塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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64話:任命

「ヘイラッシャイ!」

 

 触腕を組んで、頭にねじった布を巻いたタコ野郎が【バスティオン・キャリア】の一室で待ち構えていた。

 呼ばれた部屋はタコ野郎が特別に作り上げた調理室らしい。

 じゅうじゅうと熱された鉄板、焼け煙る油と香ばしい跳豚肉の匂いが漂っていた。

 カウンター席には今回塔の攻略に参加した面々と、経営に関わった人物が一通り揃えられていた。

 

 鉄板の微かな声を逃すまいと集中していたタコ野郎は、目をカッと開き触腕に2本のヘラを持ち、素早く劇的にひっくり返した。

 

 ”たこ焼き”が宙を舞い、その美しい形が未だ存在することを世界に示した。

 

 タコ野郎は調理を続け、ソースを塗りたくり、様々な貴重な海産物のトッピングを惜しみもなく搭載。

 別途焼いていた、ソースを絡めた茹で麺を下地にし、ツチノコ卵を鉄板で焼いたものを上に乗せ、皿に乗せて俺に渡した。

 

「へいお待ちぃ!」

 

 

 ほかほかの”たこ焼き”だ。

 旨味溢れる香りが俺の食欲を強烈に刺激する。

 

 

 えっ。なに? これ?

 

「なんとか危機を乗り越えた記念祝いや〜!」

 

 タコ野郎は主要メンバーの結束を高めるために、自慢の”たこ焼き”を振る舞う食事会を開催することにしたらしい。

「「「「今回も生き残った祝いで、カンパーイ!」」」」

 

 ドワーフどもは隔離されたテーブル席でガンガン酒を飲んでいた。

 

「おー、これが伝説の! 熱ッ!」

「ヒルダ落ち着いて。冷ましながら食べなさい」

 

 メイドふたりも美味しく”たこ焼き”を食べていた。

 グラハムとセドリックも静かに食事をしており、なんかそういう空気なのだろう。

 

 まぁ、そういうことなら俺も遠慮なく頂くことにしよう。

 タコ野郎から勝手に渡された”たこ焼き”をヘラで切り分け、ふぅふぅと冷ましながら食べた。

 香ばしい匂いと複雑な旨味のソースが口の中で混ざり合う。

 うーん。絶品。相変わらず飯に妥協しないな。

 

「わざわざこんな部屋を作ったくらいやからな!」

 

「どう考えても社長の趣味部屋ですが、購入者本人の意向なので何も言う権利はありませんね。

 あ、僕エビ多めのトッピングでお願いします」

 

 コテツが呆れながら席に座った。

 戦いが終わったあとの思わぬ豪勢なディナー会となった。

 

 *

 

「黒字や〜」

 

 食事がひと段落付き、鉄板室で食事をしながらそのまま会議が始まった。

 

 そりゃあそうだろうな。あれだけ苦労して、解体関係の権利を失ってでも得た即金だ。

 それでも足りないとかほざいても、これ以上俺たちに出来ることはなかった。

 

「最悪今月を乗り切れば良かったんや。あとはワイとカラスはんならどうとでもなる!」

 

 やっぱ俺巻き込むの止めてくれない?

 コテツが油が飛び跳ねないように書類を隠し持ちながら、ざっくり会議の進行をした。

 

「これでやっとまともに事業を稼働できそうですね。

 基本は運輸をしていきます。要塞街の製造した機械、部品を農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)へ持ち込み、食料品と入れ替えて資金を稼ぐ方針です」

 

 農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)

 略して農連と呼ばれる小国家連合である。

 大穀倉地帯や牧場を抱えているようなやつが相互補助しており、この荒野の地域一帯の中では、塔への依存を減らし自力で食料を確保しようとしている凄い奴らだ。

 

 だが、工業面では遅れを取っており、自前で生産することはせずに、装備を各地から集め食料と交換したり、傭兵を活用することでなんとか各襲撃から身を守っている。

 

 次のグラハムが話を続けた。

「傭兵も不足しているらしい。そこの酒浸りどもには駐留してもらうことになる」

 

「農連は飯も酒も美味いから喜んで引き受けるぜ!」

「だが機体は兎も角、装備は回せよ。補給無しでなんとか出来る弾薬は必須だ」

「護衛は射撃武器無いと、ちょっとどうしようもないですからね」

「【ハッチポッチ】は意外と悪くねぇ。弾がありゃなんとでもならぁな!」

 

 がはははは! とバカ笑いしながら酒をかっくらい”たこ焼き”を頬張るドワーフどもは、駐留するのに最適なベテランどもだ。

 はっきり言って【飲んだくれ傭兵団】は傭兵達の中でも上澄み側の戦力である。

 適切な装備さえあればだいたいどんな状況でも戦っていける強力なチームだ。

 

 グラハムが度々食事をしながら、話を続ける。

「今回の攻略で得た資金で機体修理と、装備更新だけは実施する。

 機体更新は出来ないが、貴様らの装備は万全に整えられるだろう」

 

 それって全員分か?

 俺の問いかけに調理し続けているタコ野郎が答えた。

 

「ドワーフ全員分は早急に揃えるやで。他はざっくりや。

 コテツはん、メイドおふたりどないしますん?」

 

「僕は【グラスホッパー】にエネルギー兵装を付けて使いますよ。

 どうも僕は重量機があまり使えなさそうです。軽い機体で防衛に徹します」

 

「射撃兵装を充実させて欲しいです。重めの砲を練習したいですね。

 機動はまだ下手なので、盾は頑丈なものを用意して頂きたいです」

 

「ガントレット! あと狙わなくても当たる武器!」

 

 コテツ、アルマ、ヒルダの順に答えた。

 

「おっ、メイドの嬢ちゃん、格闘に目覚めたか!」

「カラスが言うには、ギガースと足止めて殴りあったってよ!」

「わはは、そりゃすげぇな! 気に入ったぜ!」

「おう嬢ちゃん! 近接の極意を後で教えてやるよ!」

 

 ドワーフの前衛二人がヒルダの豪胆さを褒めたたえた。

 熟練の近接巧者のこいつらのレクを受けるのはありだな。

 

「射撃! オートキャノンもいいがやはりマシンガン!」

「グレネードか、あるいはグレネードか、もしくはグレネードがいいですね!」

「短距離仕様もいいが中距離の火砲もあるぜぇ!」

「中距離制圧用の手持ち式も良いですがなんと言っても肩装備の大火砲! これは浪漫ですよ!」

 

 変態武装中毒の危険人物二人がアルマを魔道に誘った。やめれ。

 熟練の射撃巧者であるがこいつらのレクを受けさせてはならない。

 

 アルマもヒルダも困惑した顔で返答を避けた。

 正しい反応だ、酔っ払いの戯言だと思って聞き流してくれ。

 

「ま、そのあたりの装備はできる限り揃えるやで」

 

 タコ野郎がおかわり分をドワーフどもの所に運びながら答えた。

 

 装備の話なら残りも片付けておこうぜ。

 俺と、セドリックと、グラハムと、タコ野郎は?

 

「ワイのAGは修理後回しや。

 せっかく処置したのにドラゴンとのドンパチでまたオシャカや。

 しゃーなし、今も固定砲台にはなる。弾薬補給して大人しくキャリアのお守りするやで」

 

 ふーん。まぁ仕方がない。

 確かに、修理最優先は配属されるドワーフどもの【ハッチポッチ】だろう。

 タコ野郎は会社社長として乗る機会が減ってしまっているし、単に整備順序の問題もある。

 修理費の捻出も後回しにされちゃっただろうからな。

 

 次にセドリックが口を挟んだ。

「騎士組は事情が特殊だ。まず、僕は【エスクワイア】のパーツ交換が終わる。

 あそこまで壊れたんだ。逆に割り切ってパーツ交換で済ませられた。

 後は、ジェネレータのメンテナンスだけで一段落だ」

 

 グラハムがバツが悪そうに答えた。

「私は──乗る機体が、無い。【クロスガード】は使えん」

 

 ん? 修理してたんじゃないの?

 

「外征に出るための許可が降りていない。

 私は騎士団から離れては【クロスガード】に乗れんのだ」

 

 あー。騎士の外征許可か。そんなもんあったな。

 騎士は要塞街(アイアンホールド)に強く紐づいた存在だ。

 それが、外に出て活動するためには街側からの許可が必要なのだ。

 最低でもジェネレータ二基構成機、騎士でいう鎧機(アームズ)を扱うのは許可制となっている。

 

 というか許可降りないってなんだよ、

 現にセドリックは戦争に参加出来ていた。よほどのことが無い限り簡単に降りる。

 外征騎士の許可更新が出来ないようなこと──グラハム卿は一体何を──

 

 

 あ、反乱か。

 

 

 うん。そりゃ無理だ。残当。

 

「故に、融通可能な機体を使わせてもらおう」

 

 ふーん。【クロスガード】も強力な機体なのに使えないのは勿体ないな。

 装備はかなり短距離でまとめられているが、二基構成機の中でも強力な機体だろう。

 

「ならカラスはん、乗る?」

 

 おっと。流石に都市外で堂々と乗り回すのは後が怖い。

 【ハルバード】使った身で言うのもなんだが、騎士じゃないのに使うのはよくねぇよ。

 都市間同盟法を指摘されたら経営にも響くだろ。

 

 

「いや? カラスはん。あなた、外征騎士やで」

 

 

 は?

 

 

「ほい任命通知書」

 

「こんなところで出すな馬鹿者。油が跳ねるだろうが!」

 

 グラハム卿が怒鳴った。そうだよこんなところで出すなぁ!

 なんか知らない書類に知らん印が押されてるぅぅ!?

 

「おお──王の承認だ。これは貴重だぞ」

 

 エルドレイン王──―なにしてんの!?

 

 

 *

 

 

『わが親愛なる伯母上殿へ』

 

 

 おっといきなり喧嘩売ってきたなヴァレリアン卿。

 なんかその後も季節がどうのこうの長いぞ。読み飛ばすか。

 

 俺は、【バスティオン・キャリア】の談話室で、手紙を読んでいた。

 優雅にメイド二人を侍らせて、お茶を飲みながらゆっくりと文字を読み進める。

 騎士サマから送られたこの手紙は、俺の立場に関する経緯を記載した文書となる。

 

『エルドレイン王が積極的に動いたため、有無を言わさず認められることとなった。

 君は私の親族という扱いになり、この街の騎士としての地位を得ることになる。

 それに伴い外征の許可を私が承認させて頂いた』

 

 ふーん。何かの策略が動いてそうで嫌な情報だが、経緯は判明した。

 

 

 俺は騎士になったらしい。

 

 

 一切、俺の了解を取られていないという点が相変わらず非常に問題があるが──

 タダで使い潰せる立場をくれるというのであれば、遠慮なく使わせて貰おう。

 

『また、順番は逆になるが、要請があった二名に関しては問題なく受理させていただいた。

 試験監督の実績充分な君が認めた段階で、私が追認し資格を得ることとする』

 

 ふーん。これは純粋に良かったな。

 アルマ、ヒルダ。ちょっといい?

 

「御用ですか」

「はーい。なーにカラスさん」

 

 

 キミら、騎士になりました。

 

 

「「はい?」」

 

 メイド二人が声を揃えて言った。寝耳に水の情報だったらしい。

 

 いや、だってさ。塔攻略したじゃない?

 貴族の血筋の子が、基礎訓練受けてる状態で、塔の攻略を実行できた。

 騎士の条件を満たしてるよ。実力も実績も不十分だが、資格としては問題ない。

 

 

 試験監督、俺。

 承認者、ヴァレリアン卿。

 

 

 外征許可は無いけど、要塞街に戻ったら鎧機(アームズ)乗れるよ。

 

 

「全く実感がありません」

「全然納得ができないです」

 

 

 そんなもんだよ。まぁ受け取っておきな。

 経緯も判明したし、メイド二人に説明も済ませた。俺の仕事は終わりだ。

 今日も茶が美味い!

 

 

 しかし、当分俺が乗る機体は【クロスガード】になりそうだ。

 ちょっと装備に不満があるから、親方に頼んでちょっと装備作ってもらおう。

 そもそも、【八本脚運輸(オクタライン・ロジスティクス)】はともかく、俺そのものには資金がある。

 やっと、指揮官討伐の塔攻略における資金の精算が終わったし、未払いだったセドリックからの依頼金も得られた。

 親方に頼んでいた【ガトリングクラブ】の修理にかかる費用と、追加の装備新調程度なら全然出せる金額だ。【バスティオン・キャリア】の移動のタイミングで拾わせて貰おう。

 

 これで、心置きなく農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)に行ける。

 

 

 輸送船の紐づけの傭兵だから、当分護衛任務を熟して、ゆっくり稼げそうだな。

 機械弄りとメイド二人の訓練しながら、のんびり過ごそう~。

 

 




ミッション終わりです。以降、当分ゆったり進行です。
当分3日~4日のペースくらいで投稿していきます~。
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