D.I.G本部の地下一階にて姿を現した組織長・シンドロン。いかなる攻撃もろくに通らないその恐ろしい未知の力に、徐々に危機感を感じる一向。
「あはははは…良い加減諦めた方が身の爲じゃない?」
シンドロンが笑った。リコルは素早く数体のコウモリに分離してシンドロンを取り囲む。
「貴女こそ…なぜ私たちに攻撃してこないのですか?」
リコルの声にたじろぐシンドロン。その隙をレヴルが逃さなかった。黒い水のような質感の触手がズバッと一直線にシンドロンへ突きを繰り出した。
「!」
シンドロンはギリギリのところでそれをかわし、すぐ横の床に着地した。シンドロンはミステリアスな笑顔を浮かべるが、レヴルがあることに気づいた。
自らの触手が壁に突き刺さる感覚があった関わらず、自分の目に映る壁には一切の傷がついていなかったのだ。
シンドロンはそのレヴルの視線に気づき、あ…と小さく声を漏らした。
「どういうことですの。私は確実に壁を貫いたはずですわ」
レヴルがギロリとシンドロンを見つめた。シンドロンは帽子の縁をクイっと下げ、ニヤリと笑った。
「…やるね」
瞬間、シンドロンの姿がフワリと霞のように…いや、夢から覚めたように見えなくなった。同時に壁にはレヴルが開けた穴が現れる。韋駄丸は呆気に取られてフラつく。
「どういうこと…」
美甘が薙刀をガシャンと床に叩きつけるように下ろしてつぶやいた。リコルは合点がいったような表情で美甘を見下ろした。
「たった今まで見えていた姿は…幻か何かのようです。それが彼女の能力でしょう」
リコルが静かに言った。レヴルが触手をニュルらせながら得意げな表情で立つ。
「あの女は初歩的なミスを犯したんですわ。現実で私が壁をぶち抜いたのに、その破壊跡を幻覚に適応させるのを忘れたんですの」
韋駄丸はレヴルの言葉に納得して俯いた。つまり、韋駄丸の目線には敵と戦闘していたつもりだったにも関わらず、側から見れば、存在しない敵に斬りかかって焦っていただけだったのだ。シンドロン本人は、初めからこの場所に来てすらいなかったのだ。韋駄丸はギリリと歯を食いしばって顔を上げた。
「…完全に舐められてる」
韋駄丸は静かながらも怒りを込めて言った。美甘が頷いた。
「…どーりで導力を感じなかったわけ…はぁ」
美甘が薙刀を担ぎ、すっと下半身を床に沈めながら言った。しばらく沈黙が続いたが、やがてリコルが歩き始めた。いつもと同じ綺麗な姿勢で、ゆっくりと下の階へ続く階段に向かっていく姿は、まさにコウモリのようだ。
「本人はおそらくこの下です…気を引き締めていきましょう」
リコルが言った。