塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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90話:悪化

 海だ!

 

 

 豪雨だ!!

 

 

 大嵐だ!!!

 

 

 

 なんも見えねえ。

 本当に海に近いんか?

 

 海産物がみっちり詰まった飯を食いながら、俺はぼけーっと窓の外を眺めていた。

 ぬるい雨風が【ラッキー・スター】の窓を叩き、装甲の曲線を水が流れる音が聞こえる。

 整備が終わってから油塗れのままハンガーで爆睡してたが、気がついたらこれだ。

 今はドワーフどもが食堂から持ってきてくれた飯を食べているところだ。

 全然止む気配無いな~。

 

 そうやってガツガツと飯を食べていたらハンサムのやつが俺達の元へやってきた。

 だいぶ憔悴している感じがするな。何か合ったのだろうか。

 

「カラス。緊急ブリーフィングだ。すぐさま──

 いや、シャワー浴びてからでいいから来い。流石に油まみれで酷い」

 

 おおう。すまん。臭い自覚があるし助かる。場所どこ?

 

「外の天然シャワーでも別にいいが、吹き飛ばされるし熱いほうがいいだろ。

 そっちの区画のドアを2つ通ったあとに左に行け」

 

 流石に外の爆風の中で身体洗うのは勘弁願いたいね。俺軽いから飛んじゃう。

 俺とタコ野郎だけの遠征中ならやったかもしれないけどさ。

 あー、着替えとかある? 持ってきてないや。

 

「あるに決まってんだろ。うちの女性陣用の作業服を一通りを用意させてあるぜ。

 あと、潜水用のスーツを用意させてあるから、あとで乗組員の誰かにサイズ伝えといてくれ」

 

 おー。助かる。準備良いなぁー。

 

「"飲んだくれ傭兵団"の方々も参加願いたい。酒も用意してあります」

 

 ハンサムは軽く手と所作で敬意を示しながらドワーフどもへ参加を促した。

 俺よりドワーフどもの方が扱い丁寧なの、なんで??

 

「おー、そういや親父さんは元気かー?」

「あのヒヨっ子も出世したもんだな。高速船持ちたぁ気前が良い」

「昔のあいつは良かったぞ。景気よく銃弾を雨あられのようにバラまいてたからな!」

「グレネードも最近の流行から外れて長いですからね。困ったものです」

 

 寿命が長いやつ特有の色んなところに伝手があるのやめてくんない?

 まぁ、実際の立場はともかく、逆らえないやつっているよね。

 

「お前さんはちゃちゃっと浴びてきてくれ。なるたけ早い内に周知したい」

 

 はいはい、分かったよ。

 じゃ、俺シャワー浴びてくるからちょっと待ってて~。

 

 

 *

 

 

 シャワーシーンはカットだ。残念だったな。

 

 

「誰に言ってんだ誰に。さて、状況の説明に入りたい」

 

 

 ハンサムは立ちながら場を仕切って、そう発言した。

 横にはセレネ姫が座っており、政治的な意見をすぐに述べることが出来る位置だ。

 他にブリーフィングルームに集められたのは俺と、"飲んだくれ傭兵団"のドワーフども。

【ラッキー・スター】の操船を担う、【偉大なる航路(グランド・ウェイク)海運】の主要クルーたち。

 そして、猫。

 

「先刻聞いた状況からは相当悪いと聞いてますがにゃ」

 

 農業協働連合(アグラリアン・コンパクト)の総議長であるミードは完全に参加者側で聞いてきた。

 しかも座ってる席は俺の隣だ。まるで傭兵みたいな立ち位置だな。

 

「実質、傭兵業に転向するからあってますがにゃ」

 

 すげぇ気軽に衝撃的な発言をしてきたが──うん。知ってた。

 予定してなかった"5機"の機体のうち一機、総議長専用機をパクってきた来たもんな。

 あんな高級機を持ち出して大丈夫かと思うが、あれは実用機というわけでもないし──

 なんか皆普通にしてるから大丈夫なんだろう。違法だったら俺関係ないからな?

 巻き込むなよ?

 

「当初のミッションから状況が急激に悪化した。俺の人生でも最悪といえる程に状況が悪い」

 

 ハンサムは部下に指示させて、スクリーンに情報共有のための映像を投射させた。

 準備が良いし、部下が少し指示するだけで意図を汲んで行動してくれた。よく訓練されている。

 

「まずは前提としての話をする。元々のミッションの話からするぞ」

 

 ハンサムは周りを見回して、よく通る声で注目を集めた。

 リーダーとしての統率力に長けた良い声だ。慣れているのだろう。

 

「元々のミッションは"海底資源採掘プラントに直撃した塔の攻略"だ。

 落ちた場所は最悪だが、海上プラントの制圧そのものは、戦力が自由に使えるので簡単だった。

 しかし、知ってるとは思うが、海に落ちた塔のコアクリスタルの位置は海底側へ移動する。

 だから深海に対応した二基構成以上の機体で挑まなきゃならんのだが──」

 

 セレネ姫が続けた。

 

深海都市(実家)がやらかしてる最中でして」

 

 呆れ、諦観し、疲れた顔で、低い声を響かせて呟いた。

 簡潔だが、いろんな意味を含んだ言葉だ。

 

「ああ、だから海賊略奪同盟(パイレーツ・アライアンス)の二基構成機が軒並みあちらに取られている。

 傭兵だと持っている連中はほぼ居ない状況だ。なにせ二基構成か深海適応だからな。

 三基構成なら水中適応処理は追加パーツでなんとかなるんだが、他国の手を借りる必要がある。

 ま、それはいいんだ。紆余曲折あったが、増援の手筈はほぼ整った。

 

 

 が、状況は誰も予想しなかった方向で動いた。 次の画像を見てくれ」

 

 

 ハンサムの部下が、画面を操作し、俺達は絶句した。

 一瞬の沈黙。そしてざわめきが響いた。

 

 

「ヤバいやつにゃ」

「うお、長いこと傭兵やってるが、初めて見るぞこんなの」

「絵を見るだけで死地が確定したな」

「海上だけでも激戦だな。【ハッチポッチ】と銃弾持ってくりゃ良かった」

「趣味と冗談抜きでプラントごと焼き尽くすことを提案します」

 

 

 ミードと飲んだくれどものが好き勝手答えた。

 そして、ハンサムはこの後に言葉を続けた。

 

「ああ、しかもこの嵐──多分塔が発生させてるんだろう。だから海上も連携は取れない。

 各々が好き勝手に暴れまわるしかないが──"指揮官(コマンダー)"が現れたという話も聞いた。

 見て、わかると思うがこんな状況だ、海上プラントからも俺達は完全に追い出された。

 だからプラント制圧と海中塔の両方を攻略しなきゃならん」

 

 うわぁ。いや、うん。仕方がねぇよ。

 こんな状況で制圧状況を維持できてたら、偉業だよ。

 

 

「初陣が地獄なんですがにゃ」

「おいおい、最高だな。明日の迎え酒は飲めないかもしれん」

「武者震いと笑顔が止まらん。おお、月の女神よ、我らに加護を与え給え」

「今からでも銃弾かき集められないか? 弾が無いのは絶対後悔する」

「ありったけのグレネードを今からでも製造しましょう、遅くはありません」

 

 

 いやうん。グレネード狂信者のアホの言葉に賛成しかねない状況だ。

 それを考慮したいくらいに酷い状況だからな。ハンサムが憔悴するのもわかる。

 

「なんとか増援は急がせてますが、この嵐の中で通信障害も掛かっています。

 他傭兵団との連携は難しく、正確な被害状況も分かっていません。

 こちらが独自に攻略する必要があると考えてください」

 

 セレネ姫さんが、追加で悪い情報を付け加えてくれた。うん。仕方がない。

 実質、俺達だけでなんとか攻略することを考えなきゃ行けない被害が出ているだろう。

 

 "見てわかる"くらい最悪だもんな。

 呆然とした気持ちで、俺はモニターを再び眺めた。

 多分二度と見ることは無い光景だろうな、という気持ちでいっぱいになった。

 

 

 モニターには塔が映っていた。

 

 

 海底資源採掘プラントを貫き、海中に沈んだ塔。

 そして、その"真上"に落下し、再びプラントを貫いた"二つ目"の塔。

 

 

 非現実過ぎて、夢から覚めればいいなと、本気で思った。

 

 




激戦が予想される情報ばかりを提示……GM本気だな?
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