塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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昨日は酔っ払って投稿できませんでした。
こんなHNですが作者はお酒が相当弱いです。


57話:曲芸

 まずはエイプに対応する。

 

 ワイバーンはある意味、対処を最後に回しても良い存在だ。

 というよりは、最後に相手をしなければ他小型機の対処に回っている各員の手が足りなくなるため、厄介であろうと放置する必要がある。

 

 現状のワイバーンの行動はヒルダに砲撃を加えている。

 下層攻略のための作戦通りの行動に出てくれており、大きい障害とは言えない。

 

 そろそろ派手に小型機を撃墜しているコテツにターゲットが切り替わる可能性が高い。

 だがその場合はアルマにちょっかいを出させる指示をして、防御役を変更してもらう。

 

 この指示そのものは事前にアルマへと教えておいた。

 俺かコテツに、余計な中型~大型機のターゲットが移ってしまった場合の作戦だ。

 対象にアルマが射撃を行い、その注意を引き付け、盾で受け止めさせる方針だ。

 具体的なタイミングは俺かコテツのどちらかの指示待ち状態だが、教えた通りに実行してくれるだろう。

 

 現状でも空中はあと数機程度の数しかおらず、コテツが早いうちに空中を片付けられる。

 その後に、アルマと役割を変えて、地上機を掃討し制圧できるだろう。

 幸い、地上のビーストは半分以上が撃墜でき、また度々ヒルダが盾打ち(シールドバッシュ)を実行し弾き飛ばしている。被害は少なく済みそうだ。

 

 だが、それにはエイプをさっさと処理しなければならない。

 つい最近も戦ったが、エイプはひたすらに殴打攻撃に特化したスクラップだ。

 跳躍力と殴打力に長けているだけで、一切余計なものは何もない安上がりな中型機である。

 しかし、その分近接で盾を構えている機体に取っては非常に脅威になる。

 

 一気に跳躍して接近して、”盾”そのものに掴みかかってくる行動が最も厄介だ。

 組まれた後に、殴打による攻撃をしかけてくることで、こちらの行動を妨害することにひたすら長けている。個人的にはかなり厄介な部類のスクラップだ。

 

 俺ならば対処はできるが、新人二人はそのような格闘戦の経験は無い。絶対に混乱する。

 近接戦の処理が怪しいコテツもどうなるかはわからない。慌ててる姿を見てみたいな。

 

 ま、そんなことはさせない。被害なんか出さないに越したことはない。

 急速接近をコテツが撃ち落としている間に、ささっと撃墜する──! 

 俺はライフルによる射撃で一機の注意を引き、近接距離に突入する。

 

 ライフルを撃たなかった方も反応。

 エイプ両機が即座に振り向き、俺へと短距離に細かく跳躍して接近してきた。

 近接機は他の機体と連動している場合が多い、同時に狙いを付けたのだろう。

 

 レーザーチェーンソーを起動。

 右手のライフルは捨てる。格闘戦で長物は邪魔。

 

 

 さあ、殴り合いだオラァ! 

 

 

「なんで近接格闘機に殴りかかりに行ってるんですか──」

 コテツの嘆きが聞こえたが全無視。あーあーきこえなーい! 

 

 エイプのうち一体が接近したのをカウンター気味にチェーンソーを振りかぶる。

 胴体に綺麗に一撃が入り、その装甲を削りながら弾き飛ばした。

 流石に中型を両断は無理か。だが体勢は崩した。

 もう一体は大きく跳躍。俺の真上を取って機体に飛び移ろうとしている。

 

 させねぇよ! 

 

 シャードブースターを吹かせ、脚に力を込めてめいいっぱい跳躍。

 無手となった右手を振り上げ、対空アッパーカットで迎撃! 

 エイプの頭部を模した部位の、顎に拳が命中。

 その存在意義が不明な歯を破壊しつつ、その攻撃を完全に迎撃し、吹き飛ばした。

 着地。相手も即座に体勢を立て直した。追撃は出来なかったか。

 

 さて。距離が空いちゃったな。

 踏み込みがしづらい位置になってしまった。失策だ。

 

 知性が無いと称されるスクラップどもだが、こと戦闘においての論理は結構真っ当な場合がある。

 例えばビーストはその体躯を駆使して、跳躍しての飛びかかり攻撃を駆使する。

 地形を利用したり、回り込んだりと、この一連の攻撃動作そのもののバリエーションはかなり豊かだ。

 このように、”姿形”に合わせた”当然そうあるべき”という行動に関しては、かなり柔軟に対応してくることが多い。

 知性は無いが、姿形からくる行動だけは”トレース”している。そのような気がしている。

 エイプのように元の姿が存在するスクラップの厄介な所はそれだ。

 知識と経験を積まなければ意外なことをしてくることがあるため、慣れておかなければ大変なことになる。

 

 まぁ、ゴブリンの苛烈さに比べれば遥かにマシだ。

 

 個人的にはエイプはゴブリンの野盗どもが駆るグレムリンより、遥かに弱いと思っている。

 装甲も厚く、腕力も跳躍力も、体躯も出力も耐久力も、性能という面だけ言えば、エイプの方が上回っている。

 

 だが。

 狂気が無い。欲望が無い。苛烈さが圧倒的に足りない。

 つまり、本能が完全に不足している。

 

 見せかけだけのその威嚇は俺の心を何も動かさない。

 

 さっさと終わらせよう。

 だが、どうしようかな。

 ロケットも避けられる距離だ。距離を詰めるにも微妙だ。

 

【ハッチポッチ】のシャードブースターは低コストタイプであり、瞬発力も機動力も低めだ。

 そこそこの重さの【ハッチポッチ】を持ち上げる力は充分にあるが、距離を詰めるのにはあまり向いてない。

 エイプの格闘による反撃を許すことになる。

 

 どう対処するのがいちばん被害が少ないか──

 なんか前にも同じことあったな。そうか。だからゴブリン戦の記憶が脳裏を過ぎったのか。

 よし──同じことしよう!

 

 足元の付近を確認する。いい具合の奴があるじゃないか! 

 そこらへんに転がっているビーストの足を右手で掴んだ。

 

 即席鈍器! 足を持って振り回す! 

 おら来いよ鉄くず! 楽しい暴力をお見舞いしてやるぜ! 

 アルマ! ヒルダ! よく見ておけよ! これがギアの戦い方の真髄だ! 

 

「先程までのスマートさは一体何処に──」

「あれ真似しなくちゃいけないのかな──」

 

 アルマとヒルダがボヤいた。

 おかしいな。素晴らしくスマートだと思うんだが。

 

「カラスさんの真似なんかしなくていいですよ」

 

 なんでぇ!? 

 俺はコテツのツッコミを受けながら、シャードブースターを吹かせ接近した。

 

 よいせぇ! 

 右手に持ったビーストをエイプに叩きつけようと攻撃した。

 【ハッチポッチ】の優秀なトルクからくるモーメント力と、ビーストのしなやかな体躯。

 これらが噛み合い、強烈な打撃力を生産する。やはり鈍器! 物理法則を喰らえ! 

 

 エイプは斜めに叩きつけたビーストの体躯を避けることも反撃することも叶わず、押し潰すことに成功する。

 攻撃しなかった側の一機が即応するが──レーザーチェーンソーは起動したままだ。

 回転力を低減させ反発力を増大。振りかぶったエイプの手を下からぶち当て、上に弾く。

 弾かれた反動でがら空きになった胴体に回転力を増したチェーンソーをぶち込む。

 レーザー刃が高速回転し、その胴体をズタズタに切り裂き、両断。沈黙した。

 

 ビーストに叩きつけられた一機が這い上がろうとしたが──

 

 もう1回! ビーストを持ち上げ、叩きつけ、押しつぶした。

 

 更に1回! 押し潰した。

 

 ついでに1回! ぱらぱらと破片が飛び散る。

 

 最後に、振りかぶってぇ! 

 

 叩きつけた。沈黙。

 

 よし、二機撃破。

 

 

「──うわぁ」「うわぁ──」

 

 メイドさん二人がドン引きしたリアクションをしていた。

 おかしいぞ。【ハッチポッチ】の性能を十全に活かした戦法なんだが──

 

「カラスさん。下手なスクラップより遥かに怖いですよ」

 

 なんでぇ!? 

 

 

 *

 

 

「アルマさん。ワイバーンへ射撃実施してください。

 ターゲット移行と防御のスイッチお願いします。後の小型機は全部片付けますので」

 

「了解ですコテツさん!」

 

「ヒルダさん、アルマさんが防御移行するので、出来ればビーストの残りをシールドバッシュか格闘で叩き潰しましょう。三体ほど対応出来ますか。無理しなくて大丈夫です」

 

「三機頑張ってみます!」

 

「カラスさんは、まぁ、さっさとワイバーン叩き切りに行ってください」

 

 雑ぅ! 

 

 

 指揮がコテツ中心になり、残った小型機の掃討を実行し始めた。

 

 ワイバーンは砲撃をアルマに切り替えた。

 アルマ機も防御姿勢をとり、後はひたすら耐え続けるだけになった。これで防御を覚えてくれ。

 

 ヒルダは近づいてきたビーストを順に叩き潰している。たまに右手での格闘も混じっているな。

 

 コテツは残りのフライアイを肩のレーザー砲で撃ち落とし、右手のライフルで地上のビーストを処理しまくってた。

 なんかマルチロックオンしてない? 【オンボロ】に出来たっけ。調整したのかな。

 指揮の適正もあるし、射撃戦に関しては充分な実力があるぞ。

 うーん。なんで技術屋なんかやってたんだコイツ。

 

 さて。

 俺はワイバーンを叩き切りに行かなければならない──

 だが【ハッチポッチ】のシャードブースターの出力では途中で迎撃される可能性が高い。

 塔の下層の天上はそこまで低くは無い。

 空中機がその優位性を保てる程度には高いのだ。

 そのため、結構な高さを跳躍せねばならない。

 しかし、そこまで跳ぶなら【グラスホッパー】か【ガトリングクラブ】並の脚力が必要になる。

 だが、雑なパワーはあるが、【ハッチポッチ】にはそのレベルの脚力はない。

 

 ということで高さを稼ぐために俺はワイバーンを無視して、壁の方向まで機動させた。

 【オンボロ】と違って小型ローラー無いから少し不安だが、まぁ出来るだろう! 

 

 レーザーチェーンソーの出力を抑え、回転力を遅くし、壁に斜めに引っ掛けた。

 ギャリギャリギャリと、壁を切り裂かず”引っ掛ける”。更にシャードブースターの推力も利用。

 

 壁面を斜めに爆速で駆け昇っていく。

 

 そのまま、壁面に両足を付き、”真横”に跳躍。

 ワイバーンに飛びかかった。

 

 砲撃に夢中なワイバーンの”上”を取り、そのまま真上からロケットで砲撃。

 たじろぐが、この位置なら何も出来ないだろう。

 のしかかり、右手で組み付いた。レーザーチェーンソーの回転力を切断に特化。翼を狙う。

 

 ワイバーンは【ハッチポッチ】の重量により一気に沈み込むが、何とか耐えた。

 空中の高さを維持しようともがき、振り落とそうと暴れまわる。

 なかなか派手に暴れ回るが、【ハッチポッチ】はパワーだけは優秀だ。離さんよ。

 ゆっくりと左の翼へとチェーンソーを押し当てた。

 

 ギャリギャリと金属が焼け、破砕する音と共に、その翼をぐちゃぐちゃに切り裂く。

 

 竜のような咆哮と共に地上に落下していく。

 レーザーチェーンソー停止。両手でワイバーンを掴む。

 腕部の握力だけで、暴れ回るワイバーンを制御、膝をワイバーンの背中に固定。

 そのまま一緒に落ちる。

 

 

 落下。衝撃と堅牢な膝部でワイバーンの背中フレームを砕く! 

 

 

 沈黙。ふう。

 

 

「お二人とも。あれは曲芸だから真似しないでくださいね」

「ちょっと、本気で無理です」「やれっていっても出来ないよ!?」

 

 大丈夫。カンタンダヨー。

 慣れれば皆デキルヨー。

 

 

「冗談ですよね。まぁ、いいです。こちらも終わりました」

「動いている敵居ません」「全員生きてます!」

 

 よしよし。いい感じに終えたな。

 下層に静けさが訪れ、塔の鼓動だけが響いていた。

 

 犠牲なし。

 被弾は多いが、軽傷で済みそうだ。

 俺たちの勝利である。

 




書いている時の戦闘プランは作者ではなく、脳内カラスさん本人の提案に一存しています。
なんかこの人、昇竜拳とかしたり、スクラップ叩きつけたり、壁走りしてプロレス技仕掛けたりするんですよ……

このひと本当に曲芸技好きだなぁ……
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