塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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75話:舞踊

 事前に取り決めがあったかのように、”パーティの参加者”は各々動き出した。

 傭兵や軍人等の荒事に慣れていそうなものは各々銃器や機材を取り出している。

 商人達のような経験が薄そうな者たちも、第二幕の参加者へ一礼をする余裕があるほどにスムーズに退避していった。

 給仕たちは表情を何も変えず、長机の上の食事は片付け、そのまま机を横に倒し壁にした。

 倒した時の音は重く、充分な防弾性能があることが理解できる。

 

 

 マジで何? 

 俺だけおかしいのか?? 

 なんでみんなそんな平然としてるんだ??? 

 

 

 完全に戸惑っていると、会場の正門側、庭と逆の方向から爆発音と銃撃の音が響いてきた。

 何がどういった理由での襲撃なのか、さっぱり理解できないが──

 

 

 あそこでスポットライトに照らされながら踊ってる猫人(ケットシー)は総議長って言ってたな。

 

 

 議会制を取っている農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)の総議長。

 つまり、湖上都市(ヴァルノール)の頂点に”設置”させられている人物のはずである。

 まさかパーティ主催者がこの都市のトップだとは全く思わなかったが──

 分かっただけでも背景を考察しよう。

 

 

 少なくとも、“また”農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)で革命が起きるのは確定かな。

 去年、俺達の移動中くらいに起きたばっかりじゃなかったっけか。

 

 

 農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)において、政変は極めて頻繁に発生する。

 下手をすると季節単位で指導者がコロコロ変わることもあるぐらいだ。

 

 これは要塞街(アイアンホールド)における”エルドレイン王”に相当する権威を持つ人物が居らず、また水源が農場の太湖(アグリノール)しか存在しないことから発生していた。

 

 水資源を利用するための”距離”がほぼ全ての問題を引き起こしている。

 

 農業には当然水が必要だ。

 だがこの広大な範囲内で水を運ぶために、数多くの労力とトラブルが発生する。

 定位置に存在する水資源を運ぶパイプは度々破断するし、輸送もタダではない。

 

 少しでも水を楽に利用するために、有利な位置を確保したい気持ちは当然と言えるだろう。

 更に外側に配置されれば他国や野盗、そしてスクラップの襲撃も発生しうる。

 それらを避けるために少しでも農場の太湖(アグリノール)の近くへと移動したいと皆考えて、そしてそれを要求してきた。

 しかし、その有利な位置取りを巡って、農場主同士やそれらをまとめる豪農達の意見が納得することはまず有り得ない。なにせ立場は皆同じだからだ。

 

 故に、それらを原因として”位置を決める”戦いが簡単に発生することになる。

 その頻度は周辺国家からは『農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)では内戦が起きない年は無い』と揶揄される程である。

 

 

 が、湖上都市(ヴァルノール)の、しかも総議長を狙うってことは”何かあった”んだな。

 

 

 総議長なんか狙っても”なんの益も無い”だろうに──

 グラスに残った酒を飲みながら考察していると、ハンサム君が話しかけてきた。

 

「おやお嬢さん(マドモアゼル)、剛毅だね。余裕たっぷりじゃないか。武器の用意は良いのか?」

 

 胸元から取り出した拳銃の弾数を丁寧に確認しつつ、煙草に火をつけて吸っていた。

 

 

 ──拳銃なんて無粋なものは用意してないの。私には必要ないし、なんとかするわ。

 

 

「はは、無粋と来ましたか。こりゃ可愛らしい顔してよほどの豪傑らしいね」

 

 

 少し嘘だ。

 本当は護衛という位置づけだから拳銃は携行するべきだと理解している。

 だが、今回は最低限の装備は持っているが、拳銃は携帯していない。

 いや、一年間くらい、触れてすらいない。

 

 

 俺は、ハレーを撃ってから、拳銃を握れなくなってしまっていた。

 

 

 マジで自分で自分にびっくりしている。

 そんな繊細な自覚はなかったが、撃つ撃たない以前に”触れたくない”レベルだ。

 拳銃が怖いのでは無い。引き金が軽くなっているかもしれない自分が恐ろしいのだ。

 だから今回持ち込むとしたら最低でもショットガンくらいの長さの銃器になるだろうな。

 

 まあ不要だろうが。

 

 

 ──うちの外交官のところへ行くわ。また後でね。

 

 

「おう、このパーティはドンパチだけで終わるハズだからよ。また飲み直そう」

 

 

 櫛を取り出して、リーゼントを整えながら俺を見送った。ハンサム君に緊張感はない。

 

 いや、銃器を用意し、防御陣形を整え襲撃に備えながらも、参加者の空気が緩い。

 歓談が続き、笑い声がところどころ聞こえているくらいだ。

 なんなんだこの緩さは。

 

 

 少し探すと、テオドール卿はすぐ見つかった。

 テオドール卿は退避しておらず、総議長と名乗ったミードという猫人(ケットシー)と話をしていた。

 近くにアルマとヒルダも居る。

「ああ、ヴァレリア卿。来ましたか。準備は良いのですか?」

 

 

 ──状況がさっぱりわからない。なんでみんな平然としてるんだ? 

 

 

「えっ」

「んにゃあ?」

 

 

 テオドール卿は驚き、ミードは困り顔をした。

 

「お聞きにならなかったんですかにゃ? 事前に皆様方へ通達したはずですがにゃ」

「これからの事を考えて、護衛を頼んだのだけれど。タコ君から聞いてなかったのかい?」

 

 

 ──俺、何も聞かされてないんだが。

 

 

 俺の答えに戸惑いながらテオドール卿は考え込んだ。

 そして、何かを納得したように話した。

 

「恐らく、この"襲撃"に君を巻き込みたいから皆黙ってたんじゃないかな」

 

 

 ──なんで??? 

 

 

 襲撃そのものよりも、自分に情報が共有されていないことの方が疑問すぎる。

 セドリックかタコ野郎に説明を聞きたい、だが俺の視界範囲内には居ないな。

 アルマとヒルダも困った顔で黙秘していた。なんで? 

 

 そんな困惑の中に叩き込まれている中で、俺達の居る会場へと爆発音が響いた。

 ミードは俺の疑問へ答えることなく、倒された机の上へと踊り出た。

 

「さぁさぁさぁ! どうやらご歓談の時は終わりのようですにゃ!」

 

 ミードはパーティの開催者として、そして司会としてプログラムを進行させた。

 それに応じパーティ会場の各々は大小さまざまな銃器を掲げ、皆高らかに叫んだ。

 

「おっと、どうやら”壁”が足りないようですにゃ! 【バグベア】前へ! 」

 

 その指示に従い、庭に置いてあった警備の【バグベア】たちが前に出た。

 そして、その場に座して構えを取った。指示通り参加者達の壁に徹するつもりらしい。

 

「皆様準備はよろしいですかにゃ! それらを前に構えて頂きたいですにゃ!」

 

 手に持ったステッキを掲げ、楽団の指揮棒のように扱い、皆の視線を前へと誘導した。

 

 

 一瞬の静寂。

 

 

 そして、会場の奥側から襲撃者の【バグベア】どもが、外壁を破壊しながら出現し──

 

 

「レッツパーティですにゃ!」

 

 

 ミードがステッキを振り下ろした。

 パーティ参加者からの歓迎の弾雨が、襲撃者へと次々と降り注いでいった。

 

 

 

 *

 

 

【バグベア】は弱い。

 

 

 設計のミスではなく、この弱さは極めて”意図的”に作られた弱さである。

 過去、農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)で度重なる争いや革命が発生していることは周知の事実だ。

 しかし、これにより貴重な資源や人命を消費するのは誰もが無駄だと分かりきっていた。

 

 そのため、内戦や革命に幾重にも”ルール”を制定し、これらの戦いで失われるものを極力減らす方針としたのだ。

 

 

 その極地の一つが”生命維持特化超量産型AG”である【バグベア】である。

 

 

 シャードジェネレータから出力されるエネルギーを全体で十割とした場合、コックピットブロックへの防御に全エネルギーの九割を注ぎ込む極端な配分をしている。

 そしてそれ以外の残エネルギーでなんとか四肢を動かすという、生存だけに特化させた構造をしていた。

 

 極めて限定させた防御力のお陰で手足が非常に脆く、戦闘能力がまともに出せない。

 その変わりに、たとえ竜型光熱砲(ドラゴンブレス)の絨毯爆撃を食らった程度ならほぼ確実に生存できると言われるほどの極端な生存能力を実現した。

 

 

 つまり、【バグベア】を倒すだけならば、手持ちの火器だけでも簡単なのだ。

 

 

 パーティ会場から降り注いだ銃弾の雨で、襲撃者の【バグベア】は手足がコナゴナに砕けた。

 コックピットブロックは無傷に近い状態だが、戦えないだろう。AGにあるまじき弱さだ。

 

 後続の【バグベア】がこちらに向けて射撃をしてくる。

 しかしそれらは、明らかに攻撃力不足だ。

 エネルギー配分が原因でギア用武装の殆どの利用できない。そのため手持の火器も、知的生命体がギリギリ持てるサイズの武装を流用しているくらいなのだ。

 

 その射撃攻撃は長机と【バグベア】の壁に弾かれていた。

 威力が低すぎる。あれならば当たっても死なないし──

 

「皆個人用のエネルギーアーマー持ってきてるっぽいね。安心!」

 

 ヒルダが近づいてきて俺に呟いた。

 たまに飛んでくる弾丸を見切って持参した鋼鉄製の手甲で弾き、テオドール卿とミードを守っていた。見事な見切りだ。

 

 パーティ参加者は一時的に対弾能力のバリアの膜を体表に貼る、エネルギーアーマー発生機を装備しているようだ。

 

 こちらの参加者の一人に銃弾が命中し、悲鳴を上げながらアーマーの斥力で吹き飛ばされた。うん。頭部に当たった気がするが多分無事だろ。エネルギー的には二発目の命中が不安になるため戦闘不能(リタイア)になるとは思うが、手持火器相手ならばまず致命傷にならない。

 参加者の準備が良いな。

 襲撃がある前提というのならば当然の備えではあるが、あれは確か結構高価な代物だ。

 エネルギー消費が結構バカにならず、対弾性能維持は短い時間でしかない。

 だが暗殺を防ぐために金持ちが良く使っている装備だ。

 

 そもそも、これを準備できるような人物しか集められていないのかな? 

 うちもメイド二人を含めた貴族連中には、頭部と胴体を守れるものを持たせている。

 傭兵どもは高価だからあんまり携行しない傾向があり、このパーティ参加者の中では俺が一番危ないかもしれない。安物の使い捨て版を思い出すから苦手なんだよな。

 

 

「こちらのほうが火力が上ですね」

 

 

 アルマの声が聞こえた気がした。

 “射撃音”が響いているので聞こえないはずだが、似たようなことは言っているだろう。

 

 

 アルマは据え置き脚部付きの回転式機関銃(チェーンガン)を撃ち続け、前方へばら撒いていた。

 

 

 アルマが火力に傾倒して、わざわざ自腹で買った”趣味”の銃器だ。

 馬鹿みたいな威力と重量と連射速度を持つ中型スクラップにすら通る武器である。

 使う機会は無いと思ってたが──そもそもどうやって持ち込んだんだよ。

 

 その疑問を聞く時間は無かった。

 アルマや参加者の攻撃で、次々と襲いかかってくる【バグベア】の群れを薙ぎ倒しながら、それでも突破してくる奴がいた。

 

 個人用エネルギーアーマーは質量に強い訳ではない。

 アーマー持ちはぶん殴るのが一番効くからな。

 だから接近戦に移行したのだろう。

 

 対応しなきゃならないが、いくら脆いとはいってもAGだ。

 味方の壁を動かすのもはばかれる。

 

 

 

 じゃ、俺がやるか。

 

 

 

 俺はドレスをはためかせながら、【バグベア】の前へ飛び出した。

 驚くパーティ参加者と襲撃者の声を聞きながら、俺は瞬時に駆けていった。

 

 突然出てきた俺に対し、襲撃者は反射的に左手のマシンガンで射撃を行ってきたが──

 この程度の弾速ならば余裕で回避出来る。慌ててるな。右手の武器を使えよ。

 

 全て見切りながら踊るように接近していった。

 スカートの内側、太ももに隠し持っていた”武器”をするりと取り出す。

 

 そして”武器”──ギア整備用のドライバ──―を手に持ちながら【バグベア】へ接敵。

 そのまま左肩部へと突き刺し、即座に深く突き刺すために、足裏で蹴り飛ばした。

 破砕音と共に、左肩部が腕ごと割れ落ちた。本当に脆いな。

 

 そしてその落ちた腕を握力だけで拾い上げ、筋力と遠心力任せに胴体に叩きつけた。

 

【バグベア】が体勢を崩し、右手に持っていた武器を手放した。

 右手に持っていた武器──ショットガン──が空中で舞っていたのを拝借した。

 

【バグベア】が使うものは知的生命体が持てる武器である。

 それをそのまま、体勢を崩した【バグベア】の脚にぶち込み、膝を付かせた。

 ショットガンの次弾を装填(リロード)しながら、床を割るほどに踏み込んだ。

 足を大きく上げて、ドレスを舞わせながら全力の蹴りを胴体へ向けて叩き込む。

 

 片膝を屈していた【バグベア】は完全に体勢を崩し、後ろへと転倒した。

 そのまま、上に乗り、右肩の関節部へ散弾をぶち込んだ。

 爆発音とともに肩を破壊し、胴体から分割させた。

 

 装填(リロード)。次。膝を突いていた右足の股関節にぶち込み破壊。

 装填(リロード)。次。膝を割っていた左足の股関節にぶち込み破砕。

 

 これで全ての四肢を破壊した。

 もう動くことはできないだろう。

 

 後続の射撃が来た。

 それを真後ろへと宙へ飛びながら回避。

 

 地面に手を付き、クルクルと後転を繰り返し、長机の後ろまで戻って行った。

 

 

 終わり! 楽勝〜!

 

 

「生身でAGを倒すだと──ヴァレリア卿は化け物か?」

「ヒュゥー! すげぇ! マジかよ!」

「あの光景トラウマなんですけど──」

「先生、超人過ぎない?」

 

 

 何言ってんだヒルダ。お前にも出来るようになるよ。

 

「いやぁ、無理かなぁ──」

 

 ヒルダはよそ見しながら、飛んでくる銃弾を捌いて後続を守っていた。

 うん。それを平然とやってるくらいだから、見込みあるよ。

 

 そうボケっと、楽しいドンパチを眺めながら俺は襲撃者たちの慌てる声を聞いた。

 

「くそっ、ええい! 

 こちらは総議長ミードと、”王殺し”の英雄さえ確保出来れば良いのだ! 

 何をしている! 早く突破しろ!」

 

 

 ふーん。やっぱそこの猫人(ケットシー)が襲撃の原因なんだなぁ。

 もう一人確保したい人物が居るが、誰なんだろう。

 

 

 “王殺し”かあ。ふーん。

 

 

 ん? 

 えっ?? 

 

 

 ──襲撃者の狙い、俺なの??? 

 

 




この世界観のドンパチの軽さのイメージはサイボーグクロちゃんです。
実は異世界編が元ネタの一つ。
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