ベル・クラネルの父親に転生してしまった!?(本人は無自覚です) 作:カステラ
その戦いは熾烈だった。
古来より、人は怪物には勝てなかった。
その古代と同じような差が、少年と竜にはあった。
残酷なまでの力の差、まさに蟻と象。
その破爪と尾が少年を引き裂き、叩き潰そうとする。
だが、剣は破爪とぶつかり、逸らし火花を散らす。
叩き潰そうとする尾をギリギリでなんとか躱す。
渡り合っているように見えるだろう。
いや、それは違う。
竜と違い、少年は満身創痍。
とても戦える状態ではなかった。
左腕は折れ、身体は裂傷と焼き傷だらけ。骨も折れている。
それでも動いているのは、ひとえに気合いと根性、そして叩き込まれた技量とステイタスによるものだった。
その技量もまだまだ拙いが。
しかし、ダンジョンは───怪物の母はそう甘くない。
竜が速度を上げる、神を屠るための邪魔者を消すために。
少年が対応できなくなってくる。
逸らしきれず、腕の肉が少し抉れる。
痛みに声を上げそうになるが、それは許されない。
尾が地を滑り、少年へ向かう。
咄嗟に躱そうとするが、それを聞いた予測していた竜はバックステップをした少年の横から、その腕を叩きつけた。
「がっ?!」
またも少年は吹き飛ばされる。
先程の焼き直しのように、また少年は血を吐き壁に亀裂を作る。
竜はさらに追撃を行うべく、地を鳴らしながら少年へ近づいていく。
その時、吹き飛ばされ意識が朦朧としている視界で少年は見た。
金髪に緑の瞳のエルフ。
サポーターで魔導士のピンク髪の少女。
そして、
「─────ぁ」
長い灰の髪、翠と灰色のオッドアイの【静寂】が目を見開きこちらをみていた。
その時少年が思ったのは、安堵でも、不快感でも無かった。
震える身体に喝を入れ、強引に立ち上がる。
こちらへ駆け出そうとするエルフ───リュシーはアルフィアに抑えられている。
ならばもう、不安要素はない。
少年は目で語った。
『そこで見ていろ』と。
──────────────────
そのメッセージを受け取ったアルフィアは、リュシーの腕を掴み引き寄せ戻した。
それに、リュシーは抗議の声を上げる。
「何すんのよ!アルフィア!!助けに入らないと!」
「貴様は、先程のやつの目を見ていないのか?」
そうアルフィアは言う。
しかし、リュシーはそれで納得しない。
「でも!あのモンスターは普通じゃない!!」
「そうだな、私もあのような〝黒いモンスター〟は見たことがない」
「なら───!」
しかし、アルフィアはさらに続ける。
彼は───
「やつも、それぐらいはわかっているだろう」
「しかし、やつは選択した」
そう、彼は選んだ。
普通じゃないとわかっていながら、力では及ばないとわかっていながら、戦うことを。
「戦い、勝つことをな」
「!!」
「その選択に口を出すのは、侮辱と同じだ」
そして、アルフィアは決定な言葉を紡ぐ。
冒険者にとって、無視できないことを。
「〝冒険〟をするのが冒険者だろう」
「─────」
そう、ソレは冒険なら誰もが思うこと。
格上を打ち果たし、試練を越え、偉業をなす。
ソレこそが冒険者だ。
それを聞いたリュシーは、遂に引き下がった。
「………わかったわ」
「い、いいんですか!?」
そうメリアが言う。
しかし、彼女の返答は変わらない。
「そうよ、これは─────」
「あの子の冒険だから」
────────────────
(……なんとか、意図は伝わったか)
そんな、少しの安堵と決意で後ろをみるのを辞めた。
『アルバスよ、おぬしがそこへたどり着こうとするなら、これだけは伝えておくぞ』
『もし英雄と呼ばれる資格があるとするなら』
『剣をとった者でもなく』
『盾を翳した者でもなく』
『癒しを齎した者でもない』
その言葉が、思い出された。
『己を賭した者こそが英雄と呼ばれるのだ』
『仲間を守れ、女を救え、己を懸けろ』
『折れても構わん、挫けても良い、大いに泣け』
『勝者は常に敗者の中にいる』
前を見た。
前方には、今にもその破爪を振り下ろそうとする竜がいた。このままいけば、叩き潰され即死だろう。
『願いを貫き』
『想いを叫ぶのだ』
『さすれば、それが一番』
『格好のいい
だが、彼は前に駆け出した。
竜と腕の隙間をすり抜け、後方に回り込む。
そのことを認識した竜は尾を振るい、少年を叩きつけようとする。
しかし、
「【
紅き稲妻が竜の顔に直撃する。
突然の痛み、電流に竜は悶える。
なにをされたのか分からない、初めて見る攻撃に混乱してしまう。
そう、先程の戦闘で使い続けていた
だが、ようやく一撃が当たったからといって少年が有利になったわけではない。
「ぐあっ─ッ!」
視界が揺れる。
この現象も相まって、先ほどから強烈な目眩と眠気に耐えながら戦っていたのだ。
だが、この程度で───
「止まるかよ───ッ!!」
彼は止まらない。
それで止まるようなら、■■■との約束を果たせないから。
そして、メーテリアを治してやることなどできるはずがない。
あの日、敗北感を覚えた〝英雄〟を見たあの日から。
この程度では黒竜を、災厄を倒せないと悟った。
黒竜を倒せなければメーテリアを治しても、結局皆が死んでしまう。
ならば、約束を果たすためには黒竜を倒すしかない。
それをゼウスに言ったとき、あの言葉を言われた。
それは知っている言葉でもあった───が、同時にとても心に響いた。
今更ながらに思い出すことになった、その神は。
数多の英雄を擁した最強のファミリアの主神なのだと。
正面を見る。
そこには少年にとっての〝冒険〟がいる。
竜、かの黒竜と同じもの。
だが、どうしようもなく弱い。
比べるべくもなく。
なら、倒さなければならない。
故に、
「…………勝負だ」
ヒビの入った直剣を構えながら、言う。
かの
それを合図に、少年は飛び出す。
そして竜も同時に動く。
「グオオオオオオオオ!!!」
竜の咆哮が轟く。
そして、今まで使っていなかったカードを竜は切った。
口内に炎が渦巻く。
ソレは竜の象徴の内の一つ。ドラゴンブレス。
それを躊躇なく使った。
それを使ってでも倒すべき敵と認識されたのかそうでないのかは分からないが。
そのブレスを放つのを、少年は躱す様に動く。
その火が放たれ、12階層のその地帯の草木が焼け焦げる。
(くそっ!なんて威力……!)
なんてことを考えてしまう。
上方に跳躍し、ブレスを躱し懐に入り込む。
それからは先程と同じように、破爪を逸らし、尾を躱す。
火花が散り、衝撃が巻き起こる。
金属音と轟音が踊り、風が起こる。
傷を負い、血を流し、肌が焼かれる。
激しく熾烈な攻防戦のあと、ソレは起こった。
「ぐっ!?」
力の調整を見誤り、剣が弾かれる。
それを見た竜は、その爪を前に突き出す。
そしてそれは───
「がはっ!!?」
少年の腹を思いっ切り貫いた。
それを見たサポーターの少女から、悲鳴が上がる。
エルフの剣士は目を見開き、この先の未来を予感した。
そして静寂は目を開いたまま動かない。
トドメを刺したと確信した竜は、せめてもの手向けにその獲物の頭を食いちぎって終わらせてやろうと、頭を近づけ口をあける。
その行動こそが少年にとっての幸運であり、竜にとっての命取りだった。
「……──ッ!【
口内に目掛けて、稲妻が走る。
「グオオオオオオオオォォォ!??」
とてつもない痛みと雷撃に焼かれたダメージで悶絶し、後ずさる。その時に、少年から爪が引き抜かれる。
傷口から血が溢れ出す。
「【
前に、雷撃で傷口を焼き止血する。
とてつもない痛みに声を上げてしまうが、上げている間にも少年は行動を開始する。
直剣を折れていない方の腕で持ち、今だ苦しむ竜の口の中へ突き刺す。
そして、唱える。
「【
さらに唱える。
「【
「【
パリンと何かが砕ける音がした。
何が砕けたのかは、見れば分かった。
インファント・ドラゴンの体が、灰へと変わっていく。
頭が灰に変わる直前、竜は────
笑っていたように見えた。
───────────────
インファント・ドラゴンが灰に変わったあと、アルバスは片膝をついて剣を杖代わりにして座り込んだように見えた。
それをみて、呆然としていたメリアとリュシーが駆け寄る。
みてみれば、腹の傷のほかにも出血が酷くすぐに治療が必要な状態だった。
そして、メリアは
「【天の川、せせらぎの音、かの不死が浸かりしこの聖の泉。どうか見届けよ、汝の結末】───【ユグドラシル】」
そう唱えると同時に、彼の傷が徐々に回復していく。
しかし、とても完治には程遠い。
そしてそこに、静寂は歩いて行く。
「……容態は?」
「……かなり酷い怪我です。急いでホームに戻って治療しないと」
そんなやり取りをリュシーとメリアがしていると、アルフィアは言う。
「……試練を超えたか」
その言葉に少し反応するように、ピクリと体が動く。
アルフィアが続けて言う。
「及第点だ………だが、少しは認めてやる」
「帰るぞ」とアルフィアが言うと、それ以上動かなくなったアルバスを背負ってリュシーとメリアは走り出した。
見て下さりありがとうございます。
黒いインファント・ドラゴン
Lv2から3
タナトスの神威によって生み出されたモンスター。
普通のインファント・ドラゴンと違い、爪が鋭く尖っている。本来なら自己再生能力を持つが、今回は活かすまもなく主人公に内側から雷撃によって焼かれて敗北。
Lv相当のため、ゴライアスほどの再生能力ではない。
本来なら別の倒し方にしたかったのですが、格上の魔石を砕くならこれしかないかなぁと思ってこれにしました。