塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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投稿が遅れて本当に申し訳ない。


72話:湖上

 俺たちは湖上船に揺らされながら、湖上都市(ヴァルノール)へと移動した。

 

 

 農場の太湖(アグリノール)は、内海と呼ばれるほどの広さの湖だ。

 その広さは果てが見えないほど広く、その深さは底が見えぬ程深い。

 野生の生物が多数存在している湖であり、漁業も盛んに行われているため漁船も多い。

 

 また、湖上を移動する湖上都市(ヴァルノール)を維持するための多数の輸送船もある。

 あれは農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)の社交の要所でありながら、湖上に浮かぶ軍事拠点でもある。

 輸送船は頻繁な人の出入りと、市場を動かす大事な動脈として昼夜問わず行き来していた。

 その一つを借り受けて、【エスクワイア】と各メンバーを載せて湖畔を出発したわけだ。

 

 

 湖上都市(ヴァルノール)の防御力は環境に由来しているもので、建造物としては少し脆い。

 しかし、多数の"AG"を保有しており、ここから各所の湖畔に輸送する役目を持っている。

 農場の太湖が自然の堀となってくれており、決して沈まぬ不沈の要塞と言えるだろう。

 

 

 ただ要塞としては、かなり"美しさ"を前面に出した設計(デザイン)をしている。

 この都市の用途としては社交の場を前提としているからなのだろうか。

 先鋭的な外観をした建物が複数、そして少し無秩序に立てられているのが見える。

 効率よりも芸術性を優先していることが、”見て”理解できる。

 

 

 (いびつ)

 この多面性が湖上都市(ヴァルノール)の魅力とも言えるだろう。

 

 

 そのような事をぼんやりと思いながら、船の手すりに腰を掛けた。

 風が吹き少し波打つ湖面と、植林した防風林が船の外壁部から見える。

 それらを眺めつつ俺は物憂げに思いを馳せた。

 

 

 

 肉! そして魚!

 

 

 

 大規模農場で飼育される数多の食肉──!

 

 やはり穀物牛かなー! あれは本当に美味しい。

 効率とか一切考えずに考えずに味だけを求められた食肉の代名詞だ。

 

 もとは主星から持ち込まれた改良型家畜である穀物牛は他の食肉と比べて効率が悪い。

 主食は大豆を加工した後の副産物や瓜などを食べさせているが、それだけではなく牧草と多量の水分が必要になる。それらを充分に用意出来る農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)でしか殆ど飼育出来ていない。

 

 その味は他では味わえない絶品だとよく言われている。

 他の国に対しても少数を輸出しているが、非常に高価な代物になってしまっている。

 多分、要塞街で買うと【ハッチポッチ】の腕パーツの方が安い。

 

 魚もいいなぁー!

 湖上都市(ヴァルノール)付近の漁村ブロックは魚の養殖も盛んだ。

 再生技術か何かで再現したとされる巨大な鱒が有名である。

 これは缶詰になって要塞街でも普通に食べられているが、新鮮な魚の味はやはり別物だ。

 

 

 パーティのご馳走が今から楽しみになってきた。

 うっきうきになって口元も自然と緩む。なんだか上機嫌なのでその場でくるんと回った。

 ドレスのスカートがふわりと舞い上がる。スカートとか久々だなぁ~。慣れとかないと。

 

 

 

 ──なんか、ここから見えるセドリックがまた頭を壁に打ち付けてるな。

 酷い頭痛でも抱えてるんかな。大変だなあ。

 

 

 

 

 *

 

 

 

「やぁ、久しぶりだね。ドレス気に入ってくれたようで嬉しいよ」

 

 船上で呆けていると、柔和な眼鏡の優男に声を掛けられた。

 知性を感じる端正な顔立ちをしており、ほっそりとして背が高い貴族だ。

 

 

 テオドール卿。優秀な外交官で、善人だ。

 

 

 どのくらい善人かというと荒くれの傭兵達の間ですら「絶対に信じていい」と表現される程に裏表がなく、極めて信用度が高い。

 一点を除いて完璧な人物であり、極めて誠実。

 貴族でありながら、損得抜きで彼に協力する傭兵は後を絶たない人たらしである。

 まぁ、この人ならば損しても協力していいかなと俺も思っている。

 

 要塞街の傭兵たちは、彼に多大な迷惑を掛けた負い目がある。

 

 俺たちはその負債を、みんなで回収しなければならない。

 

 

 ──どうも、ドレスありがとうございます、それと──

 ──ええと、ご子息のご出産おめでとうございます?──

 

 

 俺はふわっとした挨拶をしてしまった。

 彼は目を細めて、凄まじく疲れたような顔を一瞬出した。

 

「ありがとう、妻が”後はヨロシク☆”って言っていたよ」

 

 わぁー。

 なんかぶん投げられたな。あのさー。

 

 

 ──いい加減にしろよスナイパーネキ。

 

 

「毎度迷惑を掛けてすまない──!」

 

 違うんだ。貴方を困らせたい訳じゃないんだ──!

 傭兵達は現在進行形でスナイパーネキを止められなかったという多大な迷惑を掛けているのだから!

 

 

 このドレスの送り主はスナイパーネキだ。

 そしてテオドール卿は、つまりタカメ女史の旦那さんとなる。

 彼の欠点は女の趣味が悪い、もしくは女難の運命にあると同情されるところにあった。

 

 

「妻から贈り物はまだあるんだ。貸与という形になるが、箔付け程度に使ってくれ。

 既に見たと思うが──当家の鎧機(アームズ)を船に搭載している」

 

 

 えー。”アレ”を使えって──?

【エスクワイア】搬入のときに既に搭載されていて、マジで驚いたんだよね。

 あれビビったんだけど、俺が使えって?

 

 

「産後でちょっと体調が優れなくてね──本当に、昨年は迷惑を掛けてしまったね」

 

 

 いやうん、テオドール卿は悪くない。どうせ勝手にやらかしたスナイパーネキが悪い。

 スナイパーネキは半年前に出産した。第三子のようだ。母子ともに健康らしい。

 

 

 

 

 そう、半年前だ。

 

 

 

 

 俺の浅い医学的見地による、常識的な計算が正しければ──

 あの戦争と、あの塔の攻略と、あの第二セクターでの戦いは妊娠中だったということになる。

 

 

 

 マジでいい加減にしろよスナイパーネキ。

 あの時の腹部の怪我本当にヤバかったじゃねぇか。

 命が二つあった事実を後から知って、すげぇ気持ち悪い冷や汗がドバドバ出たわ。

 

 

 テオドール卿も嫁さんのあんな馬鹿げた行動を止めて頂けます?

 

 

「おお、カラスくん。妻が僕の言う事を聞くと思っているのかい?」

 

 

 テオドール卿は不可思議なものを見るような顔をした。

 まるで世界の摂理に関して、盛大に勘違いしている常識知らずと喋っているような表情だった。

 おかしいな、どういう夫婦関係をしているんです貴方達。

 

 

 いやまぁ、理外の存在であるスナイパーネキのことなんか置いておこう。

 考えていてもストレスにしかならない。

 

 

 しかしなぁ。

 貸してくれるっていうなら使うんだけどさ──

 

 

 

「護衛は君に任せれば良いと、妻は言ってたからね。

 僕からしても君は信じるに値する。お願いするよ"ヴァレリア卿"」

 

 

 ヴァレリア卿。騎士サマの縁者として利用することになった場合の偽名である。

 縁者っぽい名前を用意してくれって言ったら、あんまりにもあんまりすぎる名前が出された。

 騎士サマの名前の最後削っただけじゃん。適当過ぎでしょ。

 

 偽名で呼ばれるのは慣れっこだが、普段使わない名前だと咄嗟に反応出来ない場合がある。

 ただまぁ傭兵名で呼ばれ過ぎているのもあるし、変な名前を使われても認識は出来る。

 

 傭兵は本名を隠す傾向が強い。

 たしか何かの法律を回避しようとしたんだっけな。理由は忘れた。

 だいたいにおいて、自分で名乗るか、もしくは適当に誰かに命名される。

 そしてその時の名前がそのまま通称となる文化が出来上がっている。

 

 “カラス”も"タコ野郎"も、"飲んだくれ"も、誰かがそう呼んだからそう名付けられた。

 

 いちおうこれで契約関係のサインも通る。傭兵は信用度を重視した商売だからな。

 ”名声”への紐付けが出来るならば、それで契約は成り立つのだ。

 逆に本名を言われた方が違和感が凄いんだよな。最近、本当に驚いたしな。

 

 さて。はあー。

 ちょっとお宅の鎧機(アームズ)を動かさせて貰っていいです?

 ハンガー内だけで良いので、ちょっとセッティング整えたい。

 

「ああ、構わないよ。自由に使ってくれ。僕は操作が不得手だからね。君に任せる」

 

 どうも、感謝を。

 そう言って俺はテオドール卿と別れた。

 

 ハンガーまでドレス姿のまま移動する。

 そして【エスクワイア】の隣に居る、その機体の姿を見て溜息を吐いた。

 

 

 使う機会が無いと良いけどなぁ。

 わざわざここまで輸送してきたということは、絶対に何かあると想定してるだろ。

 早めに慣らしておかないと大変なことになる。

 

 

 しかし。なぁ。

 これ、俺に使えるのかなぁ──

 

 

【サークル・ザンバー】は意地が悪そうな顔をして、俺を見下ろしていた。

 




投稿期間がのびのびですが、なるたけ想定4日、最低でも一週間以内には投稿したいと思います。
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