塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる   作:梅酒わいん

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95話:回転

「全速前進! 今前衛で戦ってる艦と入れ替わるぞ!」

 

 激しいジャミングで近距離以外での通信は復帰していない。

 ハンサム達は原始的な旗振りを通信手段として用い、他艦との連携を取っていた。

 こればかりは完全に専門外の技術だ。手法は分かるが内容はさっぱり分からない。

 

「船長の部下さんの連絡によると、大破が三、中破が二らしいですよ」

 

 後部座席のセレネが通信手を担い、俺への情報を纏めてくれている。

 ごめん、俺何も聞こえないんだけど、何をどう処理してるの?

 だが、その情報から海の各所から同時に複数の艦がプラントを目指していることを知った。

 

「【ラッキー・スター】と他三艦が四方からほぼ同タイミングで揚陸可能らしいです」

 

 淡々と告げたセレネの情報が、尋常でない情報を伝えてきた。

 通信妨害された状況、かつ明確な指揮者が居ない中で、この見事な連携。

 最初はスカした伊達男だと思っていたが、その指揮連携能力は本物だった。

 

「【ヒュドラ】のエネルギー供給パイプ解除! 作業に取り掛かってくれ!

 揚陸と同時に流体加速器(ビームスクリュー)の竜巻でプラント上を薙ぎ払う! そのタイミングで出撃させるぞ!」

 

 パイプを外すということは、もう出撃の直前だな。セレネ、【ヒュドラ】の状態はどうだ?

 

「エネルギー状況は、砲撃は合計5秒程度までなら撃てます。機体側は万全ですよ!」

 

 よし、なら近接戦闘は充分に可能らしい。

 だが、【ガトリングヒュドラ】の機動は砲と同様の水流噴射に依存している。

 水流による浮遊は現行のエネルギー状況では難しい。となると歩行しかない。

 しかし、この重量でのそのそ歩行して攻撃するのはあまり現実的ではない。

 全体的な挙動が少し重すぎる。足を増やしたところで大した速度は稼げないだろう。

 どうするかな。悩んでいると、セレネが後部シートから俺に声をかけてきた。

 

「あの、お義姉様。お兄様は"足"を上手く使ってました」

 

 ん? 何?

 

「【ヒュドラ】は、全てが首で、全てが手で、全てが足の変わりになります」

 

 んー? 何を言って──

 

 

 あっ。

 

 

 お前、まさか。

 "そんなバカげた移動方法"なのか?

 

 

 *

 

 

 嵐の海を、快速の船は駆けていった。

 左右に展開していった艦がスクラップどもを撃破していき航路を切り開いていった。

 その中央を【ラッキー・スター】が滑りこみ、海上に突き刺さる塔へと爆進していく。

 塔は暗雲を纏いありとあらゆるものを拒絶しながら、知的生命体を見下していた。

 そして、突き刺さる大地の変わりとなった海底資源採掘プラントへと、船は突き進む。

 その上に立つは海賊略奪同盟(パイレーツ・アライアンス)が誇る水陸両用機(ダイバー)【ナルワール】。

 高速船【ラッキー・スター】の船長ダンディ・ハンサムと名乗る洒落男が駆る機体だった。

 

「突破した! プラントまで、あと20秒! 全員衝撃に備えろ! 乗り上げるぞ!」

 

【ナルワール】は両肩に装備している推進機を前にして、ビーム刃を形成。

 回転させ、大気を掴み、前方を歪ませた。刃の回転の速度を挙げるたびに風を巻き込み──

 

 そして、【ラッキー・スター】は浮かび上がり、プラント上部へと滑り込んでいった。

 衝撃。それと共に巨大な金属同士が互いに削られていく唸り声が嵐に響いた。

 

流体加速器(ビームスクリュー)の竜巻と共に全機展開! いくぞぉ! 薙ぎ払え! 【ナルワール】!!」

 

 コアフィールドの拡散による大気を巻き込んだ螺旋旋風は、有象無象の群れを薙ぎ払った。

 そして、それは同時にプラントの各方角。四方から打ち込まれ──

 

 

 塔が、揺れた。

 

 

 *

 

 

 衝撃と金属を引き裂く音、竜巻による暴力的な破壊音。

 それが合図となり、【ガトリングヒュドラ】を出撃させるため、ハッチが開く。

 目の前に映しだされるのは鋼鉄の要塞の如き海底資源採掘プラントの表層だ。

 流石に塔の落下の衝撃や、螺旋旋風で平坦だったであろう表層はバラバラに崩されている。

 だが、堅牢な作りをした足場は、大型AGが踏み荒らしても壊れない強度を保っていた。

 

 

 ──俺はどうやらお前を理解できてなかったらしい。最初っからそう紹介されていたのにな。

 ──いくぞ、多足竜。お前の望むままに、思う存分走り回って、好き勝手に暴れてくれ。

 

 

 クルルルル、と【ガトリングヒュドラ】は喉に緩くエネルギーをチャージしながら目を細めた。

 俺は【ヒュドラ】の首を足にして、一歩進ませた。

 その次に、別の首を足にし二歩目を進ませ、三歩目も別の首を足にし──

 次々と別の首を使い、"一回転"して最初の首に戻り、地面を踏み抜き前進を繰り返した。

 

 

 そして、足を次々に出して【ガトリングヒュドラ】は、車輪のように"転がって"加速した。

 

 

 戻す動作が不要な歩行は余計なエネルギーを使わない。

 ただひたすら前進にエネルギーを使用し、その膂力により爆発的な加速を繰り出した。

 六足歩行など比べ物にならないほど速度が早い。なにせ、ひたすら地面を蹴るだけだからな。

 その純粋な前進速度は全速機動中の【オンボロ】並の速度に達しているだろう。

 

 前後左右がわからない構造も、全方向に移動できるようにするためか。

 ブロックそのものも回転するように出来ており、俺達は常に下に位置していた。

 この設計により、回転しながらの移動に俺達が振り回されることはない。

 

 

 ──本当に、親方さぁ!? もっとまともな設計しろよ!?

 

 

 そう罵倒しつつ、俺はこの巨体をなんとか制御した。

 次々に地面を蹴る足を切り替える必要があるため、俺の指が忙しいことになっている。

 だが、先程の砲撃で暴れ回られるよりは遥かにマシであり、どうにか処理出来ている範囲だ。

 

「よくお義姉様、二本の手で操作できますね」

 

 ──タコ野郎に出来るんなら俺にもできらぁ!

 

 いやちょっと待って会話に集中出来ないマジで忙しいこんなもんよく操作できるなタコ野郎。

 戦場確認しながら疾走するだけで酷い集中力と消耗を強いられている。キッツイ。

 頭を高速移動と戦場把握に全力を尽くしながら、探知も行っているセレネの声を聞いた。

 

「前方、小型スクラップ多数! 塔への道を塞いでます!」

 

 その情報を耳で聞き取り、意識を前方の敵機の観察に割り振った。

 旋風に巻き込まれず生き残っている小型のスクラップが、健気にも迎撃しようとしている。

 だが、俺はこの巨体を信じぬき、その妨害を無視するかの如く加速を続けた。

 

 激突。

 あまりにも軽い衝撃が連続した。しかし速度は殆ど落ちず、次々と踏み潰し"轢殺"した。

 滑走する【ヒュドラ】の純粋重量は俺が今まで乗った機体の中でも最大級だ。

 正直、中型ですら激突と共に容易く破砕出来るだろう。この突進にはそれほどの破壊力がある。

 

 しかも踏み潰すと同時に牙でズタズタに引き裂き、プラントの表層ごと砕き割っている。

 都市部じゃ使えない機体だな。呑気に俺はそう思いつつ、スクラップの群れを砕き潰した。

 

「おいおいおいおい、なんだあのバケモンは」

「もうちょっと常識的な進軍してくれねぇかな」

「速すぎんぞ! 【サハギン】の足は遅いんだから援護できねえからな!」

「頑丈ですが、水陸両用機(ダイバー)で歩行速度が速い機体は存在しませんからね。頑張ってください」

 

 "飲んだくれ傭兵団"が駆る【サハギン】たちが揚陸し、後続で展開し戦闘を開始した。

 連携は無理かな。だが【ラッキー・スター】の防衛と背後の処理は確実にしてくれるだろう。

 だから誤射の心配は無いかな。いいね。

 

 ──セレネ、2番、4番、10番、12番の首を3秒間照射出来る程度にチャージしてくれ。

 

「えっ! また撃つんです!? お兄様より扱いが荒いなぁ! ええい、やってやります! 」

 

 ──登場シーンは派手にやらなきゃいけねぇんだって! なぁ【ガトリングヒュドラ】よぉ!

 

 カカカカカ。【ヒュドラ】は意見に賛同するように、回りながら顎を鳴らした。

 回転する首の一部が両横に展開し、回転に巻き込まれぬように高さを静止させた。

 そして青白く首が光り、徐々に喉元までせり上がって来ている。

 

 俺はその間、小型スクラップを踏み潰し、弾き飛ばし、切り刻み、たまに掴んでぶん投げた。

 全ての首は、足であり、手だ。つまり踏みつけ動作とつかみ動作が同時に成り立つ。

 そのことを理解した俺は、小型スクラップを踏み潰したあと、そのまま掴んで投擲した。

 移動方向への投擲動作(スローイング)は一回転する性質上、速度を一切落とさず行える。

 つまり小型スクラップは妨害する壁にすらならず、むしろ大量の投擲用弾丸に変貌していた。

 高速移動と攻撃動作が全部一緒になってるこれは、すごく合理的な──

 

 ──嫌だ! 親方のクソみたいな設計を極めて合理的だと思っちゃった俺が嫌だ!!

 

「どうしたんですお義姉様! 私は最初から【ヒュドラ】を傑作機だと思ってますよ!?」

 

 ウワー! セレネがすでに染め上げられてる!! コワイ!!

 

 精神汚染によるダメージを受けながら、プラント上層を駆け抜け塔の麓まで駆け抜けていった。

 嵐を産み出している塔は海藻のような藻に包まれ、貝のような殻で全体を覆っていた。

 

「スクラップの大群です! 中型から大型まで! 地竜(ティラノ)まで居ます!」

 

 その巨大な塔の、真下に大型機を筆頭とした多種多様なスクラップの軍隊が待ち構えていた。

 螺旋旋風から生き残ったであろう彼らは、所々に傷を負いつつ入口を防衛していた。

 明らかな地上用スクラップまで混ざっていることから、明確な防衛拠点として構築しているな。

 塔の思考能力が高い。指揮官(コマンダー)が守っていることは確実だった。

 

 ──最高の獲物達じゃねぇか。唆るな。

 

 多頭竜の口から漏れ出す光が、怪しく揺れる。早く暴れさせろと俺に強く主張していた。

 俺の指示もなくセレネは操作をしていた。エネルギーが収束し、口元に閃光が輝く。

 それと同時に入口近くに居た、中型サイズの甲殻型スクラップに突撃。踏みつけて掴んだ。

 勢いのままそれを群れの中へと投げ飛ばし、そしてその反動で高く跳躍した。

 

 

 ──大量の獲物だ。喰い荒らせ【ガトリングヒュドラ】。

 

 

 嗤う多頭竜(ヒュドラ)は、その四つのあぎとを全開にし、空中から光条を放った。

 

 ──多重間接多機能水竜砲(フレキシブルマルチプルハイドロブレス)。発射。

 

 

 超高圧水流(ハイプレッシャー・ジェット)超高熱熱線(サーマル・レイ)空洞現象衝撃波(キャビテーション・ショックウェーブ)の三つの複合した物理法則。

 竜の首を大きく振り回し、スクラップの軍勢へとその暴威が青い光条となって解き放たれた。

 

 




作中反応:なんだその移動方法!?
作者反応:なんだその移動方法!?

超大型AGがウニみたいな状態になって、転がりながら加速してくる恐怖。
カラスや登場人物達は、作者がよく知らない機体の使い方を毎回思いつくんですよね。
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