塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる 作:梅酒わいん
リザードマンのシュラが駆る【イチモンジ】は一直線に俺達へ突進してきた。
俺も距離を調整するように湾口に沿って後退したが、追従するように駆けてきている。
かなり前のめりな前傾姿勢──というよりもはや倒れるような角度で疾駆していた。
頭部が地面を擦るように低く、尾を伸ばして振りながらバランスを取っている。
刀を肩に構えつつ、機体の”五肢"のみで安定した全力疾走を成立させていた。
シャードブースターの補助なしの機体としては驚異的な速度だ。
前傾姿勢になったその背中に、"竜血槽"が二つ刺さっているのが見えた。
循環液がたっぷり詰め込まれたそれは、普通に考えて機体の造血剤としても機能するが──
それよりも【トライヘッド】のように、何か"特殊能力"があると見たほうが良さそうだ。
さて、あんな機体で堂々と突っ込んでくるのだから、近接戦に相当の自信があるのだろう。
それに付き合う義理は一切無いが、リング状の湾口では機動が制限されている。
湖に落ちたら
ギアのように即浸水にはならないと思うが、湖に落ちたならば脱出しなければならないだろう。
つまり安易な機動は避けなければならず、近接戦闘特化機の得意距離で戦う必要がある。
しゃあない。付き合ってやろう。
「っ! いく、ぜぇ!!」
シュラはタイミングを違えることなく、その全力の一撃を真っ直ぐに振り下ろした。
その膂力から繰り出される一撃はまるで雷のような速度で俺達に降り注いだ。
今の挙動ではシャードブースターを全開にしたところで、完全な回避は不可能だろう。
だが──
ビームチャクラムの出力を全開にした。
互いの武器をぶちかますのならば、非常に合わせやすい素直な軌跡だ。
俺達はその雷光を打ち払うように、光輪を付けた腕を振り上げた。
刀と光輪が激突する。閃光が弾け、刃同士が跳ね飛び、互いに大きく吹き飛ばされる。
「マジ、かよ! 剛毅すぎんだろ!」
湾口の硬質な床面を割り、埃を撒き散らしながら大きく後ずさった。
流石に機体重量が軽すぎるな。転倒させないようにするのにも一苦労だ。
しかし、今の一撃は防ぎきった。
この【サークル・ザンバー】は軽く、小さく、装甲も厚いわけではない。
目の前で駆けぬけた【イチモンジ】との体高の差はおおよそ二倍。
恐らく重量差を考えると四倍以上の差があるだろう。
体当たりされるだけで深いダメージが入るはずだ。
普通ならば近接戦闘で戦うのは愚かと言えるほどの差であり、避けるべき状況だ。
しかし、【サークル・ザンバー】はこれらの不足点を補って余るほどのエネルギー出力を持つ。
そのバカみたいな出力の光輪による斥力は、不完全な体勢での防御ですら成功させていた。
正面からならば、あの【イチモンジ】の巨体から繰り出される剣戟の勢いを完全に防ぎ切れる。
本当にビームチャクラム特化型の機体なんだな。
相対するにあたって、この一点特化という圧倒的なポテンシャル。
それだけで体格差がある
奇しくも、"それしか出来ない"の設計コンセプト同士のバトルになってしまったようだ。
「獲物を狩るだけの単調な仕事かと思えば、とんでもねぇ強敵!
龍神様の加護があったな! 心の臓が沸き立つなぁこりゃあ!」
はしゃぐシュラの口調に思わず辟易する。
襲撃されてる側としてはたまったもんじゃない。
なんとなく想像はつくが、どんな因縁で戦ってるのかさっぱり分からないんだ。
というかリザードマンってのは無口で落ち着いた種族だと思ってたんだが俺の勘違いか?
「ああん? 後ろの2人と俺は違うからよ。俺は砂漠寄りの氏族の出身者だ。
あっちは俺みたいな血の気が多くて荒い連中ばっかりだぜ。
後ろの奴らは二人は沼地と海沿い出身だっけな。尊敬できる熟達の戦士たちだぜ!」
──あのさ、バラして良いのか?
「ああん? あったりまえだろ? ダメに決まってるじゃねぇか!
──すまん忘れてくれ」
──締まらねぇなぁ。
微妙に気合が入らない状態のまま、お喋りなシュラとの剣戟は数撃続いた。
*
カラスと距離が離されてしまった。
僕は【エスクワイア】をなんとか強引に機動させ、付きまとうリザードマンから距離を離した。
目の前の
もはや削り倒す算段がついているように、迷わぬ足取りで位置取りを調整した。
リザードマンは淡々と、言葉も交わさずに僕たちを追い詰めている。
強い。
機体性能は僕の【エスクワイア】のほうが上だ。
ジェネレータの個数の差から、出力さは明確にこちらが上回っている。
防御力の差は圧倒的だ。あちらの攻撃はこちらの装甲を薄く削るだけに留まっている。
無理に攻めたところで【エスクワイア】を突破することは難しいだろう。
あちらの武装は
そして背中に槍と、増設式の循環液タンクだ。
攻撃力不足のように見えるし、大した耐久性のも無いだろう。
表面的な性能だけで見れば負けるはずがない戦いだ。
だが、僕は全く勝機を見いだせていない。
技量差が圧倒的だ。僕が未熟なのもあるが、それよりも相手が巧みすぎる。
ひたすら巧みな攻撃で牽制し続け、付かず離れずの挙動を常に維持していた。
常にあちらのほうが有利なのが嫌でもわかり、こちらはずっと不利を押し付けられている。
踏み込むには遠く、射撃戦には短い。しかしあちらからは数歩で切り込める距離。嫌な位置だ。
その証拠に、この戦闘中で完全な体勢でレーザーブレードを振るえた機会は一度も無かった。
強引な攻めに転ずることも難しいだろう。
このまま防御力を過信して強引な攻撃を繰り出したら、確実に手痛い反撃が繰り出される。
これは予感ではない。確信だ。表面に見える手札だけではないのは間違いない。
だが、攻めなければ勝機も無い。僕は決断を迫られて居たが──
「未熟な騎士殿よ。そろそろこれで終いにしたいのだが諦めてはくれぬか?」
諭すようにリザードマンは声がけをしてきた。
まるで若輩者を導くものが、まだその域に達していないものを宥めるような口調だった。
しかしその言葉は苛立ちしか感じず、見事に僕の神経を逆撫でし、頭をカッとさせた。
「舐めるなトカゲ! 騎士が口から放ったことを
僕を止めなければ四肢でも切り刻めば良いだろう! だがその前に貴様を両断してやる!」
よし決めた。反撃がどう来ようがぶった斬る!
「ぬかった」
「本当に、説得が下手」
あちらから呆れた声も聞こえてきた。少し慌ててるようだ。少し距離が離れた。
だが、構うものか!目にもの見せてやる――
「よう! セドリック卿! ちょっと博打をする前に俺にちょっと合わせないか」
しかし僕の決意の気概を削ぐように、
「先程カラスと談笑していたリーゼント野郎か。クソ、タイミングを完全に失ったな」
「おう、ハンサムってんだ、切り込む隙くらいは作ってやれるんだが、どうだ?」
「何をする気だ。どちらかというとそっちの機体のほうが博打が得意だろ」
「こっちも互角というか、踏み込ませて貰えなくてよ。ラチがあかねぇ」
それはそうだろう。
いくら
「だから、まぁちょっと動けなくなるが二機同時に相手してもらえねぇか?」
気軽な感じで無理を押し付けてきた。なんだかカラスのやり方に似てるな。
「こっちに敵を擦り付けるとはいい度胸だ。
だが、僕としてもいまいち打つ手は無い。こじ開けて見せろ海賊!」
「おう、承知したぜ!」
「まて、待て待て待て! お前それを"街中"でぶっ放すのか!?」
「へへへ! 多少崩れたところで大丈夫だろうよ!」
それは
ビーム刃を形成し、それを回転させることで斥力による反発と水を掴んでの推力を確保できる。
強力な推進力を生み出すことで水中での自由な動きを実現する装備だ。
それを地上で使うと──
「出力全開だ! 騎士様のお許しも得た!」
「責任を押し付けるな!! 許可なんか出してない!! 」
「知らねぇ! 行くぜぇ【ナルワール】! 全部、吹き飛ばしてやるぜぇ!!!!」
「やめろバカ!!!!」
莫大な推力を生成するビーム刃が前方に展開し、それが回転することで大気が歪んだ。
コアフィールドを巻き込んだ流体制御装置は、刃の回転の速度を挙げるたびに風を巻き込み──
リング状湾口の倉庫街に、指向性の竜巻を発生させて超広範囲の"前方"を薙ぎ払った。
ゲッタ―――サイクロン―――!