塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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一般商人と情報屋視点のお話です。


風評話:調査

 要塞街(アイアンホールド)の第三セクター。

 

 重工業製品を扱う商人である私は、傭兵が集まるような寂れた酒場を訪れていた。

 

 店内は少し暗く、客も少なめだ。

 傭兵崩れの労働者のような連中で賑わっていた。

 商人である私を排斥するような視線は無く、ただ繁盛しているだけだろう。

 少なくともここを根城としているような雰囲気ではなかった。

 

「よう、ここだお客さん」

 内偵を頼んでいた情報屋が私を席へと誘った。

 相変わらず軽薄そうで抜け目のない顔をしている。

 毎回妙な店を指定されるが、ハズレの場所に呼び出されたことはない。

 今日も食事を楽しみにさせてもらっている。

 

「ここは店主の愛想は無いが、結構良い酒出すんだぜ。どうだい一杯頼むか?」

「いや、いい。昼間から酒を飲んでは仕事に差し支える。

 冷やかしじゃあるまいし、オススメを頼むさ」

「真面目なことで。なら特性ロブリャカレーがオススメだな。絶品だぜ」

 

 おお、カレーか。それは注文せねばならない。

 注文して直ぐにカレーと平焼きパンが用意された。

 海老がごろりと入り、塔産のスパイスがふんだんに使われたカレーだ。食欲をそそる。

 なるほど、見た目に反して良質な店なのだろう。

 私は食事しながら、情報屋に話を促した。

 情報屋は封筒を取り出すと、そのまま机の上へと置いて渡してきた。

 

「さて、これが【八本脚運輸(オクタライン・ロジスティクス)】の情報だ。

 お客さんアイツらと事を構えるつもりか?」

 

「いいや、ちゃんとした取引だよ。だが事前調査は入念に行いたい。

 以前厄介な傭兵に絡まれたものだからね」

 

 情報屋の男は塔産の煙草に火を着けて味わった。芳醇な香りだ。羽振りが良いのだろう。

 

「ああ、なら良かった。取引なら悪くない相手だ。

 まだ実績は少ないが、悪名高いあの"タコ野郎"がトップを張っている。

 手数料は取られるが、確実に儲けられるぜ」

 

 ロブリャの肉を平焼きパンの上に乗せ、がぶりつく。

 プリっとした弾力ある身にスパイスの刺激がよく絡みついている。

 パンも味気なく硬いものではなく、風味を感じられ良質な味わいをしていた。良い店だ。

 

「美味い。相変わらずいい店を選ぶね」

 

「店選びは情報屋の嗜みだよ。お気に召したらなによりだ」

 

 情報屋はにやりと笑った。どうやら私の賞賛に気分を良くしたらしい。

 

「タコ野郎本人も傭兵として破格の強さだが、それを抜きにしても抱えている護衛の傭兵の質も高い。あの精強な【飲んだくれ】のドワーフ共もここに属している。

 それよりも重要なのは、あの根無し草の"カラス"が遂に巣を張ったって噂だ」

 

 カラス。噂に聞く名前だ。

 

「"カラス"か。気難しく群れないことで有名だが、凄腕の傭兵らしいね」

 

 情報屋の男は、煙をゆっくりと吐いた。

 店の天井を見上げ、煙の行先を眺めているようだった。

 

 

「凄腕なんて生易しいもんじゃねえ。化け物だよ」

 

 

 目の前の男は元傭兵だ。傭兵時代の伝手を使った情報収集能力は高く、商取引の前準備として良く利用させてもらっている。

 

「それほどなのかい?」

 

 情報屋の傭兵としての実力は、本人曰くそれほど高い訳では無いらしい。

 しかし、その言葉は真に迫っていた。

 

「最低でも竜狩りで指揮官殺し。そしてこの前の第七セクターでのドンパチの時に居たらしいが、たった一機だけで十四機ものギアを撃破したって噂だ」

 

「十四機」

 

 耳を疑うような冗談のような戦果だ。

 ギアは強大だ。一機だけでも街を破壊するのに充分な力を持ち、ビルを容易く飛び越える足で走り、そして生身で対抗するのは不可能なほどの防御力を誇る。

 

「噂にしても盛りすぎだろう」

 

 ギア同士の戦いでもその防御力を貫くのは難しく、お互いが損耗する削り合いになるのは一般市民からしても常識だ。

 例えどれだけベテランであろうとも三機を越えて相手をするのは不可能──

 

「詳細はゴブリン共が口を噤んでるが、俺の勘だと真実だ。断言できるぜ」

 

 だが目の前の情報屋はそれを全く疑っていなかった。

 

「敵に回すな。タコ野郎もヤバいが、カラスはもっとヤバい。

 何しでかすか分からねえ。油断すると根こそぎ啄まれるぜ」

 

 男は私への親切心か、かなり強く忠告した。

 

「大丈夫だ。そもそも取引相手として適切か見定めてるだけだ。

 傭兵が強いなら航行途中の襲撃で物資紛失のリスクが抑えられる。願ったりだよ」

 

 情報屋はタバコを吸いつつ、麦酒を注文した。

 アルコールは抑えめで、仕事中に飲む労働者も多いドリンク代わりのものだ。

 

「気をつけろよ。【八本脚運輸(オクタライン・ロジスティクス)】には外征騎士も居る。

 この前の処刑騒ぎで放送された”セドリック卿”が在籍しているんだ」

 

「あの処刑報道の時のか。

【ハルバード】と【クロスガード】が映し出されたあの映像は衝撃的だったね」

 

「ああ、あれはかなり不可解な状況だったな。

 だが、同業者の”デカ耳”ってゴブリンが放送局も新聞も巻き込んで情報を封鎖してやがる。

 相当カネが動いてやがるぜ。全く手出しができねぇ」

 

 皿に残ったカレーをちぎったパンで拭い取りながら食べる。

 

「君が手出し出来ないというのならば相当だね」

 

「いや、俺と比べたら”デカ耳”の方が格上だ。あいつは貴族とも繋がりが深い。

 これ以上調べるってなら危険な橋を渡らなきゃならないからな。

 秘密裏の作戦行動を取っているかもしれないから切り上げた」

 

「そこまでは求めてない。取引相手として適切かの判断がしたいだけだからね。

 薮をつつくつもりは無いさ」

 

 情報屋は給仕に届けられた麦酒をゴクリと一気に半分飲み、話を続けた。

 

「ああ、不足してるってんなら依頼料増額を願うところだったが、助かるぜ」

 

 情報屋は皮肉げに笑った。

 私も飲み物を注文しよう。

 塔産の落ち着いた味わいの茶葉を頼むことにした。

 

「この前の騎士団”大規模訓練事故”にも関わっているらしいからな」

 

「ああ、あれか。騎士団長が辞任したと噂の。幸い死人は一人もいなかったらしいが、団長機を中心に多数の機体が破損したらしいじゃないか」

 

「そう、なぜかその現場に居たとされる【クロスガード】が船に搭載されているらしい。妙な事ばかりだ」

 

 私は給仕に置かれた茶を飲む。

 むむ。期待が大きすぎたな。普通だ。

 情報屋は煙草を燻らせながら言葉を捻出する。

 

「だが【八本脚運輸(オクタライン・ロジスティクス)】のスポンサーには上級貴族であるヴァレリアン卿が付いている。危なくて手出し出来ねぇよ。何人か騎士団から出向しているのは確実だし、貴族も居るらしいぜ」

 

「どうやら深入りはよしておいた方が良さそうだ。まずは軽い機材の扱いから始めるよ。大型船だからそれでもかなり輸出出来るはずだ」

 

「ああ、それが正しい。欲張ると危ない。適度な距離で取引をすることを勧めるぜ」

 

 茶を飲み干した。総合的には満足な味だった。

 

「忠告助かるよ。いつもありがとう。ここの料金は私が持とう」

 

「おーお。ご馳走さん、いつも贔屓にさせてもらって助かるぜ。お客さんとはずっとこの関係を維持したいんでね、商売繁盛願ってますぜ」

 

「私もだよ。互いに便利に稼いで行こうじゃないか」

 

 握手をして、情報屋と別れた。

 いい店だった。また来よう。

 

 

 *

 

 

 私はカラスなる獰猛な男に出会うことは無かった。

 

 貴族の息がかかっているのは間違いなかったようだ。

 【八本脚運輸(オクタライン・ロジスティクス)】との取引の際は、三人の見た目麗しいメイドと共にセドリック卿が現れ、取引を行いパーツ取引と搬入をした。

 

 黒髪のメイドの運送用ライトフレームの扱いが熟練のそれであり、彼女たちも相当の訓練を受けているのだろう。外征騎士が在籍しているという話も納得できた。

 メイド三人が息を合わせ瞬く間に搬入を済ませ、連携力の高さを伺わせる。

 

 なるほど、これなら積荷を安心して任せることができるようだ。

 なぜかセドリック卿ではなく、黒髪のメイドがさらさらと受け取りのサインを書き、私はそれに何も違和感を感じずその場を離れた。以降は銀行を介したやり取りになるだろう。

 

 

 だが、私はカラスと出会っていたらしい。

 受け取りのサインに”カラス”と書いてあったことに気がついたのは取引が終わった後だった。

 

 

 

 私はいつカラスという傭兵に出会ったのだろうか。

 




カラス:取引に着てく服無いって言ったらメイド服着せられたんだけど???


余暇話を当分書いて行こうと思ったんですけど突然書けなくなりそうな気配がしたので
次の話を書きに行く予定に切り替えます。ライブ感!
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