翌日の朝。韋駄丸は最近にしては珍しく1人で依頼へ出かけていた。とはいえ、巴と知り合いまでは基本的にいつも1人だったが。
巴との任務が嫌なわけではない。確かにあの性格の明るさは眩しすぎるが…あまり巴に頼りすぎるのも良くないと思ったのだ。
「第七市街地…」
韋駄丸はCEに表示されたマップを凝視しながら街を歩いていく。市街地は早朝にもかかわらず道ゆく人はそれなりに多い。今回の依頼は1人なので、普段より難易度が低めなものを選んだ。
「あなたが依頼を受けてくださった協会の隊員さんですね…」
依頼者の男性が頭を下げた。韋駄丸もつられて頭を下げる。
「依頼内容の確認ですけど…あの…『何か』って…」
韋駄丸が依頼者に尋ねる。依頼書には「街にいる何かの駆除」という漠然とした内容しか書かれていなかったのだ。依頼者は少し眉を顰めて首を振る。
「…あれがなんなのかわかりません」
韋駄丸は無言で依頼者についていく。手にした黒いケースの中から一歩歩くたびにガシャンガシャンと刀が擦れる音がする。依頼者は街の中心部へ向かっているらしく、進むにつれて奇妙な音が聞こえる。
「あそこです…」
依頼者がビルとビルの間の裏路地のような場所を指差す。韋駄丸が依頼者を追い越してそこを覗くと、暗く湿った路地に佇む影が見える。
「…あれが『何か』、ですか…」
「人間ではなさそうですよね?」
「…まあ」
韋駄丸はケースを背負ったままジッパーを開いて銀色の鏡面のような刀を取り出す。そしてゆっくりと路地に近づく。
近づくにつれてその『何か』の異常性が浮き彫りになった。身体は人間のようだが真っ黒で、暗い路地に溶け込んで輪郭がぼやけている。マントのようなものを羽織っているようにも見える。そしてその頭部は…血のように真っ赤な薔薇の花だった。
変わった形状の死霊だな…花に擬態しているつもりなのか。韋駄丸は刀に導力を込めて振りかぶる。
その途端薔薇頭の『何か』が驚くほど素早く路地から這い出て、赤く強い光を放った。
「ッ…!」
強い閃光を浴び、韋駄丸は咄嗟に目を覆って跪いた。
『何か』は黒いマントをひらひらとはためかせて韋駄丸に近づいてくる。
「ようこそ協会騎士、私のシェルターへ」
驚くことに『何か』が深く落ち着いた声で明確な人語を放った。依頼者はビルの影に身を潜めて様子を不安げに見つめている。
「言葉が…わかるのか…?」
韋駄丸が立ち上がりながら言う。入隊してからまだたったの一ヶ月。そんな彼でもわかる明らかな異常性だった。
「ああもちろん。少し学習させていただいたまでだよ」
『何か』は冷静な声を放ちながらすぐ隣のビルの塀に腰を下ろした。顔がないにもかかわらず流暢に言葉を操る様子は奇妙以外の何者でもなかった。
「…お前何者だよ…普通の死霊とは到底思えないんだけど」
韋駄丸がジリジリと後退りながら問う。『何か』は薔薇の顔を韋駄丸に向けてこちらを見ているように見える。
「ははは。確かに私は死霊ではない。人語を解する死霊は存在するが…私はそうじゃない」
「な、ならなんだって言うんだ…」
韋駄丸はさらに深く追求する。死霊ですらもない、と…?そうしている間にもソレはこちらへゆっくりと歩いて近づいてくる。
「私はロォジア。今は危険組織から身を隠している状態なのだ」
薔薇の頭の何かが韋駄丸の目の前で立ち止まり、淡々と言い放った。