巴は横倒しになったような街の上、いや横に浮いている。ギースの能力で街が90度回転させられたらしいのだ。どれだけの範囲がそうなっているのかはわからないが大勢が巻き込まれたことだろう。
「飛行を習得していたか」
ギースの声が聞こえた。不思議なことに彼は壁に張り付くようにして垂直にされた道に何事もないかのように立っている。ギースが再び手を巴に向けると、グルンと視線が反転するような感覚とともに街が奈落の天井のように逆向きになった。ギースは変わらず平然と重力が反転したように天井と化した地面に立っている。
「重力…」
巴は呟き、その刀を持って素早く距離を詰める。巴が刀を振り下ろす前にギースは素早く回避し、その腕をどこかへ向けた。次の瞬間には歩道橋のそばにあった街灯がへし折られ、巴の方へ飛んでいった。
「ぐっ…!」
巴は避けられず巨大な鉄の棒が体に追突してきた。強い痛みと共に、街灯の一部は何かに吸われているように飛んでいく。その時に巴は理解した。街が反転したのではなく、私が反転されたのだ…目の前の男は手を向けた相手の重力がかかる方向や強さを自在に変えることができるのだろう。
巴は街灯の破片を両手で受け流し、再度ギースに斬りかかる。
「能力は理解した…!」
巴が呟き、勝てるかもしれないという希望に僅かにニヤリと笑う。ギースは少し首を振り、その手を巴へ向ける。巴はその瞬間に素早く飛行して横へ移動し、その照準から逃れた。
「発動条件は当たりだ」
ギースは拍手しながら巴の方へゆっくりと近づいてくる。
次の瞬間、ギースは高速で空中にいる巴に接近してその足で直に蹴りを叩き込んだ。
「っ…!?」
巴はまたあの空間がひっくり返るような感覚を覚え、気がついた時には地面へ撃墜されていた。重力が普通に戻ったらしい。蹴りを中途半端な場所とはいえもろに受け、全身を地面に打ちつけたためすでに身体中が痛む。
ギースは巴の前にスタッと降り立って見下ろす。
「油断禁物。自分の重力を君に向かっていけるよう変えることもできるぞ?」
ギースは先ほどと同じように拍手する。それは気づかれないように能力を自分にかける条件…自分に手のひらを向けるためのものだったらしい。
ギースは力任せに巴の脇腹へ蹴りを打ち込む。
「うっ……」
巴はその場に倒れたまま悶える。しかしその思考は素早く巡っていた。この男には決定打がないらしい。私にとどめを刺す手段が無い。それがあれば蹴りなど使うまでもなく、あの一瞬で勝負はついていたはず…。
巴は相手の足に向かって貫通斬撃を放った。虹色の斬撃は相手の足をすり抜け、その導力を切り裂いた。
「っ…おお」
ギースは自分の足元を見て巴に感心を示したらしい。しかしそれだけだった。次の瞬間にはギースの黒い靴が頭に激突し、巴は意識を失った…。