気をまとって”ハレーが瞬時に回転した。

 

 

 ──テイルスイング。

 

 

 動揺していた俺は、その尾の一撃を腹へとモロに食らった。

 

「そして、妹より受け継ぎし権能は【燃焼】。

 血を燃やし、膂力へと変貌させる秘技。受け止めよ──!」

 

 ボキボキと骨が折れる音。

 全身がひしゃげるような衝撃。

 吹き飛ばされ、まるでボールのように地面を転がった。

 

 ──ガッ、ハッ。

 

 息が出来ない。凄まじい衝撃と”熱”だ。

 常識外の暴力を受けた身体が、バラバラになりそうだと悲鳴を上げている。

 

 ──だめだ、立ち上がることは不可能だ──

 

 地面に倒れたままの俺のところへ、ハレーが静かに歩み寄ってきた。

 このままでは一切の抵抗が出来ず殺される──

 

「誤解があるようだ。オレに貴様を陥れるつもりはなかった。だが──」

 

 その声に怒りは無い。

 あるのは、戸惑いと、僅かな困惑だけだ。

 

「先に手を出したのはそちら故に。

 ──あばら程度は許せよ」

 

 ──これあばら程度で済んでるかな──

 

 

 *

 

 

 ちょっと待って。

 多分これ、内臓の何処かが破裂してるわ。

 

 立てん。

 血が口からドボドボ出てる。

 あらやだ、これ死ぬんじゃね?

 

 ハレーにはこれ以上追撃する気は無いらしい。

 なら遠慮なく──

 

 えいっ!

 

 俺は気合いを腹部に込めて、意識を集中して。

 

 ──”潜り込んだ”。

 

 肉をすり抜けて、内臓に意識を捉える。

 あー、ここに骨突き刺さってんじゃん。やべぇわ。

 

 俺は手も動かさず、意識だけで骨をつまみ、動かした。

 

 

 痛っっっっっっっっってぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

 

 全身が激痛で跳ね上がり、意識が飛びそうになる。

 だが、それでも骨を動かし、押し込んだ。

 

 ぐぇぇぇぇぇ──

 

 激痛に耐えながら、なんとか骨を戻す。

 そして破れている何かを意識だけで閉じた。

 

 痛いよぉ──

 

 涙が自然と出る。マジで痛かった。

 汗もドバドバ出ていて、身体が冷える。

 ふぅ。だが、とりあえず死ぬことは無くなったと思う。

 しかし、安静にしないとマズイな。

 

 ──当分酒は飲めそうに無い──

 

 

「──水、飲むか?」

 

 

 ああうん。ありがとう。飲むわ。

 ハレーは腰に付けていたボトルを渡してくれた。

 

 俺が襲撃側であって、愚かにも返り討ちにされただけなんだが──

 ハレーはなんだか凄く優しかった。

 

 *

 

「オレは暴いてはならぬ秘密に触れてしまったようだな」

 

 あー。うん。そうだよ。

 運ばれた俺は、動けない身体でヴィーグルを背もたれにして、ぐったりと座っていた。

 痛みも酷いし、動くと内蔵の傷口は遠慮なく開くだろう。

 俺の修復速度は異常に早いとはいえ、骨折も内臓損傷も治療ポッドを使った方が良いレベルのダメージだ。

 

 このまま殺意があれば、ハレーはなんの問題もなく俺を処理できる。

 それをしないということは害意は本当に無いのだろう。

 

 早とちりしたな──いやほんと。次は抑えよう──

 

「ならば、その秘密は同胞の中では秘密では無い。警戒せよ」

 

 俺は、ハレーの言葉に違和感を覚えた。

 まるで、それが当然の事実であるかのように──

 

「湿原と密林の奥、リザードマン達の女王。

 

 ──それも【天使】故に」

 

 ──なんだって。

 

「いずれ、貴様を密林の奥へと導こう。それがオレの使命でもある。

 だが、今はその時ではない。オレではなく、お前に優先すべき騒乱があるはずだ」

 

 何を言っているのか、何も分からない。

 俺はハレーの文化のことを、何も知らない。

 あまりにも常識と、生きている世界が違う。

 

 だが、ハレーは適当な事は一度も言ったことは無い。

 

「二度と、貴様を【天使】などとは呼ぶまい。

 “戦士”カラス。オレが礼を失したのだ。この戦いは水に流して欲しい」

 

 ハレーは俺を許した。

 いや、突然攻撃したのは俺なのに、自分が悪いとすら思っているようだ。

 怯える獣を無邪気に刺激してしまった感覚なのだろう。

 

 ──すまない。愚かなことをした。許してくれ。

 

「許そう。俺が戦士カラスを理解出来ていなかった。それだけのこと」

 

 そして。

 

「また会おう。友よ」

 

 こんなことをしても、友と呼んでくれた。

 本当に、愚かな事をした──

 

 

 

 

 そうしてハレーは機体へ戻った。

 荒野へ、ゆっくりと踏みしめるように。

 孤独な旅を続けねばならぬ巡礼者のように。

 ──俺を置いて【トライヘッド】は旅立っていった。

 

 

 *

 

 

「うわどうしたんですか!? 戻ってこないと思ったらボロボロじゃないですか!」

 

 血みどろの泥だらけの俺を見てコテツはビックリしてた。

 ハレーを送りに行っただけで一晩近く動けなかったからな。

 油虫型(コカローチ)スクラップに回収されかかるしで危なかった。

 軽くあしらったけど死体と勘違いされてたっぽい。

 

 ──ハレーとちょっと決闘してね。一撃で負けちゃった。治療ポッド使わせて。

 

「嘘ですよね、カラスさんって負けるんですか?」

 

 ──しかも自分から仕掛けて負けるとか、恥以外の何者でも無いわ。猛省している。

 

「しかもリザードマン相手に自分から仕掛けたんですか!?

 正気です??? 自殺願望でもあるんですか!?!?」

 

 やっぱり正気じゃなかったよな。

 

「タコ社長に報告しますからね! 二度とやらないで下さいよ!?」

 

 うん。二度とやらないよ。軽率だった。

 愚かなことを仕出かした自覚はあるんだ。

 

 ハレーとは、二度と戦わない。

 友達を撃つなんて、頼まれても、二度とやるもんか──

 

 

 *

 

 

「バカやん?」

 

 タコ野郎にすら言われた。ぐうの音も出ねぇ。

【バスティオン・キャリア】の治療ポッドを借りて、内臓の修復をしながらぼーっと呆けていたところに、タコ野郎が俺をおちょくりに来た。やめろ、お前の声は腹に響くんだ。

 

「あの超絶天然善人をどうやったら怒らすんや」

 

 やっぱそうだよな。

 ハレーは、善人だ。

 彼の真実は、誠実さと善性だけで出来ている好漢であった。

 ちょっと常識と価値観が違いすぎるのと、朴訥で天然で、人の話を聞かないだけで──

 いや人の話を聞かないのは結構致命的なんだがな。誤解が大きすぎる。

 

 タコ野郎はハレーの事をかなり正しく理解していたようだ。

 どういう経緯で出会ったんだ。

 

「んー秘密や。言えん」

 

 タコ野郎は触腕を組んでそう答えた。珍しい。

 この話は終わりだ、そう言外にタコ野郎が表現した。

 ハレーか、それともリザードマン相手なのか。

 何かがあったのは察せられるが、ちょっと今は踏み込むのは怖い。

 

 それよりもちょうどいいや。

 

 ──お前さ、なんで傭兵なんかやってたんだ。

 

 どう考えてもお前の天職は商人だろうに。

 

 

「んー。まあええか。詳しい経緯は省くんやけどな。カーゴキャリア買うまでは一人前と認められないオキテみたいなもんがあるんや。地元じゃ製造出来へんでなぁ。他へと出向いて、買うてくるのが実力を示すことになるんやな。ここで面倒なんは商売じゃない別のことをやれって言うんや。これがまた傑作でな、ワイらは商売が上手すぎて「そんなもんで稼げるのはわかりきってるから別のやり方を模索せぇ」なんやと。だからワイは商売以外に傭兵として活躍してるんやけど兄弟姉妹は芸術だとか工芸だとか色々やってるやで、ワイは一番手っ取り早い傭兵としてやらせてもろてるんやけどこれがまた無限軌道とグレネードの魅力に取り憑かれてなぁ。【飲んだくれ傭兵団】のドワーフにも魂の同胞が居るんやけどグレネードには絶大な魔力があるんやワイはAGに乗るのはもう一生止めれんやで」

 

 口が早口で早いわ。

 

 要点まとめていい?

 つまり、一族的に商売以外でなんとかカーゴキャリアを手に入れろってことなんだな。

 

「最初に言うとるやろ。おっともうちょっと喋り足りんか? もう一度最初っから説明したほうがええんか? オーケー任せときここで一席ワイが講演会開いたる!」

 

 やめろやめろ口を閉じろ。腹に響く。

 

 でもそっか。

 

 まだ、ギアに乗るつもりはあるんだな。

 

「当たり前やん。なんたってワイはな──カラスはんと一緒の傭兵やで」

 

 タコ野郎はニヤけた笑いで俺にウインクした。

 

 

 うわ、うぜー。

 俺は思わず笑った。

 

 

 *

 

 

 二日ほど経った。体調は万全だ。

 そういえば塔の戦いの後、俺だけ治療ポッド入ってなかったな。

 いろいろ細かい傷口とかあったし、一緒に治療してもらった。

 治療ポッドは偉大だな。だいたいなんでも治る。

 便利すぎるせいで、応急処置治療とお産以外の医療が全然発展しないとは聞くんだけどな。

 老化すら結構遅らせられるって聞くし。

 

 俺は、多分もう老いないから、関係ないんだけどさ。

 

 さて、街に繰り出そうかな。

 もう、資金管理は本格的にタコ野郎とメイド達に任せることにした。

 あのメイド達の素性は知らないが、めちゃくちゃ恐れられていて凄く忠実に働いてくれる。

 本当に俺何したん? コワクナイヨ?

 

 外縁部である第三セクターは以前とは違い、少し暗いがだいぶ活気があるようだった。

 傭兵達が戻っている。ゴブリンの王を追ってた一団がやっと帰還したのか。

 愚かなやつらだ。あいつらがまともに働いてくれていたのならば、俺たちがあんな死闘を繰り広げる必要もなかったハズなんだが。

 

 パーツ巡りでもするかな。

 それとも第一セクターまで移動して図書館へ本を読みにでも行こうかな。

 

 露天で肉詰めを買って、ブラブラしていた所、俺の横を並走する小さい姿が現れた。

 

 “デカ耳”だ。

「旦那、早急に耳にお入れしたいことが」

 

 なんだろう。売却予定だったシャード盗まれでもした?

 今の気分ならその程度の失態は全然許すぞ。

 指揮官再討伐で充分なクレジットは得れるだろうからな。

 

 路地裏に入り、”デカ耳”の話を聞いて、俺は驚愕した。

 

 

 

 

 

「騎士セドリック卿が、逮捕されました」

 

 

 

 

 ──────は?

 

 

 

 




セドリックを好きと言ってくれた方が居ましたので……ひどい目に合わせます……!

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