ただし、能力者は絶対に出すことのできないもう一つの能力…いわば隠し能力も持っており、それが能力者の肉体から分離すると死霊として活動を開始する。死んだ能力者が隠し能力に支配されて同一個体のまま死霊化するケースもあるだろう。死霊は無差別に人間を襲い殺す。知性も理性もなく、ただ殺す。
1.宇宙平和協会
誅暦1001年の街の一角、黒い閃光がほとばしった。一体の大型死霊が確認され、1人の隊員が討伐に当たっていた。
死霊は巨大な口を開いて地面に体を引き摺るようにして移動して隊員の動きを追っている。隊員は紺色の和服を纏った女性で、青と白の眩く光る刀を持っている。服装と同じく髪色も紺色で、長髪が風に靡く。その黒い目は死霊の急所を探して鋭く動いている。
宇宙平和協会二級隊員、神嵜巴(カムサキトモエ)。
巴は空中にふわりと浮いた状態で死霊を見下ろした。そしてその青白く輝く妖刀を構える。刹那、死霊は大量の短い足を縮めて巴に飛びかかった。巴はふわりと横に逸れて回避し、妖刀に自身の導力を注ぎ込むイメージで収束する。刀の光が死霊の禍々しい黒い肌を照らす。そこにはもうかつて人間の能力だった面影は少しも見当たらない。
巴は刀を素早く振り、自身の導力を斬撃として死霊に放った。斬撃は死霊の腹部に命中し、敵はそのまま大きく吹き飛ばされた。巨体はビルに追突し爆音を響かせた。
街の住民はすでに治安維持組織のBLUELINEによって避難が完了しているらしい。2次被害を考えなくてもいいとはやりやすい。
巴は続けて素早く接近し、死霊の体に刀を振り下ろす。
キンッ。
死霊の胴体が横に一刀両断され、一瞬の静寂が訪れる。
次の瞬間死霊が絶叫し、長い舌を高速で巴に放つ。巴はすぐに距離を取って射程外へ避難した。妖刀が鞘に収められ、パチンと音を立てた。やがて死霊の上半分がずるりと転がり落ち、肉体が蒸発するように、まるで空気の中に溶け落ちるように、一瞬で消滅した。
巴は地上に降りる。飛行中は少しずつではあるが導力を消費し続けるのだ。導力は休息を取ることで自動的に回復するが導力の最高量には上限があり、消費し続けるとなくなる。導力が完全になくなれば能力を発動できないだけでなく、体に異常をきたす。人によっては死ぬこともあるだろう。私はどうかな…。
巴はそんな恐ろしい考えを頭から振り払い、依頼者の元へ向かうことにした。死霊の討伐依頼を出した本人にしっかり討伐完了の報告をして、安心してもらうまでが任務だと巴は考えていた。
「おお…!死霊を討伐してくださったんですね!ありがとうございます…!」
「いえいえ。無事で何よりです」
巴は依頼者に愛想良く微笑みかけた。依頼を達成したので、協会に戻れば報酬を受け取れる。宇宙平和協会の制度はこうだ。
1.依頼者が依頼内容を書いた紙と報酬を同封した封筒を協会の受付に出す。
2.依頼内容がエントランスで開示される。
3.隊員が依頼を受ける。
4.依頼者に達成報告を出す。
5.依頼者が協会に連絡を入れ、達成した事実が認められると同封された報酬を受け取れる。
尚報酬のうち1割は協会が納め、団体のために使っている。
巴は依頼者に軽く会釈し、協会に向かって飛び立った。風を切る音がする。さっきまで自分がいた街が遥か下に見える。
第三市街地から少し離れた場所に、宇宙平和協会本部はあった。白と黒の巨大な建造物で、隊員の個人部屋や訓練室、会議室などさまざまな設備のある戦闘基地だ。入り口に入ってすぐのエントランスにはたくさんの受付窓口があり、依頼者が依頼を受け渡すことができる。巴はその一番右端の報酬窓口へ向かった。その名の通り依頼の報酬が受け取れる場所である。
「依頼番号10320475番、達成しました」
巴が受付に言った。受付はファイルに挟まれた資料をペラペラと確認する。
「はい!依頼者から達成連絡が入ってますね。ではこちら、報酬になります」
受付が封筒を巴に手渡した。宇宙平和協会は命を賭ける必要のある職業なため、報酬はかなり良い。加えて、等級が高い隊員ほど報酬も少しずつ増えていく。隊員に昇級の意思を促す良いシステムだと巴は思っていた。
巴は封筒を受け取り、奥にある別館の自室で一休みしようと階段を登って行った。
「神嵜隊員だな」
不意に背後から声をかけられた。巴はあまりに急に話しかけられたので驚いて飛び上がる。
「あ…会長、お疲れ様です」
振り向いた巴は咄嗟に目の前の赤髪の女性に頭を下げた。彼女こそが宇宙平和協会現会長のカーフだった。
「ああ。少し時間を取れるか?」
「なんでしょう…?」
カーフの黄色い目が巴をじっと見つめている。巴は目を逸らすことも見つめ返すこともできずにいた。カーフは巴に少し近づき、一言発した。
「君に指名任務を与える」