協会本部へ韋駄丸と巴が駆け込んだ。昼食をとり終えてまた依頼を受けにいく隊員が多いらしい。エントランスは少し混み合っていた。
2人は無言でガラスの柵がついた白い階段を登っていく。会長に、秘密結社ヴェールの新たな情報を伝えるためだ。
協会の本館上階に会長室はあった。変わらず金色のプレートが貼られた白い扉がある。巴がそれをノックした。韋駄丸は会長室へくる事は初めてだった。目線が凍結されたように扉に釘付けになっている。緊張してる?
扉が開き、もはや見慣れたカーフの姿が現れた。
「ヴェールに関する情報です」
巴が簡潔に言った。となりの韋駄丸は、礼儀正しいモードとグイグイモードを使い分けれるのすごい…とか考えている。
「詳しくは中で聞かせてもらおう」
カーフが軽く手招きのような動きをする。2人はできるだけ静かに会長室へ踏み込んだ。まるでチェス盤のような白と黒の正方形が並んだカーペットが敷かれ、大きなソファも設置されている。カーフが2人にそこへ座るよう促した。
「細かく聞かせてもらう。ヴェール関連に進展があったという事か?」
カーフが2人の座るソファとはガラスのテーブルを挟んで向かい側の黒いソファに腰掛けながら言った。巴と韋駄丸は灰色のソファに不自然なほど姿勢良く座っている。巴は会長の言葉を聞くとすぐに頷いた。
「ヴェールの残党と思われる男と出会ったんですが…彼は危害を加えてくる事なく、我々に関わるなとだけ…」
巴は軽く深呼吸して話を続ける。
「何かの計画を進めているから邪魔をするな、とでも言いたげでした」
巴が言葉を切って韋駄丸の方をチラリと見た。韋駄丸は突然の目線に反応できず曖昧に頷く。カーフは腕を組んで一言も発さず何かを考えているらしい。
「…例の紙と関係がありそうだな。あの紙に記された場所で何かをする気なのだろうか」
カーフが独り言のように呟いた時、会長室の重い扉が開いた。韋駄丸が咄嗟に顔を向けると、くすんだ桃色の髪をツインテールにした少女が部屋に入ってくるところだった。
「螺旋煌隊員。ノックくらいできないのかな…」
「例の秘密結社の核となる拠点が見つかった。」
螺旋煌(ラセンコウ)と呼ばれた少女はカーフの言葉を遮るようにして言った。韋駄丸は気がついた。彼女、導力量が異質なほどに多い…。自分の感覚の間違いかと思うほど圧倒的な量だ。
「タイムリーな。まさにその秘密結社の話をしていたところだ」
カーフが薄く笑うような表情で手で何かハンドサインのようなものを出しながら言った。螺旋煌は無表情のまま巴の左側に座る。
巴はその至近距離で見てようやく思い出した。螺旋煌、一級隊員にしてカーフ公認スレイヤーの1人。会長に認められた実力者で、高い実力と協会内での権力を有する存在だ。
「お前たちも何かを見つけたのか?」
螺旋煌が巴に尋ねる。
「そうなんですよ…こともあろうに任務帰りにヴェールの残党と出会ってしまって…」
巴が答えた。礼儀正しいモードだ…。カーフが両目を軽く閉じてため息をついた。
「あの紙の場所が一体どこを表しているのかがわかればね…。とにかく情報提供をありがとう。」
巴は軽く頭を下げて、韋駄丸の手を引いて部屋から出ていった。