巴に誘われてエントランスに連れられた韋駄丸。
「依頼…どれにするか決めてる?」
韋駄丸が巴に聞く。
「今から決めよ。危険度とか考慮して」
エントランスの依頼受付の椅子に座る巴。向こう側には依頼者が依頼を提出する受付があり、こちら側は隊員が提出された依頼を選択する受付だ。巴の後ろに立つ韋駄丸。
「あんま危険すぎるやつはちょっと…」
「だね。2人でちょうどいいくらいのやつにしよ」
巴が依頼書がまとめられたファイルをペラペラめくりながら言う。「怪しい館の調査」、「第一市街地を出入りする黒い人影」、「街のビルに発生した死霊」。依頼は大量にある。
「できれば死霊相手が助かる。手加減が必要ないから」
韋駄丸が口を開いた。巴が少し頷き、一つの依頼書をファイルから取り出した。件名は「屋敷に死霊が入ってきた」。提出された日時は一昨日の夕方らしい。危険性を予測して10段階でつけられるハザードクラスは「7」。明確な敵意と戦闘力があり、非戦闘員にとっては十分な脅威となり得ることを意味する。
「どう?」
「あー…いいと思う」
巴の問いに曖昧に答える韋駄丸。ハザードクラスだけ聞いてもいまいち体感がわかない。
「死霊相手だから本気出しても問題ないよ」
巴が椅子から立ち上がりながら韋駄丸に言った。韋駄丸は後ろに背負った黒いケースを右手で掴んだまま無言で頷いた。
依頼者の屋敷には10分もかからず辿り着いた…巴が韋駄丸を掴んで飛んでいったからだが。
「やっと来てくれたのね」
女王のような貫禄の女性が玄関から現れた。依頼者だろう。
「お邪魔してもよろしいですか?」
「もちろんです。ご案内しましょう」
依頼者がかなり偉そうに金色の両開きの扉を開いた。巴と韋駄丸は無言で頭を下げて屋敷に入る。
「どうですか?私の屋敷は。部屋数は25、中庭や屋根裏部屋もありますのよ」
「そうですか」
依頼者の家の内装なんかマジでどうでもいい韋駄丸が適当に返す。依頼者はその態度が気に食わなかったらしい。
「ちょっと、ちゃんと聞いていらっしゃるの?ほら、そこのシャンデリアをご覧なさ…」
その瞬間、右のドアがガシャンと大きな音を立てて蝶番ごと破壊された。
「まあ!20万もする扉が…」
20万の扉は床にぶっ倒れて粉微塵になった。依頼者が阿鼻叫喚の声を上げている。
「そこか…」
韋駄丸と巴が即座にドアが吹き飛ばされた部屋の中に駆け込む。
その部屋は骨董品のコレクションルームらしい。かなりの広さの部屋には大きな棚が置かれ、大量の壺や花瓶が飾られている。そして、部屋の天井に死霊がへばりついていた。
まるで黒い動物のようだが、顔だけは人間のようで目鼻口が見当たらない。六本の足の爪が天井を掴み、クマムシのように丸まっている。
「7万円の壁紙がァ…」
依頼者の失神しそうな声が背後から聞こえた。韋駄丸はケースを開いて黒い刀を取り出し、巴は妖刀噛去をすでに構えている。
「まずはここから追い出します!恐縮ですが10万円くらいの損害は覚悟して欲しいです!」
依頼者が気絶して床に崩れ落ちた。