塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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84話:雷迅

 俺はシュラの意味不明な行動に絶句し、戸惑い、足を止めた。

 

 何をしているんだ、こいつは。

 シュラは自らの手で、自らの刀を腹に突き刺した。それも浅くではない。

 背中まで刃が貫通しており、生半可な傷では無いのは間違いない。

 現に緑色の循環液がドバドバと流れ落ちていた。

 

 騎竜(ドラグーン)の制御システムは、中の乗り手の動きを模倣(トレース)する仕組みをしている。

 そのため、乗り手本人が達人であればあるほど動作の精度が上がっていくが、代償(リスク)がある。

 接続精度向上を目的か覚えていないが、ダメージフィードバックの機構があったはずだ。

 精密動作や肌による知覚を直感的にし、反応速度が飛躍的に高まる優れた機構ではあるが──

 

 乗り手に激痛を提供し、著しい負担を強制し、体力と精神力を搾取していく。

 "まとも"な理性では使うことが出来ないイカれたシステムだ。

 だが騎竜(ドラグーン)には標準的に搭載されており、リザードマンの大半はこの機能(システム)の恩恵を受ける。

 だから、その事実を知っている傭兵たちから、あいつらは"危ない"種族だと思われるのだ。

 

 

 それを前提に目の前の凶行は、中のシュラ本人に対して──―

 実際に"それ"を実行した時と、全く同じ激痛が腹部に走っていることになるだろう。

 

 

「カハッ。い、痛ぇ〜〜」

 

 

 ──痛いで済むわけないだろ。腹を貫通してるんだぞ。

 

 

「御尤も、だな。だけど必要なんだぜ、これ」

 

 

【イチモンジ】は腹から漏れた緑の循環液を手で染めた。

 それを竜頭から首にかけてベッタリと、執拗に擦り付けていった。

 

 

 狂気的なその姿に思わず俺は息を吸うのを忘れる。

 

 

 気味が悪い行動だ。意味がわからない。

 そして明らかに隙だらけの姿を晒しているが──

 

 

 踏み込めない。

 

 

 今の距離はエネルギーヨーヨーの射程範囲外だ。

 戦輪投擲機(チャクラムスロワー)による投擲で届く程度の位置でしかない。

 だからこの無防備な行動を咎めるため、追撃のために踏み込み接近戦を挑むべき状況だ。

 何せ防御に用いる刀は腹に刺さっている。

 その場から動いてもおらず、さらに漏れ出た循環液の量も尋常じゃない。

 機敏な動きを続けるのは難しいだろう。

 

 一見すると絶好の攻撃機会である。

 だが、俺の身体は近づくことを選択しなかった。

 思考とは別に、本能が追撃を拒絶している。

 この無意味で、無防備な体勢は俺を倒しうるリスクある選択なのだ。

 

 

「これで多分足りた、かな」

 

 

 何が。とは聞かなかった。

 それよりも先に異変が起きた。

 

 

 バチリ。

 電光が循環で濡れた湾港の床に走った。

 

 

「俺の、権能を魅せてやる、からさ」

 

 

 バチチ。

 電気が迸り、流れ出る循環液を伝い、弾け飛んだ。

 

 

 バチチチチチ。

 漏電した発光は、血を流した【イチモンジ】を青白く照らし──

 

 

 バチバチバチバチ。

 火花を散らしながら、目に見えるほどの雷光が【イチモンジ】に纏わりついた。

 

 

「俺の権能は"雷迅"」

 

 

 凄まじい勢いで跳ね飛び回る雷の奔流が、青白く周囲を染め上げる。

 その中で、ゆっくりと刀の柄に手を掛け──

 

 

 

「瞬きするなよ」

 

 

 一瞬、踏み込んだように腰を深く下げ。

 

 

「そうしたら、終わってるからさ」

 

 

 閃光が世界を白く染め上げ。

 

 

「行くぜ!」

 

 

 地面から雷が顕現し、俺はその閃光をまぶたを閉じずに目視し──

 ちょっとした衝撃を感じ──

 

 

 

 そして【イチモンジ】は消えた。

 

 

 

 ──消えた!? 

 俺は瞬きなどしていない。閃光と共にその姿は描き消えていた。

 移動の挙動の隙はなかった。あの巨体が一瞬で姿を消すなどあり得ない──

 

 

 警告音(アラート)

 

 

 機体が叫ぶ。何の警告だ! 

 しかし、俺はその警告音(アラート)の原因を探る前に、次に視界に入ってきたものを見て呆然とした。

 俺の足元に、奇妙な物体がゴトリと落ちて転がってきた。

 それは細長く、曲がっており、丸いものが着いた物体だった。

 

 

 腕だ。

 

 

 ──―警告音(アラート)──―

 ビービーとコックピットにうるさい警告が響く。

 

 ──―武装ロスト警告──―

 モニターの隅に、ダメージを示す赤いランプが点滅する。

 

 ──―ダメージレポート──―

 右肩部から先が全て赤く表示されている。

 

 

 機体から、青い循環液が、ぶしゅりと吹き上げた。

 

 

 転がっている腕の、その意味をやっと俺の脳は認識できた。

 それは【サークル・ザンバー】の腕だった。

 警告音(アラート)の発信箇所は右腕部。いや肩から先が丸々喪失していた。

 

 

 

 ──切ら、れた! 

 

 

 俺は瞬きなどしていない。いや、油断すらしていないぞ。

 シュラの一挙手一投足の挙動を見逃すまいと、集中すらしていた。

 だが、どのような移動をし、どのような行動をしたのか全く理解できていない。

 完全に俺の視界から消えた。そのような表現しか出来なかった。

 

 

「終わるって言ってたろ」

 

 

 俺の後ろから声が再びかかる。シュラの声だ。

 もはや反射的に、思考停止した状態で、後ろを振り向くという動作をした。

 

 

 俺の真後ろに【イチモンジ】が、空中に浮かびながら、背を向け、回転を──

 

 

 ──テイルスイング。

 

 

【イチモンジ】の巨体から繰り出される尾の一撃が、右腹部に直撃した。

 腕を失った【サークル・ザンバー】はその一撃を全く防御出来ず無防備に受けることになった。

 

 凄まじい衝撃。軽い【サークル・ザンバー】は、弾むボールのように跳ね飛ばされていった。

 

 完全な防御の失敗。痛え。衝撃でこちらの内臓にダメージ。意識はある。まだ生きてる。

 コックピットのモニターが割れ、ひしゃげるほどの一撃。内装に確実な損傷があるだろう。

 上下もわからなくなるほどにぐるぐると回転ながら吹き飛ばされ続けている。

 倉庫街を壊しながら、屋根上をバウンドするように飛んでいくが、勢いが止まらない。

 やばい、位置関係は不明だが、下手をすると湖に落ちる──!

 

 

 制動──!

 少なくともまともに着地するため、シャードブースターとスラスターで制御しようと試み──

 地面を擦りながら着地した、その瞬間──

 

 

「ッセエエエエエイ!!!」

 

 

 雷光とともに現れた【イチモンジ】の振り下ろしの一撃が左肩を両断した。

 

 

 速すぎる。何も出来ずに俺は切られた。

 衝撃は浅い。あまりにも鋭利な一撃すぎて、抵抗なく切れたのだろう。

 ダメージレポートでは左肩部からすべて全て赤く表示されている。

 両腕ごと武装を失った【サークル・ザンバー】は完全なる無防備状態に陥ってしまった。

 

 

 吹き飛ばされ続け、そしてその先に瞬時に現れた【イチモンジ】の異常な速度──!

 雷光。電気。これで足りる──まさか──

 

 

 "電気の速度"で動いている──!?

 

 

 まずい、【サークル・ザンバー】はもはや防御とかを出来る状態ではない。

 追撃が来る。次の一撃は確実に防御が出来ない。

 

 

 そして、再度、構え、雷光となった、【イチモンジ】は──

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 なんか吹き飛んでいった。

【イチモンジ】は倉庫の壁にぶち当たり、叩きつけられひっくり返って転がっていた。

 なんというか見事なくらいに上下にひっくり返ってる姿から、当分は追撃は無いだろう。

 

 

 

 ──―なんで?

 

 

 

「二回も! 二回も成功した! けど三回目行けるかと思ったが、ダメだったかぁぁぁ!」

 

 

 

 なんだか喚いている──

 だが好都合だ。やっと体制を立て直す瞬間を手に入れる事ができた。

 先程の連撃の衝撃からやっと息を吐ける。咳き込んだ。意識は混濁していない。

 コックピット内に血の臭いが満ちていた。割れたモニターが腕に刺さってる。痛え。

 流血が増えるが、操作の邪魔になる。それを引き抜き、コックピットの脇にポイ捨てした。

 

 

 状況を再確認する。最悪だ。まさか両腕をたたっ斬られるとは思わなかった。

 完全な武装ロストに加え、防御力が著しく落ちる結果となってしまった。

 テイルスイングによる腰部と内装へのダメージも無視出来ない。

 むしろあの質量の攻撃の割にはダメージが少ないと思うくらいだ。

 

 感覚としては腕を失ったのが影響しているのだと思う。

 コアフィールドへのエネルギー供給が多くなり、コックピット周りの防御力が上昇した。

 二基構成ジェネレータにおけるそれは生半可な銃弾の一撃を無効化する防御力がある。

 だから、あの尾の一撃での即死を防ぐことが出来たのだろう。

 俺を捕縛するとか言ってなかったか? 殺しにかかってきてどうすんだ。まぁいいや。

 

 が、今の状況で無事なのは機動力だけだ。

 武器を失ってしまっていてはどうしようもならない。

【サークル・ザンバー】の武器は両腕につけられている光輪(ビームチャクラム)だけだ。

 通常機に取り付けられているような肩武装のスロットには何も無いし、肩部も切られている。

 もはや、【サークル・ザンバー】には意外と無事だったブースターの機動力と──

 

 

 足しかないだろう。

 

 

 うん、わかってる。

 出来るよ、と【サークル・ザンバー】本人も言ってたしな。足も使いなって。

 ただでさえ高い操作難易度が、更に上昇するのは理解していたから、絶対やりたくなかった。

 だが、腕を失ってしまっては他に選択肢はない。

 

 ──やるしか、ねぇなぁ。

 

 そう思いながら、【サークル・ザンバー】を操縦し──―

 

 

 転がっている左手のところまで歩き──

 

 

 踏み砕いた。




ハラキリブレード雷速電磁抜刀!

Q.なんで腹切る必要あったんですか?
A.最初は腕あたりを切って血をまとわせるだけのつもりがぁ……テンション上がっちゃってぇ……

Q.強すぎませんか。
A.行動の成功率は高くないので再現性はないです。クリティカル成功×2です。
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