秘密結社ヴェールにより結界へ閉ざされた市街地。その商業施設で公認スレイヤーであるスレーンは臨戦体制を取っていた。目の前の黒いサイボーグは絶対に楽に住む相手ではないとわかった。
「ヴェールぅ!ようやく姿を現したな!」
スレーンが狂気すら感じるテンションで叫ぶ。声が暗い施設内に反響する。
サイボーグクロスコンは無言でスレーンに少しずつ距離を詰めてくる。更衣室に少女が隠れていることがわかっているのだろうか。
「何が目的でこんな結界を?どういう効果があるんだ」
クロスコンは再びスレーンの声を無視する。そしてそのメガホンのような形状の手が赤く発光した。
「!」
スレーンは咄嗟に更衣室とは逆側、左側に大きく跳躍して回避した。赤い導力光線が先ほどまでスレーンが立っていた場所を貫き、空気が裂けるようなキュゥンという音を立てた。殺意を全身で感じる。
「交渉する気はありませんよ、ってことか!」
スレーンはチェーンソーを振り上げてパワフルに突撃する。鍛え抜かれた全身が弾丸のように相手に接近していく。クロスコンは忍者のような速度でふわりと上に飛び上がり、そのまままっすぐ突っ込むスレーンの背後に踏み込んで着地した。
「やるなぁ!」
背後を取られたスレーンは即座に状況を理解し、遠心力を利用してチェーンソーを後ろへ回した。
ギィンッ!!
「っ…」
「おっと…」
クロスコンの右腕にチェーンソーがモロに当たり、激しい音が鳴った。しかし、それだけだった。わずかな感情の揺れを見せるクロスコンとは対照的に、その腕には一切の傷がついていない。
(俺の力と遠心力を込めたチェーンソーでの殴打で傷一つつかねえとは…!)
「たぎるぜ!」
スレーンはもはや戦闘狂だった。強い相手との戦闘が何よりの楽しみだった。市民の救済や治安維持など全て放り出し、ひたすら自身の戦闘欲を埋めるために協会員として戦ってきたのだ。
「想定外の狂気。」
思わずクロスコンが口を開いた。彼女に課せられた任務は一般市民の虐殺。大量の死者を出して死霊を増やし、結界内を導力で満たすことこそが今回のヴェールの目的だった。
それゆえ、彼女はこんな戦闘狂を相手にするとは夢にも思っていなかった。
「おらあああああ!」
スレーンが豪快にチェーンソーを振り上げて再び突撃してくる。クロスコンは腰を落とし、両腕の発射口を前へ向けてタイミングを見計らう。
キュゥンッ!
二つの発射口から赤いレーザーが放たれ、たちまち空気を切り裂いて店の奥の壁を貫いた。
しかしスレーンは目にも止まらぬ速度で上へ飛び上がっていた。レーザーが来る直前の微弱な導力の揺れを咄嗟に感知し、地面をチェーンソーで殴った反動で上へ移動したらしい。
「王手ぇ!」
スレーンがそのチェーンソーを両手で高く振り上げて上からクロスコンへ飛びかかる。
刹那、クロスコンはするりと異常にしなる関節で体勢を低くしてスレーンの一撃をかわした。重いチェーンソーが地面へ叩きつけられ、バキャンと激しい音を立てた。クロスコンは高速で右脚を蹴り上げてスレーンを店の外まで吹き飛ばした。スレーンは先ほどまでいた商業施設のガラスをぶち破り街路へ放り出された。
「ぐぁっ…!ははは…想像以上にやるぜ」
スレーンは起き上がった。クロスコンは破られたガラスから外へ姿を現す。バイザーの赤いラインは微動だにせず、結界の影響で夜のように真っ暗になった街で目を引く光を放っている。
「打たれ強い…」
クロスコンが小さな声で呟き、再びメガホンのような腕に赤い導力が集まっていった。