宇宙平和協会会長・カーフに呼び止められた巴。
「指名、ですか?」
「適正隊員が君ともう1人くらいだった…ようやく動向を掴めた」
カーフが表情ひとつ変えずに言う。眉を顰める巴。
「…秘密結社ヴェールですか」
「ああ」
秘密結社ヴェール。詳細活動も目的も不明の組織。近年ヴェールに関する依頼が少しずつ増えてきている…内容は決まって「拉致」。
そんな危険組織の居場所がついにわかったのだろうか。
「了解しました。場所はどこでしょうか」
「CE(多目的連絡機器)に位置情報を送信しておく。人命に関わるかもしれない、できるだけ至急で頼む」
カーフは自身の銃に埋め込まれたCEの画面を操作している。巴は無言のまま、まるで自身の先祖に協力を呼びかけるように、腰に下げられた妖刀の鞘を握りしめていた。それもすぐに、CEに位置情報が送信されたピコンッという音に遮られた。
「ありがとうございます。行ってきます」
巴はカーフに軽く頭を下げて踵を返した。階段を駆け下りて、再び協会の出入り口へ向かう。
同時刻、同じ位置情報をCEに受信した者がいた。それは黒い刀を背負った銀髪の青年だ。あてもなく少し眠そうに街を歩いているところだったが、カーフからの連絡があったのでCEを取り出して画面を見つめる。
宇宙平和協会四級隊員、白霧韋駄丸(しろきり いだまる)。
彼は友人に誘われてて先月入隊したばかりの新人だった。
(…なんで俺?)
韋駄丸は緑の目でじとーっとCEを睨む。なんで新人に指名任務を与えるのか…。
(まあ拒否したら余計面倒になりそうだし行くか)
マイナス思考な男は街を出て、例の地点へ向かって歩き始めた。
その頃、目的地へ到着した巴。彼女は飛行ができるため、あっという間に辿り着くことができた。
そこは小さな街だった。周囲には木々が繁り、あたりの街から孤立しているようだ。周りにあるのは、見渡す限りの大樹海だけ。
「依頼者の元へ…」
自分に言い聞かせるように呟く巴。ふわりと降り立ち、街の中を進んでいく。その過程で、だんだんと街の異常さが浮き彫りになってきた。
出歩いている人影がほとんど見当たらない。街が死んでいるかのように物音ひとつしない。街中に巴の足音が反響するようだった。
(ヴェールの拉致事件の噂が広がってるんですね…)
巴はCEを取り出し、カーフから送られてきた依頼者の住所を確認しながら歩いていく。
「あの…協会の人…?ですか」
不意に後ろから声をかけられた。巴は振り返り、声の主を見る。黒い服に銀髪、緑の目の青年。たった今到着した韋駄丸だった。
「ですけど…」
相手の正体がわからず、腰の妖刀に手をかける巴。韋駄丸はすぐにその手の動きを目で追う。
「あ、いや…怪しいものじゃなくて、俺も協会のアレっていうか」
「ああ。失礼しました…!」
刀からすぐに手を離す巴。
「共同任務ですね!頑張りましょう…!」
「あ…はい」
韋駄丸は少し後ずさる。わぁ…めっちゃ明るい系の人じゃん…。
そうとも知らず巴は愛想良く話し続ける。
「依頼者のご自宅に向かいましょうか」
「あ、はい」
微妙に噛み合わない2人は、CEに表示された住所を目指して歩き始めた。