第二以外地の一角。巨大結界に侵入した巴。
(これもヴェールがやっていることなの…?)
巴は思考を巡らせながら地上を蹴って飛び立った。心臓が激しく鼓動し、不快な導力を大量に感じる。
「!」
とっさに巴は空中で回避行動を取る。たった今まで巴の腕があった場所を黒い棘が勢いよく掠めていった。それが飛んできた方向を見ると、黒く薄い翼を持った死霊がゆっくりとたちのぼる煙にように上昇していた。
(探さずとも死霊がそこらじゅうに…)
巴がふと目線を下に向けると、腕が青白い刃物のようになった死霊が数体こちらに向かって走っている。巴は刀に導力を込める。これだけの数を近接で相手するのは危険だろう。妖刀噛去が紺色に光り、巴の刀の振りと共に黒い斬撃が放たれた。斬撃は薄い虹色のフィルターがかかったように光って素早く飛んでいき、黒い翼の死霊の身体をキュンッと音を立ててすり抜けた。外傷は一切ついていないにもかかわらず、死霊は空中で絶命して暗い地上へ落ちていった。
巴は息もつかずに地上の三体の前に降り立つ。三体はうっすらと光を放つ腕の刃を振り上げて近づいてくる。巴はそれに正面から例の斬撃を放った。斬撃は先ほどと同じ虹色の光を放ちながら三体をまとめて突き抜けて命を奪った。
巴のオリジナル技の貫通斬撃は、肉体を傷つけるのではなく相手の導力を切り開くようにダメージを与える。肉体や物体には触れることがなく、するりとすり抜けて導力だけを傷つけるのだ。通常の攻撃よりも導力消費が多い。
「見事だ、二級隊員」
巴の上の方から声がした。巴が見ると、夜中のように暗い街の歩道橋の上から1人の人影がこちらを見下ろしている。輪郭は影に溶けてぼやけているが、額に光る黄色い目のマークだけが目立っている。巴はこの声に聞き覚えがあった。
「…前に私たちに忠告をした…」
「記憶していたとは…いや派手に樹木を引き抜いたから妥当なことか」
黒いマントを纏った男は歩道橋から素早く飛び降りて巴の3メートルほど先の道へ降り立った。巴は躊躇いつつも刀を構えた。
「…本気でこんなことを?一体何のために…!」
巴が感情的に声を出す。男は冷酷な導力を纏いながら近づいてくる。
「これは儀式でしかない。あの方の居場所を特定するには導力が必要だろう?それを集めるための、な」
マントの男、その名はギース。秘密結社ヴェールの隠蔽隊・隊長。その能力は驚くべき攻撃範囲と出力を持つ…
ギースがすっと手を上げ、手のひらを巴の上の方へ向けた。巴は相手が動く前に仕留めようと素早く刀に導力を込めた。その瞬間、巴の背後に建っていたビルの外壁の一部がバリバリと音を立てて引き剥がされ、高速で巴へ飛んできた。
「ッ…!」
ガシャアン!
巴は咄嗟に前方に飛び込むようにして回避した。ビルの外壁は地面に吸い寄せられるかのように素早く衝突して辺りに大量のガラス片を散らした。巴が起きあがろうとしたが、ギースは続けて巴に手のひらを向けた。
その瞬間、まるで地面が消滅したか世界がひっくり返ったように巴は落下を感じた。焦って巴は導力を使ってその場に飛行する。その時に気がついた。先ほどまで地面だった場所が壁のように横に聳え立っている。地上から空へ向けて建っていたビルは今は横向きになっていた。
巴は、空間が90度回転したのだとすぐに理解した。