巴は目を覚ました。最初に目に入ったのは相変わらず夜のように暗い街。ヴェールの隠蔽隊隊長であるギースに敗れて気絶していたのだ。幸い周りに死霊はいないが、少し離れた場所から黒い煙が上がっている。
(あいつ…導力を集めることが目的だと言ってた…。それにあの方の居場所を特定するって…)
巴は立ち上がる。気を失っている間も心は焦ったままだったからか、消費した導力は不自然なほど回復していない。しかしどう考えても休む暇はない。巴はふわりと浮遊し、あたりの様子を探り始めた。
(韋駄丸くんはもう到着したのかな…)
巴は上から暗い街を見下ろしながらふと思った。何人かの隊員の姿が見えるが、相変わらずそれ以上に死霊が多い。
「…ッぐ!」
街の一角で隊員の1人が真っ黒なボードゲームの駒のような形をした死霊の攻撃を受けてうめいた。彼はこの程度の死霊は容易く撃破できるはずだった。しかしあまりに数が多い。幾度もの連戦でとうに限界を迎えつつあった…。
刹那、虹色のフィルターがかかったような黒い斬撃が上から飛んできて、高速で死霊を貫いた。
「無理しないでください…!これ以上ここで導力を消費するのもよくない気がします…!」
巴が隊員の横にふわりと降り立った。貫通斬撃で貫かれた死霊は空気に溶けるように蒸発して消滅し始めていた。
「あ、ありがとうございます…この結界って…」
隊員が口を開く。結界に入ってすぐに巨大死霊の襲撃を受けて仲間と離れ離れになっていたので、久しぶりに協会騎士と会えてホッとしているのだ。
「大量の導力を集めることが目的みたいです…おそらく結界内では少しずつ導力が吸われていく…」
巴はいつになく真剣な表情で話す。隊員は無言で何かを考えているらしい。
「じゃあやっぱり結界内の生存者の避難が優先って感じですかね…」
「同感です…もしくは、その導力を吸収する機構そのものを停止させれればいいんですけどね…」
巴がつぶやいた。仮にこの導力吸収の仮説が正しければ、意識を失っていた間も導力が回復しなかったことも納得がいく。
「…とりあえず僕は生存者を探します」
「無理しすぎないように頑張りましょう…!」
巴は隊員に微笑みかけて再び飛び上がった。隊員は踵を返して結界の奥へと走っていった。
同時刻、結界の南側。
「ヒャヒャヒャ…導力ガ集まっテいるゾ…」
白い巨大な眼球を無数の剣が取り巻いているような異形の死霊が笑った。死霊の前に立つ銀髪の青年は無言で銀の剣を構えた。ロォジアに連れられ、韋駄丸は10分ほど前に結界へ到着していた。