塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる 作:梅酒わいん
嵐が吹き荒れる。
空は暗く沈み、海は荒れ狂い、豪雨で視界は閉ざされている。
豪雨が船の堅牢な装甲に叩きつけられ、水しぶきが弾け飛んだ。
船体はガタガタと揺れながら、しかし決して飛ばされぬと力強く海上を突き進んでいた。
いい船だ。身を預けるのに何の心配も無い。正直【バスティオン・キャリア】より好きかも。
そんな事を考えながら俺達はハンガーで機体に乗り込んで、出撃の準備をしていた。
まずは海上プラントの攻略だ。
海底を攻めるにしても稼働時間の制限がある。
なぜかというと、単純にコックピットに詰める空気に限界があるからだ。
ジェネレータそのものは浸水を防げればいくらでも稼働できるが、中身はそうはいかない。
深海の中で知的生命体は生きていけない。
そもそも水の中で大半の奴は空気を取り込めないだろう。
いや、水の中くらいなら生きていける種族は結構いるが、水圧に耐えれる種族は居ない。
タコ野郎の故郷は海の中らしいが、確かそこまで深度は深くないだろう。
だから基本的には
なので、空気を事前に入れておかなければならないが、タンクを詰んだところで限界はある。
こればっかりは容量の問題だ。大型機ですら、コックピットのサイズはそこまで広くない。
水をジェネレータに通して空気に変換する
これを稼働してると、著しく出力が落ちて戦闘が行えないレベルになってしまうらしい。
そしてそれを使用しない時の稼働時間は想定より短いらしい。
だいたい、全力戦闘3回分程度の残量しか無いと言われている。
戦闘基準なのは巡行モード中なら
しかも待機モードにしない限り、節約してるだけで徐々に減っていくらしい。
機体を停止させれば維持出来るらしいので、空気不足で窒息死することは無いだろう。
だがその場合は、そのまま
だから空気残量はそのまま事実上の、深海領域での稼働時間制限になる。
ということで、少しでも時間制限を稼ぐために真上から投下出来る形を目指すのは道理だろう。
なので海上を制圧し、船の安全を確保する必要があるのだ。
海上を掃討出来ていない状態では、攻略もままならない。
そして──
「異常な気象だな。こりゃ去年の
「ってことは塔がコントロールしてるってことか、嫌んなるね」
「あのときは爆散しちまったからな、今回は最後まで戦い抜くぜ。た―っぷり弾も用意した」
「焼き尽くす選択肢は無しですか。ないものは仕方がないですね。あるだけ貰いますよ」
「うう、いきなりこれとはついてないですにゃ」
"飲んだくれ"どもが俺と同じ感想を抱いていた。ミードは愚痴だけ言ってる。
たとえ水温が温かい海の上だとしても異常な気象であり、塔が発生させているのだろう。
通信妨害も込みになっていて、通信装置関連は使い物にならないだろう。
だが、他の船との連携は照明弾と旗信号でやるらしい。
海の男であるハンサムと、勇敢な部下達がその通信の指揮を取っている。
だから今回出撃するのは"飲んだくれ傭兵団"+猫と【ガトリングヒュドラ】の6機だ。
他の船を含めて連携して海上プラントを制圧しに行くことになるが──
「"お義姉様"、私の方は準備できました」
複座式を採用している【ガトリングヒュドラ】の後部サブシート。
そこに搭乗している白い美少女が答えた。
──あの、良い立場の人なんでしょ? 乗ってていいんですかねセレネ姫。
「まぁ、姫なんて。セレネと気軽にお呼びくださいお義姉様」
──あとさ、お義姉様って何???
「私に言わせないでください。お兄様といい関係なら私にとって姉です」
楽しそうな表情で俺をからかっている。あー。これ遊び半分だな。
うううーん。
確かに
いまいち肯定も否定もしづらい微妙なところだ。
でも、あいつとは口座を共有してる仲でしかねぇよ?
その言葉を聞いて、セレネは口元を手で抑え愕然とした表情をした。
「あの強欲なお兄様が? 口座を? えっ。思ったより本気?? 」
いや、一方的に奪われてるだけ。そんなガチじゃないよ多分。
それよりも武器管理お願いね。流石にこれの操作は真っ当な知的生命体じゃ無理だから。
「ええ、もちろんそのつもりです。操縦は私は下手ですが、"首"の管理はお任せください」
そう言うと、セレネは髪の間から白く細い触手を後部座席の各種モニター部に接続した。
セレネは人型をしている軟体種族とのハーフらしいが、触手は頭部の髪に混ざっていた。
そこにあったのか。細くて分からなった。道理でボリュームが多い髪だなぁと思ったよ。
「お兄様が信頼しているお義姉様の操縦ですもの。全面的に信頼します!」
なんか信用度がバカ高い。うーん。なんでだ?
というか、ほら。タコ野郎が我儘言ってゴメンな?
あいつの言いたいこともわかるが、半分は我儘だから。
「お兄様は昔っからこの【ガトリングヒュドラ】を嫌悪していましたからね。仕方がありません」
そうだ。多脚機に関しての感想を濁されたときにも感じていた嫌悪感。
この機体に何か深く、辛い因縁があり、相当に嫌な思い出があるのだろう。
俺は勝手にそう思っていたのだが──
「"首"一つでジェネレータが購入できますからね。許せなかったのでしょう」
ほんっっっっっっっっとタコ野郎は昔っからタコ野郎だし、親方は親方だよ!
タコ野郎のクソダサい逃げ行動の犠牲になった俺達の身にもなれよ。
そんなぼけーっとした脱力感に包まれながら、ジェネレータを起動させ、循環液を回し初めた。
「では、お義姉様。この"暴れ竜"の制御は全ておまかせします。好きに暴れてください」
多頭の目に光が灯る。
各部の首に力が迸り、その喉元から低い唸りをあげた。
狂気。激情。傲慢。接続しなくてもわかるその暴れるような奔流が駆け巡った。
まだ、俺の言うことを聞いてくれる。試すような乗り手への厳しい要求を感じる。
いいね。やる気に溢れていて何よりだ。今日は長い一日だからな。酷使させてもらうぞ。
多頭の竜は、激しい感情に狂騒する瞬間を、静かに待ちわびていた。
*
『悪い予感が当たった! やはり海上プラントへの上陸すら出来ない!
"飲んだくれ傭兵団"の面々で海中のスクラップを掃討してくれ!
【サハギン】四機出撃準備! 準備次第投下する! 【ガトリングヒュドラ】を上陸させろ!』
館内放送が響く。そして艦砲の砲撃音が既に響いていた。
海中に展開されているスクラップどもへの対処で艦は既に砲撃を繰り出している。
だが視界は良好とは言えない。すぐにでも接近戦となるだろう。
「いつでも!! "飲んだくれ傭兵団"、【サハギン】全機出るぞ!」
「ハッチを早く開けろ! 海中のスクラップどもを海の藻屑にしてやらぁ! 」
「
「
「海上の敵ならこのミードがなんとかしますにゃ。この【ミンストレル】にお任せあれ!」
歴戦の傭兵である"飲んだくれ"ドワーフどもはすぐさま行動し、ついでにミードも追従した。
ほぼノリで引っ付いてきてるけど、この猫、政治的に重要な人物じゃなかったっけ?
まぁいいや。好きに戦ってくれ。拾えないから沈むなよ。
『【ガトリングヒュドラ】を遊ばせておくつもりは無い。
被弾はさせたくないが、艦上に出て上陸まで砲撃体勢を取ってくれ』
俺達への指示も来た。
エネルギーチャージの時間は欲しいが、深海に挑む前に回復する試算だろう。
ジェネレータ2+1基構成機という回復力に不安がある構成だが──
確かに"試し撃ち"はしたかったからな。
後部座席のセレネは意気揚々と発言した。
「それなら私が殆ど制御出来ます。まずは【ガトリングヒュドラ】のその威力をお試しあれ!」
──いいね。やる気充分で何よりだ。俺としてもタコ野郎が頼りにしたお前を信じるよ。
「──やはりお義姉様は本気──?」
何か意味不明な事を呟かれた気がしたが、集中力を機体操作の方に費やした。
なんとか二手二足で扱えるように調整したんだ。操縦に少しでも慣れておかないとな。
多頭の龍は目を細め、ケタケタと笑うように顎が揺れた。戦いへの歓喜を隠そうともしない。
いいぜ暴れ竜よ。思う存分暴れて見せろ。御しきってみせるぜ。
ハンガーのハッチが開いた。暗い空が見える。
吹き荒れる風と、叩きつける雨と、荒れ狂う海という最悪のコンディションだ。
そして俺達は、大嵐で吹き荒れる海という最高のフィールドへ躊躇いもなく出撃した。
なお【サハギン】は本来は湖中で使用されてる機体。農業協働連合からパクってきた。
【ミンストレル】は本来は総議長専用機という超貴重機体。農業協働連合からパクってきた。