塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる 作:梅酒わいん
大嵐により世界は暗く閉ざされている。
吹き荒れる暴風により、海は狂うように全てを飲み込もうと高波を撒き散らしていた。
叩きつける豪雨。轟く雷鳴。吹き飛ばす風音。おおよそ知的生命体が居て良い環境ではない。
だがしかし。その最悪の環境ですら、歴戦の酔っ払いどもはバカ笑いして戦場へと殴り込んだ。
「ガハハハハ! 最高の荒海じゃねぇか! お前ら一献飲んだな! 吐くなよ!」
「吐くような軟弱な奴はいねぇよ! くそ、月が見えねぇ! 死ぬわけにはいかねぇな!」
「海中は苦手なんだがな。やるしかねぇ。全弾、撒き散らすぜぇ!」
「
飲んだくれどもは笑いながら、躊躇うことなく海へと飛び込んで行った。
水しぶきを上げながら前進していき【ラッキー・スター】の援護範囲内ギリギリに留まった。
近接装備をしている2機は直接敵機を抑えに行く算段だ。
後方に展開した2機は大型機と小型機を手分けして潰しにいくらしい。
あいつらすげぇな。一切の躊躇いもなく海に飛び込んだぞ。
流石キャリアと経験は俺を確実に上回っているベテランどもだ。
これは安心して雑魚を任せられそうだな。
さて、俺も【ガトリングヒュドラ】を甲板に移動させなきゃならない。面倒だな。
ずしり、ずしりと重い足を動かし鈍重な機体を移動させた。
重い。
クッッッソ重い。
純粋重量も、各挙動も、歩行速度も、何もかも重い。
動かした感覚から、【クロスガード・ブレイズ】の四倍近い重量がある気がする。
動く多足の挙動はゆっくりとしていて、一足踏み込む事に重心移動で深く揺れる。
というか、本当にこれ足か?
今のところ足として合計6脚使わせて貰ってるが、これ、首だよな?
あまりにも【ガトリングヒュドラ】の設計思想に自信がない。
「全てが首で、全てが手で、全てが足の変わりになります。気にしなくていいですよ」
後部座席のセレネが、さも当然のように答えた。
いやおかしいだろどんな設計だよ。うーん。親方の思想がわからない。
ただ、あまりにも重い機体という事実が、移動を後回しにさせた。
「私は"海上"で待機しますにゃ」
軽い感じの言葉を俺に投げかけ、ミードは軽いステップで荒海へと歩み寄った。
ミードが駆る機体は
荒海の上で"水を足場"にしながら、平然と飛び跳ねて踊っている。
『妖精の長靴』だったか。足場にフィールドを展開して水上を走れる特殊装備だ。
何度も他国からの侵略を防ぎ、くぐり抜けた由緒正しい兵装だ。
一部の機体にしか搭載されないが、不利な環境を一方的にねじ伏せる強力な装備だ。
「では行ってきますにゃ。援護ヨロシクですにゃー」
ミードと【ミンストレル】は荒波をものともせず、走り、滑り、跳ね、飛び、駆けていった。
今の足捌きだけでわかる確かな技量。これは海上の前衛を充分任せられるな。
「私たちも配置に付きましょうお義姉様。【ヒュドラ】に"水を飲ませて"ください」
俺はセレネの指示の元、【ガトリングヒュドラ】の位置を調整。
船のハッチの内側から、首を複数出して海へと伸ばしていった。
変な操作だ。レバーを引いて、目盛りを回して、スイッチ調整して、と手が忙しい。
確かに一人じゃ回らない。各種エネルギー分配調整は任せっきりにしておいた方がいいな。
【ガトリングヒュドラ】はその伸ばした首から、ゴクゴクと海水を飲み込んでいった。
身体に蓄えた海水は圧縮されるらしく、機体の各種首の部分に蓄積されていくようだ。
見た目は変わらないが、その変化は足元への圧力へと変換されていった。
水分で、重量はとんでもない状態になっている。堅牢な船で良かったな。傾くことは無いだろ。
「お義姉様、いいですわ。浮かばせる調整はしますので思う存分動かしてくださいませ!」
はいよ。充分な"ストック"が溜まった事をセレネは告げてくれた。
鈍重な脚部扱いしている首に力を込めて、海へと歩みを進めた。
そして、足先から爆発的な水流を発生させ、【ガトリングヒュドラ】を浮かばせる。
合計六首の足から噴出する水圧で、その巨体が容易く浮かぶ。
重さに比例した緩やかな浮遊感だが、しかし安心した機動を可能にする充分な推力だ。
上手くやれば空中で静止すら出来そうだ。お前はそういう感じか。悪くない。
互いににやりと笑いながら、浮遊する【ガトリングヒュドラ】を嵐の海へと飛び立たせた。
*
ま、確保する位置としては【ラッキー・スター】の甲板なんだが。
牙をカチカチと鳴らして不機嫌そうに【ガトリングヒュドラ】は不満を訴えた。
ええい。落ち着け。お前の挙動が重すぎて、どう考えても後衛機として扱うのがいいんだよ!
水流が循環する音でクルルルルと喉を高く鳴らした。
さっさと戦闘を初めないと故障の一つでも起こりそうだなこりゃ。
視界はほぼ使い物にならないが、
超音波を筆頭に各種音響センサー群が、擬似的な視界を作り出しモニターへと投影していた。
既に展開している"飲んだくれ傭兵団"どもと【ミンストレル】の姿は確かに確認できた。
そして、遠くに多数の金属群が浮かんでいた。
来たか。
スクラップの群れだ。
ちょっと種類は多様過ぎて判別が難しい。
しかし、小型機を中心として、中型と大型が所々点在している。
さらに、最低でも
超大型機である
他には多脚で水上に浮かんでいる昆虫型スクラップ。水面をはね飛び回る空中の"跳ね玉"。
空には嵐を裂いて飛び回る槍弾魚。水上を滑るように接近する甲殻類を模した中型機。
水中には小型から中型の魚型が群れを成しており、種類すらわからない。
多種多様な海に漂っているスクラップの群れが統率されてこちらに向かってきていた。
しかも遠くから接近する
それも一機どころか、三機は見える。こりゃ大軍勢だな。
「大型機は受け止める! 対処は任せた!」
「接近までの時間は稼いで生存を優先!
「魚群は任せろ! 全部海中でバラバラにしてやる」
「水上の甲殻類から潰して行きましょうか。硬そうです」
「海上の飛んでるやつ以外は任せてくださいにゃ~」
『空中小型機は船側で対処する、見逃して良い!
「なら、私たちは
──おーけぃ。お前ら。俺が先手で一発ぶちかましてやる。それが戦闘開始の合図だ。
「あいよ!」「へい!」「がってんだ!」「理解!」「わかったにゃ!」『任せた!』
なんか久々だな。よし、セレネ。初手最大火力行くぞ。
「分かりましたわお義姉様! 四首を甲板に固定してください!」
指示に従い、前後左右の四首の牙を甲板に打ち込んだ。
そして、残りの十個の首を、"前方"に向けて、口を開く。
「海水変換完了。ジェネレータ稼働状態万全です。機体側エネルギーも半分貰いますね!」
あ、思ったより遠慮なくゴリッとエネルギーが減った。これはまともに機動出来ないな。
そして、十個の首の側面からエネルギーが循環していく発光の逆光が甲板を照らしていった。
口元に明かりが灯り、光が収束していく。
「全攻撃首、砲起動。 チャージ完了まで10秒。 ターゲットロックはお義姉様に任せます!」
はいよ。こちらに近づいている最も近い
攻撃場所を集中するには首の位置の調整が必要になる。4箇所くらい狙えれば充分だろう。
操作コンソールを高速で操作し、攻撃部位設定、首の位置調整、環境補正完了。
荒れた風により最初の数秒は命中しない可能性がある。操作連動。マニュアルモード準備。
味方機の位置確認。巻き込まれる事は避ける線を把握。全部問題なし。
よし、行けるぞ。
「手早い。流石お義姉様。砲の準備完了です。いつでも!」
おっけー。じゃあ行くぜお前ら。巻き込まれるなよ。
──十連
強風が吹き荒れ、大波が荒れ狂い、大雨が狂い落ちた海上に、青い閃光が迸った。
多頭の水竜から放たれた十条にもなる光条は、嵐を貫き、遥か遠い
バラバラに切り裂いた。
全部首がちょっと威力が弱い特殊ドラゴンブレスというバカ機体です。