無事に合流できた巴と韋駄丸。結界の導力吸収システムを停止させるため動き出した。
「…こっちでいいのか?」
「多分ね…中心部の導力がより濃い感じがする。きっと吸い上げた導力をそこに集めてるんじゃないかな」
2人は並んで走りながら結界の中央を目指している。数時間前まで市街地だった面影は薄れつつあり、あちこちに瓦礫が散らばっていて死霊はそこら中にいる。
「…導力吸収をする仕組みが結界そのものに織り込まれてるってことは?」
「それなら最初に結界に穴をあけた時点でシステムが壊れると思う。協会が来ると分かっていながらそんなことしないんじゃ無いかな」
韋駄丸の疑問に首を振って答える巴。韋駄丸は無言で曖昧に頷いた。素早く一体の黒い死霊が飛びかかってきたが、巴が瞬く間に刀で斬り飛ばした。やっぱりこの人強い…韋駄丸は心の中でつぶやいた。
「導力がほんとに濃い…こんなの初めて」
結界の中心部に差し掛かった巴が思わず言った。韋駄丸も顔を顰めて頷いた。多種多様な導力がごちゃ混ぜになったような禍々しい空気が立ち込めている。やはり死霊のものも人間のものも協会騎士のものも結界内の生物全ての導力が混ぜ込まれているらしい。
「あの工房の中か?」
やがて韋駄丸が口を開いた。前方には青緑色の屋根をした工房がある。周りの建物はほとんど倒壊しているにもかかわらず、この小さな工房だけは無傷で佇んでいる。
「怪しいね…行ってみよっか?」
「…当然」
2人は例の工房へ一歩ずつ近づいていく。巴はもはや飛行をするための導力の余裕すらないのだろうか。青白い妖刀がぼわっと薄い光を放ち、暗い結界内を照らしている。
「ここに何が…」
巴はゆっくりと工房の扉を開いた。
中は真っ暗で、かろうじてごちゃついたものの輪郭が見える程度だった。生物の気配はない。
「…誰もいないっぽい」
韋駄丸が囁く。この状況で死霊すらいないというのはむしろ不安を掻き立てた。そしてやはり導力が濃い。空気中の導力が多すぎて呼吸がしにくい。韋駄丸は息を切らしながら手探りで奥へ進んでいく。
「やはりそこなのか」
突然後ろから声が聞こえ、2人は飛び上がった。振り返ると、くすんだピンク色の髪と黒い隊服が特徴的な見覚えのある姿があった。一級隊員、公認スレイヤーの螺旋煌だった。ネオンのように紫色に光る大剣に腰掛けて工房の入り口に浮遊している。異常なまでに導力の多い彼女が近くにいることすら、この工房に満ちる空気の中では気づくことができなかったようだ。
「螺旋煌さん…!」
巴が声を上げた。一級隊員の安心感はやはり強い。
「この場所にあるようです…結界内の仕組みを担う何かが」
「これだな」
いつのまにか工房の奥にいた螺旋煌が言った。静かな声が工房の中に反響する。
「禁止条例器具・視獲盲獲(シドロモドロ)。栓を抜かれた水の如く導力が流れ込む器具だ」
巴が近づこうとした瞬間、螺旋煌がネオンの大剣をそれに叩きつけた。
ガシャアアン!!
凄まじい音と共にそれ置かれた装置が粉々に崩れ落ちた。巴はその場で硬直してしまった。
「ダメか。導力が集まりすぎて破壊ができない」
螺旋煌が隊服についた土埃を払いながら言った。
「あ…それが例の…」
螺旋煌が手に持った不思議な形状の器具を見せた。銀色のリングのような形状をしていて、彼女のネオン大剣の光をテラテラと反射している。
「ああ。これがこのシステムの中枢だ」